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第7輪

 女王蜂、〈クイーンビー〉を相手に《威圧》はまず通用しないようだ。MPの消費を抑えるためにも発動を止める。それと同時、こちらのことを敵と認識したのか、羽を細かく振動させ、衝撃波を飛ばしてくる。ソニックブームといったところだろう。数はそこまで多くないのでよく見れば回避は可能だ。


「ユズ、サクラ姉ぇ」

「大丈夫、見えてるわ」

「こっちも!」


 ソニックブームとは別に激しく風も吹いているので、飛び道具は意味をなさないだろう。動きも少し阻害されている。私は使わないから良いが、火や水の魔術は風に散らされてしまうだろう。ついでに言うと、狭い洞窟内だと言うのに〈クイーンビー〉は飛んでいるので物理の攻撃は実質的に不可能となる。


「困ったわね、魔術くらいしか打つ手がないわ…」

「モミジお姉ちゃん、《飛行》じゃだめなの?」

「空中戦はやったことが無いから駄目ね。こういうことはいきなり本番で行けるようなものじゃないのよ。それに空中はバランスの取り方が難しいの。できて相手の上を陣取って《飛行》を解除してそのまま落ちる勢いに任せて叩き斬るとかね」

『チチチチチ…』

「また蝙蝠が居るわね…鬱陶しいわ」

「サクラお姉ちゃん、気にしてる場合じゃないよ」

「突進来るわよ!」


 3メートルほど宙に浮いたところから降下の速さを上乗せして突っ込んでくる。普通の蜂とは速さが比べものにならないわね。私は横に跳び、ユズ達は伏せることでこれを回避、ユズは剣を上に突き立ててダメージをあたえようとしたみたいだけれど、HPバーが減った様子はない。


「硬い上にHPが多いの勘弁願いたいわ…」

「方向転換してこっちに来てるわよ!」

「《スラッ…」

「ユズ!ストップ」

「わあ!」


 続けての低空飛行からの突撃に対してユズがアーツで迎え撃とうとするが、向こうのほうが速く、発動が間に合わず吹き飛ばされる。


「全く、だからストップって言ったのに、《ライトヒール》」

「痛たた…ありがとう」

「ユズ」

「何?モミジお姉ちゃん」

「今聞くことでもないけれど、このゲームって痛覚とかどうなっているの?」

「痛覚は結構抑えられてるよ。それでも痛い人には痛いけど。首折って死んだ時とかは…」

「やめて!」

「ああ、そういえばサクラお姉ちゃん、ここの崖から落ちたことあるんだっけ」

「まあいいわ。そろそろ次の攻撃が来るわよ」


 〈クイーンビー〉のほうを見据えると針をこちらに構えている。となれば…


「うわ、霧!?これ色からして毒だよね」


 紫色の霧を噴き出してくる。吸うか当たるかすれば毒の状態異常になってしまうだろう。


「サクラ姉ぇ、風の魔術」

「向こうに吹き飛ばせばいいのね。《エアロ》!」


 サクラ姉ぇの構えた右手から人が吹き飛ばせそうな風が吹く。それに流されて毒の霧は〈クイーンビー〉のほうに行く。とは言っても自滅するなんてことはまずないだろうけれど。そろそろ私も攻撃に移ろうかしら。


「《ダークネス》!《飛行》!」


 〈クイーンビー〉に向かって走りながら《ダークネス》を唱える。それを目くらましに飛行で頭上まで飛び、同時に大剣を取り出し、


「《ハイスラッシュ》!」


 大剣の第3アーツ、《ハイスラッシュ》で上から下まで叩き斬る。ユズのすれ違いざまの一撃と比べるのは悪いけれど、HPを少しは削れたみたいね。それにしてもHPどのくらいあるのかしら。


「結構派手な動きするわね、モミジ」

「生かせるものは生かさないと。流石に状態異常にはなってくれないみたいだけれど」

「モミジお姉ちゃんがアーツ使ってあのダメージかぁ…私たちじゃダメージあたえられないんじゃないかな…」

「羽をもいで風を出せ無くなったところに火の魔法叩き込めば良いんじゃないかしら?」

「その羽だってモミジお姉ちゃんじゃないと狙えないじゃん」

「すれ違いざまならユズでもチャンスあるでしょう」

「私の風の魔術でも狙えないことはないわよ」

「なら、まずは羽を切り落とすのが優先事項ね」


 それだけ言うと私は〈クイーンビー〉の後ろに回り込む。常に飛んでいるので下をくぐり抜けるのは簡単だ。後ろに陣取った私に攻撃するべくこちらを向こうとするが、サクラ姉ぇの攻撃でそれを阻まれる。攻撃をされたことに怒りを覚えたのか、そちらにむかって急降下から突撃していくがユズが素早く立ち回りアーツを放つ。クリーンヒットとまではいかないが、羽を傷つけることに成功したようだ。〈クイーンビー〉の動きを遅くするまでには至らないが、確実にダメージをあたえることが大切だと思っている。


