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ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
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命儚き絞れよ乙女

2016/03/04:台詞の一部を改稿しました。

「うぅ……朝だ……」


 昨夜はアルカードさんが来たせいで睡眠時間が足りなかったよ。

 私は8時間睡眠がモットーなのだ。

 というかこの世界の人達は早寝早起きだ。

 余程魔力や資産に余裕があるか、光を灯せる属性と相性が良いかしないと夜に灯りをつけ続けるのは困難だからだ。

 とはいえ睡眠自体は取れたので魔力は回復している。

 これなら井戸も掘れそう。ドリドリドリル~……とはいかないけれど。


「ぷ!」


「ぽ!」


「おはよう、ぽむぽこ」


 なんだかぽむぽこと続けて何回も言うと舌を噛みそう。

 ぽむぽこぽむぽこ……やめておこう、なんだか不毛だ。

 眠い目を擦りながらお風呂場に向かい、鏡を見る。


「うわぁ……」


 見た瞬間ゲンナリとした。

 何故って?首筋にしっかりと二つの赤い点が残っていたから。


「治るのかなぁ、これ」


 紡時代、夏休み明けに首筋に赤い点を残したまま出席していたクラスの女子を思い出す。

 髪も染めて垢抜けてたなぁ……。

 その後みんなに恋愛相談とか受けてたけど。


 ま、いいや。ローブを着れば首まで隠れるし誰かに見られる事も無いかな。

 とりあえず顔を洗おう。

 水瓶から汲んだ手桶に手を突っ込んでパシャパシャと顔を洗う。

 銀の髪がはらりと垂れてかきあげると蒼い瞳で見つめている私が揺らいでいた。


 私にも魔眼みたいなの欲しいなぁ、とボンヤリ考えてしまい、思考が止まる。

 いけないいけない。


「さて、今日はアンヘルの家を探さなきゃね!」


 止まった思考をしている自分に気付き、自分に激を入れる意味も含めて言葉に出してみた。

 人間は不思議なもので言葉に出すとやる気が起きるのも不思議だ。

 そういえばママは朝、顔を洗うとき鏡に向かって何か喋ってたっけ。

 ……あれも自己暗示の一種かもしれないなぁ。


 クローゼットを開けて、普段着に着替える。

 藍色を基調としたロングワンピースだ。

 ローブを四六時中着ているわけにもいかないし、家事をする時には着なれたものの方が良い。

 出るときにまた着替えるけれど。

 上からエプロンを着けて、1階に下りてコンポートの入った鍋をカマドの上に置いた。

 ついでに水を張った鍋もカマドにかけてガラス瓶を入れておく。

 カマドに魔力石を入れて昨日作ったリンゴのコンポートに火を通す。

 鍋の蓋を取り、木べらで掻き回しているうちにクツクツという音とリンゴの香りが漂ってきた。


「ぷー」


「ぽー」


 ぽむとぽこがお腹が空いた様で鳴きながら足にスリスリしてきた。


「いや、ちょっと待って!? ぽむぽこくすぐったい! あは、あははは!」


 ワンピースとスリッパだから当然素足に毛がわさわさと触れるのがくすぐったい。

 二匹をベリと引き剥がして、指先から糸を私が両手を広げたほどの長さまで出す。

 半分に切ってぽむぽこの前に置いた。


 食べ方を見てると、ぽこは糸を纏めて一気に口に入れ、もっちゃもっちゃと咀嚼している。

 対して、ぽむは糸の端っこからチマチマと齧っている。

 なんだか性格が出ているような?

 そんなわけあるのかなぁ?

