第74輪
さて、街に戻って休んだおかげでデメリットが解消されたのは良いけれど、今日の目的だった近場の魔物についてはもう分かってしまったし、何をしようかしら。
森に行かずに第四の街を目指して攻略をするのも良いけれど、まだ第三の街に着いたばかりなのに、それは流石に勿体ない。私の目的はゲームを攻略するのじゃなくて楽しむことなのだし。
ただ、他の魔物を探すと言うことに関しては第四の街を目指す過程で他の魔物が出てくるかもしれない。……というか、見逃しているダンジョンとかも必ずあるだろうから、私が今までに見つけているのはフィールド上で出現する魔物のみに過ぎないのかもしれない。
どちらにしろ夜なのだから積極的に外の探索に向かうべきね。時間は有効活用するべき。
ひとまず外へ。さっきは森の方へ向かったので、今度は別の方向へ行こう。フィールドから入ることのできるダンジョンらしいものなんてサクラ姉ぇとユズと最初に行ったあの洞窟くらいなものだろうか。
それを除くとグランドクエストに関連していた山だろう。数が少ないのか見つけにくいものなのか。同じようなもので考えるなら私が盗賊に捕まったのはミニシナリオとでも言ったところだろうか。
移動速度を上げるのと《飛行》スキルのレベルを上げるのを目的に地面から2、30cmほど浮いたところを飛びながら、さっき向かった森を正面に西へ向かう。
「そういえばユズのパーティーは第四の街に着いたのかしら」
私を第三の街に送る間に他のパーティーメンバーが用事を済ませるのを待っていると言うことだったけれど、あの後グランドクエストを突破したとは聞いていないのでユズと別れた後のことは分からない。聞けば教えてくれるとは思うけれど。
「第三の街に来るのに地下道を通ったのは良いけれど、地図ではどの位置にあるのかしら。そこまで離れていないとは思うけれど」
《警戒》のミニマップではなく、このゲームの世界地図を見ながら地図の埋まり具合と街の位置を確認する。
第二の街のマスドレイクと第三の街のフルールは地図上ではそこまで離れていないけれど、山に隔てられているようだ。
ファストラックとマスドレイクも山を挟んでいたのを考えるとこの世界の主要な街はどこも立地が悪い気がする。いや、気のせいではないだろう。これに何かしらの理由付けが有れば面白いのだけれど。
さて、道中がいくらやることが無いとは言え、考え事に夢中になって魔物にぶつかって先制攻撃を取られたなんてことがあったら笑い話にもならない。
とはいっても《警戒》マップには何も映っていないから余程特殊な敵でもない限りそんなことは無いと思うけれど。
「そろそろMPが半分を切るわね、……っと」
MP残量が気になり始めたので《飛行》を解除。スキルレベルが上がったことでMP消費量も減っては来たけれど、MPを全部使うとしても30分は持たないくらいだ。やはり燃費は良くない。
一時の高速移動や上空からの奇襲や魔術、崖などを渡るのには大丈夫そうだが、どうあっても普段使いには出来そうにない。空中散歩とかしてみたいのだけれど、残念だわ。
「こんな街道外れの草原だと何も無いわね。あの森も仲間を呼び合う魔物がいるってだけで特に変わったような感じはしなかったし」
一息ついて、周りに魔物が居ないことを確認してから仰向けに寝ころぶ。
「知らない星の並びだわ。これで本と紅茶でもあれば良いのだけれど。こっちだと揃えるのは大変そうね」
これと言ったやりたいことも思い浮かばなくなったが、ログアウトする気にもならないし、街に戻るのも無駄足になるだけなので、星空を見るのもいいだろう。
「前にもこうやって星を見たわね……、イベントの時だったかしら?まあいいか」
こんなところに寝転んでいるのを他のプレイヤーに見られたら何をしに街の外に来ているのか不思議に思われそうだけれど、目先の目的が思い浮かばないのだから仕方が無い。
この手の種類のゲームを色々プレイしている人なら暇になることなんてないのだろうけど。ユズ然りサクラ姉ぇ然り。やることの尽きない2人が羨ましい。
「生産も戦闘も色々取るとやりたいことが多すぎてパンクするわねー……、はぁ……」
「よいしょっと」
暫くして体を起こす。どれくらい経ったかは知らないけれど、魔物が来なかったのは少し不思議なところだ。草原は魔物の発生率が低いのかしら。
時間には余裕があるので、引き続き足を進める。マップにぽつぽつと赤い点が見られるようになり、そっちの方を見てみるが魔物らしき物の姿はない。いつだったか戦った奴は動きが速くて見えなかったが、今度のは擬態して見えないのだろうか。
「マップ通りだとこの辺だけれど……、……なるほど」
私が近付く間も動くことのない敵の反応に、すぐ隣に居るくらいの近さまで寄るとそれが見えた。
良く見なければわからないが、毒々しい見た目の蕾のようなものがその場に生えている。意志のような者は持っていないようではあるけれど、《警戒》に反応するくらいなのだから何かしらの攻撃手段のようなものは持っているのだろう。
まあ草食系の動物ならともかく、人にはほぼ無害だと考えてよさそうだ。……それなら魔物を感知するはずの《警戒》に反応する理由が分からないけれど。育つと動き出すのだろうか。念のため踏みつぶしながら進もう。
「あ、《蹴り》のレベル上がった」
不気味な蕾を幾つか踏みつぶしていると、唐突に《蹴り》のレベルが上がる。一応魔物として分類されているものを足による攻撃で倒したことで《蹴り》だと判断されたのだろうか。
そう大きな物ではないが、思わぬ収穫に満足したので今日はもうログアウトしてもいいだろう。進むにつれて蕾の数は増えているので、明日はこの植物の群生地の更に先に行こう。




