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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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渡り鳥の導き

 家の前に出ると鳥が囀り始めていた。

 持ち物は衣服と身の回りのものと、人形制作道具と服を作るための布、保存が利く食品が少しと調理器具、魔力を込めた宝石……そして大事なドールと種。


 魔術にはそれぞれ得意な分野と方向がある。

 例えばママは星の魔法に長けているし、パパは風だ。

 私は土と……うん、何かよく判らないと言われたことがある。

 強いて言うなら無?

 これはたぶん紡だった頃のおかげだと思う。

 魔力を糸として操り、それを布や縫い糸に縫い付ける事で簡単に魔力を固定化できる。

 そうして作った服を作ったドールに着せる事で魔力の減衰がほぼ無くなる事に気付いた。地球で言う電波とかそんなものかしらと結論に達したら妙に納得できた。


 土の魔術に長けている人たちは食物の育成、ゴーレムや操り人形を作る知識や宝石を精製する錬金術にも長けている。

 だから私は植物の種を持っていけば荷物を軽く出来る。……その分、他の荷物を増やしてしまったけれど。


 ゴーレムに関しては、私はまだ勉強中だ。

 けれど紡の時に作っていたし、5歳の時に大丈夫かなと思ってゴーレムを作る過程をすっ飛ばして球体間接のドールを作ったものだからパパとママに腰を抜かされた。

 しかも動かしちゃったし……。


 パパに、リンは天才だ!なんて大はしゃぎされて、高い高いされたら天井に頭をぶつけられた。

 しばらく悶絶していたらママがパパに隕石を落とす魔術を詠唱していた。

 それを必死で止めたけど、今度はパパが他界他界しちゃう所だった。


 6歳の時に魔力の糸を紡げる事をママに話したら青い顔で、絶対に誰にも話しちゃだめ!と念を押された。

 魔力を単体で形に残せる人間はとても珍しいらしくて、良くて貴族の妾として一生飼い殺しに近い生活を送らされるらしい。

 ……らしい、というのはこの家がある場所は田舎で、貴族様なんて滅多に見ない僻地だから。

 噂に尾ひれが付く事って多いよね。

 実際はそんなに悪い待遇じゃないと思うけれど、だってほら、魔術も使えるし。

 と、ママに言ったら悲しい顔をして怒られたのでそれから二度と言わなくなった。

 余り心配をかけたくなかったのもある、まぁ魔術師とか魔女って一般人は近づきにくいしね。


「これで大丈夫? 忘れ物は無い?」


 ママが心配そうに声をかける。

 頷くと、今度はパパから、私には少し大き目のリュックにおまじないだと風の魔力を込めた水晶玉を入れられ、背負い直すとその重さに一寸ふらついた。


「おっと、危ない」


「ありがとう、パパ」


 よろけた私を支えてくれたパパにお礼を言って箒を持つ。

 弟のジグはさっきから無言だ。たぶん、また拗ねているのだろう。しょうがない、出発する時に渡すつもりだったけど……。


「ジグ、おいで?」


 私の身長をとうに追い越した弟がのそのそと前に立つ。

 ポケットから私を模した小さめのぬいぐるみを取り出してジグに握らせる。

 この日の為に作っておいたものだ。魔力を糸化して御守りになるように魔導式を縫い付けてある。


「これを私だと思ってね。男の子なんだから泣いちゃダメよ?」


 よしよしと頭を撫でると大粒の涙を零し、頷きながらも弟が泣き出した。

 ……不味い、私まで貰い泣きしそうになってきちゃった。

 慌てて箒に飛び乗ると家族に向かって大きく手を振る。


「それじゃ、みんな! 行って来ます!」


 トンと地面を蹴り、空に飛び立つ。空は晴れてて絶好の旅日和。

 今から家を建てる場所を探さなきゃいけない。

 え?女の子一人でどうやって家を建てるのかって?それは良さそうな土地を見つけてからのお楽しみ!


 少し高度を上げると遠くに領主様の館が見えた。

 ……そういえば一度も見た事ないんだよね、領主様。

 ホントにあそこに住んでいるのかしら?

