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第70輪

 そろそろ夕飯の時間なのでログアウト。繰り返しの作業や地味な作業が嫌いなわけではないけれど、今の私には職人の思考は理解できないらしい。好きなものに没頭できる人が行きつくところまで行くとああなるのか。


「あ、お姉ちゃん、今呼びに来たところだよ」

「ん」

「……何か疲れきってない?」

「そう見える?」

「うん」


 柚子にすら見破られるほど延々と続く様なナイフ作りは堪えていたようだ。慣れない作業が疲れるのは仕方ないことかもしれないが、まさかここまでとは思っていなかった。


「何か失礼な事考えてない?」

「そんなことはないわよ?ただそんな見て分かるほどとは思わなかっただけで」

「なーんかスッキリしない……」


 不満げな柚子の後に続いて私も階段を下りて夕食を済ませに行く。夕食後のログインはどうしようかしら。










 やることは決まっていないけれど、一応ログイン。ログアウトは鍛冶場から出て近くの広場でしたのでそこから再開だ。


「流石にあれだけやればレベルも上がるわよね……」


 インゴットを作った後は何故かハイになりかけていた親方に簡単だから、すぐ終わるからと言われながらマンツーマンでナイフを打たされ続けた。


 使いものにならない物は溶かしてもう1回使うのを繰り返しながら最終的に出来あがったナイフは3本。だが、《鍛冶》スキルはLV12になっている。レベルに対してやっていた作業が高度なものだったと言うことだろうか。


 今日はもう鍛冶はやらなくてもいいだろう。親方の指導が厳しいと言う訳ではないけれど、弟子の腕前(レベル)が上がるのを見ると嬉しくなって張り切るような人だとナイフを作り終わった後に近くにいたプレイヤーから聞いたのだ。次はそれなりの時間を空けてから行かないと倍以上の時間拘束されそうだ。


 鍛冶場に行ったのは初めてだったけれど、思ったよりも生産活動に勤しんでいるプレイヤーが多かったのが意外と言うか何と言うか。


 初期は武器でも何でもNPCから買えていたのでプレイヤーの生産意欲はほぼ0のようなものだったが、この調子なら何時の日か生産プレイヤーが日の目を見る日も来るだろう。実際、サクラ姉ぇのギルドにはそれなりのレベルの職人が居るようだし。


 私も外でポーション作っているときに声をかけられた事が有ったわね。職人は職人のコミュニティとか有りそうだけれど、そういうところって入り辛いのよね。それなりに時間は経っているけれど悪目立ちしたこともあったし。さっきみたいな作業服なら何とかなるかしら。


 さて、生産については少し置いておくことにして、これから何をしようかかなり迷う。ただ何となくログインしただけなのでやることも全く決まっていない。第三の街も早めに見つけておきたいところではあるけれど、何か金策を考えるのもいい。ユズとサクラ姉ぇに比べるとどうしても所持金は少ないから、必要な物があっても、そうほいほい買うことが出来ない。


 かといって急を要するほど切迫しているわけでもないので今日のところはマスドレイクあたりで適当に外を出歩く方針で行こう。











 と言う訳で、第二の街から移動して蜂のいるのとは別の、木々の生い茂っている山に来てみた。そもそも、第二の街はマップで見ると山に囲まれているような地形らしく、近くは山脈が多いようだ。


 なお、魔物の数は思ったより少ないけれど、居ないと言う訳でもない。けれど、ここまで来る途中で時間帯が夜のなったため、基本的に剣を一振りすれば片付いてしまう。


「この辺りも魔物も余り相手にならないわね。集団で襲って来られたら困るけれど」


 などと、呟いたとき足を何かに引っ掛ける。転ぶほど思い切り躓いたわけでもないので違和感を覚える程度だったけれど、何に引っ掛けてしまったのかを確認するよりも先に、どこからかけたたましい音が聞こえる。


 すると、《警戒》のミニマップに赤い点が次々と表示され、塊のような状態になる。恐らく今のは音で魔物や人の接近を知らせる為の罠だったのだろう。こんなところを警備する必要が有るほど重要な物はなさそうなので、罠を張ったのは盗賊か山賊か。どちらにせよまともな奴らではないだろう。


 警戒をしているのか、こちらに向かってくる気配は無いのでこのまま逃げることもできそうだ。今の時間帯なら多勢に無勢と言うこともないだろうけれど、だからと言って単騎で敵地に乗り込むのは無謀な気がするので、不審な集団が山に居ることを近くの街の役所に伝えに行くのが良いだろう。


「……ん、あれ?」


 そう思って踵を返し帰ろうと思ったのだが、足をもつれさせて転んでしまう。起き上がろうとするが体がだるい。似たようなことが前にもあったなと考えながらステータスを確認すると、案の定麻痺状態になっていた。


「これは、……まずいかしらね」


 そう呟くのと同時に人の足音が聞こえ、撒かれたガスのようなもののせいで意識を手放した。

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