 全員が射程範囲に入ったからか、2度目の毒の霧の体制に入るがこの時、羽は横に広げることになる。それを見逃すようなまねはしない。私は一気に駆け出し、サクラ姉ぇは風の魔術だろう、刃を生み出している。羽は見た目に反して硬いらしく、直撃しても切断出来ていない。それを確認しながら十分に近づいた私は《飛行》で羽のところまで飛び《ハイスラッシュ》で斬る。うっすらとだが、傷が出来たのを確認した。


 このままだと羽を狙われ続けると判断したのか、毒の霧を出さずに上昇していく〈クイーンビー〉。最初にやってきたソニックブームで距離を取るつもりだろう。


「最初のあれが来るわよ」

「大丈夫、1度見切って…!?」

「さっきより数が…きゃっ!」

「サクラお姉ちゃん!」

「ユズ!前!」

「え?きゃあ!」

「ああもう、鬱陶しいわね!風も最初より強いせいで下手に跳んで避けるわけにもいかないし…」


 最初と比べると2倍近くになったソニックブームで戸惑ったのか、サクラ姉ぇが腕に、ユズが足に直撃を受けてしまった。私は剣ではじいてるから問題ないけれど、数が多いとスタミナの問題で押し切られかねないわね。


「《ライトヒール・サークル》!」


 魔法陣が広がり、2人をその射程に入れたところで《ライトヒール》が発動する。ソニックブームは続けて襲ってくるが、何もしないよりは動けるようになるだろう。


「モミジ!」

「何?サクラ姉ぇ」

「一瞬でいいから相手に隙作れないかしら?」

「大丈夫よ。でもなんで?」

「魔術を唱える時間がほしいのよ」

「わかったわ、《ダークネス》!」


 《ダークネス》などの範囲攻撃系の魔術の利点として、発動場所を指定できるというのがある。もちろん制限はあるものの、レベルが上がれば指定できる場所も広く、そして遠くを指定できる。だからこそこういう動けないときに便利なのだ。《ダークネス》を頭の部分に喰らった〈クイーンビー〉はダメージで一瞬怯む。たったこれだけの時間で大丈夫かとも思ったが問題はないようだった。


「少し下がりなさい!」

「分かったわ!」

「了解!」

「いくわよ!《サイクロン》!!」


 サクラ姉ぇの唱えた《サイクロン》は《エアロ》の範囲を広く、それでいて威力を数倍に上げたような感じだった。そこかしこに暴風が吹き荒れ、〈クイーンビー〉が巻き込まれる。羽の破片がチラチラ舞っているが恐らくこの程度では飛行能力を奪うには足りないだろう。HPはそれなりに削れているようだけれど。


「これで少しは傷をつけられたかしら?」

「だと良いけどねー…」

「現実は非情なのよ」


 欠けた羽は3人で若干傷をつけた一枚だけだった。予想はしていたけれど、ここまで予想通りだとなえてくるわね。何か大きくHPを削れる技はなかったかしら…ないわね。


「少し突っ込んでくるわ、回復は宜しくね、ユズ」

「え、ちょっと待って!」


 ユズの制止を振り切り、〈クイーンビー〉の方へ駆け出し、《飛行》で頭上まで飛ぶ。が今度は斬るわけではない。〈クイーンビー〉の背中に乗り、羽に捕まる。そして、


「《ダークニードル・サークル》!」


 そのまま《サークル》で範囲強化をした、《ダークニードル》を撃つ。実験段階と同じなら私と同じ高さの座標に魔法陣が広がり底から《ダークニードル》突き出すと踏んだのだ。予想は当たったようで、魔法陣の広がったところから不規則に《ダークニードル》が突き出す。〈クイーンビー〉に次々と突き刺さる《ダークニードル》は表面の硬い装甲を貫いている。と言うより、地面で使っていたからわからなかったけれど、魔法陣の上と下両方に魔術が出るのね。


