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第6輪

「ずっと同じ景色と敵でつまんない!」

「文句言わない、ようやく中腹あたりまで来たんだから」

「今が夜で私だけなら飛んでいくのにね。そのままの意味で」


 などと雑談をしながら進んでいるのだが、やはりユズは変わらない景色を見るのは嫌いなようだ。山登りなんて大体そんなものなんだけれどね、頂上からあたりを見渡すのは別として。まぁ確かに1時間は登り続けていると言うのに、鉱石も見つからない上にこれと言って変わった敵も出てきていないのは確かに詰らないわね。今のところ出てきたのは最初に戦った〈ロックアント〉と、最初は転がって降りてきたから落石と勘違いした〈アルマジロック〉くらいだ。どちらにしても突進やらなんやらで突き落とそうとしてくるのがえげつないわね。


「っと、そろそろね。ここでとまって」

「どうしたの?」

「蜂…〈ジャイアントビー〉が群れで襲ってくるエリアよ」

「こんな中腹から襲ってくるのね。面倒だわ」

「うん、ものすごく面倒なの。だからこそ、走り抜けるのよ」

「ちょっと、サクラ姉ぇ、走り抜ける、とは言っても私の今のステータスは壊滅的なのよ?」

「じゃあ他に何か良い方法があるの?」

「夜になれば何とかならないこともないわ」

「じゃあ夜になるまで待つの?」

「それはそれでなんか嫌ね。時間がもったいないもの」

「サクラ姉ぇがこんな時間に来るとか言わなければどうにでもなったのよ」

「仕方が無いわね。ホラ、あそこにセーフティポイントあるからそこでログアウトしましょう。8時にログインしてきなさいよ」

「そういうなら最初から夜に来ればよかったじゃないの」

「だって」

「だってもなにもないわよ、サクラ姉ぇ達は夜でも普通のステータスで進めるでしょう?」

「モミジお姉ちゃん、その辺にしておきなよ」

「…そうね、振り回されすぎてイライラしていたのかもしれないわ」

「それにしても、あなたが私にここまで言ったのって久しぶりよね」

「そうかしら?」

「そうよ、例えば中学の体育祭の…」

「それ以上は言わないで!お願いだから!」


 サクラ姉ぇは事あるたびに思い出したくない事を掘り返してくる。ちなみにサクラ姉ぇが言っているのは、サクラ姉ぇが中学生の時の体育祭の時の話である。詳しくは思い出したくないから省くけれど。


 サクラ姉ぇが言ったセーフティーポイントは周りを多少気にしていないと気づかないような横穴の中にあり、そこは上が平らになった岩が6つ円形に並び、その中心に大きめの机のような岩が鎮座していた。見た目的には明らかに不自然なのだが、そこはゲームだから仕方が無いと割り切るしかないだろう。そして岩の上に座ってログアウト。ベットから起き上がり、VRギアを外し、とりあえず時計を見る。現在時刻は午前1時54分。寝る時間が6時間しかない。私としては少なくとも8時間はとりたいから0時にログアウトしているのだけれど。


 それにしても結構ハードな1日だったわね。午前中に洞窟に行って、まだよくわからない実を手に入れて、午後は街を行ったり来たりしながら裁縫と料理。その料理中でプレイヤーを呼びよせてみたり、ユージに色々頼みこまれたり…果てはゲーム内で朝に山に連れて行かれた揚句、中途半端なところで終わってみたり。考えたらきりがないわね。とっとと寝てしまおう。






 翌朝、夏の暑さに負けて目を覚ます。現在時刻は7時03分。本当なら二度寝したいところなのだけれど、8時にWWOにログインしろと桜姉ぇに言われているのでそういう訳にもかない。今日は食後のログインは控えようかしら。そんなことを考えているうちにも時間は容赦なく過ぎてゆく。早く朝食を済ませてしまおう。


 リビングへ向かうとそこには一人の女性がキッチンに向かって料理をしていた。


「おはよう、お母さん」

「あら、早いのね、紅葉。もうすぐ朝ごはん出来るから、柚子を起こしてきてくれるかしら」


 キッチンで料理をしているのは私の母親、優花(ゆうか)である。長めの髪をみつあみにして体の前に持ってきているのが特徴だろう。今は後ろを向いているため見えないが、20代でも通りそうな顔をしており、私が一番母さんに似た顔立ちをしている。そして後ろから1つ足音が聞こえてきて、


