ノーム注意報
ぐるぅりと、いやギギギギと音を立てて首を後ろに向ける。
目の前にはドワーフみたいな小人族がいた。
土色のジレを着て、同じく土色のズボン、緑色の帽子を被り、白いひげを蓄えている。
年の頃は80歳くらいだろうか、いやドワーフなんて見たこともないから見た目でしかわかんないけれど。
「えっと……。どちら様でしょうか……?」
「何じゃ、最近の若いもんは自分から名乗れんのか。起こしておきながらしょうがないやつじゃのぅ」
は……?起こして?
つまりドワーフじゃない……?
つまりもっとウンディーネみたいな高位の存在!?
慌てて失礼のないように名を名乗りお辞儀をする。
「失礼いたしました。私はリンと申します。それで、アナタの名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「儂はノームじゃ。久しぶりに起きたら……こりゃまた随分とでっかい家を建てたもんじゃのぅ」
ノーム!?ノームって言った!?
この世界の精霊でウンディーネが水の精霊だとしたらノームは土の精霊だ。
……またとんでもない物呼び出したなぁ……。
「あ、こちらトレントです」
一応紹介しておこうと思って、トレントの前に行く。
トレントは懐かしいものでも見るようにノームを見ている。
「やぁノーム。久しぶりだねぇ」
「おぅトレントか。そうじゃのぅ。風が土を運んで山となるくらいぶりじゃのぅ」
……だから時間の感覚おかしい!絶対おかしいって!
「それでまたどうしてノーム……さんがこんな所に?」
「なんじゃ、お主が儂を呼び出したんじゃろうが」
またぽむとぽこかー!
ぽむとぽこをみるとやっちゃった☆てへぺろ!みたいな顔をしている。
……だまされないからね!そんな可愛い仕草したって騙されないからね!
ジロリと睨み付けるとトレントの後ろへ隠れてしまった。
「ぽー!」
「ぷー!」
なんだか私が悪いみたいな構図になってるじゃない!
「まぁまぁリン。この子達も悪気があったわけではないんだよ。そういえばノーム、この近くにウンディーネも住んでいるよ」
トレントがそう言うとノームは途端に嫌そうな顔をした。
「うげ……。儂はアイツ苦手じゃ。なんせ土を削ってしまうんじゃもん」
「ホッホッホ、まぁそう無碍にするものでもないよ。どちらも私には必要な存在だしねぇ」
トレントが取り成してくれている。
「ノーム……さん? そういえば起きてきたって事はこの辺りでずっと眠っていたって事ですか?」
「ノームでええよ。お嬢ちゃんそれはちっと違うな。儂等精霊は地脈の流れの中におる。そこで眠っておったんじゃが、さっきも言ったように起こされてなぁ。久しぶりに外に出てきたんじゃよ」
やっぱりぽむとぽこか……。
「お嬢ちゃんは土の魔力の匂いがするからな、それもある。それにどこか懐かしい匂いもしたからの。まぁそれがトレントだとは思わんかったが」
え、私のせいもあるの?
口を開こうとした時、なんとも緊張感の無い声が聞こえてきた。
「ハニホー!」
あ、ゴレムスが呼んでる。
「ごめん、ノーム、トレント! ちょっと行ってくるね!」
一言断り、ゴレムスの近くに行くと作物がたわわに実っていた。
「わぁ、すごい! ゴレムス、収穫お願いできる?」
「ハニッ!」
ゴレムスは任せてといわんばかりに作物の収穫に取り掛かる。
それを見届けた後、ノームとトレントの元に向かおうとした時、風に乗って声が聞こえてきた。
「……良い子そうじゃの」
「あぁ、ウンディーネにも気に入られておるよ。なんでも結婚相手にと思っているらしいが」
「あいつは好きになると見境ないからの。……それはそうとウンディーネはどこに住んでおるんじゃ?」
良かった、どうやらノームもトレントと同じくゆったりした人みたい。
ノームの質問には私が答える事にした。
「ウンディーネはこの近くの湖に住んでいるようです。私はまだ行ってませんけれど。よく訪ねて来てくれますよ」
「そうか。あいつは押しが強いからの。だからと言って水辺の近くで罵倒なんかしてはいかんぞい。それと婚姻を結んでしまったら浮気すると殺されるぞい」
ノームにウンディーネに対する諸注意を聞かされる。
罵倒なんかしないし、女性同士で結婚とかありえないから!紡時代にそういう趣味の人は居ることはしってるけれど、私ではありえないから!
「ウンディーネは大切にしてくれてますよ。人間の事はまだよく解ってないようですが、とても良くしてくれてます。……婚姻についてはする予定はありませんが」
ふむ……とノームは白いひげを撫でる。その様子がセバスチャンさんを彷彿とさせ、クスリと微笑んでしまった。
「なんじゃな?」
ノームに胡乱気な視線を向けられ、慌ててとある人と仕草が似ているので、と言い訳をした。
「あら、ノームじゃありませんの。お久しぶりですわね」
後ろから透き通る水の音のような声が聞こえた。
この声は……ウンディーネだ。
「ウンディーネ、久しぶりじゃの」
「えぇ、ノームも壮健そうでなによりですわ」
苦手と言ってた割には普通に挨拶を交わしてる辺り、本気で嫌い合っているわけではないのだろう。少しだけ安堵した。
「リンの家に遊びに来たのですけれど、まさかノームまで呼び出されているとは思いませんでしたわ」
「儂もおどろいとるよ。そのうちシルフやサラマンダーも出てきそうじゃの」
その言葉にうぇぇとウンディーネが嫌そうな顔をうする。
「シルフは良いけれどサラマンダーはお断りですわ。そんなもの呼び出したりしたらお尻ペンペンですからね、リン」
え、それ私に振るの?そもそも呼び出し方も知らないんですけれど……。
私があーだこーだと考えていると後ろから声が聞こえた。
「よぅ、リン。差し入れに来てやったぜ」
私の中での唯一の常識人の登場にうれしく思いながら、振り返るとそこにはアンヘルが居た。
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