よじよじもふもふ
朝日が眩しい時間になり、私は小鳥の声で目が覚める。けれど何か違和感があるような……?例えて言うならば朝早く教会に入ったようなそんな荘厳さを感じさせる雰囲気がある。
「さて、結局昨日はアルカードさんも来なかったし、結界の鈴が鳴る事も無かったなぁ……。諦めてくれたのかな?」
とりあえず違和感は置いておいて、襲撃が無かったことにホッとする。
「さ、起きて、ぽむ、ぽこ! 朝ごはんだよー。レインもおはよう」
私はぽむとぽこを起こし、綿飴状にした星の魔力を込めた糸を出す。レインはサイドテーブルの上でコクリと頷いてくれた。
「ぽ!」
「ぷ」
二匹がもっちゃもっちゃと食べ始めるのを見て、私はある事に気付く。
ぽむの様子が明らかにお腹がすいてました!という態度だったからだ。
「ねぇ、ぽむ? もしかして太陽の魔力使ってた?」
「ぽ!」
私の問いに肯定するように頷きながら糸を食むぽむ。
どうやら一晩中太陽の魔力を微弱ながら出し続けてくれていたみたいだ。 目覚めたときに感じた違和感はこれのせいね。教会の結界がぽこの太陽の魔力に反応していたからね、きっと。
「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫よ。結界があるから鈴が鳴った時にお願いね」
「ぽ!」
私はぽむに魔力を補充させる為、もう一回り大きい綿飴状の糸を指先に出す。
「ぷー……」
それをぽむが羨ましそうに見つめていた。
「ぽこは取って食べちゃだめよ? これはぽむのなんだから」
「ぷ! ぷ!」
「そこまで食い意地張ってないって? ごめんごめん」
私はお詫びにぽこの羊みたいな真っ白のもこもこふわふわした毛並みをヨシヨシと撫でる。
「ぷー」
ぽこは許してやるか、と言わんばかりに満足そうな声を出す。
しばらくぽこを撫で続けているとぽむも寄ってきて、お腹をゴロンと見せてきた。
……これは撫でろって言ってるのよね。
「ぽむもありがとうね。多目に魔力糸出しておくから、ぽむの魔力補充しても余ったらお腹すいた時にぽこと食べてね」
私はぽむの少し硬く茶色い毛並みをもう片方の手でワシャワシャと撫でてやる。
「ぽ、ぽ、ぽ……」
くすぐったいのかぽむは短い手足をよじよじさせて鳴き声をあげていた。
私はその反応が楽しくてもう少しいじってみた。
「ぷ~……」
「ぽ~……」
ハッと気付いたら二匹ともとろけてしまっていた……。
「くふ、私ってテクニシャン」
……誰に言ってるんだ私は……。
気を取り直して蕩けてしまった二匹を部屋に置いて自分の朝ごはんを作りにいく。
今日はチーズトーストと目玉焼きだ。
卵とチーズを持ってきてくれたアンヘルに感謝しないとね。
私はカリッと焼けたチーズトーストを口に頬張りながら今日の予定を組み立てていく。
「うーん……。吸血鬼の目が怖いから昼にしか動けないっていうのが辛いトコよねぇ。あ、そういえばアンネが来るって言ってたっけ。冒険者ギルドで短時間で終わらせる依頼受けて帰れないかな。よし、そうと決まったら実行よね」
私は食べ終えたお皿をキッチンに持って行き、洗ってからローブに着替える為に2階へ戻った。
「ぽー?」
「ぷー?」
ローブに着替えてリュックを背負い、レインを肩に乗せ1階に下りると二匹がみょんみょんと近寄ってくる。あ、そういえば鍵の掛け方教えて無かったわね。
「ごめんね、二匹とも。昨日はずっと家から出られなかったでしょ」
「ぽ、ぽ~?」
「ぷ、ぷ~?」
何だか怪訝な鳴き声を出された。そういえばぽこは転移の魔法が使えるんだっけ。
