コルセットは苦手なのです
2016/1/27に改稿しました。物語中の登場人物に齟齬がでましたので。
改稿前、レイミーの髪、目>黒髪黒目
改稿後、レイミーの髪、目>ピンクブロンド
アンヘルの村の上空を通り過ぎ、山を一つ越えた所に街はあった。
普通の馬車なら山を越えるのに二時間はかかるだろう。けれどスレイプニルの牽く馬車は空を飛んでいるので実質30分くらいかもしれない。
私も箒で飛んだら30分くらいかしら……。
「リンお嬢様、あちらが今アルカード様が御滞在なさっているウェンデルの街でございます」
「わぁ、すごい!」
それは本当に街といっても過言ではなかった。
人々がざわめき、箒に乗った魔女や魔法の絨毯に乗った商人らしき人物が行きかっている。
アデラおばさんの旦那さんもここにパンを卸しているのかな?などと考えているとセバスチャンさんに声をかけられた。
「そしてあちらの丘にあるのがアルカード様の別荘でございます。別荘ゆえ何分手狭ですが、お見苦しい点はお許し下さいませ」
いや、私の家より大きいし、全然見苦しくない。言うなれば小さなお城といった表現がしっくりくる。
壁は白く、窓は小さめだけれどしっかりした作りになっていて、多少の嵐ではびくともしなさそうだ。
窓が小さめなのはアルカードさんが日光に当たらないようにかな?そういえばアルカードさんは何処で寝てるんだろう。やっぱり地下室とかで棺桶に寝てるのかな。
ギィィと棺桶を開けてむくりと起き出すアルカードさんを想像してクスリと笑みが零れた。
「ほぅ、リンお嬢様は笑顔が似合いますな。まるで月の女神が微笑んだような佇まいでございます」
いくらなんでもそれはお世辞にもほどがあると言うものだろう。
「私はただのちんちくりんですよ。月の女神様なんて存在と比べられては女神様に失礼です、セバスチャンさ……セバスチャン」
「失礼ですがリンお嬢様はもう少し自分の容姿を自覚なったほうがよろしいかと存じます。私が後40年若ければ求婚しているところですよ」
ほっほっほと笑うセバスチャンさんにトレントの笑い声がかぶったように思えて軽い冗談なのだと思い、少し安堵する。
もう!人が悪いなぁ。セバスチャンさんって。
まぁそんな冗談でこちらの緊張をほぐそうとしてくれてるのだろう。少しだけ感謝する。そして音も無く止まった馬車にセバスチャンさんが扉を開けて声をかけてくれる。
「着きました。さぁ、リンお嬢様お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
まるでお姫様のように手を引かれ、自分が童話の主人公になったような気さえする。
館の中に招き入れられるが暗いということはなかった。
窓が小さいのに何故?と思ったけれど、理由は星の魔力を込めたシャンデリアが煌々と煌めいていたからだ。
「ふわぁ……」
まるで別世界に迷い込んだように感嘆のため息が漏れる。
「ぽ!」
「ぷ!」
ぽむとぽこも星の魔力で光るシャンデリアが気に入ったようでみょんみょんと嬉しそうに跳ねている。
「さぁリンお嬢様、お着替えを。レイミー!」
セバスチャンさんがメイドの名前らしき人物の名前を呼ぶと、直ぐにメイドさんが現れた。
「お初にお目にかかります。メイド長のレイミーと申します。リン様、どうぞこちらへ」
「は、はい」
レイミーと呼ばれた人物が簡単に自己紹介をしてくれる。涼やかな声で挨拶をされた。歳の頃は20代後半といったところかな?
手を引かれるまま、レイミーさんに付き従う。
廊下も明るく、まるで室内とは思えないくらい。
「こちらが衣装部屋になります。御主人様が商人に何着か用立てたものです。最も既製品が多いのですけれど……リン様が御気に召さないようでしたら仕立てさせる事もできます」
「うぇぇ!? いやいやいや! そんなもったいないです! 既製品で大丈夫です!」
慌てて何着か目に留める。白、青、赤、紫……さまざまなドレスがある。 既製品と言っても縫製もしっかりしているようだ。
諦めて、レイミーさんに向き直る。
「レイミーさんは私には何色が似合うと思います?」
「レイミーと呼び捨てにして下さって結構ですよ、リン様。御主人様から申しつかっております」
いやいや、年上の女性を呼び捨てにするわけにもいかない。これまたセバスチャンさんと同じかー!と思っているとぶつぶつと呟く声が聞こえた。
「リン様の御髪の色でしたら赤もよいですけれど、ここは白で清楚さを出しましょうか。ところで今着ておられるローブの色ですが、リン様は黒がお好きなのですか?」
話題を振られ、魔力量が人より少ない為、黒に染めた銀絹のローブを着ていると述べる。
……確かに黒は好きだけど、黒いドレスはそこまで好きじゃない。レインに着せるならありだけれど、私が着ると喪服にしかならなさそうだ。
「……そうですか、黒も似合うと思いましたけれど。ではやはり白にいたしましょうか」
ローブを脱がされ、下着姿にされ、コルセットをはめられる。……く、苦しい。
コルセットなんて産まれて初めてつけたので、ぎゅうぎゅうと締め付けられる感触にたまらず声が漏れた。
「髪留めはいかがいたしましょうか……。あら?何か不思議な魔力がこもっていますね」
「分かるんですか?」
「えぇ、私も多少の魔術は使えますので……。そうですわね、この髪留めを使ってポニーテールにしましょうか。よろしいですか?」
無の魔力……つまり魔力糸が出せるとまでは看破されなかった為、少しだけ安心する。
「……お任せします」
「それにしても綺麗な御髪……少しだけうらやましいです」
レイミーさんはピンクブロンドかかった髪だ。長めの髪をシニヨンでまとめている。目の色は笑顔で細められているため、判別がつかないが、おそらく髪の色と同じなのだろうと思った。
私としてはレイミーさんみたいな可愛らしい方が羨ましいんだけどなぁ。
銀髪だと太陽の光を反射したとき眩しいのよね。
「レイミーさんの方が艶もあってとても綺麗じゃないですか」
「ありがとうございます」
お世辞と受け取られたかもしれない。元、日本人としては憧れるし、本心なんだけれどなぁ……。
「アルカード様に仕えるメイドたるもの身だしなみには気を配りませんと」
私の髪を櫛で梳かしながら答えてくれた。
「あの、アルカードさんって好きな人とかいるんですか?」
思い切って聞いてみた。
「今は居ないようですよ、ただリン様の事は大層大切になさっている御様子でした。少しだけ妬けますわ」
と言うことはやっぱりママの事忘れられないんだなぁ……。私にママの面影を重ねて、想いを遂げられない不器用な吸血鬼に少しだけ同情する。
「さ、できました。どうぞ、姿見を御覧になってください」
「ふわぁ……」
そこには白いドレスを着たお嬢様が佇んでいた。
手を頬に当ててみると姿見の中の少女も手を頬に当てる。
自分の姿だと気付くのに数秒かかった。
「あ、ありがとうございます! 私こんな綺麗な服着たの初めてですっ!」
「お礼なら御主人様に言って下さい。よく似合ってらっしゃいますよ、リン様」
ニコリと微笑まれ鏡の中の少女の顔に赤みが差す。
汚さないようにしなきゃなぁ……。後、アルカードさんにも見せてあげたいな。そんな事を頭のどこかで考える私が居た。
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