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第75輪

 翌日……の昼前にログイン。あの後は街に戻ってログアウトしたが、あの植物が密集していた地帯はここからの方角を覚えておいたので《飛行》とかでフラフラしたり、天体観測をしなければ20分程度で着く。


 昨日と同様、道中魔物にあること無く群生地にたどりつく。散発的に生えているものは見つけた先からとりあえず踏みながら奥地に向かう。


 少し進むと昨日と同じように生えている数が増え始める。……しかし、昨日結構な数を潰したと思ったが、減ったような感じはしない。種をまき散らすのが近くに居るのだろうか。


 ……と、思っていた矢先。明らかに赤い点が密集している場所がマップ上に徐々に姿を現していく。


「空から行けば不意打ちは受けそうにないかしらね」


 相手は植物だ。地中から蔓やらを伸ばして不意打ちをしてくる可能性は十分高い。空から行けば少なくとも地面からの攻撃は受けずに済むだろう。


 ついでに、群生地の中心を起点に魔術を使えば大半を殲滅させることが出来そうだ。


 《飛行》で地上15メートル程のところまで浮かび、群生地に向かって真っすぐ飛ぶ。そして、マップの真っ赤に染まった部分を途中まで進む。


 ここからでは細かいところまでは分からないが、もう少し先のところに一際大きい、まるで典型的な人食い植物のようなものが鎮座している。それにしても随分大きいわね。軽く5メートルくらいありそう。


「まあ、中心にするべきところが分かりやすくて良いわ。……《エリア・ダークネス・ジャベリン》!」


 今使える最大威力の魔術を拡大して放つ。ドーム状の魔法陣の中を大量の槍が高速で乱反射しているのが見える。


 十数秒程度でドームが破裂すると草を刈った時のようなにおいがここまで届いてくる。一体どれだけの数を潰したのだろうか。しかしマップにはまだ赤い点が残っている。もちろん親玉と思わしきマンイーター(仮称)だ。


「結構しぶといどころか元気じゃない」


 この攻撃で倒せないだろうことは考えていたのでまだいいけれど、まるで効いていないかのように蔦を高速でこちらに伸ばしてきたのに悪態をつきたくなる。


 距離が開いていたので避けるのは簡単だったが、これが接近戦となるとかなり厄介だ。土の上だと滑ったりして動きが遅くなったりもするし。


「《ハイスラッシュ》!《月衝波》!」


 軌道を変えて襲ってくる蔦を切り落として、本体を狙った攻撃を放つ。相手は動けないので確実に当たるが、薄い傷跡を残して悠然と構えている。移動できない代わりに耐久値が高いようだ。


「痛っ!」


 突然右腕に何かが当たり、若干の痛みと共にHPが減る。痛いとは言っても痛覚の再現にはストッパーがかかっているのでたかが知れているが、それでも突然の痛みには驚くものだ。


「……これは、随分とショッキングな……」


 何が当たったのか確認しようかと腕をみると、その瞬間に腕から私が散々踏みつぶした物と同じものだろう植物が芽を出す。正直に言ってこれは運営の仕事にドン引きである。夢に出そうだわ。


 と、そのまま固まっているとあっという間に花が咲き、紫色の霧を私の顔めがけて噴射してくる。


「げほっ、成長に使ったのも私の体力なのになんて恩知らずな……」


 毒霧にむせながら腕から生えた花を引きちぎる。HP吸って成長して毒を噴射されるとは思わなかった。種を飛ばしてくる速さは見えなかったのでアレの動きから予測するしかないだろう。


「全身から毒の花生やして死ぬ光景とかゾッとするわね」


 最悪のパターンが脳裏をよぎり、身震いする。種と一緒にトラウマも植え付けそうなのはさっさと倒してしまいたい。


 植物だから良く燃えるんだろうけど、生憎と火属性の攻撃は持っていない。火属性の魔術でも持っていれば遠距離から有効に戦うことが出来たのだろうが、仕方ないので接近戦でなんとかしよう。


 種を飛ばしてくるのを警戒して周囲を回るように飛びながら接近する。


「《パワースイング》!」


 アーツの溜めに必要な時間を接近の時間で消費し、飛行の速度を加えて叩き斬る。


「くっ、硬っ……!」


 刃が半ばまで通ったところで完全に刃が止まる。何とか押し込もうと思ったが、口の部分をこちらに向けていたのに気が付き、その場から飛び退く。


「再生できないわけではなかったのね」


 刃物を手放したのを良しとばかりに蔦を再生させこちらに伸ばしてくる。しかも数が増えているせいで避けるので手一杯だ。


「うっ、この……!」


 しなる蔦が鞭のように襲いかかってくる。数が多いだけでそう強力なわけでもないけれど、衝撃が大きく一撃貰うだけで動きが止められる。ノックバック効果もあるのか、ジリジリと剣から遠ざけられていく。


「……!」


 何か手は無いだろうかと、そう考えた時に鞄の中にある物を思い出した。


「ふっ!」


 迫ってきていた7本の蔦を切り落とす。鞄の中から取り出したのは本来投擲に使うための投げナイフだ。切れ味もそう良いものではないため刃零れは早いが、これが無くなるまでにどうにかするつもりだ。


「《飛行》!《ダークネス・ジャベリン・サークル》!」


 既にボロボロになったナイフを投げ捨てながら《飛行》で地面すれすれを飛びながら接近、魔術で周囲の蔦を払い、その間に取り出した新しいナイフで正面から来る蔦を切り落とす。


「《シャドウシールド》!」


 口の部分をこちらに向けてきたので正面に闇の盾を出す。その途端に盾にひびが入ったので新しい盾を作り直す。傷が付いたらすぐに張り直さないと駄目ね。


「《ダークネス・サークル》!」


 闇色の霧に姿を隠し、敵の背後に回り込む。前も後ろもなさそうなのは気にしない。


「貰ったわ、《ダークパイル》!」


 既に刃の欠けているナイフを投げ捨て、手を直接胴体にくっつけて《ダークパイル》を打ち込む形で3発放つ。


「くっ!」


 足元を薙ぎ払う形で振りまわされた蔦を避け、残りのナイフを使い地面に縫い付け、刺さったままの大剣の柄を掴む。


「《パワースイング》!」


 刃が若干進む。だがこれでは気休めにもならない。


「《パワースイング》!」


 メリメリと軋む音をたて悲鳴を上げるのは相手の胴体か、大剣の刃か。


「痛ぅっ!―《パワースイング》ッ!」


 足に痛みが走るが構わず剣を押し込む。私の筋力値でここまで刃が通らないと斬るのは正攻法ではないのかもしれない。


「―――!!」


 軽快な音と共にインフォメーションが表示される。一瞬気が散ると腹が立ちかけたが、その情報に目を見開く。


「《フルパワースラッシュ》ッッ―――!!」


 そして、そのままそこに書いてあるアーツの名前を叫ぶ。途端に進まなかった刃が一気に振り抜かれる。


「……っ、ふぅっ、はぁ~……」


 敵をちゃんと倒せたのを確認してからそのままその場に倒れる。さっき足にやられたのは腕に受けた種と同じものだったようだけれど、マンイーターらしきものと一緒に消えてしまった。


「久々に強敵だったわ……」


 ともかく少し休んでいたいので、後のことはまたあとで考えるとして、今はここで寝ていよう。

相変わらずの不定期投稿ではありますが、お読みいただきありがとうございます。


スローペースで書いていたら3月の終わりが見えてきていたとは……。

それから、今更という感じもありますが、サブタイトルの漢数字の部分を算用数字に変更しました。

色々とぶれまくりで申し訳ないです……。

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