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わるいひとたち

2016/02/08:文法と表現が怪しい箇所があったので修正しました。

「トレントから無事、愛を受け取ったようですわね。そんなリンには(わたくし)から、これを差し上げますわ」


 そう言うとウンディーネは中空から何かを取り寄せるようにして、その手を握った。

 そしてその握った方の反対側の手で私を手招きする。


「……?」


 私が近寄ると、握った手の平を開いてくれた。


「うわぁ……! 綺麗!」


 思わず声を上げてしまう。何故ならその手の中にあったのは大粒の真珠だったからだ。


「セイレーンの涙、と言うものですわ。リンには武器を持たない勇気を。ひと時だけでも戦いを捨てる意思の為にこれを差し上げます」


「差し上げるって……でも、私。何も返せない……」


「受け取っておけ、リン。ウンディーネも言っていただろう。存在を認められる、肯定されるのが何よりも精霊にとっては嬉しいものだと」


 何時の間にか私の後ろに立っていたアルカードさんが両肩を掴んでくる。 しかしそれは全く力が入っておらず、まるで羽毛を摘まむかの様だった。


「この宝石は持つ者の優しさに応じて(きらめ)きを増すと伝えられています。武器を手にする者はそれを振るう度に輝きがくすんでいくとも。リンにピッタリですわ」


「……ありがとう、ウンディーネ。私の存在が在る限り、ウンディーネの存在を肯定し続けるね」


「えぇ、ありがとうございます。リン、やっぱり(わたくし)は貴女の事大好きですわ」


 ウンディーネが感極まった様に震え、私の手にセイレーンの涙を握らせた。

 ……そういえば真珠って汗を吸うと輝きがくすむってよく言うよね……。 武器を持った人って汗をかくだろうし、真珠のお手入れの方法とか知らなかったのかな?真珠は汗がついたままだと輝きを失ってしまう。それはつまり争いに身を置く者は輝きを失ってしまうと伝えられたのではないかと想像をつける。

 ウンディーネの豊満な胸に抱きしめられて窒息しかけた時、玄関の鈴が鳴った。あれ?玄関にあんなもの着いてたっけ?いや、それよりも何度か開閉しているのに鳴らなかったのは何故?

 あ、そういえば結界に反応があると鈴が鳴るって言ってたっけ。

 あの鈴がそうなのね。自分の中でそう結論付ける。


「……来たか!」


 私が首を捻っているとアルカードさんが玄関を開け、外に飛び出す。


「え? ちょっ! アルカードさん!?」


「リンはウンディーネと家に居ろ! 結界に反応があったので見てくる! ウンディーネ、リンを頼む」


 慌ててアルカードさんに声をかけるけれど、アルカードさんはそれを振り切るかの様に凄い剣幕で捲くし立てて狼に姿を変え、駆けて行った……。


「リン。吸血鬼が言った通り良くない気配がしますわ。先ほど武器を持たない勇気と言いましたが、貴女の友人の力を借りた方が良いかも知れません」


「友人? 友人って……トレント? それともぽむとぽこ?」


 私の言葉にウンディーネはどれも違うと首を振る。


「貴女の人形ですわ。確かレインと言ってましたわね。今どちらに?」


「レインは鞄の中に……。レイン! 貴女の力を貸して欲しいの、お願いできる?」


 鞄からレインを取り出すとまだ魔力を通していないにも関わらずコクリと頷いた。

 私はそれを見てハンドルに魔力を込め、詠唱する。


「……リン。本当は錬金魔術の表紙に使って欲しかったのですけれど、貴女の手に握っているそれは今使うべきモノですわ」


 ウンディーネの声に私はハンドルを持っていない方の握っていた手の平を開く。

 そこにはセイレーンの涙があった。


「……これをどうしろと?」


「貴女のお友達(・・・)にお使いなさい。さきほどの吸血鬼の慌て様から敵は複数かつ強大だと思いますわ。貴女は人間相手に戦えないでしょうし」


「それはレインを完全自律化させると言う事なの?」


「ええ、すでに半分自分の意思を持っている様ですしね。試しに聞いてみられれば良いですわ」


 私はウンディーネに言われ、テーブルの上に乗せたレインに目線を合わせて聞いてみる。


「ねぇ、レイン。悪いひとたちがこの家を目指して来ているらしいの。そこでレインの力を借りたいんだけれど、レインは私に今まで通り魔力をハンドルに通して使役される関係が良い? それとも私の剣になってくれる? もし剣になってくれるなら、私の手を取って」


 そう言ってセイレーンの涙を持った手をレインの前に出すと、レインは迷うことなく私の手を取った。両手で包み込むように、まるで愛しい者を守るかのように私の手を握ってくれる。ドールの冷たい手がその時は温かいモノが通っているような気がした。


「解った。ありがとうレイン。じゃあレインをゴーレム化するね」


 しかし私の言葉に嫌々と首を振るレイン。

 あれ?私何か間違った?


「ゴーレム化は嫌だそうよ。多分だけれど……。リン、貴女と繋がりたいんじゃないかしら」


 繋がるってどうやってだろう。私はウンディーネに縋るような目線を送ってみた。

 その私の視線を受け取ったウンディーネはヤレヤレと言った風体で肩を竦めつつも答えてくれる。


「……リンが想った通りの言葉を紡げば良いのですわ。それが契約になりますから。リンが紡いだ言葉と想いの重さ、そして魔力を込めることで完成しますわ」


 どうやら契約の言葉はゴーレムを作る時とは違うらしい。それなら私がレインにどうなって欲しいかって事だよね。

 私は意を決して、言葉を紡ぐ。


言祝(ことほ)ぎよ、紡げ。我が力となりて、共に在らん。我が剣となりて、共に歩まん。我は誓う。我が命尽きるまで共に生きよう」


 歌うように詠唱を終えると同時に、セイレーンの涙がレインの胸元にスゥと吸い込まれる。

 そしてレインの体が光に包まれ、あまりの眩しさに目を瞑る。

 光が収まった時、そこには生命力に溢れた……。いや、どこか神々しさをも兼ね備えた存在がそこに立っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。

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