君の名前はゴレムス
とりあえずぽむとぽこにご飯を食べさせよう。
2階に一緒にあがり、魔力糸を食べさせる。
それと試してみたいこともある。
現在私は魔力を糸状にしか出せないが、糸以外にできないかという事だ。
例えば綿飴とか固形の物質とか粉状とか。
でも今日は畑に種を植えて育てるのでまた今度かな?
ぽこのモフモフとした毛並みとぽむの少し固いけど上等な絨毯みたいな毛並みを左手と右手、両手で感じて癒される。
「はぁ……。ようやく帰ってきた~……」
ぽむとぽこは魔力補給に勤しんでいるためか、私が撫でても嫌な顔一つせずもっちゃもっちゃと糸を食べている。
多目に出しておいたストック分の糸で十分足りたのか、満足そうな声をあげるぽむとぽこ。
「もういいの?」
「ぷ!」
「ぽ!」
ためしに聞いてみると充分だという返事が返ってきたので、1階に降り、トレントに会いに行く。
「ただいまトレント、種を掛け合わせてほしいんだけれどお願いできる?」
「やぁ、おかえりリン。リンが居ないと寂しかったよ」
ホッホッホと笑うトレントの鼻先にぎゅうと抱きついてみた。
「私もトレントと会えなくて寂しかったよ。一日って長いね」
「そうかい? 陽が昇って沈むのはとても早いと感じるんだがねぇ。やはり人間とは違うね」
……やっぱりトレントと人間じゃ時間の感じ方違うのかなぁ。
物思いに耽っていると、ところで、と話を振られる。
「何の種を作って欲しいんだい? リンが持ってきてくれた種があれば何でも作れるよ」
「えっと、カボチャと人参と玉葱とジャガイモかな。後できればサツマイモとかも」
「御安いご用だよ。ちょっと待ってておくれ」
そう言うとトレントは何かを咀嚼するような仕草を見せ、アーンと苔の付いた舌を出してきた。
その上には色々な種類の種が載っている。
平たい種、丸い種、小さな種、種芋。色もそれぞれだ。
「どれが何の種かは判るかね?」
「うん、種に聞くから大丈夫!」
「そういえばリンは土の魔術が得意だったねぇ……。なら心配はいらないか」
ホッホッホと笑うトレントに一つ疑問に思ったことを問いかけてみる。
「ねぇ、トレント。私のママが星の属性に長けてるんだけれど、私にも受け継がれてたりするの?」
「うん? リンは土の属性と無の属性だよ。……あぁ、スレイプニルやぽむとぽこが懐いてるのを疑問に思ったのかい?」
その言葉にウンウンと頷く。
「あれは単純に魔力を形にしやすい人間を好くからねぇ。スレイプニルはリンの魔力を気に入ったんだと思うよ。……いや、そういわれてみると若干星の魔力を感じるかな?」
流石トレント、博識だ。星の魔力が若干でもあることに気付けてよかった。
……ママみたいに何でもかんでも引き寄せる体質にならないように気をつけなくちゃ。
私が聞きたい事を全て言い当ててしまわれて、決意も新たにトレントに話しかける。
「ありがとうトレント。それで、この無の魔力って糸以外にできる方法無いかな?」
その言葉にふぅむと考える様子を見せ、答えるトレント。
「難しいんじゃないかねぇ。すでにリンは糸を紡ぐという魔力に特化している。ウンディーネも言っていただろう? クローソーという女神の生まれ変わりかもしれないと」
いや、私の前世は普通の女子高生なので女神様と比べられても困るんですけど……。
複雑な感情を抱きつつもトレントに礼を言い、ゴーレムが耕してくれた畑に種を撒く。
トレントが作ってくれただけあって皆、良い種だ。
生命力に満ち溢れている。
「君は何の種? どこに植えて欲しい?」
一番最初にカボチャらしき種に声をかけてみる。
