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太陽の笑顔

「美味しい! アンヘル、これすごく美味しいよ!」


 カスタードプリンを一口食べると、トロリと溶ける甘味に舌鼓を打った。


「へへ、だろう? ここの店はオススメなんだ」


 アンヘルが得意気にミルフィーユを一口フォークで食べ、おいしそうにホクホクしている。

 私はそれを見て、咄嗟に弟のジグにするような行動に出てしまった。


「ねぇ、アンヘル。一口ずつ交換しない?」


「おう、いいぜ。じゃあリンからくれよ」


 アンヘルの大きく開いた口にプリンを掬ったスプーンを差し込む。


「おう、プリンもうめぇな。トロットロで、口の中が楽しいぜ」


 そうよね、アンヘルが大好きなカスタードだもん。当たり前よね。


「じゃあ、次は俺からする番だな。ほれ、あーんしろ」


 あ、そういえば弟にするような気分で何気なくやっちゃったけれど、これって所謂『はい、あーん』よね。

 しかも間接キスで。いや、間接キスもキスもアンヘルとはもうしてるんだけれど、なんだか意識すると余計に恥ずかしいというか、なんというか!


「どうした? リン。ホラ」


 ミルフィーユを一口分切り分けたアンヘルが私の口の前にフォークを持ってくる。

 うあぁ、恥ずかしいけれど食べなきゃいけない雰囲気よね。

 って店主さんなんでニヤニヤしながら生温かい目で見ているの!?

 ウェイトレスさんも無表情でサムズアップしないでぇぇぇ!

 私は覚悟を決めて、アンヘルが差し出してくれたフォークを口に咥える。

 銀食器(シルバー)の冷たい感触がし、スルリとそれは引き抜かれ、残ったのはミルフィーユ。苺ジャムの酸味とクリームの濃厚さが口の中に解けると共に、少しの塩味が拡がる。

 あれ、これって?

 赤い顔でウーンと考え込んでしまった私にアンヘルが怪訝な表情で問いかける。


「おい、リン。どうした?」


「あ、うん。やってしまってからだけど、なんだか恥ずかしくなっちゃって……」


「そ、そうか……」


 はぁ……顔が熱い。

 アンヘルも顔を赤くして恥ずかしそうにしているし。

 でもそれよりもこの味はなんだろう。隠し味的に使ってあるものは……。


「……そっか、マヨネーズだ」


「はぁ!? マヨネーズ!?」


 アンヘルの素っ頓狂な大声が店内に響く。

 ちょ、アンヘルお客さんが今は居ないとは言え、大声を出すのはいけないと思うの。


「へぇ、お嬢ちゃん。よく気付いたね。そうだよ、隠し味に少し入れてあるんだ」


 店主さんがレモン水のお代わりを注ぎにテーブルに来てくれた。

 まるで良いものを見たと言わんばかりの笑顔で。


「いやぁ、少年少女の恋愛って良いねぇ。こう、ヤキモキする感じとか、もっとガバーッといっちまえ! とか思うけれど、おじさんの年になるとどうしてもねぇ」


 おじさんってアナタさっきお兄さんと言えって言ってたじゃないですか……。


「な、なに言ってるんだよ。俺とリンは……。いや、まぁ確かにそうなれば良いなとは思ってるけど……。一緒に居て楽だし」


「あぁぁあアンヘルまで何言ってるの!?」


 さっき自分が心の中で注意した店内で大声を出すと言う行為をしてしまった。


「はっはっは。若いねぇ。おや、雨が降ってきたか。こりゃあお客さんの足も遠のくな。通り雨だろうからゆっくりしていくと良い」


 窓の外を見ると、ポタポタと雨が銀色の線を作っている。

 遠くは晴れているから確かに通り雨の可能性が高そうね。

 私は雨のおかげで少し冷えた頭を動かす。

 そうしてカスタードプリンをつつく。

 アンヘルも窓の外を見ている。

 いきなりの雨に右往左往している人たちを視界に捉えているみたいだ。


「……雨の天使が泣くと雨が降るんだってな」


 私はアンヘルの言葉に雨を司る天使の名前を持つと言うマルテを思い出す。

 また迷子になって泣いていないと良いけれど。


「また誰かの心配しているのか?」


 アンヘルに自分が考えていた事を当てられ、少しビックリした。


「リンは顔に出やすいんだよ。……だから俺も楽なんだけどな。身の回りの共通の知り合いとして例に出すけど、例えばアンネだ。あいつは基本的には良いやつなんだけど、のらりくらりしてて何考えてるかわかんねーから苦手なんだよな」


 自分の従兄妹でしょうに。


「アンヘルはアンネと結婚とか、そういう話した事ないの?」


「ん? あ、あー。小さい頃にそんな話した事はあるけれどな。今はそういう対象じゃねーだろ。アイツも俺もな。それに、なにか昔より一歩退いている感じがするんだよな」


「そうなの? アンネがアンヘルを好きだったら応援しようと思ってたのに」


 言ってしまてからチクリと胸が痛んだ。

 ……アルカードさんやアンヘルからも好意を向けられていて、そのどちらも失いたくないなんて、私も大概だな……。

 少し自己嫌悪に陥りかけた私にアンヘルが優しく声をかけてくれた。


「それはねーよ。アンネかリンだったらリンの方が良いな。さっきも言ったとおり楽だし」


 アンヘルはフォークを置き、テーブル越しにポンポンと頭を叩いてくれた。


「ふふ、また変な顔になってるぞ。俺はリンのそんな、雨が降りそうな顔より、太陽の光が降り注いでいるような笑顔が良いな」


 アンヘルが笑顔を浮かべてくれる。

 ……私の笑顔よりアンヘルの笑顔の方がよっぽど太陽に近いと思うんだけれどな。

 そんな事を考えて、窓の外を見ると、雲の切れ間からあちこちに陽が射していた。

 雨は……もうすぐ止みそうね。

 私は外の様子を眺めつつ、まだ少し熱い顔を冷たいレモン水を飲み、冷やしながらプリンをつつくのだった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。

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