「そろそろおりないと拙いわね。」


 そう呟き、ユズ達の前に降りる。サクラ姉ぇは何やら呆れた顔をしている。


「モミジ、あなたね…」

「いきなり突っ込んでいくからビックリしたよ…、お姉ちゃん人のこと言えないよ?」

「そう?でも、体力を奪えたはずだから少しは楽になると思うわよ」

「そうね、風は少し弱まったし、弱点の火が使えそうね」

「まだ早いと思うけれど?」

「範囲魔術なら問題ないわよ」

「ならいいけれど、危なくなったら避けることを優先しなさい」

「私を誰だと思ってるのかしら。伊達に廃人やってないわ。」

「自慢になってるのかな?」

「さあね、そんなことより向こうは怒り心頭みたいね」


 〈クイーンビー〉はカチカチと音を鳴らし、羽を煩く振動させている。残りのHPは8割ほどだ。


「サクラ姉ぇ、わかってると思うけど、羽を狙うのよ」

「当然ね。地に落ちたらボコボコにしてやるわ」

「それにしても、某モンスターをハントするゲームだったらいつまで破壊に手間取ってんだ、って話だよね」

「仕方ないわ、相手が硬いんだもの」

「それよりも、なんで格上の相手に挑んでるんだ、ってなりそうだけれど?」

「まあ、それはそれとして、ユズ、ゴー」

「アイアイサー!」


 随分強引に話をぶった切ったわね。それと、サクラ姉ぇは女だからアイアイマムが正しかったはず。後でちゃんと教えておかないといけないわね。


「ところで、ユズを突っ込ませてなにをするつもりかしら」

「時間稼ぎ」

「サクラ姉ぇなら必要ないでしょ」

「狙いを正確につけるために場所を考えたりしないといけないのよ」

「結構不便なのね」

「巻き込まれてもいいなら普通に撃つわよ?」

「ちゃんと狙って頂戴」


 この会話の間にもユズは跳びあがっては斬りつけたり、壁を走って登って斬りつけたりとアクション映画並みの身のこなしを決めている。」


「さて、この辺かしらね」


 いつの間にか移動していたサクラ姉ぇが呟いているのが聞こえる。そして何やら眼を瞑って集中しているようだ。数秒それが続くと、


「ユズ!離れなさい!モミジもよ!」

「分かった!」

「随分といきなり言うわね」


 そして、こっちが十分な距離を取ったと確認するなり、


「《フレアバーン》!!」


 突如巨大な火柱が上がり、〈クイーンビー〉を包み込む。その炎は離れているにもかかわらずとてつもない熱を感じさせる。時々飛んでくる火の粉が危ない。もちろん、狭い洞窟内で撃ったため、天井にもその火は届き、天井の岩を溶かしている。


「派手にやるじゃねえか!」

「これから毎日蜂を焼こうぜ?」

「何コントしてるのよ…」


 二人がコントを始めたあたりで風を切る音とともにサクラ姉ぇに向かって巨大な影が直進する。


「サクラ姉ぇ、危ない!」

「あ、やば…」

「くぅっ!」


 とっさにサクラ姉ぇの前に立ちふさがり大剣を盾にするようにして構える、がバキン、と嫌な音とともに剣が折れる。それでも〈クイーンビー〉の勢いは収まらず、


「ぐぁ、う…えぇ…」

「モミジ!!」

「モミジお姉ちゃん!?」


 腹に何かがささる気持ち悪い感覚と同時にサクラ姉ぇとユズの悲鳴にも似た叫びが耳に届く。目の前には〈クイーンビー〉の姿があり、腹部にはその針が深々と刺さっり〈クイーンビー〉の腹が脈打っている。〈クイーンビー〉の腹が脈を打つ度に体が揺れ、腹部に悪寒が広がり、服に毒と思われる紫色の染みを作りながら、毒液が体と針の隙間から滴り落ちる。それが5秒ほど続くと〈クイーンビー〉は針を抜き、駄目押しとでもいうかのように力が入らず崩れ落ちる私の体に後ろに跳びながら毒液をかける。


