表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぽむぽこりん -異世界で魔術師見習いやってます!-  作者: 春川ミナ
第一章:ソルデュオルナの魔術師見習い
11/346

おかしなお菓子の魔法少女

「うっわ! すっげぇ!」


 テーブルの上に山積みにされたリンゴを見てアンヘルが感嘆の声をあげた。

 うわぁ……目がキラキラしてる……。


「な、なぁ。何か袋とか無いかな? オレ、これしか入れるもの無くて」


 そう言うとアンヘルは肩から提げている小さい鞄を指差した。

 どれだけ持って帰るつもりだ。

 溜息が出そうになるのを必死で堪える。


「欲しければまた生やして貰うから。それにこのリンゴは日持ちしないです」


 そうなのだ、蜜入りリンゴは蜜があるから甘いわけでは無く、木で完熟しているからこそ甘いのだ。

 当然熟しているので、店で売る前提のものに比べて寿命が早い。

 加工して売ろうと考えたのはその為だ。


「そっかぁ……。残念だな」


 アンヘルがションボリとする。

 その様子に少しだけ可哀想に思って、提案をしてみた。


「ジャムやコンポートにしたら日持ちすると思うんですよね。作ったら要ります?」


 私の言葉にアンヘルが顔をパァァと輝かせる。何この子……チョロイ?


「マジで!? オレの家って女手居ないからさ。そういう甘いものに飢えてるんだよぉ……」


 感極まったようにアンヘルがギュッと私の手を握る。

 あ、温かい。……じゃなくて!力が込められすぎ!痛い痛い!


「ちょっ! 痛いってば!」


 手を振りほどくとションボリとした顔で謝って来た。


「あ、わりぃ……。でも本当に嬉しかったんだ」


 犬みたいに尻尾を丸めてシューンとしている姿になんとなく叱られた時の弟のジグの姿が重なってしまう。

 女手が居ないっていうのはお母さんは亡くなっているのかなぁ。

 ……男やもめじゃ大変そうね。

 少しだけ同情する。……ジャムを作ったら少し多めにあげよう、うん。


「もし甘いもの届けてくれるんなら、俺が居る時だったらチーズとかバターとかと交換するからさ!」


 手を擦っているとお詫びだと言わんばかりに、好い条件を並べるアンヘル。

 ……バターは確かにお菓子作るなら必須だしね。

 正直私も甘いものは食べたい。

 あぁ、何だか魔術研究じゃなくてお菓子研究になりそうな予感。

 もしお菓子職人になって家に帰ったらパパとママはどんな顔をするかしら。……ジグは喜びそうだけれど。


「うん、まぁ家族に怒られない程度にしてくださいね? だって売り物でしょう?」


「う……。まぁそりゃあそうなんだけれどさ」


 私の冷静なツッコミにアンヘルが頷く。

 まぁ、移動手段が徒歩や馬しかないなら街まで甘味を買いに行くのは一苦労だしね。

 考えているうちにアンヘルがリンゴを詰め終わったようだ。


「じゃあこれだけ貰って行くよ。本当にありがとうな!」


 うわぁ、鞄がパンパン。鞄とポケットにもギッシリ詰まっている。


「うん、転ばないようにしてくださいね」


 開けたままの玄関のドアにアンヘルが向かう。

 リンゴの香りが凄くてドアは開けたままにしていたのだ。

 どのくらいかと言うと、家に入った時にリンゴの香りがむわっと張り付くくらい。

 ……後で窓も開けておかなくちゃね。


「大丈夫だって! ホントにありがとな!」


 アンヘルが私の頭をワシワシと撫でる。


「わ、あ、わ、何するんですか……」


 わやくちゃにされた髪を手櫛で梳く。

 弟以外の男の子に触れられる機会があまり無かったので少しだけ顔が熱い。

 ジットリとした視線を向け、抗議を訴えた。


「あぁ、ごめんごめん。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれよ。あ、それとたまになら来て良い?」


