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ビスクドールの少女

 私はレインを連れ、ノームの居住地を後にする。

 ほうじ茶?ノームは甚く気に入ったみたいだ。これなら麦が取れたら麦茶とブレンドして差し上げるのも良いかもしれない。

 ふふ、ノーム日本のお爺ちゃん化計画。

 なんとなく縁側でノームがお茶を啜っている姿が容易に想像できて、笑みが零れてしまった。

 箒に乗って家につくと、オーブンの中にパンを放り込んで焼く。

 その間に人形に使うパーツが乾いているか具合を確かめておく。


「……うん、小さな部品は案の定乾いているわね。胴体や手足はまだまだね。帰って魔力が余っていれば風と火を組み合わせて乾燥の魔術を使うとしましょうか」


 私は未定な予定を立てる。

 火と風は私の得意とする土の属性だと苦手だから風だけはシルフにお願いしてみようかしら。

 アンネが居たら一緒に協力してくれそうだけれどなぁ……。

 『しょーがねーですねー。このくらい簡単でしょーに』とか何とか言いながら手伝ってくれそうだ。

 ……アンネ、どこ行っちゃったのよ。全く……。

 私は行方が解らない友人に思いを馳せる。

 おっといけない、そろそろパンも焼けたかしら。

 私は手早く朝食をとり、歯を磨いて身支度をすませると街へ向かうことにする。

 ディランさんのお屋敷で借りたバッグを持ち、外に出る。

 チラリと家の中を見ると、ぽむとぽこはきゅぴきゅぴと二匹で仲良くお話みたいな事をしていた。

 これなら放って置いても問題なさそうね。


「トレント、街でお仕事してくるから家の事はお願いね」


「あぁ、解った。今日は午後から雨が降るかもしれないから気をつけるんだよ」


「うん、ありがとう。トレント」


 私は空気の匂いを嗅いでいる様な仕草をしたトレントにお礼を言う。

 多分だけれど、雨の匂いを感じているのかな。そんな事しなくても木々が生えている場所なら解るでしょうに。

 そんなトレントの人間臭い部分を好ましく思いつつ、私は行って来ますと伝え、レインを肩に乗せ空に飛び立つ。

 途中でフィネ村の牧場の上を飛んでみたけれど、居たのはゼルスさん一人だった。

 向こうは気が付いたようで、大きく手を振ってくれたので振り返す。

 あまり大きく振るとバランスが崩れちゃうので申し訳程度に、だけれど。

 アンヘルは牧場に居ないという事はアポロさんと街に行っているのかな。

 それなら好都合だ。街に買出しに出たときに屋台へ出て謝ろう。

 ……どんな顔して謝ればいいのか解らないけれど、精神年齢的には此方の方がアンヘルの倍以上の年月を生きている。

 ま、行ってみればなんとかなるでしょう!

