ウンディーネの招待
「今から来てみませんか?」
ウンディーネが唐突に言葉を放つ。
「へ?」
何のことだろうとしばらく考えたが、ウンディーネのお家に行くかどうか聞いているのだと気付くのにそう時間はかからなった。
「アンヘルも一緒でいいなら……」
「俺もかよ!」
アンヘルのツッコミを流し、ウンディーネに言う。
「構いませんわ。ではさっそく来られますか?」
「うん、お邪魔してみたいです」
ウンディーネの家がどんな所なのか興味がある。
しかも湖底の家。
竜宮城みたいな鯛やヒラメの舞い踊りみたいなのを想像している私。
「では付いてきてくださらないかしら」
トレントにウンディーネの家に行って来ると伝え、はたと考える。
ぽむとぽこをどうしよう。
「ぽむ、ぽこも来る?」
「ぷ!」
「ぽ!」
ぽむとぽこも興味津々と言った様子で、みょんみょんと付いてきた。
湖の側まで来ると、ウンディーネがなにやら詠唱し始めた。
ウンディーネ以外でも入れるようにする為、らしい。
それをしないと人間は中で溺れてしまうのだとか。
暇なので辺りを見回してみると、崩れたはずの洞窟がまたぽっかりと口を開けていた。
おそらくノームの仕業だろう。
ぽむとぽこの入っていた卵を無事に掘り返してくれるといいなと思いつつ、二匹を撫でる。
ふわふわの毛並みが心地よい。
アンヘルも撫でたがっていたが、二匹はすぐに私の後ろに隠れてしまった。
「終わりましたわ。後は転移門を開くので少し離れていてくださいまし」
ウンディーネの言葉に頷くと、ぽむとぽこを抱いて少し後ろに下がる。
持ち上げると二匹とも太陽にあたったお布団の香りがする。
たまらず鼻を押し付けて頬ずりしつつクンクンと嗅いでみた。
んー、気持ちいい。
アンヘルが少しうらやましそうな顔をしているけれどあげないもんね。
大体アンヘルは羊とかで充分モフモフしているだろうに。
「開きましたわ。さ、リン。一緒に」
ウンディーネに言われぽむとぽこを下ろし、差し出された手を取る。
ヒンヤリとした体温の低めの手が気持ちいい。
ウンディーネに連れられ、蜃気楼のように向こう側が移っている水のアーチをくぐる。
これが転移門なのだそうだ。
魔術とかチャチなものじゃなくて人を転移させる魔法。それを簡単に使えるウンディーネもウンディーネだ。
一瞬の眩暈の後、真っ白な宮殿と言った方がいいような建物の内部に私達は居た。
「なんだこれ、すげぇ……」
アンヘルの言葉に息をするのも忘れていた私は息を吐く。
……呼吸ができる事を少しだけ安堵しながら。
いや、たまにウンディーネって人間の事解らないような物言いするし、決して信用してなかったわけじゃないよ?ほ、ほんとだってば!
誰に言い訳するでもなく、頭に浮かんだ言い訳を並べる。
「リン、何か変な事を考えておりませんか?」
「……ごめんなさい」
ウンディーネに突っ込まれてしまったので素直に謝ることにした。
トレントと同じくウンディーネも心が読めるかは解らないけれど考えている事が顔に出やすい性質なのだ、私は。
「それはそうと、ようこそ。ここが私の家ですわ」
ウンディーネに言われ、周りを見渡す。
窓の外には魚が泳いでおり、ここが湖の底なのは間違いないようだ。
アンヘルも窓にへばりついて外の様子を見てため息を漏らしている。
「さ、今飲み物を淹れますわ。ゆっくりおくつろぎなさって?」
……さっき飲んだばかりだけれど、ウンディーネが歓迎してくれるんだからとソファに座った。
どこからか取り出したのかコップにフルーツウォーターを注がれる。
オレンジと桃の香りが辺りに漂った。
さっきは温かい物だったし、これはこれで良いよね。
「なんだこれ、めちゃくちゃうめぇ!」
アンヘルが一口飲んだ後に感動したのかングングと一気に飲み干す。
私も一口、口に含んで味わって飲んでみる。
甘すぎず、しつこくも無いふわりとした飲み心地だ。
それだけで魔力が回復していくのが解る。
「ぷ!」
「ぽ!」
ぽむとぽこもほしいのか、ウンディーネの足にスリスリしている。
「あら? 貴方たちも欲しいのかしら。待ってくださいまし、今お皿を出しますわ」
再び何も無い中空からお皿を出して水差しを傾け、お皿に注ぐとぽむとぽこが我先にと飛びついた。
んもぅ、あまりはしたなくしちゃダメでしょう。帰ったら叱っておかなきゃ。
「リン? 何やらお母さんの顔になっていますわよ」
クスリと笑われ、慌てて気付く。
私そんな顔してたのか。気をつけないと。
アンヘルはウンディーネにお代わりを所望している。
私の気も知らないで……。
でもおいしいのは本当なのだ。なのでウンディーネが許すなら放っておこうと思う。
「ウンディーネ、すっごくおいしいけれどこれは?」
コップを置き、聞いてみる。
「ネクタルの果実と霊峰から湧き出る清水を私の魔力で合わせたものですわ。お気に召しまして?」
ネクタルって言うと神々の食物と呼ばれておそろしく高価なものだ。私も食べたことは無いけれどこんな味だったのか……。
「うん、すっごい美味しい。ありがとう、ウンディーネ」
「どういたしまして」
ニコリと嫌味のない笑われ方をされ、少し見惚れてしまった。
……べ、別にチョロイとかそんな事ないんだからね!ほんとだからね!
でもこんなに美味しいものがいつも飲めるならウンディーネと結婚しちゃってもいいかなぁと少しだけ考えちゃったのは内緒にしておこう。
ウンディーネに色々な事を聞きながら、時間は過ぎていくのだった。
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