 全く悪びれもせず、自分の頬を掻いているアンヘル。

 今度は私は隠そうともせず盛大な溜息をついた。


「たまになら良いですよ。ただ、私も研究をしたいのでお菓子ばかり作ってると思わないで下さいね」


 ニッコリと社交スマイルを浮かべる。

 このままでは森のお菓子屋さんとして定着しそうなので釘を刺しておこう。

 私はここに魔術の研究をしに来たのだ。何度も言うけれど。

 しかしアンヘルには全く効いてないようだった。


「やりぃ! んじゃ寄らせてもらうな!」


 羊をたくさん連れてるから狼とかも心配なんですけれど……。

 糞の臭いに寄って来たりするし。

 まぁそこらへんは私がカバーしておくしかないか。

 ……余計な仕事増やさないで欲しいなぁ。

 めへめへと鳴く羊達を連れて遠ざかるアンヘルの背中を見て、盛大な溜息をついた。


「ぽ!」


「ぷ!」


 ぽむとぽこが慰めるように足にスリスリと体を擦り付ける。

 ……いや、だからね?ローブのスカートの中に潜り込まないで欲しいんですけれど……。


「ほっほっほ、随分と賑やかなお客様だったねぇ」


 木のコブがゴソゴソと動き出して、トレントが目を開けた。


「ほっほっほじゃないよ……。害獣対策しておかないと」


「ふむ……。狼が怖いかい?」


 怖いよ!そりゃあトレントは木だから食べられる心配は無いでしょうけれど……。


「正直言って怖いかな。少なくともこの家だと身を守るには適していないのよね。トレントには申し訳ないけれど……」


 狼は2メートルくらいの柵なら簡単に飛び越えるし、窓を割るなんて造作もない。

 厚い二重になった毛が防具となってガラスが割れても皮膚にまで届かないのだ。


「ふうむ……。では私が害獣避けの植物を作ってあげようか」


「え、そんなことできるの?」


 目が点になって聞き返してしまう。


「ホッホッホ、私を誰だと思っているんだい?」


 トレントが得意気に上の枝をわさわさと揺らす。

 一瞬、俺の名を言ってみろーとか言われるかと危惧したけれど。


「ん? そんな事を言って欲しいのかい? リンは変な子だねぇ」


 考えを読まれたらしく、慌てて首を振って否定した。


「じゃあ幾つかの種をもっておいで。トウガラシとそこにある栗とクルミ……あぁ、いっそ今持っている種全部私に預けると良いよ。なければ掛け合わせて作れるしねぇ」


 そんな事できるんだ……トレントすごい。


「ホッホッホ、じゃあ取っておいで、陽が暮れる前には植えたいだろう?」


 考えをまた読まれたらしい。トレントすごいって考えたせいか、鼻らしき部分をヒクヒクと得意そうに動かしていた。

 慌てて家に入り、2階へ上がる。


 リュックから種を入れた袋を取り出した。

 この巾着袋もお手製だ。

 青い布地に魔力を込めた銀糸で物質保存の魔導式を縫いとめてある。

 同じく魔力で編んだ紐を引っ張れば中に入れた物はほぼ何週間もそのままの状態を維持できる。

 冷蔵庫代わりに使えるかな?と思って試してみたけれど口が若干開いているので駄目だった。温度は保存できないらしい。出来るものは乾燥した種やポプリだ。

 可哀想なので生き物を入れた事はないけれど、たぶん生き物も無理なんじゃないかな。

 お腹減っちゃうだろうし。


 ……いけないいけない。トレントに種を渡しに行かなくちゃ。

 種の詰まった袋を持ってトレントの前に立つ。


「ごめん、待ったよね」


「いやぁ? 待ってないよ」


 ……ベッタベタな男女の台詞みたいだなぁと気付いて、少し可笑しくなって笑ってしまった。


「どうかしたかい? リン」


 トレントが怪訝な顔で問いかける。

 おそらくこの感情はトレントには理解できなかったのかもしれない。

 ……そうだよね、地球での知識なんだもん。


「……じゃあ種を袋から出して私の口に入れてくれるかい」


 またトレントがアーと口を開ける。

