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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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レインリリーと薔薇の花

 ここで待つようにと私にあてがわれた部屋でぽむとぽこにご飯……。つまり魔力糸をあげる。

 ぽむとぽこが糸をもっちゃもっちゃと食べ終えた頃、部屋のドアをノックされ、セバスチャンさんが入ってきた。


「おや、これは愛らしい。……アルカード様には自制されるようによく言っておきませんといけませんね……」


 ふむ、と顎に手を当てて考える様子のセバスチャンさん。

 その仕草がアルカードさんと全く同じで思わずクスリと笑いが零れてしまった。


「どうかなさいましたかな?」


「いえ、その、顎に手を当てて考える姿がアルカードさんそっくりだったものですから……。すみません、御気に障りましたか?」


「いえいえ、アルカード様は幼少の頃より私がついておりました故、私の癖が移ってしまったのでしょう」


 フフと笑われ、何か懐かしいものを慈しむような目を私に向けてくる。


「では参りましょう。馬車も支度が整いました。スレイプニルは街中では目立つので今度は普通の馬車となりますがよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


 思えば紡時代から乗り物に乗って酔ったことはない。案外平衡感覚が鋭いのか鈍いのかどちらかだろう。


「それと使い魔ですが、馬が怯える為置いていかれた方がよろしいかと存じます。メイドたちが不自由なく世話を致しますので」


「わかりました……。お留守番できる?ぽむ、ぽこ」


「ぷ、ぶぇ」


「ぽ、ぼぇ」


 不服そうだったけれどコクコクと首を縦に振る二匹。まぁさきほど魔力糸もあげたし、なによりアルカードさんもこの館に居るはずだから大丈夫だよね。

 セバスチャンさんに手を引かれ、少し曇り空となった外に出かける。

 日光に当たるとすぐに赤くなってしまう体質の為、少しだけホッとする。

 できれば強い日差しが当たりませんように、と願いながらドールのレインを片腕に抱いてセバスチャンさんの手を取り、馬車に乗り込む。

 こうしてみるとお人形遊びが趣味なお子ちゃまに見えるような気がして少しだけ恥ずかしい。


「では出して下さい」


 セバスチャンさんが御者に向かって一言発すると馬車はガクリと揺れ、ゴトゴトと音を立てて走り出した。

 ウェンデルの街は石畳が整備されており普通の馬車でも大きく揺れることはないようだ。

 つまり治安もある程度は安定してるということと考えて良いと思う。

 ……それでも裏路地に入ればスリや引ったくりの犯罪はあるだろうけれど……。


「まずは市場に行きましょうか。羊皮紙や薬品などリンお嬢様の修行には役立つものを多く取り揃えている店を知っていますので」


「はい! ありがとうございます」


 ゴトゴトと馬車に揺られ、しばらく経つと、周りが賑わってきた。

 道の両側には野菜や果物を売っている露天が目立つ。

 中には串焼きを売っている店もあり、食欲をそそられる香ばしい匂いがする。


「ここがウェンデルの中央市場でございます、そちらのお店が魔術師がよく利用するお店ですよ。停めてください」


 セバスチャンさんが小窓を開き、御者に指示をする。

 市場についてからは人の往来もあるためゆっくりとした動きだったので馬車もすぐに停まった。


「さ、リンお嬢様。どうぞ」


 スレイプニルの馬車から降りる時と同じように扉を開かれ、手を取られる。

 私も手を預けると馬車から降りた。

 途端に周囲の注目が私に浴びせられるのが分かる。


「あら可愛らしい、どちらのお嬢様かしら」


「あの馬車は領主様の家紋だぞ」


「あぁ、滅多に表に出てこない領主か。娘か何かじゃないか?」


 街行く人の噂をする声が聞こえてくる。

 やめてぇ、私は普通の魔法少女見習いのちんちくリンなんですぅ。

 道行く人たちの噂話に顔が赤くなるのを感じて、それが更に噂を加速させるとも知らずに。


「可愛いわね、頬に赤味が差してまるで薔薇の花のようよ」


「へぇ、あの領主もこんな可愛い娘を隠してたってことか。まさか婚約者じゃないよなぁ」


 セバスチャンさんは私の手を引き、噂話など意に介さないように店に入る。

 カランカランと小気味良い音を立ててドアベルが鳴る。


「いらっしゃい、おやセバスチャンさん……とそちらのお嬢さんは?」


「御主人様のお客様です。さ、リンお嬢様」


 眼鏡をかけた白髪の魔術師が私に視線を送る。


「あ、魔術師見習いのリンと申します! よろしくお願いいたします!」


「ほう、魔術師見習いかい。ということはうちの店は役に立つと思うよ。贔屓にしてくれると嬉しいねぇ」


 ニコリと朗らかな笑みを浮かべ、店長と思われる魔術師が杖を軽く振る。


「ほぅ……。人形遣いかね? しかも随分精巧に作ってあるね。その点については素晴らしいけれど、他がイマイチかねぇ……」


「判るんですか!?」


「ボンヤリとだけれどね。それに人形を大事そうに抱えていたら判るよ」


 ハハハと笑われ、自分の未熟さを指摘されて顔が熱くなる。


「あまり客を困らせるものではないですよ」


「すまないな、なんとなく可愛らしくてつい虐めたくなってしまったんだ」


 セバスチャンさんにお咎めを受け、店長さんが頭を掻いて謝る。


「とりあえず今日は挨拶だけしておこうかと。リンお嬢様がこれからも利用されると思いますのでよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


「あぁ、いつでもおいで。今度は魔術師見習いのローブを着ておいで。その方が判りやすいからねぇ」


 セバスチャンさんに手を引かれ、店を出る。……とその歩みが止まった。


「どうしたんですか?」


 歩みが止まったセバスチャンさんに訝しげに尋ねる。

 ……その視線の先には小さな男の子が、泣いていた……。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

ご意見、ご感想などもお待ちしております。

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