「う…あ……ぁ」

「モミジ、しっかりしなさい!」

「お姉ちゃん、モミジお姉ちゃん!」


 気持ち悪い。視界は霞みながら小刻みに揺れている。全身が鉛になったかのように体が重く、腹部と背中からどんどん悪寒が広がっていく。それは次第に焼けるような痛みに変わる。体の中に火を放たれているかのように感じ、しかし、それとは逆に体はどんどん冷たくなっていく感覚がある。そして、徐々に目の前が黒く染まっていく。





 全身の感覚が消え始めた時、不意に温かいものが体を包む。するとさっきまでほんの数瞬前まで動かなかった腕が、足が、動く。一体何が起きたのだろうと、いつの間にか閉じていた眼を開ける。


「…何?これ」

「モミジ、大丈夫?」

「どうなってるの?これ」

「私にもわからないわ…」


 自分の体を確認すると、蝙蝠が私の体にひっついている。歯をつきたてているが、その部分から悪寒が抜けて行くので放っておいても大丈夫だろう。立ち上がろうとすると蝙蝠が肩にくっついて小さな翼をはばたかせて立ち上がるのを手伝ってくれる。


「味方とみて良いのかしら?」

「分からないわ。やろうと思ったことを勝手に手伝ってくれるだけだもの。ところで〈クイーンビー〉は?」

「ああ、それならほら。地面を歩いて近づいてくるせいでものすごく移動が遅いから大丈夫」

「それにしても危なかったね」

「誰のせいだと思っているのよ」

「ごめんなさい」「ごめん」


 呆れた顔で二人を見るとほぼ同時のタイミングで謝ってくる。HPは1割程度まで減っていたはずなのにもう5割以上回復している。《自然回復向上》の効果だけではない気がするわね。もしかしたら蝙蝠が回復の魔術をつかったのかもしれないけれど、流石にないわよね…。


「で、もう大丈夫なのね?」

「普通に動けるわ」

「なら攻撃に参加してほしいけど…」

「剣はこの通り真っ二つよ」


 そこまで言うと私の手に蝙蝠がまとわりつく。何がしたいのかよくわからない、自由な小動物だ。


「何をしろって言うのかしら」

「自分たちを使えって言ってるんじゃない?」

「仮にそうだとしてもどう使えっていうのよ」

「うーん…手を〈クイーンビー〉に向けてみたら?」


 言われたとおりに〈クイーンビー〉に向かって手を広げたまま突き出す。すると、やった!仕事だ!とでも言っているかのようにすごい勢いで手にまとわりついていた蝙蝠が突っ込んでゆく。〈クイーンビー〉のHPが減っているところをみると噛みつくか何かしているのだろう。そして、さっきの私と同じように噛みついたまま離れない。HPは減り続けているので体液か何かを吸っているのだろう。吸血蝙蝠かしらね。翼で仲間認定されたのかしら、何か不思議な感じがする。


「わー…、モミジお姉ちゃんすごい」

「なかなかの戦力ね…いつも使えると助かるのだけどね」

「そんな簡単にできたら苦労しないでしょうね」


 蝙蝠はどこからともなく現れては〈クイーンビー〉に取り付いてゆく。そのたびにHPバーの減少が早くなってゆく。全部任せても大丈夫なんじゃないかしら、これ。しかし、確実にこちらに近づいてきているのも事実だ。もちろん離れるけれど。


 そんな感じで約1分ほど追いかけっこを続けると〈クイーンビー〉は謎の黒い物体Xになっていて気持ち悪い。HPは残り2割ほどまで減っていた。


「モミジお姉ちゃん、流石にこのまま蝙蝠にとどめ持っていかれたら納得いかないんだけど…」

「そうね、こっちに戻そうかしら」

「そうするべきね、あれは見てて色々と…」

「えっと、こうすれば戻ってくるかしら」


 といって手を自分の方に向かって仰ぐように動かす。するとブワッという効果音をつけたくなる位に噛みついたままだった蝙蝠が飛び立つ。〈クイーンビー〉に噛みついているのが居なくなるのを確認してからサクラ姉ぇがまた《フレアバーン》を唱える。HPは残りわずかだ。ユズが〈クイーンビー〉の後ろに回り込み剣を踊るように振う。そして、


「これで、とどめ!」


 最後に大きく頭上からまた下にかけて剣を振りおろし、とどめを刺した。これだけの巨体が消えて行くのには多少の時間がかかっている。それを眺めながら座り込む。


「やっと倒したわね」

「私はユズ達のせいで死にかけたけれどね」

「最後にこの巣壊さないと先に進めないよ」

「じゃあ、私がやっとくからモミジ達は休んでて」

「はーい」


 サクラ姉ぇが巣に火をつけると瞬く間に広がっていき、10分ほどすると燃え尽きた。その奥には出口が見える。それを確認したのかユズが騒いでいるが、こちらとしては散々な目に遭った。何か色々と納得がいかないわね…。