ほどなくカボチャの種から声らしきものが聞こえて、いや、頭の中に響いてくる。
『カボチャ! カボチャはジャガイモとサツマイモの近くがいい!』
ふむふむ、カボチャはジャガイモとサツマイモの近く……と。
確か生育が良くなって虫も付かないんだっけ。でも魔術で一気に作っちゃうけれどね。
できれば野菜の機嫌もよくしておいた方がいっぱい実をつけてくれるし、こちらとしても助かる。
それにサツマイモは蔓も美味しいしね。
……あぁサツマイモの蔓のきんぴらが食べたい。
でも醤油がないから塩コショウで我慢だ。
じわりと唾液が滲むけれど飲み込んで考える。
「ゴーレム、この種とジャガイモとサツマイモを植えてくれる?」
私のお願いに「ハニッ」と快く返事をし、ぽてぽてとした動作で種を植えてくれる。
「この種とこの種は離して植えて~」
「ハニッ! ハニッ!」
……そうだ、ゴーレムに名前をつけようと思ってたんだっけ。
少し前から考えていたことを実行に移すために聞いてみる。
「ゴーレム、お前名前欲しい?」
「ハニッ!」
穴の開いた口をうれしそうにゆがめてコクコクと頷くゴーレム。
「かっこいいのと可愛いの、どっちがいい?」
しばらく悩んだ挙句、どうやらかっこいいのに軍配がゴーレムの中であがったようだ。
「じゃあ……ゴレムス! ……はどう?」
紡時代に友人から貸してもらったゲームのゴーレムがこんな名前だったっけ……。
少しだけ懐かしい思いに浸りながら、ゴーレムに聞いてみる。
「ハニホー! ハニホー!」
ゴレムスと名前を貰ったゴーレムはうれしそうにステップを踊っている。
……完全に名前負けしているけれどね!
「気に入った? じゃあお前は今日からゴレムスね!」
「ハニッ!」
「じゃあ詠唱するからちょっと離れててね、ゴレムス」
「ハニホー!」
快い返事をし、離れていくゴレムス。
あ、そっちはトレントの方向ね。
もしかして名前をつけてもらったのがうれしくてトレントに報告に行くのかしら。
……いけないいけない、詠唱しなきゃ。
考えが明後日の方向にいくのを気を引き締める。
「粒選りの土、綴れ、土に爪弾け、理を! 我が糧となりて豊穣を!」
詠唱が終わると同時に魔力がごっそりと抜けていく。
しまったなぁ、ひとつずつやれば良かったかも。
「ぷ!」
「ぽ!」
ぽむとぽこがぐんぐんと育っている野菜を囲むようにステップを踏んでいる。
……アレ……?確か前にもこんな事があったような……?
ハッと気付きぽむとぽこに声をかける!
「ぽむ、ぽこダメ! 何もしないで!」
「ぽー!」
「ぷー!」
キラキラと光る粒子を出すのを止められ、ぽむとぽこが不満気な声を漏らす。
……これ以上厄介ごと増やさないで!
自分の近くに来たぽむとぽこを抱き寄せてモフモフする。
「ごめんね、怒ってるわけじゃないの。ただ今回はぽむとぽこの力借りなくても大丈夫よ」
鼻の頭をカリカリとかいてやると気持ちよさそうにきゅるるると鳴く。
あ、この二匹こんな声も出せるんだ。新発見。
未だキラキラと光り輝いてる二匹が落ち着くまで、そうしておくことにした。
作物も充分に育ち、収穫できると思った頃、後ろから声をかけられた。
「なんじゃお主、随分とチンチクリンじゃのぅ」
……甘かった。ぽむとぽこはもうすでにナニカを呼び出してたのね……。
「うわあぁん! また変なのが増えたぁ!」
「変なのとは何じゃー!」
私ともう一人(?)の声が収穫寸前の作物の中に響き渡った……。
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