私の心はプリンプリン
「さぁて、次は甘いモノだったな」
アンヘルがうーん、と考えながら首を捻る。
う、そういえばそうだった。
でも実は結構お腹一杯だったりする。
焼き鳥とお好み焼きでお腹が膨れてしまったのだ。
一方のアンヘルはと言うと、どこに行こうかなーとぶつぶつと呟いている。
待って待って、アンヘル。もう少しだけ休ませて。
流石にこの状態であちこち歩くのは御免こうむりたい。
そう思った私はアンヘルに正直に言う事にした。
「アンヘル、しばらくお話したいな。実はお腹が膨れて動けないのよね」
「あれ、リン。もうか? ……女の子ってのはホントに小食なんだな。……そういえば妹もそうだったっけ……」
アンヘルがどことなく哀愁と懐かしさを漂わせる笑みを浮かべる。
私はその大人びたアンヘルの表情に鼓動が大きく揺れるのを感じた。
アンヘルにとってはあまり思い出したくない事なのかもしれないけれど、会話の種が欲しくて聞いて見る事にした。
「ねぇ、アンヘル。妹さんってどんな子だったの?」
「んー、アンネに憧れていたな。で、一時期アンネの様な喋り方を真似して母さんに怒られていた。性格は優しかったよ。そういえばリンって何歳だっけか」
「私は12歳だよ。魔術修行なんだから12歳にならないと家を出ないといけないの」
「そういえばそうだったな。その間、家族とは会えなくなるんだっけ」
「うん、でも手紙や使い魔は出して良い事になっているから別に寂しくは無いよ。アンネもアンヘルの牧場に使い魔を寄越すんでしょう?」
私は女子校で寮暮らしだったから親元を離れる事は少し慣れているから良いんだけれど、アンネはフィネ村に親がいるんだろう。だから帰れないので、使い魔をアンヘルの牧場に寄越していると、少し前にアンヘルの口から聞いた事がある。
「あぁ、そうだ。よく覚えていたな。アンネの使い魔はよく俺の牧場に来るよ。見た目は小さな鴉だけれど、賢いんだ。アンネの風の魔術が施されて軽量化されたバスケットを咥えてよく来るよ」
へぇ、アンネの使い魔は鴉なのね。
そんな事を思っていると、アンヘルが続けてくれた。
「妹が生きていれば、リンと同い年になるな……。俺よりアンネに似た顔立ちだから将来美人にはなると思う。……生きていれば、だけどな」
アンヘルのしんみりとした言葉に庇護欲がそそられてしまい、つい頭を撫でてしまった。
いや、そういう話題を振ったのは私なんだけれど。
「なんだよ、子供じゃねーっつの。そろそろ行かないか? 今のリンでも食べられそうな店知ってるからさ」
私が撫でている手をやんわりと止め、そのまま手を引いてくれる。
「どこへ行くの? アンヘル」
「それは着いてからのお楽しみだな」
そういえばこれって周りから見たら何処をどうやってもデートよね。
一緒にベンチに座って食べ物を食べて、男の子に手を引かれて街中を歩く。
広場に居たとき、生暖かい視線を感じたのはそのせいなのかな。
「着いたぞ、ここだ。ここは結構気に入っている店なんだ。持ち帰りもできるし、店で食べる事もできるぜ」
ドアを開け、アンヘルが店の中へと招いてくれる。
「ありがとう、アンヘル」
お礼を言い、店内を見ると、綺麗に掃除されていると一目で解り、明るめの照明がキラキラと輝いている。
ショーケースの中にはケーキが置いてあり、なるほど、これがお持ち帰りできるのかと納得した。
「いらっしゃいませ。二名様ですね。こちらでお召し上がりですか?」
「あぁ、お願いするよ」
アンヘルが窓に面したテーブルに着く。
……この世界の接客は席へ案内はしないのね。
いや、店内が空いているから自由にかけて良かったのかもしれないけれど。
「こちらメニューになります」
冷えたグラスとメニューを持ってきてくれたウェイトレスさんにお礼を言い、メニューを見る。
「俺は苺ジャムとクリームのミルクレープで。リンは何にする?」
んー、ショートケーキも捨てがたいけれど、粉モノはもうお腹一杯になりそうだしなぁ……。
うん、これにしよう。
「私はカスタードプリンで」
「畏まりました。それでは少々お待ち下さい」
伝票代わりの木札を置いて、ウェイトレスさんはオーダーを伝える。
木札に書いてある値段は……大銅貨6枚かぁ。
結構するのね。いや、イートインできるお菓子屋さんとしては妥当な所かな?
考えながら、グラスに注がれた水を飲む。
それはよく冷えており、軽い酸味がした。
あれ、これって?
「あぁ、ここはレモン水を出すんだ。砂糖が入ってない飲み物だから、お菓子が余計美味しく感じられるように、って連れてきてくれた父さんが言っていた」
なんだ、アンヘルがお店を開拓した訳じゃないのね。
「よぅ、アンヘル。今日はアポロと一緒じゃないんだな。しかもこんな可愛らしい魔術師さんを連れて。デートかい?」
注文した品物を持ってきてくれたのは先ほどのウェイトレスさんじゃなくてコックコートに身を包んでエプロンを着けた恰幅の良い中年の男性だった。
多分この人が調理場で働いている店主さんなんだろう。どこと無く、雰囲気がそんな感じだ。
「いつまでも父さんと二人で甘いもの食ってると色気が無いからな。今日は俺が街を案内して、最後の締めにここを選ばせて貰ったんだよ。お客さん連れてきたんだから感謝しろよな」
あれ、アンヘルがデートと言った軽口に反応しない。
成長したのね、アンヘル。お姉さんは嬉しいよ。
「おうおう、嬉しいねぇ。お嬢さん、アンヘルはこんなんだが、末永くよろしくな」
あれ、このやり取りってなんだかフィネ村にいるような……?
「あぁ、このオッサンは俺の父さんの幼馴染でフィネ村の出身なんだ」
私の疑問が顔に出ていたのか、アンヘルが答えてくれた。
「オッサン言うな。お兄さんと呼べ。俺はまだ未婚なんだからな」
「へいへい、じゃあお兄さん。その手に持ってるお菓子をさっさと出してくれよ」
「あぁ、ゆっくりしていってくれ。悪かったな、デートの邪魔をして」
「良いから行けっつの」
アンヘルの軽口にニヤリとして、お菓子の載ったお皿をアンヘルと私の前に置き、退散するお兄さん。
「楽しそうな人だね」
「あぁ、まぁな。父さんの知り合いって大体あんな感じだ。さ、食べようぜ」
「うん。退屈はしなさそうだね」
私はニコリと笑い、よく冷やされたプリンにスプーンをそっと入れたのだった。
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