「ん、なんか良い匂いしてるな。寝室まで漂って来たぞ」

「おはよう、お父さん。2人とも今日は仕事休みなのね」

「おはよう、紅葉。今日も母さんに似てかわいいな。それと、今日はせっかく休みが取れたからな、母さんと二人でドライブだ」

「随分と若々しいこと言うわね。もうすぐ40のくせに」

「ははは、これは手厳しい」


 と色々と若さをアピールしようと発言をするのが父、丈一(じょういち)である。発言とは裏腹にその顔には長年生きてきた証拠の皺が少しだがある。それでも活発に動くせいで30代くらいに見られがちだが。髪が黒々としているのもその要因だろう。実際まだ30代だけれど。


「じゃあ、柚子起こしてくるから」

「それなら俺はテーブルクロスでも敷いておこうかな」

「よろしくね、お父さん」


 私はリビングからでて廊下を逆戻りだ。柚子は一体何を…て寝てるわよね。もともと結構寝起き悪いもの。起こすのも大変なのよね。


「柚子、起きなさい」


 扉をノックしながら声をかける。というか目覚ましも鳴りっぱなしだ。この騒音の中でよく寝ていられるわね…。2分ほど待ってみたが起きる気配が無い。


「入るわよ」


 そう言って扉を開けて中に入る。部屋くらいは女の子らしく整っているが、寝ている姿は色々残念だ。掛け布団は横を向き、腹の上に乗っていて、足がベッドの上から飛び出している。着替えずに寝たのかスカートをはいたままだ。そもそも何でスカートで寝られるのか私には疑問だが。そのスカートは腹にかかっている掛け布団の上にめくれあがり、白と橙のストライプで彩られた下着が丸見えだ。その上、口からはよだれが垂れている。学校ではそれなりに人気があるらしいが、これを見た男子は一体どんな反応をするだろうか。


「柚子、だらしない恰好してないで早く起きなさい」


 そう言って柚子の頭から枕を引き抜く。


「むぎゃ!?…あ!いま何時!?」

「7時08分」

「あー、良かった。で、何の用?」

「もうすぐ朝ごはん出来るから起こしにきたのよ」

「分かった、一緒に行こ」

「はいはい」


 柚子に半分服の裾を引っ張られながら廊下を歩く。


「私は顔洗ってくるから先に行って待ってなさい」

「はーい」


 時間にはまだ余裕があるので顔を洗ったり歯を磨いたりしてからリビングに戻る。すでに用意はできており3人とも椅子に座って待っていた。


「お姉ちゃん、早く早く!」

「そんなに急かさなくてもご飯は逃げないわよ」

「確かに逃げはしないけど、冷めちゃうのよねぇ」

「父さんは冷めていても母さんの料理なら美味しく食べられるぞ?」

「あら、じゃあ私のは美味しく食べられていないのかしら」

「そ、そんなことはないぞ?」

「ふーん?」


 眉を少し吊り上げて父さんの方を見る。明らかに動揺しているのがわかる。父さんは昔からこういういじり方に弱いのよね。


「そ、それよりも早く食べないと冷めちゃうぞ?」

「そうね、いただきます」

「いただきまーす!」

「いただきます」


 今日の朝食は食パンが2枚にベーコンエッグ。シンプルだが、母さんの得意料理でもある。時間がかからない割に美味しく作れるのが良いのだそうだ。まあ私よりも料理が上手いのは確かだから美味しくないわけがないのだけれど。私はまだ冷めても美味しく食べられる料理を作れるとは言い難い。…ゲーム内で料理の修行したらリアルにもそれが反映されれば良いのだけれど。実際はまだ分からないわね。