「……ひょっとして二匹とも自由に外に出入りしてたりする?」
「ぽ!」
「ぷ!」
今度は肯定された。どうやらこの二匹は自由に出入りしているらしい。外に出ると今日も良い天気だ。日焼け止めの魔術掛けないとね。そう思っているとトレントに挨拶された。
「やぁ、おはようリン」
「おはよう、トレント。ちょっと聞きたいんだけれど昨日ぽむとぽこはどうやって家から出入りしてたの?」
此方も挨拶を返し、ちょっと疑問に思った事を聞いてみた。
「ホッホッホ。これは異な事を聞くね、リン。この家は私の一部分でもあるんだよ。夜で私が眠っている時ならいざ知らず、昼間ならドアを開閉するくらい簡単だよ。ホラ、この通り」
トレントがそう言うと、玄関のドアが開いたり閉じたりした。
「え、こんな事できるなんて知らなかったよ?」
「ホッホッホ。私も私自身が家の木になるのは初めての経験だけれどねぇ、想いを込めたらできるようになったんだよ」
「へぇ、じゃあもしかしてぽむとぽこが出入りする為に開閉してくれてたり?」
「そうだよ、昨日は家の中で鳴いていたからねぇ。ドアを開けてあげたんだけれど、金属の鍵を外すのは少し手間取ったね。リン、もしよければ出かけるときは鍵をかけないで居てくれると嬉しいねぇ。鍵を閉めるくらいなら私にもできる様になったから」
トレントが少し考え込むような仕草で言った。
うーん……。まぁ取られるようなモノも無いし、誰か入ろうとしたらトレントが施錠してくれるんだよね。ならいっか。
私は少し考えてからトレントに了承の返事を告げた。
「うん、ありがとうリン。それで、今日も街へ行くのかい?」
「そのつもり。枝の調子はどう? トレント」
私はトレントが文字通りその身を削ってくれた枝に近づいてみる。
「うん、大分水分が抜けたみたいだねぇ。これならばすぐに加工できると思うよ。ゴレムスに頼んで置くと適当な大きさに切って置いてくれるだろうねぇ」
「そっかぁ。解った。ありがとう、トレント」
トレントにお礼を言い、ゴレムスを呼ぶ。
「ゴレムス、お願いしていいかな? この枝を太い部分は本の表紙にしたいから1対に輪切りにして、残った部分は箒の柄にしたいから長さを調節して切ってくれる?」
「ハニッ!」
ゴレムスは頷き、元気の良い返事をすると私の背丈ほどもある枝の皮を剥ぎ始めた。
あ、そういえばトレントの樹皮はシナモンになるんだっけ。
「ゴレムス、その樹皮を粉末にして瓶か何かに入れてもらえる?」
「ハニホッ!」
ゴレムスは頷いて再び作業に取り掛かり始めた。
「じゃあトレント、ゴレムス、ぽむぽこ。私は街でお仕事してくるね。アンネが昼過ぎくらいに来るからそれまでには帰ってくるつもり」
「あぁ、行ってらっしゃい。気をつけていくんだよ。特に樹木が無い場所は私はリンを視られないからね」
「うん、解ってる。でもウェンデルの街って基本的に樹木が少ないのよね……。石造りの建物が多い街だから仕方ないけれど、広場とかには景観の為に欲しいよねぇ。今度アルカードさんにお願いしてみるね」
「あぁ、そうすると良い。彼も自分が治める街の事ならば率先してやるだろう。貴族で言うところの貴族の義務だったかな? 人間達が話しているのを聞いた事があるねぇ」
「解った。それじゃあ行って来ます!」
私はトレント達に手を振って箒に腰掛けて地面を蹴る。
今日は良い依頼があるといいなと思いつつウェンデルの街へと向けて進路を取るのだった。
読んでいただきありがとうございます。
久しぶりのもふもふ成分補給です。
次回はリンの葛藤について書こうと思っております。