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渡り鳥への思いやり

「雨、止んだね」


「……あぁ、そうだな……。出るか」


 窓の外を見ると、雨は完全に上がったようで、人の往来も回復してきていた。

 中には雨に濡れたまま、歩いてきたらしいびしょ濡れで早足の人もいるのだけれど。

 ……何か急ぎの用事でもあるんだろうね。


「お兄さん、ご馳走様でした。また街へ来た時には寄らせて頂きたいと思います」


 店主さんに愛想を振りまいてお会計をしようとするとアンヘルに止められた。


「ここは俺が持つよ。誘ったのは俺だしな」


「ありがとう、アンヘル。じゃあお言葉に甘えるね」


「あぁ、まかせとけ」


 そんなやり取りを店主さんはニヤニヤと見守っていた。


「なぁアンヘル。うまく付き合う事になったら教えてくれよ」


「ばーか、そんなんじゃねーよ……。まだ……」


 そんなやり取りをしながら、アンヘルは大銅貨6枚を自分の財布から取り出して、会計のテーブルに置く。

 ウェイトレスさんが小銭を確かめると「ありがとうございました」と言って軽く会釈してくれた。

 外に出ると、通り雨特有の焼けた地面が冷やされたような空気が纏わりつく。

 ……水に濡れた犬やぽむとぽこのような匂いだからあまり不快じゃないのよね……。

 もしかして私って匂いフェチなのかも。

 箒に腰掛けて、アンヘルが隣に座るのを待つ。


「ん? 今日はもう良いのか?」


 察しが良いわね、アンヘル。

 たぶんやる事がもう無いのか聞いてきているんだと判断した私は、その質問に答える事にした。


「うん、羊皮紙は買ったし、美味しいものも食べられたし。それに結構お金使っちゃったから、今度は稼がないとね」


 金斬虫(かなきりむし)でも狩ればそれなりのお金が入ってくるだろうけれど、リスクが高すぎる。

 私でさえ、気絶させるのが精一杯なので、縛って街に運ぶ間に暴れられたらとてもじゃないけれど抑えきる自信は無い。

 ……少し前の襲撃時はアルカードさんとセバスチャンさんがポイポイと手伝ってくれたけれど、私が一人でやるのは無理そうだ。

 やっぱり、地道に魔道具か魔術具作るしかないかな。

 それとレインの妹も作らなきゃいけないしね。

 うわぁ、やる事が一杯だ。


「リン、また変な顔になってるぞ」


 アンヘルが私の眉間をツンツンとつついてくる。

 いけないいけない、この年で眉間に皺が出来ちゃう。


「んー、色々とね。考えることが一杯あって。ごめんね、アンヘル。じゃあ行こっか」


「おう、いつでもいいぜ。あ、うちの牧場に寄るんなら牛乳や卵も持って行けよ。代金はお菓子と交換って事で」


「うん、良いよ。……ふふ、何を作ろうかな」


「楽しみにしてるよ」


 アンヘルを箒に乗せ、フワリと浮き上がる。

 ウェンデルの街は箒に乗った魔術師も多いため、驚かれる事も無い。

 そのままゆっくりと高度をあげて、アンヘルの牧場を目指して飛んで行く。

 途中、渡り鳥の群れとすれ違ったので天敵避けの魔術をかけておいた。

 言葉を解す星の魔術を込めた水晶玉を使うまでもない為、手を振ってさよならの挨拶だけしておいた。


「なぁ、リン? なんであんな事するんだ? ぶっちゃけ天敵避けの魔術なんてかけなくても、あいつらが食べられたりするのは自然の摂理じゃねーのか?」


 アンヘルが訝しがる声をあげる。

 私はその疑問に答える事にした。


「そうね、確かに自己満足の為だって言う人も居るよ。でもね、天敵避けの魔術をかけられた渡り鳥が他の魔術師見習いにも好意的な感情を残してくれるし、また何処から来たか解れば、魔術師の居住場所が重なる事も無いでしょ? だから、その為よ」


「へぇ、色々と考えられているんだなぁ」


 アンヘルが感心したような声を出す。

 腕を組みたかったのだろうけれど、安定の悪い箒の上だったので、両手を離した途端バランスを崩してテヘヘと笑ってた。

 ……もう! 心臓に悪いことしないでよ!


「お、もう着いたのか。流石に空を飛ぶと速いな」


 アンヘルの牧場が見えてくる。

 先ほど雨が降ったせいだろうか、草についた露がキラキラと反射してエメラルドの宝石箱みたい。

 私はアンヘルの家の前に箒をそっと着陸させる。

 アンヘルは箒から飛び降り、家に入って行った。


「ただいまー、じいちゃんはって……。昼寝中かよ。まぁ雨降ってきたしな。上がるまでと思ったんだろうな」

中からアンヘルの声が聞こえてくる。


「えーと、牛乳、チーズ、バターに卵……。生クリームも入れておくか。これくらいで良いかな?」


 アンヘルが家から出てくる。いつも持っているバスケットを手に。


「こんなモンで良いかな? じゃあリン、また街に行くときは手が開いていたら連れて行ってくれよ。箒での空の旅はスッゲー楽しかったし!」


「うん、ありがとう。アンヘル。気合入れてお菓子作るね。それと箒の二人乗りは結構魔力使うから、余裕がある時にね」


「あぁ、解った。乗せても良いって時は是非頼む」


 箒の先端にバスケットを引っ掛けて、アンヘルに別れを告げると、トンと地面を蹴る。

 牧場の周りを一回りし、手を振るとアンヘルも手を振り返してくれた。

 そのまま山を越えると、大晶壁(だいしょうへき)に包まれたトレントが見える。

 ……これってかなり、いや……結構目立つなぁ……。

 まぁ結界もあるし、大丈夫かな……。

 私はそう結論つけて、家に入り、氷冷箱(ひょうれいばこ)にアンヘルから貰った乳製品や卵を放り込むのだった。

 さて、羊皮紙も準備したし、ウンディーネの所に行きますか! 

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。

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