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楽しいお勉強

「なんじゃ! さっきの音は! ウンディーネ! またお前の仕業か!」


ノームがプリプリと怒りながらピョイピョイと飛び跳ねてくる。

 その姿になんとなく愛嬌がある。

それはウンディーネも同じだったようでウンディーネはクスリと何事も無かった様に告げた。


「少し魔力の込め方を間違えただけですわ。リン、魔方陣の文字はどうなっていまして?」


 その言葉に左手で持っていた魔方陣を見る。

 描かれた模様は全て消えていた。


「あれ……? 消えてる?」


「そうですわ、一度発動した錬金魔術はその全ての力を使い果たして消えてしまうのです。普通に描く魔方陣とは違い、一回きりの使い捨てですわね。普通に描かれる魔方陣は魔力を一筆一筆込めながら描きますの。だから術者の魔力を媒介にして発動するのですわ。対して錬金魔術は虫食いの状態を埋める様なものです。そこにリンの無の魔力を注ぎ込めば普通に魔方陣を描くよりも威力は段違いになりますわよ」


「……なんてモノを教えておるんじゃ、この馬鹿者」


 ノームが相変わらず怒っている。

 うん、私もここまでの威力がある魔術を使いたいわけじゃない。

 せめてもっと暮らしに役立つとか、畑に水を撒くとか平和的な魔術を使いたい。


「それにこんな威力の魔術を使ったら今夜絶対アルカードさんが来るよ……」


 未だ湖に波紋が走っている惨状を見て、溜息をつく。


「あら、別に良いじゃありませんこと? それに少なくとも私は貴女が襲われた事を知っていましてよ?」


「なんじゃと?」


 ノームが剣呑な気配を見せる。


「あ、そういえば夜会の帰りに雨が降っていたっけ……。ウンディーネって雨が降っていても解るの?」


「水のある所には私が介在すると考えて構いませんわ。……ただ、魔術や魔法で作られたものは介入する事ができませんけれど……」


 ウンディーネが少し悔しそうな顔をしている。

 ……夜会の帰りに襲われたのはやっぱり魔術か魔法で作られたものなのね。

 天候を操作する魔術?ううん、そんなの聞いた事ないから魔法の一種ね。


「なんじゃと? 儂、そんな事聞いてないぞい!」


 ノームがピョイピョイと飛び跳ねて興奮している。


「当たり前ですわ。だってアナタ洞窟に引きこもってばかりですもの。私はリンが心配だったので水のある場所に意識をやっていたのですわ。……勿論噴水で吸血鬼との情事を重ねた事も視ていましたから知っていますわ」


 情事って!情事って!確かにアルカードさんと良い雰囲気になったけれども!


「……ウンディーネ。あまりお嬢ちゃんを虐めてやるものではないぞ。ホレ、顔が真っ赤になっておる」


 ノームが助け舟を出してくれた。


「あらごめんなさい。リン相手だと、つい虐めたくなりますの」


 あまり反省してないようなウンディーネの声。

 それよりもいくつか聞きたい事がある。

 私はウンディーネに向き直ると質問してみた。


「ウンディーネ。錬金魔術だけれど、さっきは魔方陣をある程度描いてから私の糸で繋いだよね。もし最初から私の糸で魔方陣を描いたらどうなるの?」


「……そうですわね。糸で魔方陣を描くという作業は集中力も馬鹿になりませんわ。もちろん威力はかなり違ってくるでしょうけれど。リンへの体の負担も考えないといけませんわ。例えば糸で文字の形を取らせるのとペンで文字を書くのはどちらが早いかしら」


 ウンディーネはしばらく考える様子をして答えてくれた。できるだけ解りやすいように噛み砕いてくれたのが解る。


「そりゃあペンで書いた方が早いよね……」


 私はウンディーネの答えに少しだけ肩を落として答える。


「それに……ですが、ペンで書いた魔方陣と組み合わせることによって安定しやすくなるのですわ。糸のみで定着(スタグネット)した魔方陣の場合、ちょっとした魔力を通しただけで最悪爆発しますわよ」


 うわぁ……。それは怖い。

 私は大人しくウンディーネの言葉に従って置くことにした。


「じゃあ第二の質問なんだけれど、私達を襲った人は判る?」


 そう聞くと、ウンディーネは少し哀しそうな顔をした。


「……ごめんなさい。魔法で作られた水は私の意識が入る余地が少ないの。だから使った本人が誰で何処へ行ったかまでは想像がつかないですわ」


「そっかぁ……。うん、解った。ごめんね。アルカードさんをあんな目に遭わせた人を突き止めたかったけれど……」


 私は太陽の光に射されたアルカードさんの姿を思い出す。

 正直もうあのような姿をみるのは嫌だ。

 ……あの光の羽根が生えたようなアルカードさんは綺麗だったけれど……。


「……リンには荷が重いと思いますわ。少なくとも実力が違いすぎます。天候を自由に操る魔術師、または魔法使いなんて。でもその為の錬金魔術ですわ」


 ……私は白紙になった羊皮紙を胸に抱き、頷くのだった。


「……そういえば、これだけの魔術を使ったって事は黒き翼(ニゲル・アーラ)であるアルカードさん来るよね……ウンディーネ、言い訳一緒に考えてくれる?」


 私は溜息をつき、未だ波紋が広がる湖を見、ウンディーネを上目使いで見上げる。

 その私の様子に溜息を一つついたウンディーネ。


「……そうですわね、魔力の残滓がそこら中に渦巻いてますし、おそらく陽が沈み次第飛んで来るでしょうね。……仕方が無いので私も一緒に居てあげますわ」


 ウンディーネがそっと私を抱きしめる。


「ありがと、ウンディーネ」


「……ウンディーネ、何をニヤついた顔をしておるんじゃ?」


「あら、だってリンに触れられる機会ですもの。有効活用しませんと」


 ウンディーネとノームの軽口の言い合いを聞き流し、少なくともアルカードさんに叱られる事は覚悟しておかないといけないだろうなぁと思いつつ、ウンディーネと共に家路に就くのだった。

読んで頂いてありがとうございます。

すみません、病院の時間が長引いてしまいいつもより投稿の時間が遅れました。

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