リンのお手軽クッキング
アンヘルと別れ、トレントの前に来る。
「やぁリン。おかえり」
「ただいま、トレント!」
トレントの鼻に額をコツンと当てて、苔生した匂いを鼻いっぱいに吸い込む。
「おやおや、どうした? 今日は甘えん坊さんだねぇ。なにかして欲しい事があるのかい?」
流石はトレントだ。おそらく私の考えている事なんてお見通しなんだろうと思う。
「うん、これを育てて欲しくて。ぽむとぽこのご飯になるかなと思って」
そう言うと私はネクタルの種をトレントに差し出す。
「ほう、ネクタルの種かい? 魔力の高い霊峰にしか無いはずなのによく手に入れられたねぇ」
「うん、ウンディーネが飲み物として出してくれたから種がないか聞いてみたの」
「ほう、なるほど。それなら納得だ。じゃあ私にその種をたべさせておくれ」
苔むした舌をアーと出すトレントにそっとネクタルの種を乗せてみた。
「んむ、良い種だねぇ。魔力が充分に行き渡っている。これならすぐ育つと思うから夕方くらいにはできると思うよ」
モグモグと咀嚼している様子のトレント。
ネクタルをそのまま食べられるかと思うとじわりと唾液が出てきて慌てて飲み込んだ。
「ホッホッホ、リンは食いしん坊さんだねぇ。ちゃんといっぱい実をつけてあげるからそれまで我慢しなさい」
私の考えを読まれてしまってちょっと恥ずかしい。
「そういえばリン。体の中に太陽の魔力が宿っているねぇ。一体どうしたんだい?」
あぁぁぁ言わないで!恥ずかしいから言わないで!
オタオタしてる私の前でぽむとぽこがチュウをしている。
その仕草で真っ赤になった私。
「ホッホッホ。あの少年がねぇ。道理で」
「そ、そういう訳だから! お願いね! トレント!」
あまりの恥ずかしさに顔から火が出そうだ。
ぽむとぽこもだ、わざわざあんな仕草しなくても良いのに!
タシタシと足音を立てて、ゴレムスがいる方に向かう。
ドスドスと、と音が立たないのはご愛嬌だ。
「ゴレムスー、収穫できそうなのある?」
「ハニッ!」
さつまいもとかぼちゃ、じゃがいも、たまねぎ人参、どれもどうやら食べごろらしい。
ゴレムスが指指してハニハニ言っている。
カボチャとサツマイモ、栗でスィートポテトにしようかしら。
つるは皮を剥いて塩茹ですればまだ若そうだから重曹つかうまでもなさそうね。
「ちなみにゴレムス、重曹って作れる?」
「ハニッ!」
うんうんと頷かれた。作れるらしい。どこまで万能なの、この子……。
「じゃあさつまいもとかぼちゃを少し収穫してね。井戸で洗ったら家に運び込んで~」
「ハニッ!」
ゴレムスに頼んで、次はトレントの元へ向かう。
「トレントー、栗を出してほしいんだけれどお願いできるかな?」
「御安い御用だよ。どのくらい欲しいんだい?」
えーっと、香りつけ程度だから50個ほどでいいかな?
あまり多いと剥くのも大変だしね……。
トレントの中で寝かせていた栗はどれも大粒で食べがいがありそうだ。
それをローブを捲り上げて受け取る。
はしたないけれどアンヘル居ないしノームも居ないみたいだし良いよね。
トレントに至っては性別無いようなものだし。
女子校出身は羞恥心なんて無いのだ。ふはははは!
……止めよう不毛な考えは。もしママに見つかったら怒られるしね。
膝まで捲り上げたローブに栗を乗せ、キッチンに持って入る。
二つの大鍋にお水を張り、かまどにかける。
「ハニッ」
ゴレムスが洗ったさつまいもと蔓を持ってきてくれた。
お湯が沸くまでさつまいもとカボチャをかまどの熱で焼くことにしよう。
そして焼いている間に蔓の皮をはぐ。
「ゴレムス、サツマイモの蔓の皮を剥いだりできない?」
ためしに聞いてみたけれどゴレムスの手は棒状なので難しそうだ。
けれどもなにやら自信満々に「ハニッ」と叫ぶとモッモッモと蔓を口に含みはじめた。
「ちょ、ゴレムス! なにしてるの!」
慌てて叫んで抜き取るとあら不思議、そこには皮を剥いだ蔓が。
もしかしてピーラーみたいになってるのかしら。
どれだけ万能なのよ、この子……本当に。
慌てて水を張ったタライに皮を剥いた蔓を入れる。
お湯が沸くまで私とゴレムスの共同作業は続くのだった。
お湯が沸き始め、塩を両方の鍋に入れる。
栗と皮を剥いた蔓を鍋に投入し、湯掻く。
蔓はサッと湯掻けばいいけれど、栗はもう少し時間がかかりそうね。
お芋とカボチャはどうかしら。
串で刺すとツプリと刺さる。そろそろ火は通っているようだ。
これを裏ごしして、スィートポテトのタネを作るのだ。
幸いアンヘルが持ってきてくれた差し入れに牛乳もある。
本当は生クリームが欲しいところだけれど、我慢だ我慢。
裏ごしをしたサツマイモとカボチャにバターと牛乳、砂糖を混ぜ入れる。
そろそろ栗も火が通った頃だ。
「ゴレムス、栗の皮って剥ける?」
「ハニッ!」
どうやら栗の皮まで剥けるらしい。
……どんだけ万能調理器ですか、このゴーレム。
ゴレムスのおかげで大幅な時間短縮ができた。
後はダッチオーブンに入れて、卵の黄身を塗って焼けば完成だ。
あ、ちなみに卵もアンヘルが差し入れてくれた。
ありがとうアンヘル。
でも、キスしちゃったけどね!
「うわぁうわぁ……」
「ハニ?」
思い出して真っ赤になる私を見て頭の上にハテナマークを浮かべるゴレムスだった。
……うぅ……こんなんで私、これからアンヘルに普通に接する事できるのかしら……。
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