 そうこう考えているうちにウェンデルの街に着いた。

 相変わらず活気があって、昨日のシルフの言葉なんて忘れちゃうくらいだ。

 認識阻害の魔法と血の匂いだったっけ……。そんな陰惨な事行われているとは思いも寄らない。

 とりあえず、冒険者ギルドに顔を出す。


「おはようございまーす」


 声をかけ、ウェスタンドアを開く。

 ギルド内にはギルさんと赤毛の相棒らしき女の人、今日は珍しく大盾を背中に背負った人もいて、牙のマークの描かれた絵札を何枚か睨んでいた。

 ギルさんはチラリと此方に視線をやると小さめに片手をあげる。

 一応彼なりの挨拶らしい。私はそれに返すため、お辞儀をしておいた。

 その足で受付のお姉さんの所に行く。


「おはよう、リンちゃん。アナタ指名で清掃依頼(クエスト)が来てるわよ」


「私……指名ですか。御領主様です?」


「ううん、ディランさんのお屋敷。はいこれ、受けていくでしょう?」


 丁度良かった。バッグも返せるし、一石二鳥ね。


「はい、ありがとうございます。では行って来ますね」


 受付の人に依頼(クエスト)を交付してもらい、ギルさんの方を横目で見る。あちらもどうやら決まったようで赤い牙の絵が描かれた絵札を持って受付に提出しているようだ。

 えーと赤って結構危険な依頼(クエスト)じゃないのかな。

 私は少し心配になってギルさんを指でつついた。


「なんだ」


 口数が少ないギルさんにジロリと睨まれたけれど、これがこの人の普通なので気にはならない。


「あの、気をつけて、でも頑張ってくださいね」


 なんと言っていいものか解らなかったので応援の意味を込めた言葉を選んでみた。


「大丈夫だ。今回は盾役(タンク)も居るしな。それに俺は斥候(スカウト)だ。仲間に危険が無いか気を配るのも俺の仕事だ。もちろん相棒の存在も大きいがな」


 ギルさんはそう言うと顎で赤毛の大剣を背負った女性を示した。

 存在を促された赤毛の女性はヒラヒラと手を振り、余裕の笑みを返してくれた。

 なんか、良いな。気の置けない関係っていうかそういうの。

 私はペコリとその女性にお辞儀をして、ディランさんのお屋敷に向かう為に箒に腰掛けた。

 たぶんあの人はギルさんの恋人なんだろう。

 それか、何度も戦ってきた仲間以上の感情を感じる。

 当たらずとも遠からずだろう。

 私が冒険者という職業について考えているとディランさんのお屋敷が見えた。

 玄関前に降り立ち、ドアノッカーを鳴らす。

 ギィと音がして、パイプを口に咥えたディランさん自ら出迎えてくれた。


「やぁ、いらっしゃい。リン。そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 後ろにはマリアさんが立っているのが見える。

 どうしてメイドであるマリアさんが来客の応対をしないのか不思議に思ったけれど、たまたまかもしれないし、ディランさんの家の流儀なのかもしれない。

 私はあまり深く考えずに、バッグをディランさんに返すと、清掃を始める旨を伝えた。


「あぁ、よろしく頼む。それと今日も是非お茶をしていってくれないか。紹介したい人物がいるのでね」


「あ、はい。解りました」


 紹介したい人って誰だろう。

 気になったけれど、まずは清掃だ。

 私は箒を両手に持つと、お屋敷の周りを掃きだした。

 ……そういえばディランさんのお屋敷は木々を植えてないのよね。観葉植物でもあればまた違うかも知れないのに。

 それでもお屋敷の周りが風の吹き溜まりに近い構造をしているのか解らないけれど、落ち葉や枯葉が結構な量ほど溜まっている。


「どこから来たんだろう……」


 私は一人呟くとサッサッと音を立てて掃き、麻袋に入れていく。

 袋の口を開けてくれているのは相変わらずレインだ。

 麻袋は丈夫な為、余程重いものを入れたりしなければ破れたりはしない。

 枯葉程度が入っているならば尚更だ。


「そういえば、木々が無くてもこの箒があればトレントと繋がってるって言ってたっけ。」


 私は箒に意識を向けながら話しかけてみる。


「もしもーし、聞こえるー?」


「なんだね?」


「うひゃわぁ!?」


 戯れにやってみた事が予想外の方向から声が聞こえ、私の口からは変な悲鳴が漏れた。


「はっはっは。驚かせてしまったようだね。すまない」


 後ろを振り返ると、全然すまなそうにしていないディランさんの姿があった。


「もう、なんですか。いきなり」


「いや、雇い主としては従業員の勤務態度を見るのは普通じゃないかな? それに独り言を呟くくらい寂しそうにしていたしね」


 うっ……。トレントの枝に話しかけていたのをバッチリ見られていたみたい。

 まぁ、返事をしている時点でバレバレなんですけれども。


「掃除の進み具合はどうだい?」


 私が恥ずかしさに少し顔を赤くしていると、そんな言葉をかけられた。


「ええ、大体終わったところです。それにしても何故か枯葉が多くて、今日は少し難儀していた所なんです」


「ふむ、そうかね? ああ、確かに私の屋敷は風の吹き溜まりになりやすいからね。でも夏の間は結構涼しいんだよ」


「へぇ、そうなんですね」


 私は当たり障りのない会話をしながらも掃いていく。

 これで終わりだ。

 私はレインに袋の口を持ってもらい、サッサッと集めた枯葉を掃いて袋に入れていく。

 その様子を相変わらずバニラの香りのするパイプを吹かせながら見ているディランさん。


「終わりました!」


 私は一声発すると、トントンと腰を叩く。


「ご苦労様。マリアがお茶の用意をしているよ。さ、屋敷の中においで」


 ディランさんはそう言うと袋の口を縛り、抱えてしまう。


「あ、私がやりますよー?」


「ハハハ、良いんだ。これくらいはさせておくれ」


 何か言っても返してくれそうでは無かった為、仕方なくディランさんの好意に甘える事にする。

 ディランさんが麻袋を館の隅に置き、私を伴って中に招いてくれた。

 相変わらずシャンデリアが煌々と灯っており、外と中の明るさが判別つかないほどだ。


「客間に案内してやってくれ」


「畏まりました」


 ディランさんはマリアさんにそう言うと奥へ行ってしまった。


「どうぞ、こちらです」


 少し冷たい感じを受けるメイド長さんに案内されて、私は客間のドアをくぐる。

 と、そこには金色の髪を垂らし、まるでビスクドールのような白磁の肌を持つ少女が座っていた。

閲覧ありがとうございます。

新キャラ登場です。詳しい外見については次回を楽しみにお待ちください。

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