 その中に種を入れる私。

 こういう行事ってあったよね……あぁ、思い出した。


「おにはーそとー、ふくはーうちー」


「ぷぷぷーぷぷー!」


「ぽぽぽーぽぽー!」


 ……声に出してしまっていたらしい、ぽむとぽこが私の口調を真似してみょんみょんと跳ねる。

 トレントも苦笑していた。……少しだけ恥ずかしい。

 袋が全部空になった。後は栗ね。


「あぁ、そうだリン。もし栗を私の口に入れるならイガごと入れると良いよ」


 種を咀嚼しているような仕草をするトレントに話しかけられた。

 どうしてだろう?痛くないのかな?


「ホッホッホ、痛くは無いよ。イガは良い肥料になるんだ。それに栗を寝かせておくなら野ざらしより私の中の方が良いだろう?」


 ……そっか、色んな事考えてるんだなぁ。トレントって。

 栗はある程度寝かせると甘味が増すし、植物の一番美味しい食べ方を知っているからかもしれない。

 まぁ確かに美味しい方が植物が繁殖するには都合が良いものね。


「ありがとう、トレント。そうさせてもらうね」


 そう言うと私はイガ栗の前でふと立ち止まった。

 流石にイガ栗を素手で持つのは痛いよね。箒に乗るときの為の手袋を使おう。

 箒と一緒に置いておいた手袋を手にはめる。

 これは黒い革で出来ていて、かなり丈夫だ。

 たしか沼の大蛙の皮をなめしたものだったはず。

 カエルと聞いて少しだけ敬遠したけれど、着けてみるとすごく肌にフィットして防水性も防寒性も優れているスグレモノ。

 大事な事なので2回続けてみました。

 パパがわざわざこの日の為に作ってくれたんだっけ。

 ジグも付いて行って、将来は猟師になるんだ!とか大蛙に傷をつけないように絞めるのは難しいとか自慢してた。

 ありがとう、パパ、ジグ。

 ここには居ない二人に少しだけ感謝する。


 イガ栗をトレントの口に運ぶ。

 栗が置いてある場所からトレントまで少し距離がある。

 投げ入れたい欲望がヒシヒシと湧き上がってきたけれど、トレントの目とかに当たったら痛そうだし。それに食べ物を粗末にしちゃダメ絶対。

 栗を全部運び終わったらトレントがもむもむと咀嚼していた。

 ……歯とかないのにどうやってるんだろう。

 少し疑問に思ったけれど、あえて気にし無い事にした。


「種を掛け合わせるまで少しかかりそうだ。その間仮眠を取ってきたらどうだい、リン。見たところ随分魔力が枯渇しているようだし眠たいのではないかね?」


 トレントに言われて自分の体の不調に気付く。

 確かに。魔力が枯渇しているけれど動けたのは妙なハイテンションのせいだ。

 そう、徹夜明けのアレ。


「……そうね、ありがとうトレント。少しだけ休ませてもらうね」


「ホッホッホ、そうすると良いよ。何か危ない事があれば起こしてあげよう」


 トレントに礼を言い、2階に上がる。

 カーテンを閉めてローブを脱ぎ、クローゼットにかけて下着のみの格好になる。

 パジャマもあるんだけれど、寝ることを考えてしまったらそれすら億劫になってしまった。

 ブーツを脱ぎ、ベッドにポフンと座り込む。


 そのまま体を倒して毛布を被るとぽむとぽこもベッドに乗ってきた。

 ……寝相は良いつもりだけれど潰さないかちょっとだけ心配だったので隅っこに寄った。

 ぽむとぽこの体温を感じながらゆっくりと瞼が重くなる。


「おやすみ、ぽむぽこ」


「ぷ」


「ぽ」


 閉じた瞼の向こう側でぽむとぽこの声が聞こえると同時に私の意識は眠りの中へと誘われていった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

ご意見、ご感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入りありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