「ごちそうさま!」

「柚子、そんなに急いで食べてどうしたんだ?」

「お姉ちゃんと約束があるの、お姉ちゃんも早く!」

「まだ30分以上約束の時間まであるのだけど…」

「あら、皆そろってゲーム?柚子はともかく、紅葉もやってるなんて珍しいわね。」

「やらないと桜姉ぇが鬼の形相でこっちに押しかけてくるからね」

「あらあら、押しかけられたら大変ね。おかえりのご飯が準備出来ないもの」

「まだ向こうに行って2ヶ月くらいしか経ってないわよ?」

「たとえ2ヶ月でも娘の顔が見れないのはさびしいものさ」

「そう。こっちはゲーム内で毎日見てるけれど」

「ふふふ、ゲームが好きなのは変わらないのね。ちゃんと休憩は入れなきゃだめよ?」

「言われなくてもわかってるわよ」

「じゃあ、父さんたちはもう少ししたらドライブに行くからな。留守番任せたぞー」

「はいはい」


 それから他愛もないこと話しているうちに朝食を済ませて、皿を洗っているうちに約束の時間が迫ってきていた。留守番に関しては鍵もするし、最近のセキュリティはよくできているので問題はない。2人に鍵はかけて行ってねと言って自室に戻り、VRギアをかぶってログイン。現在時刻は7時50分。まだそれなりに時間があるが早めに言ってもいいだろう。軽い浮遊感のあと、ログアウトした岩で出来た椅子のようなものの上に座っている状態でログイン。


「あ、モミジお姉ちゃんやっと来たの?」

「やっともなにもまだ10分前でゲーム内では夕方なのだけれど?」

「そうね、それならこの山を越えた後どうするかを決めるべきかもしれないわね」

「そこまで時間はないでしょう、それに普通越えた後に考えないかしら、それ」


 先のことばかり考えても捕らぬ狸の皮算用になりかねないし、10分だとどうせまともな作戦なんて考えられない。そもそもこういう難易度が高いものは2日くらい前からゆっくりと作戦を立てたり、情報を集めてから攻略に踏み出すのが一番いいと思う。


「まったく、モミジは分かってないわね」

「何がよ?」

「冒険には危険がつきものでしょう?」

「万が一にでも危険があったら困るわよ。だからこそ万全の準備をしてからこういうところにくるべきなのよ」

「モミジお姉ちゃんは硬いなぁ…」

「現実的と言ってほしいわね」

「夢や探究心が無いともいえる」

「失礼ね、夢くらいあるわよ。それと、そろそろ時間よ」

「じゃあそろそろ出ようかな。で、何とかなるって言ってたけど、どうするの?」

「全部倒すわけじゃないよね?」

「最悪そうなるけど、今回は違う方法を取るつもりよ」

「やけに自信満々ね。期待してみようかな」


 駄弁りながらセーフティーエリアから出る。すでに周りは暗くなっていて夜だというのがはっきりとわかる。そういえば蜂って夜行性だったかしら。…どうでもいいわね、何とかなるでしょう。


「ここから上に行くともう襲ってくるから。用意はできてるわね?」

「大丈夫よ、余程のことが無い限り」

「モミジお姉ちゃんに任せればいいんじゃない?」

「そんなにプレッシャーかけないでよ」

「じゃあ進むわよ~」


 気楽そうに進んでいくサクラ姉ぇを追いかける。と、その途端、


「《警戒》のミニマップがいきなり真っ赤に染まったわ…」

「まずは5匹、来るわよ」


 サクラ姉ぇのその言葉に合わせたかのように5匹、子供の身長と同じくらいの大きさの蜂が出てくる。体の大きさに比例して毒針も大きくなっているようでものすごく怖い。あれで刺されたら体に穴が開くわね。


「《威圧》」


 《威圧》は問題なく発動する。最初に使った時と同じように足元から黒いオーラのようなものが噴き出す。ちなみにMPを消費しているようなので、MPを体から放出しているのだろう。常にMPが減ることになるけれど《威圧》は発動したままにしておく。


 方針としては戦闘は極力避ける。戦ってもいいが、流石に多勢に無勢と言ったところだろう。《威圧》を発動しても襲ってくる場合は戦闘になるけれど、まあ最初のほうは大丈夫そうね。今来た5匹は逃げて行ったし。