 まぁ昨日の今日だし、たまたまかも知れないわね。

 殺菌の為に湯煎しておいた瓶を取り、コンポートをつめて蓋を閉める。


「バターとか、うん、都合つけてくれると良いなぁ」


 ミトンを手から外しながら、冷ます為に冷水を張ったボウルに入れておく。

 上から濡れ布巾を掛けておくと、気化熱によって少しだけ早く冷める。

 ……まぁここら辺は前世の知恵というかなんというか。

 だってこの世界の人って大抵魔術で何でもしちゃうから、魔力総量が少ない私はできるだけ魔力は節約したいのだ。


「ぽむぽこはお留守番していてね」


 2階でローブに着替えながら、一緒に2階に上がって私のベッドでゴロンゴロンしているぽむとぽこに声をかける。


「ぷ!」


「ぽ!」


 連れて行けとねだるかな、と思っていたけれど、二匹とも目を閉じてベッドに丸くなった。

 お腹が一杯になったから眠気を優先したのかな。

 私もお腹が空いてるけどパンはぽむぽこが食べちゃったから、アンヘルの家に行った後で街か村でパン屋さんを探さないとね。

 リュックから折りたたんでコンパクトにしていた布製の肩掛けバッグを取り出す。

 所謂トートバッグみたいなものだ。

 私お手製だから丈夫さは御墨付き!うふふん。

 ドールのレインとお財布をこれまた布製の小さいリュックに入れて、ハンドルをポケットに入れる。


「ハンドルをひっかける金具か何かも作ろうかなぁ……」


 ふと、机の上に置かれたモノが目に入る。

 アルカードさんがくれた紋章の刻まれたボタンだ。

 確か何かあれば、って言ってたよね。

 御守り代わりに持っていこう。

 象牙のヒンヤリとした感触を感じながら、それもポケットに入れた。

 1階に下りて、まだ少し熱いコンポートを入れた瓶を拭いてトートバッグに入れる。タオルでくるんでジャムの瓶も。


 手袋をつけて帽子を手に持ちながら外に出た。

 瞬間、日光が眩しくてクラリと貧血に似た症状が私の体を襲う。


「あぅう?」


 痴呆にかかったような声をあげて、家の壁にもたれかかる。

 あー、なんて太陽が黄色いの。


「おはよう、リン。随分と調子が悪そうだねぇ」


 トレントが声をかけてくる。


「……おはよう、トレント。なんだか急に立ちくらみが……」


 額を押さえながら眩む頭を振るとトレントが合点がいったという風に口を開いた。


「それはおそらく吸血された副作用だねぇ。血を入れられていないと言っても直接吸われたわけだしねぇ。若干日光に弱くなっているのだと思うよ。直に治ると思うけれどねぇ。まぁ灰にならないだけマシと思うんだね」


 ……今度アルカードさんが来たら抗議してやろう。

 今決めた、超決めた。


「それはそうと何処かにいくのかい?」


 フンスフンスと息巻く私にトレントが続けて声をかけてくる。


「ええ、ちょっとアンヘルの家まで行って来ます。ぽむとぽこをお願いね」


「あぁ、昨日の男の子だねぇ。太陽みたいに笑う子だったから、よく覚えているよ」


 太陽かぁ、確かに。

 底抜けに明るかったなぁ。

 どうやら日光を浴びた事による立ちくらみも収まったようだ、箒を手に取ると横向きに座る。

 此方の世界では大抵横向きだ。


 何故って?言ってなかったっけ。お尻が痛いし、両腿で挟み込まないと安定が悪いからだ。

 そんな乗り方をするのはレース用の箒を使う人か、箒を使って荷物や軽いものを運搬する人くらいしかしない。


「それじゃあ行って来まーす!」


 トレントに手を振って、帽子を被り、トンと地を蹴る。

 ふわりと体が浮き、風が頬を撫でる。

 アンヘルの家は山向こうの中腹だったっけ。

 少し高度を上げる。

 昨日見た時より今日は更に湖がキラキラと光を放っている。

 ……この湖は何処から来て何処に繋がっているんだろう。

 それにしてもトレント大きいなぁ。

 ちょっと見たくらいじゃ家の種から出来たと思わないよね。


「この木何物、種なる木ー、家の木(ツリーハウス)でございます~♪……」


 何となく歌ってみた。

 うん、確かに見た事ない木だし、見た事ない種もできるね。

 山の中腹と同じくらいの高さ。

 物凄い存在感だなぁ。

 あぁ、こりゃアンヘルじゃなくても見に来るわ。

 ここら辺に民家が無くて本当に良かった。


 小高い山を通り越すと、すぐに見つかった。

 緑色に草が生い茂った牧場に牛と羊が居たからだ。

 少し遠くに集落が見える、もしかして村かな。

 人口が少なそうだからアンヘルもお金を稼ぐなら街まで行かないと難しそうね、これだと。


 白っぽい服を着た金髪の子と、麦藁帽子を被った恰幅の良い人が下で作業をしていた。

 たぶんアンヘルとその家族かな?

