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第72輪

自身のプレイヤースキルの事を課題にしながらも、戦闘をほっぽって生産スキルを上げることに忙しくなること1週間。始まった当初は暇な時間が多くなるだろうと思っていた夏休みも既に8月の下旬に入ったことで気分的に余裕がなくなる。


「あ、お姉ちゃん」

「今日はファストラックに居るのね。いつもはもっと遠くに居るじゃない」


 そろそろ生産を上げるのを止め、戦闘の方に力を入れようかと思いながらも、その前に1回くらい露店を開いても良いだろうと考え、適当な場所でポーション類と、量産品のため質は悪いが安く売っている〈グレイベア〉素材の帽子を並べている。


 《鍛冶》スキル関連の物は売りものにならないレベルでまだ未熟なので並べていない。最近漸く切れるナイフが作れるようになったところだ。


 と、言ったところで最近は第三の街付近で活動をしていると常々報告してくるユズが珍しく第一の街であるファストラックに居るのだ。


「また金策練ってるの?」

「いや、鞄の枠をポーションばかりで埋めてるのもなんだから少しくらい放出しようかと」

「ふーん。で、効果はどのくらい?」

「評価は3だけど、4に少し傾いてるからだいたい12%くらい高いんじゃない?」


 《薬師》レベルとその他の技能値、それから使った素材の品質と製作過程の処理の丁寧さなど、その辺りが道具の効果に響いてくる。また、武器や防具を作った時も同様だ。


 ポーション類も量産のため多少効果は落ちているが、それでも店売りの物よりは高い。理由は《薬師》レベルが少々高めだからだ。


「むむむ……」

「何よ」

「安いのは良いけど、効果が低めだから買おうかどうかで迷ってる」

「……1番生産に力入れている人でどの程度?」

「今最高が評価7で効果が普通のより38%高いよ。値段はそれなりに高いけどハイポーションには届いてない」


 サクラ姉ぇというマジックユーザーで1、2を争うようなプレイヤーを見ているからか、思ったよりも低い数値にそんな物かとすこし意外だった。


 ハイポーションはポーションよりも効果が高いが、値段も結構するので一部のプレイヤーを除いて出回っているのはポーションだ。なお数値としては出てこないが、HPもMPもスキルの総合レベルで変化する。要望が多ければそのうち数値化するだろう。


「それで、何をしにこんなところまで?」

「特に意味は無いけど、皆他のことやっててログインしてこないし、第四の街に行くための依頼が達成できてなくて1人じゃ攻略もできないから、散歩?」

「……こんなこと言うのも無粋だと分かっているけれど、ユズ、宿題終わってるのかしら?」

「一応大丈夫、うん。あと丸付けするだけだし」

「それなら良いけどね」


 まあ、要するに暇だったようだ。


「お姉ちゃんはこの後どうするの?」

「私はもう少ししたら店を閉めて適当にレベル上げに行くわ」


 露店を開くときには場所代が勝手に引かれるのでいつまでもここで店ばっか開いてても稼ぎにはあまりならないし。


「それならそろそろ第三の街行こうよ」

「また突然ね。他のメンバーが来るまで私のグランドクエスト進めて時間潰し?」

「そんな感じ。皆少し時間がかかるって言ってたから丁度良いかなって」


 まあ明確にこれをするって言うのも無かったからこちらとしても丁度いいと言えば丁度いい。ここ最近は帽子の素材になった〈グレイベア〉ばかりと戦っていたので、飽き始めていたところだ。それに、私の装備用の素材も新しい魔物から確保しておきたいところである。


「まあ私も暇になる所だったから、せっかくだから行きましょうか」

「やった!」


 ユズが小さく跳びはねて喜んでいる間に店を片付け始める。最近は布広げてそこに商品を並べるのではなく、屋台のような物を借りているので片付けるのが少し手間だ。


「さて、じゃあ行こうかしらね。案内宜しく」

「はーい」


 露店を片付けると案内をユズに任せる。その後当然と言えばその通りだが、第二の街マスドレイクに移動する。


「……街からは出ないの?」

「うん。街の中に第三の街と繋がってるダンジョンの入口が有るから」

「……」


 街の中にダンジョンの入り口なんかあったら魔物があふれてきそうなものだけれど、大丈夫なのかしら。


「で、ダンジョン内の幽霊退治の依頼を受けるとダンジョンの入口を教えてもらえる。依頼を受けると報酬を貰う為に1回こっちに戻って来ないといけなくなるから、今回は依頼は受けないで行くよ」