 ママに聞いたら騎士上がりの領主様だからお城に行ってるんじゃない?と事も無げに言われたことがある。ママもあまり気にしてなかったのでそんなものなんだろう。


 ここら辺はまだまだ民家が多いのでもっと遠くに行かないとかな。

 出発前に見た地図を頼りに南へ向かおう。

 ……暖かい所がいいしね。


 陽が真上に来る時間まで飛んでいると渡り鳥の群れに出会った。

 ママから貰った星の魔力を込めた水晶玉を使い、渡り鳥の一番先頭を飛んでいるリーダーらしき鳥に話しかけた。


「こんにちは! この辺りで人も少なくて明るい平野が無いかなぁ?」


『ここから東にしばらく行くと岩山と平野がある。アンタの好みに合うかどうかは見てみると良い。俺達はそっちから来たんだ』


 星の魔力は動物や異種族の言葉を解し易くしたり、無条件に人や動物に好かれる魔術に長けている。人間と動物の通訳やウィッチドクターになる人が多いとママから聞いたことがある。


 中には異種族からあまりにも好かれすぎて、そのまま結婚したりする人も居るようだ。

 ママも昔、エルフやケンタウルス、ユニコーンなんてものから求婚された事があるらしい。

 ……そうなってたら私は産まれなかったかもしれないなぁ。少しハーフエルフなんて存在に憧れたりもしたけれど。

 それにユニコーンやケンタウルスと人間じゃ子供を作るときのサイズが……いや、何でもない。

 女子高出身とは言え、今は12歳の花も恥らう乙女ですから。ヲホホ。


 あ、パパは普通の人間ですよ?魔術の才能はあまりないみたいだけれど。

 魔術師を志さなければ修行に出る必要も無いし、多少の魔術なら研究をしても良い事になっている。ただ、やっぱり研究にも上限があって、人に危害を加えるような魔術を魔術師以外が研究していると厳罰に処されるらしい。

 ……魔力の流れを監視している人が居て、その人達に見つかると連れて行かれると。最も、私は見た事が無いのだけれど。

 これは子供がいつまでも起きてる時にも使われていて、早く寝ないとニゲルアーラが来るよ!と脅される。……御伽噺みたいな物なんだろうね、きっと。


 渡り鳥達にお礼を言い、天敵避けの魔術をかけてあげる。私は土の属性だからあまり得意じゃないのだけれど、それでも初歩中の初歩魔術だから失敗は無い。


 そのまま東、渡り鳥達が飛んできた方向に進路を取る。

 ちょっとだけ雲が多いのが気になるけれど、それでも動物は嘘をつかないしね。

 まだ見ぬ新天地に少しだけ心が躍ったけれど、下は見渡す限り森が広がっていて、いかにも魔女が住んで居そうな森。

 金属を引き裂くような、妙な鳴き声が聞こえて少しだけ高度を上げた。


「うぅ、こういう事なら使い魔の一匹でも作っておくんだった……」


 優雅に暢気に一人旅、なんて洒落込んでたから話す相手も居ないし……。

 ドールを動かしても話し相手になってくれるわけじゃないし、そもそも箒に乗ってドールを操るなんて疲れる事したくない。

 両方とも結構集中力がいるのだ。

 ぼーっと考えていると、生温かい風が頬を撫でた。

 くんくんと鼻をひくつかせると若干雨の匂いが混じっている。これは不味いかもしれない。

 どこか雨宿りする所を探さないと。

 でも下に広がる鬱蒼とした森に降りるのは勘弁願いたい。どう見ても人食い系のナニカが居そうで怖い。


 ……少し箒のスピードを上げよう……。

 パパから貰った風の魔力を込めた粉……タンポポの綿毛や鳥の風切り羽を粉にしたものに魔術をかけたものを箒にかける。


「うわわっ……!? と……」


 わさわさと箒が人がざわめくような音を立てる。

 いきなり急加速したので驚いてしがみついた。かけすぎちゃったかな、と後悔したけど効果が切れるまで仕方無い、このまま森を抜けよう。


 ……と、思ったらすぐに抜けてしまった。

 眼下には大きな湖が太陽の光を反射してキラキラと煌いている。対岸に見えるのは山だろうか、靄と雲で見えないけれど。

 まだ雲は太陽にまでかかってないようだ。


「うわぁ……!」


 あまりにも綺麗で思わず感嘆の声が漏れた。

 その途端、ポタリと頬に冷たい水滴が落ちてきた。


「うわヤバッ!」


 雨が降ってきたようだ。本格的に振られる前に雨宿りできる場所を探さなければいけない。水に濡れたくない理由もある。


 少し遠いけれど黒い穴みたいなものが山裾っぽいところに開いている。洞窟かしら、それならば僥倖だ。

 前傾姿勢を取り、極力空気の抵抗を減らしながら水面に風の跡を刻みながら飛行する。

 ネッシーみたいな大きな動物がいきなり水中から出てパクリなんてしませんように、なんて願いながら。


 雷が鳴り始め、本降りになるのと洞窟に飛び込んだのはほぼ同時だった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ。

勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

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