毒の気持ち悪さがまだ抜けきっていないわ…。


「ほら、モミジおぶってあげるわ」

「子供扱いしないで、と言いたいところだけれどお願いするわ」

「よほど疲れてるのね。翼も結構くにゃんくにゃんね」

「さわらないでって、くすぐったいんだから」

「それにしても肌触りいいわね」

「え?本当?私もー」

「ああもう、わかったわ。その代わり次の街までおぶって行ってね」

「それくらいなら大歓迎ね」

「じゃあ、よろしく」






「モミジ、起きなさい」

「…むに?」

「全く、寝落ちとか良い迷惑ね」

「まあほら、私たちのせいで大けがしたから…」

「寝てたの?私」

「ええ、ぐっすりと。しかも私の背中の上で」

「悪かったわね…リアルの時間帯だと昼寝時だったのよ」

「まあいいけどね。寝顔のスクショいただきました」

「保存しておくだけならまだいいけれど、ネット上に撒いたら承知しないわよ」

「はいはい、ほら、さっさと降りて」

「ん」


 まだ眠気が残っているけれど、これ以上は迷惑をかけてしまうので自分の足で立つ。それにしてもあれだけの感覚とか眠気とか本当に凝ってるわね…


「で、ついたわよ」

「どこに?」

「決まってるじゃん、私たちが一番乗り!新しい街だよ!」

「…なんか実感わかないわね」

「じゃあ早速ポータル登録しましょうか」

「何それ」

「えっとね、ポータル登録っていうのは…」


 モミジの説明をまとめると以下の通りだ。


 ポータル登録をするとわざわざ移動しなくても街の中に居れば、登録した街に自由に転移できるようになるシステムだ。現在正式版にはないが、これはギルド内でも有効で、ギルドの誰かが他の街に行けばそのギルドのメンバーは全員移動が可能になる、とのこと。


「まあ概ねそんな感じね」

「概ね、って事は他にもあるのね?」

「拠点に別の街で手に入れた物を輸送したり、とか色々あるけど、今は関係ないでしょう?」

「そうね」

「じゃあ登録しよっか、せーの」


 3人で同時に登録を完了する。すると急にメニューが開いてインフォメーションが流れ始める。


【ゲームをプレイ中の皆様にお知らせします。現時点を持って、第二の街『マスドレイク』に3人、1パーティが到着いたしました。この街が解放されたことによりPVPシステムが解放されます。また、『マスドレイク』は第一の街『ファストラック』西門側の山を越えたところに位置しています。力を合わせて辿り着けるようこれからもWWOをどうぞお楽しみください。】


「…もしかして」

「次の町に進むのってグランドクエストなのね」

「道理で難易度おかしいと思ったよ…」

「そもそも、βをやった二人は何でこれがグランドクエストだってわからなかったのかしら?」

「色々違うところがあったから次の街に行くのは普通のダンジョン攻略だと思ってたのよ」

「そうそう」

「まあいいわ」

「じゃあ、一旦ログアウトしましょうか」

「そうだね、またあとで12時30分ね」

「私は剣が折れたからこの街で買うことにするわ」

「ふーん」

「私の武器の代金は二人で払って頂戴ね。」

「自分で払ってよ、そのくらい」

「誰のせいで折れたと思っているのかしら」

「…しかたないわね、ユズ、二人で払えばそこまで大きな出費でもないわ」

「そうだね…」

「それと、武器買ったら私は最初の町に戻って生産活動するから」

「そうなの?せっかくここも色々攻略してみようと思ったのに」

「攻略は勝手にやって頂戴。少なくとも夜まで戦闘は無理だわ」

「…仕方ないわね、じゃあ、またあとで」

「はーい」


 そう約束をしてログアウト。現在時刻は11時22分。少し休まないといけないわね、時間的には早いけれど昼食済ませようかしら。

虫って人間サイズになるとものすごく怖いんですよね。黒光りしてカサカサする奴なんかはいきなり時速何十キロと言う速さで走りだすんですから。


 1時間後に(ものすごく短いですが)掲示板回を投稿します。

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