Happy tea Party
「アンヘル! いらっしゃい!」
そこに居た全員の視線がアンヘルに向くが、気にしない。
私は平穏を与えてくれる訪問者に全てをなすりつけることにした。
しかし、それは失敗に終わった。
「で、また知らない人が増えてるみたいだけれど、この人達は?」
全員の視線を受けたことによってアンヘルの胡乱気な視線にねめつけられた。
「あ、うん。紹介するね」
……とそこまで言ってふと考える。この二人をそのまま紹介してしまっても良いものだろうかと。
曲がりなりにも二人は精霊だ。
しかも土と水の元素を司る大精霊。
……良いか、あれこれ考えてても仕方ない。それにトレントには私の考えなんてお見通しだろう。だからこそ嘘は吐きたくない。
「アンヘル、こっちの美人なお姉さんがウンディーネ、そしてそっちのちびっこいお爺さんがノームよ。二人とも精霊なの」
アンヘルはウンディーネの胸元に釘付けになっていた視線を外すとノームを見た。そして私の胸元へと注がれる。
……悪かったわね!どうせウンディーネみたいにありませんよ!というかペッタンコですよ!
ギロリとアンヘルを睨み付けると視線を背け、あからさまに口笛なんかを吹いている。
そして自分の胸とウンディーネの胸を比べて愕然とする……。うぅ、私これ以上育たないのかなぁ。
紡時代は少なくとも二次性徴を迎える頃にはもっとあったような気がする。
成長痛になやまされる毎日だったけれど、その痛みがほとんど無いリンの体に関しては成長が止まってしまったかのような錯覚を覚える。
「リン……! リンってば!」
もの思いに耽っていたところをアンヘルの声に引き戻される。
「あ、うん。何? アンヘル」
アンヘルの目が妙にキラキラしている。
「リンって精霊様も呼び出せるんだな! すっげーよ!」
感極まった様にこちらの肩をバシバシと叩く。
ちょっと痛いからやめて欲しい。
後ね、私が困っているのは察して欲しい。
何故なら村で精霊を呼び出せる大魔女とか言われそうだから。
違うんです、呼び出してるのはぽむぽこなんですぅと叫びだしたい衝動に駆られながら、アンヘルの手をしっかりと掴む。
「アンヘル! お願い! 精霊が居ることは秘密にしておいて!」
私の声に何で?という顔をする少年を見つつ、ため息を一つ吐いて説明をすることにした。
「良い? アンヘル、私や精霊達は静かに暮らすことを望んでいるの。アンヘルだったらどう思う? 例えば、アンヘルの太陽の魔力が珍しいからと言っていろんな人が次から次へと来たりしたら」
その言葉にハッと何かを気付いた様子のアンヘル。
こちらが意図していることは伝わったようだ。
「そっか……。精霊も騒がしいのは好きそうじゃないもんな。解った! 誰にもいわねーよ! 後これ、差し入れな!」
へへと笑いながら鼻を擦るアンヘル。
バスケットの中にはパン。それも焼きたてらしく、まだほんのりと温かい。
「アデラおばさんに焼いてもらったんだ。リンの家に行くなら食べ物のほうがいいと思ってな! 後、紅茶も入ってるぜ」
「ありがとう! アンヘル! そろそろアデラおばさんのとこにパンを買いに行こうかと思ってたの」
そうなのだ、パンが無かったからパンケーキにでもしようかと考えていた。
単純にこれは嬉しい。
じゃがいもやさつまいものパンケーキでもよかったけれど、やっぱりふわふわの小麦のパンだよね!
「アンヘルは朝ごはん食べたの?」
「あぁ、牧場の朝は早いからな。日の出前に朝は食べるぞ」
ニコリと笑いながらアンヘルが言う。
その後ろから太陽が射し、眩しくて目を瞬かせた。
「二人きりの世界ですわね……」
「そうじゃのう……。あ、儂も近くに住もうかの。どこか良いところ知らんかね? ウンディーネ」
ウンディーネとノームがなにやら喋っているのを慌てて否定する。
「ちょっ! そんなんじゃありませんから! アンヘルとはお友達です! 後、ノームがすむならこの近くにぽむとぽこが掘ったトンネルがあります。……崩れてますけれどノームならなんとかできるんじゃないでしょうか」
「おお、そうか。元となる場所があれば大丈夫じゃ、ありがとうなお嬢ちゃん!」
そう言うとノームはピョイピョイと老人には見えない動きで去っていった。
実はノームにぽむとぽこが掘ったトンネルもどきを勧めたのは訳がある。
できればあの卵みたいな宇宙船を掘り出してもらいたかったのだ。
それがあればぽむとぽこの謎も少しは解けるかもしれない。
「リンは今日も忙しそうですわね……。私も帰ろうかしら」
ウンディーネがボソリと寂しそうに呟く。
そんな事言われたら帰すに帰せないじゃない。ズルイなぁと思いつつ言葉を紡ぐ。
「忙しくないよ。ウンディーネ、よければお話しよ? ウンディーネのお家についても聞きたいな。どんなとこなの?」
家に招き入れ、お茶の用意をする。
ティーポットを火にかけ、お湯を沸かす。
ティーカップを温めておくのもわすれずに。
せっかくアンヘルが持ってきてくれた紅茶だ、どうせならおいしく淹れたい。
「砂糖とリンゴジャム、どっちがいい? アンヘル、ウンディーネ」
「俺ジャムがいい!」
「私もジャムを下さらないかしら」
聞いてみると二人ともジャムだった。なら私もジャムでいいや。
カップに注いだお湯を捨て、冷めないうちに紅茶を注ぐ。
そしてスプーンからジャムをたらして出来上がりだ。
「どうぞ」
「ありがとう、いただきますわ」
今度セバスチャンさんにでもおいしい紅茶の淹れ方を習おうかなと思った。
ウンディーネの隣に座り、ティースプーンでかきまぜる。
そういえばトレントの葉っぱでもお茶の葉ってできるのかなぁと考えながら。
「リン、私の家について聞きたいと仰いましたけれど?」
ウンディーネが柔らかな笑顔を見せつつ、私に向き直る。
「うん、湖にあるんだよね。でも建物らしきものは見えなかったけれど……」
そうなのだ、昨日スレイプニルで空から見たとき湖には建物らしき建築物は無かった。
「当たり前ですわ。湖の底にありますもの」
……今サラッととんでも無いことを言われた。
「えっと……普通の人間は水の底に行くのはちょっと無理かなぁ……」
私が苦言を呈すると何事もないように言われた。
「あら、私と一緒に居れば大丈夫ですわ。それに濡れることも無いですわよ」
一体どんな建築物なんだろう。頭の中に海底都市……。いや湖底都市みたいな物を想像した。
穏やかな時間が過ぎ去るのとともに、紅茶での会話の華は開いていくのだった。
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