「さて、先に行くわよ」

「すごい!どうやったの?」

「スキルを使っただけよ」

「相変わらずよくわからないスキル使うわね…」

「βの時に吸血鬼を試した人はいないの?」

「いたにはいたんだけど、大半の人って長い時間遊びたいじゃない?それなのに吸血鬼の特性として昼間はフィールドに出られないから…」

「その情報を流した結果、吸血鬼を選ぶ人がいなくなったってわけ」

「なるほどね、結構便利なのだけれどね。スキル成長させれば日が出ていても一般プレイヤーと同じくらいにはステータスが伸びると思うのだけど」

「それって相当大変よ」

「ならここで私から一言言わせてもらうけれど、やり込まずして何がゲームか」

「た、確かに…」

「あーD○思い出したわ、特にシリーズ8作目。スキルポイントを入手するために何回マラソンしたか…」

「モ○○ンもだよね、あれは素材がなかなか出ないんだもん」

「…おいていくわよ」

「あー!待って!こんなところに置いていかないで!」

「モミジはせっかちね」

「こんな蜂の羽音が煩いところにいつまでも居たくないわよ」


 例えるなら夏場の田舎で蝉が鳴いてる感じ。田舎は数が多いから一日中鳴いてて煩い。田舎に限らず夏はどこも煩いけれど。今はゲームにログインしているからわからないけれど、どうせ今も外で鳴いてるだろう


「MPも減ってるからとっとと行かないと結構大変なのよ」

「やっぱり大半のスキルはMP使うんだね」






「あーもう、鬱陶しいわね!」

「これで何匹目だろうね。どんどん効き目が無くなってきてるよ」

「上に押しやってるせいで数が密集してるからね。集団でやれば何とかなるとでも思ってるのでしょう」

「この辺で一回片付けるしかなさそうね」

「この数をどうやって?」

「まあ見てなさい。《ダークネス・サークル》!」


 《魔術・結界》の《サークル》を《ダークネス》で発動する。広がった魔法陣から霧のようなものが立ち上る。もちろんダメージは寝る前にやった時とは比べ物にならない。霧に触れた蜂からどんどん下に落ちて行く。


「さて、これでまた進めそうね」

「使えないと思ってた《魔術・結界》にこんな使い方があったなんて…」

「私は使えないんじゃなくて1度試して効果が見られないから諦めているだけのように感じるけれどね」

「これは用途のわからない物をどんどん試していくしか無さそうだね」

「そうね、モミジの言うことにも一理ありだし、使い方が間違っているものもあるかもしれないわ」

「そろそろ何処かで休みたいわ。MPが危ない」

「ならマナポーションあげる。今回はそこまで使いそうにないし、今までもほとんど使ってないから結構余ってるのよ」

「ん、ありがとう。これもNPCから買ったの?」

「そうよ」

「じゃあ、」

「精錬方法は霊草をポーションと同じようにするだけだったはずよ」

「そこまで調べてあるのね、助かるわ」

「そのかわり、作ったら分けてもらうけれど」

「生産と評価が安定するまでは譲るけれど、生産と評価の両方が安定したらちゃんとお金払ってもらうわよ」

「はいはい」


 生産とそのあとのことを話してからマナポーションを渡される。円柱状の瓶の中に紫色の液体が入っている。はっきり言って良い印象を持てない。いや、ぶどうジュースと思えば良いかしら。とりあえず、MPが切れる前に一気にマナポーションを煽る。


「うえぇ…」

「だ、大丈夫?」


 苦い、青臭い、ドロドロしてるの3連コンボ。これは確実に改良したいわね、いや絶対するわ。ゲームだからと言ってこんなまずいものは許せないわ。リアルだろうとゲームだろうと味覚があるなら美味しいものを食べるべきなのよ。