 とりあえず下に降りてみよう。


「おや、リンじゃん。早いな~、おはよう!」


 箒の高度を落としたらアンヘルが先に声をかけてくれた。


「おはよう、アンヘル。昨日言っていた物を作ったので届けに来ました」


「おや? 魔術師見習いの子かい? アンヘル、いつの間にこんなに可愛い子に手をつけたんだ? まるでワシの若い頃の様だなぁ!」


 がははと笑われ、麦藁帽子を取った壮年の男性はつるりと剃りあげた頭を撫でて汗を拭う。

 少しだけ汗の香りにくらりとする。

 うぅ、男性の匂いはあまり慣れてないんだけれどな。


「じーちゃん! そんなんじゃないって! あ、ごめんな? これ、ウチのじーちゃんなんだけれど、ちょっと喧しくてさ」


「何を言うか! お前もそろそろ結婚相手を探す歳だと言うのにいつまでも家に居て! 大体ワシがお前くらいの年には……」


 仲が良くて楽しそうだなぁ。

 クスリと笑みが零れてしまった。


「あー、それよりさ。その袋の中のモノがそうなのか?」


 アンヘルがじーっと私のトートバッグを見つめている。

 あ、目の前のコントに気を奪われてた。


「あ、うん。これがリンゴのコンポートとジャム。レモン入れてないからちょっと甘いかもしれないです。後、この近くにパン屋さんあれば教えて欲しいです」


「おー! ありがとな! なぁじーちゃん、リンにチーズとバターやっても良いか?」


 アンヘルがキラキラした目で瓶を見つめているとお爺さんは苦笑している。


「あぁ、ウチのはそんじょそこらのバターとは違うからな。その代わり、ソレ後でワシにも喰わせろ」


「やーだよっ! へへ、あ! パン屋ならそこの村にあるぞ、赤い屋根で煙突が高い家だ!」


 アンヘルが建物に走りながら教えてくれた。

 どんだけ甘いものに飢えてるんだと私も苦笑した。


「あー、お嬢ちゃん。リンって言ってたな。ワシはアンヘルの祖父でな、ゼルスという」


「あ、御挨拶が遅れまして申し訳ありません。この近くに居を構えさせて頂きました魔術師見習いのリンと申します」


 人の良さそうな笑顔を向けられ、ガハハと笑うゼルスさん。


「ほう、小さいのにしっかりしてるねぇ。ウチのアンヘルはあれでも抜けているところが多いからしっかり面倒見てやってくれ!」


「え、あの、いや、私は……」


 そういう関係じゃなくて、と言おうとする前にゼルスさんに畳み掛けられた。


「牛の乳は絞った事はあるかい? まぁ普通の子は無いだろうな! 面白いからやってみるといいぞ!」


 そういって私の肩をパシパシと叩き、ヒョイと持ちげられて乳牛の前に連れて行かれてしまった。


「あの、いや、その、あれ?」


「なーに、心配せんでも良いわい! アンヘルの嫁ならワシの孫だ! 良いか? こうやって絞るんじゃ」


 ゼルスさんが乳牛のお乳の前にしゃがみ、牛のお乳を両手で交互に搾り出す。


「絞るときは人差し指と親指を輪にしておいて、そのまま絞り出すように小指まで握っていくんじゃ。逆流しないようにまず親指と人差し指を締める事が重要じゃぞ」


 ピュッピュッと木桶にリズム良い音が響く。

 ミルクの濃厚な香りが漂ってゴクリと唾を飲み込んでしまった。


「はっはっは! 女というモンは牛乳が好きだな! 後で絞りたてを飲ませてやるからまずはやってみぃ!」


 ゼルスさんに促されて手袋を外し、ポケットにしまって私もお乳の前に跪いて、しぼってみる。

 ……が、上手く出ない。


「がはははは! 誰も最初はそうじゃ! 指の輪を締めて引っ張ってギュッと握ってみるんじゃ!」


 その言葉に人差し指と親指に力を入れ、ひっぱると牛乳がローブにかかって悲鳴をあげてしまった。


「わひゃっ!」


「はっはっは、アンヘルもよく最初の頃はやったなぁ。どら、拭いてやろう。立ちなさい」


 そう言うとゼルスさんは私の腕を持ち、自分の首に掛けていた手拭いをシュルリと取り、私のローブにかかった牛乳を拭っていく。


「……あんまり育って無い様じゃが、しっかり食べんといかんぞぉ?」


 少しだけ好色そうな響きが聞こえるのは気のせいだろう、うん。

 うぅ……パパにもあまり触られた事無いのに。

 体を離そうにも腕を掴まれて立たせられているので難しい、無理矢理振りほどけば大丈夫かもだけれど、善意でやってくれてる事だし。

 胸からお臍の辺りまで万遍無く拭かれているとゼルスさんが怪訝な声をあげた。


「ん……? これは……?」


 グイとローブの襟に指を入れられ、引っ張られる。

 節くれだった男性の指が首筋に触れ、ゾワリと鳥肌が立つ。


「……! ィヤッ!」


 素肌を見られるのが嫌で腕を振り払って数歩後ろに下がった。

 少し乱れてしまった襟元を両手で隠す。


「お前、まさか……!」


 ゼルスさんが驚愕したような声をあげ、あちらも数歩下がる。

 その時、アンヘル声が手を振りながら走ってくるのが見えた。


「おーい、リン! コンポートのお礼持って来たぞ!」


「アンヘル! 近づくな! こやつは吸血鬼に魅入られた者、命を失いし者(アニミッティウス)じゃ!」


 アンヘルがその声にピタリ立ち止まり、ゼルスさんが敵意の篭もった目で私を睨み付けていた……。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

ご意見、ご感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入りありがとうございます。

感想頂けたら、小説を書かれている方でしたら読むのに時間がかかってしまうかもしれませんが此方も拝読させて頂いて感想をお返しします。

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