相談事はオジサマに
今回は短めです。
「ほうほう。難しい顔をしていたと思ったらそんな事を考えていたのかね?」
所変わって、ここはディランさんのお屋敷。
私はディランさんのお屋敷からの清掃依頼を受け、清掃を終えてから、第三者であるディランさんに相談している。
勿論相手はぼかしているけれど。
つまりこうだ。
一回りほど離れた人物と、同世代の少年。両方に好意を寄せているし、寄せられていると相談している状況になっていると。
……どうもディランさんは人の感情を読むのが得意らしくて、掃除が終わった時、屋敷に招かれ聞き出されてしまったのだ。
これも年季の差なのかなぁ。
「どちらかを選べば良いんでしょうけれど、私はまだ魔術の修行をしたいんです。ずるいとは言われるかも知れませんが」
「ほう? 別に誰もずるいとは思わないと思うがね。目的の為に色恋を我慢する。それはリンの歳では中々できない事だと思うよ」
ディランさんの言葉が耳に心地よい。
私は思っていることがつい口に出てしまった。
「そう……ですね。二人に言えば分かってくれるでしょうか?」
「あぁ、何なら私が庇護しても良いんだがね。この屋敷には空いている部屋も沢山あるし。そうそう、メイド長の娘がリンと同い年じゃなかったかな? もしリンが来てくれるなら話も合うと思うし、彼女も喜ぶだろう」
へぇ……。若い人だと思っていたけれど子持ちだったのね。
ただ、私にはトレントも居るしぽむとぽこも居る。少なくとも帰る家があるのだ。だから丁重にお断りをしておく。
「すみません、ディランさん。お気持ちはありがたいんですが、家の木を建ててしまっているもので、そちらから動きたくないんですよ」
せっかくの好意だけれど、遠慮させて貰う。
「ほう? そういえばリンの家は何処なんだい? もし街から遠ければ、遅くなったときは宿でも提供しようと思うのだが。リンも知っているかも知れないが、今は夜に出歩く事は好まれないみたいでね、どうやら吸血鬼が跋扈しているらしいし」
ディランさんが吸血鬼、と言う言葉にブルリと震えながら話しかけてくる。
……そうよね。吸血鬼って皆にとっては怖い存在なのよね……。
私は前世の日本での知識と、アルカードさんをこの目で見てからの印象しか知らないけれど、本当は皆が忌避する存在なのだ。
まぁアルカードさんとの第一印象がそもそもへっぽこだったせいで、吸血鬼に対する印象は随分緩和されているけれど。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。暗くなる前に帰るようにしてますから。それと家ですが、すみません……一人で暮らしている以上、男の方においそれと教えるわけには……」
私の言葉に気分を害していないか心配になりながら顔色を窺いつつ答える。
「おぉ。そうだね、いやすまなかった。メイド長の娘が喜ぶかと思ってね。つい、口にしてしまったんだ。許しておくれ」
頭を下げるディランさんに私は慌てて手を振り、それを制す。
「そんな! 顔を上げてください、ディランさん!」
「いやいや、女性に対してするべき質問じゃなかったからね。悪いことをすればすぐに謝るのは当然だよ。お詫びと言っては何だが、このお菓子を包ませよう」
ディランさんはそう言うと、紳士風な笑みを浮かべ、手元にあったハンドベルを鳴らすと、直にメイド長さんの姿が現れた。
「マリア、すまないがこのフィナンシェを包んでやってくれないか。多目に焼いてあればある分頼む」
「畏まりました」
メイド長のマリアさんは一礼すると、部屋から出て行った。
暫らく待っているとノックの音が聞こえ、ディランさんが返事をすると、木の皮で作られたバスケットを持ったマリアさんが部屋に入って来た。
焼きたてのお菓子の香りがするので、おそらく中にフィナンシェが入っているんだろう。
「さ、リン。受け取っておくれ。それと良ければ今度マリアの娘にも会わせよう。あの子も同世代の話し相手が居ないからリンの事を話したらきっと喜ぶと思う」
ディランさんはおどけた口調でパイプを咥える。
火を点けないのは、お菓子に匂いが移る事を危惧してだろうか。
……こういう所ってマナー解ってて紳士さを感じさせるよね。年の功なのかしら。
「……ありがとうございます。お言葉に甘えて頂きますね。それと私程度でお話相手になるのでしたら是非。……そう言えば今日は居られないんですか?」
「あぁ、マリアの娘は少々病弱でね。体調が良い時にしか出られないんだよ。」
「……そうですか、残念です」
ディランさんの言葉に少しだけ落胆するけれど、体調が悪い人に無理に会うわけにもいかない。
ここは大人しく引き下がっておいた。
「あの、このバッグはいつお返しすれば?」
「今度私の家の清掃依頼を受けたときで構わないよ。リンを優先的に回してくれるようにギルドにも頼んでいるしね。明後日か明々後日に依頼を出すのでその時にでも持って来ておくれ」
ディランさんが人の良い笑みを浮かべ、玄関まで送ってくれる。
マリアさんは相変わらず表情の読めない顔で、玄関より数歩下がって一礼した。
私はお礼を言うと箒に腰掛けて、空へと浮かぶ。
と、その時上から声がかけられた。
「あれ、リンじゃありませんか。どーしたんです?」
そこにはリュックを背負ったアンネが居た。
読んでいただいてありがとうございます。
そろそろ第二部の題名にかかる話を書こうと思っていますが、なかなか話が進みません。ジレンマです。