「サクラ姉ぇはいっつもこんなの飲んでたの…」

「いや、使ってないからわからないわ」

「…」

「そんなにひどいの?」

「青汁を10倍に濃縮して片栗粉混ぜた感じと言えば良いかしら?」

「う…」

「そ、それは…」

「飲みたくないでしょうね、絶対」

「うん…」

「モミジ、ごめん…」

「いいわよ、別に」


 不味いのは確かだったけれど、MPは6割回復している。恐らく価値の高いマナポーションだったのだろう。普通のプレイヤーでこれを使うのは相当先になりそうね。それと、


「サクラ姉ぇ」

「何?」

「これ、HP回復だとハイポーションと同じくらいのものじゃないの?」

「わかっちゃった?」

「わかるわよ、回復量が普通の物しては不自然なくらいに高いもの。でも、この性能の物もNPCが売っているとなると本当に生産職は頑張らないといけなさそうね」

「そうだよね、運営はこの辺調整間違えてるんじゃないかな」

「もしかしたら、生産職には既存のアイテムじゃなくてオリジナルのアイテムを作ってほしいのかもしれないわね。」

「既存アイテムのレシピは飽くまでスキルレベルを上げるためのものってことかしら?」

「そう考えるべきかもしれないってだけよ。じゃあそろそろ先に行きましょうか、もう少しよ」

「とは言っても30分はかかりそうだけどね」

「リアルだと9時17分…結構経ってるわね」


 本当に攻略させる気があるのか運営に問い詰めたいところね。もしかしたら別の道があるのかもしれないけれど。それはそれとして、また蜂が密集し始めてるわね。定期的に《ダークネス・サークル》を撃って数を減らさないと…






「うぷ…」

「モミジ、目が死んでるわよ。本当に大丈夫?」

「も、問題ないわ…」

「ようやくって感じだね、洞窟の入口はすぐそこだよ」


 あれから蜂の数は急激に増え始め、マナポーションを5本追加で飲む羽目になっている。頂上までずっと《威圧》を発動していたせいか、レベルが12になっているのはありがたいけれど、それにしても不味い。そういえば《魔術・闇》がレベル9で、《魔術・結界》がレベル8になってたわね。あの不味いポーションのおかげだと考えるのがなんか癪に障るけれど。しかし、本当に不味い。まじめに何とかしなければ、やばい、不味い。もう口の中も不味い。




―――side Sakura―――




「大変大変!モミジお姉ちゃんがずっと不味いしか言わなくなってきてる!」

「敵地のど真ん中だけど、休まないとだめそうね。眼が虚ろだし、半笑い状態よ…正直怖いわ」

「えっと、水水…」

「そんなものあるの?というか何のために使うのよ」

「口直し。どうせモミジお姉ちゃんなら持ってるよ」

「…確かに、モミジ、鞄開けるわよ」


 だめね、口を三日月型にさせて、うふ、うふ、うふふふふふふふ…、って笑ってるだけだわ。どこぞの師匠に勝った魔法使いじゃあるまいし…、やっぱりモミジも世話が焼けるわ。


「ん、これかしら。やけに綺麗な水ね。大丈夫かしら」

「良いから早く飲ませようよ」

「そうね、ホラ、口開けなさい。」


 ユズがモミジの口を開けさせる。抵抗する様子も見せず、されるままに口を空けているので、そこに水の入った瓶を傾けて水を流し込む。すると静かに水を飲み始める。これで大丈夫かしらね。




―――side Momiji―――




「んく、んく…ふぅ」

「大丈夫?モミジ」

「…私は何をしてたのかしら?」


 …記憶が少し飛んでるわね、確かポーションが不味かったのは覚えてるのだけれど…


「途中から不味いしか言わなくなって…」

「そのあとは不気味に笑ってたわね…」

「…本当?」

「ちょっとシャレにならないレベルだったわ」

「うん、あのままだと色んな意味で危なかったかも」

「で、なんで元に戻ったのかしら」

「あなたの鞄に入ってたやけに綺麗な水を飲ませただけよ」

「綺麗な水?」


 そう言われて、鞄の中を確認する。…泉で取った水が1つ減っているわね。あそこで水をとってなかったら危なかったわけね。〈グレイベア〉を狩りにいったついでだったとはいえ、よくやったわ、私。


「それはそうと、ホラ、洞窟」

「この中から蜂が出てきてたっぽいのよね」

「そう。じゃあ、この中に居るであろう女王蜂と、巣を壊せば終わりね。」

「やっとこの山を越えられるのね、長かったわ」


 3人で顔を見合わせて、頷いてから中に入る。中はうすら明るく、殲滅しきってしまったのか、蜂の羽音が聞こえない。よって、洞窟の壁に足音が反射し、静かに響いてゆく。そんな空間をしばらく進み、そこで見たものは…


『カチカチカチカチカチカチ…』


 天井まで10メートルはあるであろう洞窟の穴を塞ぐほどの巨大な蜂の巣と、5メートルほどの毒々しい色をして、こちらを威嚇してくる、女王蜂だった。

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