「今回の私みたいに依頼を受けずに行った人は居るの?」

「ダンジョンの入り口が攻略サイトに乗ってるから半分くらいは依頼を受けずに行ってるんじゃないかな。報酬も1000Gだけだし」

「あ、そう」


 依頼を受けないと本来入れないわけでもなさそうだし、反則でもないならわざわざ受けに行く必要もなさそうだ。


「それで、その入り口は?」

「ここの井戸」

「えっ」


 マスドレイクに着いても移動もせず、本来のダンジョンの発見方法を語り始めたと思ったら、ワープして出てくるところのすぐそばにある井戸が入口らしい。


「……どうやって降りるの?」

「飛び降りるよ。よいしょ」

「飛び降りるのは良いけど、何で肩車してるのよ」

「この下、水だよ?」

「……離さないでね?」


 急に鎧を脱ぎ、私のことを肩車したユズに理由を聞くと恐ろしい答えが返ってきた。種族的に水が弱点属性なので今回ユズと一緒に攻略せず、自力で行こうとして居れば井戸を飛び降りた後にパニックになっていたかもしれない。そうでなければ《飛行》でも使っていただろうか。


「とぉう!」


 やはり自分で飛ぶべきだっただろうかと体が浮く様な感じを受けながら後悔をする。この浮遊感が苦手なのだ。


 数秒落下すると水の中に落ちる。ユズが着水すると同時に《飛行》を使って奥へ続く道が見える地面に着地すると、それを同じくらいにユズが泳いでくる。


「飛べるなら初めからそうすれば良かったね」

「私もさっき落ちてる時に思い出したわ。ここ最近《飛行》なんて使わなかったし」


 《飛行》のことについて話している間にユズが鎧を着終えたようだ。相変わらずのライトアーマーだが、使われている素材は一応ランクが上がっているのだろう。


「ここから先はゴースト系の魔物が出るから光属性の攻撃か魔術じゃないとダメージが通らないよ」

「それなら大丈夫そうね」

「まあね」


 私もユズも魔術を取っているのでゴースト系の魔物は問題なさそうだ。


「あと、依頼受けてないからボスも出ないよ」

「あ、そう」


 苦労してボスを倒して進んだ人には申し訳ないけれど、ボスが出ないとのことなので私は楽をさせてもらう。今度1人で戦いに来よう。


「あと、基本的にここ水路だから道は単純だよ。階段もないし少し道が入り組んでいるところもあるけど、分かれ道で行き止まりになってるとかその程度だし」


 迷わずに直進していくユズに不安を覚えながらそのあとをついて歩いていると唐突にユズが口を開く。確かに方向音痴のユズが自信を持って進むならそうなのだろう。


「《フレア》!」

「《ダークボール》!」


 時々通路の奥からやってくるゴーストを魔術で倒す。落とす素材は触るとひんやりとしていて少し気味が悪い。


「あ、着いた」

「え、もう?」

「いや、街じゃなくって、本当ならボスの出るところ。ほら」


 ユズの背中で見えなかったのが、ユズが一歩横に退いたことでその場所が見えるようになった。


 ボス戦を繰り広げるだけあってか、かなり広い空間が設けられている。その中央に湖があり、原理は分からないが薄く光を放ち、この地下空間を青白く照らしている。


「綺麗だよねー。皆でボス倒した後はここでご飯食べたんだよ」

「そう。確かにここなら落ち着いて居られそうだものね」


 湖の水を確保しながらユズの言葉に返答する。ここの水を使えばもう少し高い評価のポーション類が作れそうだ。とは言ってもそろそろポーションやマナポーションなどのランクの低いアイテムでは《薬師》レベルが上がらなくなってきているのだが。


「じゃあ、すぐそこがもう出口だから」

「……1時間もかからなかったわね」

「ボスと戦わなかったからね」

「なんか複雑な気分だわ」

「あはは……」


 出口となる階段を坂を登ると外に出た。洞窟のような所から出て切れたようだ。


「もう見えてると思うけど、あそこが第三の街だよ」

「短い冒険だったわ」


 思いのほか短かった地下通路を残念に思いながら第三の街に向かって歩を進める。外からの見た目は他の街とはそこまで変わらないが、ちらほら大きめの建物が見える。利用する機会があるかどうかは別だけれど。


【ようこそ第三の街『フルール』へ。この先も良いWWOライフを】


「……最初に新しい街へ辿り着いたときとはえらい違いね」

「まあ、その辺りはねぇ。新しい街に誰かが辿り着いた時のインフォメーションもログインしてないと見れないし」

「所々不親切よね、このゲーム」


 マスドレイクにたどり着いた時のインフォメーションは全プレイヤーを誘導したり、宣伝のためもあってか大々的なメッセージが流れたが、新しい場所でなければそうでもないようだ。


「じゃあ私は後は自由にさせてもらうわ。今回はありがとう」

「……何か照れる」


 顔を少し赤くして頬を掻くユズを見るとこっちもすこし恥ずかしくなってくるので、逃げるようにその場を後にする。さて、この後は何をしようか。

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