冒険者になったよ!
冒険者ギルドの扉は所謂ウエスタンドアと言われる造りになっていて、手で押すとギィと音を立てて向こう側に開いた。
中は幾つかの机と椅子が有り、冒険者であろう人達が座っていた。そのうちの何人かは机の上に置かれた何枚かの絵の描かれた木製のカードを見ている。
見慣れないものだったので、じっと見ているとその中に座っている目つきの悪いお兄さんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、何か用かい? 見たところ魔術師見習いのようだが……。人形遣いは俺達のパーティには必要ねぇな」
私の肩に乗っているレインをジロリと見て、お兄さんがフイと視線を逸らし、またテーブルの上に置かれた絵札に戻る。
「え、いや……あの……」
「なんだ」
私が弁明しようとしどろもどろになっていると、目つきの悪いお兄さんが絵札を見たまま、ピシリと言い放つ。
「なーにこんな幼い子脅してんのよ、ギル」
ギルと呼ばれた目つきの悪いお兄さんは、後ろから現れたよく日に焼けた肌と赤い髪を持つお姉さんに髪をワシャワシャと?き乱されている。
片手には飲み物が入っているであろう木のコップを持っている所から、ここでは簡単な飲み物かお酒でも出すのかもしれない。
「ごめんねー、お嬢ちゃん。コイツ斥候で腕は良いんだけれど職業柄目つきが悪いのと口数が少ないからどうしても脅しているような雰囲気になっちゃうのよね」
カラカラと笑い、まだワシャワシャとギルと呼ばれた目つきの悪いお兄さんの髪を撫でくりまわしている。
撫でられている本人はと言えば特に気にしている様子も無いので嫌な訳ではないんだろうと思った。
「いえ、あの、ごめんなさい。その絵札が気になったもので何かな、と思って」
「……お嬢ちゃん、冒険者ギルドは初めてか。これは依頼だ。剣が描いてあるのが雑魚の討伐、魔物の口の様な牙が描かれているのは見ての通り難易度が高い。だからお嬢ちゃんには向いてないかと思った」
よく見ると、魔物の口のような色違いの絵札や剣の絵札しか置かれていない。
道理で……。まぁ私は戦闘向きの属性じゃないから仕方ないよね。
星の魔力で魔物を懐柔すればいいじゃないとか思っている人いる?
じゃあ考えてみて。ケーキが大好きな人の前に大きなケーキと一口サイズのケーキを出されたらどちらを食べるでしょうか?
一口サイズ?それは間違いです。
答えは簡単。両方をムシャムシャされます。
つまり、私が星の魔力を出しても好かれすぎてムシャムシャされるって事。ヤダー。
「受付はあっちだ。……困ったことがあれば聞け。答えられる時なら教えてやる」
どうやらこのギルって人はクーデレ(クール+デレ)キャラらしい。
受付のカウンターを指差して教えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
ピョコンと頭を下げ、受付に向かう。
ちなみにさっきの赤髪のお姉さんは此方に頑張ってね、と手を振るとまたギルさんの頭を撫でていた。
……案外二人とも良い関係だったりするのかな。
「いらっしゃいませ。登録ですね」
「はい、お願いします」
先程の私とギルさんの会話を聞いていたのだろう。受付のお姉さんが手際よく登録用紙のような物を渡してくれる。
カウンターの台は少し私の身長に取っては高めで、身を乗り出したお姉さんが苦笑しながら用紙を渡してくれた。うぅ……恥ずかしい。
「適当なテーブルへ座って書くといいわ。大丈夫、この街のギルドは治安が良いから初心者虐めみたいな事をする輩はいないのよ」
お姉さんから言われ、テーブルに着いて改めて用紙を見る。
それは金箔が貼られた羊皮紙だった。
「へぇ……。結構豪華」
「それは書いて登録が完了するとカードになる。……偽造防止の為に凝った造りと魔術が掛かっているから再交付には少々の金がかかる。気をつけることだな」
私が金箔を貼られた羊皮紙の質感にウットリとしているとギルさんから鋭い目つきで注意と示教された。
見かけによらず面倒見が良いのかも?私はお礼を言って名前や種族、歳を書く。職業は……うん、これしか無いよね。私は空欄に『人形遣い』と書く。
肩に乗せたレインが嬉しそうに頷いたのが解った。
埋めるべき空欄も埋め、受付のお姉さんに渡すと、カウンターの奥に見える水晶玉に羊皮紙をかざしていた。
ギルさんも隣のカウンターの人に剣のマークがついた絵札を渡していた。
私の視線に気がついたのか「今回は二人で討伐だからな」とボソッと私に聞こえるように呟いた。
たぶん、さっきの赤髪の人と一緒にそう危険では無い依頼を受けるのだろう。
しばらく待っていると、紐が通された私のギルドカードを持って受付のお姉さんが帰ってくる。
「はい、これ。アナタのギルドカードよ。ギルさんが言っていた通り再交付には安くないお金がかかるから気をつけて。それから貴女でも受けれそうなのは街の清掃だけれど、あいにくさっき清掃依頼は埋まっちゃったのよねぇ。ちなみに領主様の館が一番清掃の中では土地が大きいから範囲が広くて不人気なの。新人ちゃんがよく応募してヘトヘトになっているから気をつけてね」
うわぁ、アルカードさんの別荘って新人泣かせの依頼なのね。知りたくない情報がまた一つ増えたよ!
「ふむ、ならば私が清掃依頼を出そうではないか」
「まふぃん!?」
後ろから腰砕けになるような渋く甘い声が耳を通り、私を突き抜けていったせいでお菓子の名前の様な妙な悲鳴が出てしまった私だった……。
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