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焦れる気持ち

何時の間にか100話突破していた事を教えていただきました。

ありがとうございます。

「リン、あの屋台はどうだ?」


 そう言って一つの屋台を指差すアンヘル。

 どうやら鳥の肉を串に通して焼いているらしい。

 脂の焼ける匂いがほどよく香っている。


「うん、いいよ。後はもっとお腹に溜まるものがいいな。それと甘いもの!」


 鳥の串焼きを二本ほど頼んだアンヘルは一本を私に渡してから考える仕草をする。


「うーん、それなら魚介類を入れたオートミールを出す店と、ソーセージを挟んだパンを出す店とウチの店、どれが良い?」


 アンヘルが一息に言い切ってから串焼きを齧る。

 私もそれに習って一口齧った。

 塩とレモンの味がして、鳥の脂がたっぷりと染み出してくるのに、サッパリとした後口だ。

 冷えたビールとかあれば、パパとか喜ぶかもしれない。


「んー、じゃあアンヘルのお父さんがやっているお店で!」


 オートミールとホットドッグかサンドイッチか解らないお店より、無難なところがいいよね。

 自分でも味見しているし。


「解った。じゃあ早くいこうぜ。材料が無くなった時点で店じまいだからな。父さんの店」


 串焼きの串を露天のあちこちに置いてあるゴミ箱に放り込み、アンヘルが手を引いてくれる。

 このゴミ箱は商業ギルドが管理しており、大抵燃える物がゴミとして捨てられているため、ある程度分別されたら街にある銭湯の釜でゴミとして焼かれるそうな。

 なんだかエコっぽい。

 日本のお祭りや屋台もここら辺をきちんとすれば、マナーの向上や治安の維持にも繋がるだろうになぁ、と問題になっていた事を思い出す。


「おーい、リン。ここが最後尾らしい。しばらく待つぞ」


「あ、うん」


 物思いに耽っているとアンヘルの声で正気に戻された。

 見るとアポロさんが忙しそうにお好み焼きを焼いている。

 その形相はすごく生き生きとしているけれど鬼気迫るモノだった。

 例えるなら温和な動物園のクマが野生のクマになって狩りをしているような?


「ね、ねぇアンヘル。私達手伝わないで良いのかな?」


 一人で会計をこなし、商品を作っているアポロさん。

 その姿が何となく居たたまれなくって、声をかけてみた。


「ん? あぁ、良いんだよ。父さんあれで楽しんでるし。人間追い詰められれば追い詰められるほど成長するもんだぞって言ってたし」


 アポロさん、まさかのドM疑惑浮上。

 まぁ、前世ではマッチョにはM気質の人が多いって聞いた事あるけれど、こちらの世界でもそうなのかなぁ。


「今は味の改良をしているんだとさ。リンが教えてくれた即席のソースだけれど、父さんなりに工夫して色々と考えているぞ」


 まぁりんごジュースにトマトケチャップ混ぜただけじゃ味に拡がりが無いものねぇ。

 人の隙間から見ると、鍋から黒っぽいソースを塗って出している。

 嘘!?もしかしてウスターソースに近いもの自分で作り出したの!?

 そんな事を考えているうちに私達の番が来た。


「おう、アンヘルにリン嬢ちゃんか。いらっしゃい。色々改良してな、あの時教えてもらったものとは一味違うぞ」


 ニヤリと笑うアポロさん。

 どうやらアンヘルの一族は食に対する心構えが凄まじいらしい。自信もほどほどにありそうだ。

 ジュウジュウと鉄板の上で焼かれるお好み焼き。そうして出された物は確かにこの間とはまるで違っていた。

 一口齧って、まず、生地自体に塩を練りこんであるのが解る。

 そしてソース。黒い色をしていたからなんぞと思ったけれど、おそらくこれはワインビネガーか、バルサミコ酢ね。

 でも惜しい!もう一味足りない!後青海苔と鰹節が欲しい!

 そう思った私はこっそりとアポロさんに耳打ちする事にした。


「……野菜クズをみじん切りにして木綿の袋に入れて、その鍋で煮てみて下さい。主に使うのはにんにく、玉葱、人参、セロリ等の香りが強い野菜なら何でも良いです。そして砂糖をカラメル状にしてから入れるとコクがでます。それから香辛料を。とうがらしや黒胡椒を入れると更に味に深みが出ると思います」


 それを聞いたアポロさんはハッとした様子でそうかと頷き、ニヤリとしてみせた。


「流石だな。ありがとうよ、リン嬢ちゃん。レドネットの息がかかっている店も同じようなモンを出しているが、今のところ此方の方が優勢だ。あいつらは工夫ってモンを知らねぇからな。明日からは更に差がつくと思うぜ」


 パシパシと笑いながら肩を叩かれる、痛い。


「父さん、リンが痛がってるから止めてくれ。さ、リン、こっちだ」


 アンヘルが妖怪肩叩きの手から連れ出してくれた。

 アンヘルと共に店から少し離れて、据えてあるベンチに座り、お好み焼きに齧りつく。


「な、なぁ、リン。父さんに何話してたんだ?」


 あれ?アンヘルの顔が少し赤い?もしかしてヤキモチ?ヤキモチ妬いちゃってるの?それに気を良くした私はちょっともったいぶって見ることにした。


「んふふー、ヒミツ!」


「……ッ! そんなら良いよ!」


食べ終えたアンヘルが拗ねたように立ち上がる。あれ、やり過ぎ?何か選択肢間違えたかな?

 怒らせちゃったかな。そう思った私は素直に謝る事にした。


「ゴメンゴメン。これがもっと美味しくなる方法をね、アポロさんに教えていたの」


 私はまだ食べ終えてないので、立ち上がるアンヘルの服の裾を摘まむ。


「そっか……。いや、こっちこそゴメン。ウチ、母さん居ないからさ。リンって領主様のような年上が好きなんだと思ってた。てっきり父さんに気があるのかと思っちまった」


 アンヘルが斜め上な思考を述べる。


「アルカードさんはアルカードさんだよ。確かにあの人の気持ちは嬉しいけれど、それが恋愛に発展するかと言えば、まだ解らないよ。それにアポロさんはまだきっとアンヘルのお母さんの事を想っている筈だよ」


 我ながらズルイ答えだと思う。でもアンヘルとアルカードさん、どちらかを選べと言われたらその時私はどちらを選ぶんだろう……。

 私が思案に暮れているとアンヘルが納得したように再びベンチに座ってくれた。


「そっか、そうだよな。……あー、太陽って遠いなー……」


 アンヘルが太陽を掴むように手を伸ばしている。

 その様子に私はお好み焼きを食べながら、チクリとした胸の痛みを我慢しつつ、微笑むのだった。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ、勉強させていただきます。

感想などもお待ちしております。

ブクマ・お気に入り等もありがとうございます。

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