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第62輪

 翌日、昼。早めの昼食を柚子と一緒に済ませるとWWOにログインし桜姉ぇのギルドを目指す。


 昨日は洞窟から帰った後第2の街でログアウトした。さっきも第2の街周辺で色々とやっていたのでログイン場所はそのままだ。第1の街まではポータル機能でワープ出来るので問題ない。


「……PVPまで結構早かったわね」


 武器や防具のメンテナンスは午前中に済ませておいたので問題ない。相手のパーティがどんな構成かは分からないので対策などは出来なかったがこの辺りは何とかするしかないだろう。昨日試したくなったことは一応形にはなっているので、私の情報を知っている向こうにとってはこれが切り札になるかもしれない。


「緊張してきたわ……」


 そもそも人付き合いが苦手は私はこういうコミュニケーションが必要になってくるようなゲームはやらない性質だ。今更になってそれが出てきたのか自然とギルドに向かう足が早くなり、体が強張っているのが分かる。


 ギルドへの道は幸い観戦のために来る人が多いのか、大勢の人が同じ方向に向かっていたためすぐに分かった。この中にサクラ姉ぇの言っていた掲示板で疑惑をかけてきた人はどれくらいいるのか。大半は興味本位で見るだけなのかもしれない。


「あ、いたいた」

「ユズ?」

「お姉ちゃん、こっちこっち」


 なるべく目立たないように人の流れに任せて歩いていると、どこから見ていたのかユズが私のことを呼び路地裏へと引っ張って行く。


「向こうじゃ人が多くてなかなか入れないから裏口から入るよ」

「……ええ」


 確かにこれだけ人が多いとあの大きな入り口でも結構な時間がかかりそうだ。ギルドに近付くにつれてギルドのメンバーを思わしきプレイヤーが列の整備のようなことをしているのもチラチラ見えたし。


「しかしまた、裏口とはね。随分用意が良いと言うか何というか」

「地下通路もあるって言ってたよ」

「あ、そう」


 一体何に必要になるのよ、そんなの。まあサクラ姉ぇだし。何考えてるのか分からないことも多いし、今回のPVPだってサクラ姉ぇがセッティングしたものだから何かしら有るはずだとは思っている。


「そろそろ着くよ」

「結構近いのね」

「裏口って言ったって正面から見えない場所にあるだけの出入り口だし」


 柱の陰になるように設置されている扉からギルド内に入る。簡単に気付かれそうな位置ではあるが、逃げ隠れしながら使うようなものではないのだろう。


「このまま闘技場まで行くけど、準備はちゃんとできてる?」

「……サクラ姉ぇは?」

「……まぁ、うん。その……」

「なるほど。そのあたりは後で色々と聞くから良いわ」


 ユズの反応からサクラ姉ぇが色々とやっていることは分かった。裏で色々やってるのはいつものことだけれどそこまでして何を隠したいのか。


「案内お願い」

「はーい」


 早いところPVPを終わらせてその辺りのことも聞いてみよう。








 この間も使った円形闘技場。前回と違うのは観客席がほぼ満席になっていることと、PVPを仕切る人がいるところか。それもプレイヤーではなく運営から1人派遣してきて持っていると言うのだからそれだけこのPVPの影響がWWOにとって大きいと言うことだろう。


「ルールの確認は問題ないですね?それでは残り10秒でPVPを開始します!…9…8…7」


 ユズに案内され闘技場へと無事に着くと、既に相手は来ていたようで戦闘の準備は万端だった。ユズは観客席に居るそうだが、これだけ人が多いとどこに居るかなどは分からない。戦闘が始まれば気にする暇すらできないだろう。


「5…4…3…」


 武器を取り出し、すぐに手に取れるところに刺しておく。相手はとローブを着ているのが1人。ローブに加えてフードもつけているのが1人。攻撃とサポートに分かれた魔術師だろう。ショートソードと小盾を持っている軽戦士が1人、私と同じように大剣を持っているのが1人。1人は軽装、最後の6人目は動くのが厳しいのではないかと思うほどの重厚な鎧に体を隠せるほどの大きさの盾を両手に持っている。純粋な盾役だろう、それでも武器は持っているはずだが。


 ルールに関しては道具の使用は有り。PVP用の補正は全てオフ。相手は6人に対して私は1人。簡単な話だ。あと昼夜も関係ないらしい。


「2…1…」


 纏めて相手を使用などとは考えていない。1人ずつ倒していくのが基本だ。あの中で速さに優れていそうなのはあの軽装のプレイヤー。ならば……


「0ッ!開始ッ」

「《月衝波》ッ!」


 開始と同時に剣を地面から引き抜き横薙ぎの《月衝波》を放つ。魔術師だろう2人はタンカーに守られ、軽戦士のプレイヤーは回避、大剣のプレイヤーは剣の腹で防御している。


「《ダークパイル・サークル》!」

「ッ!」


 軽装のプレイヤーはやはり速度重視のスキル構成をしているらしい。しかし飛び出してきた杭を短剣の腹で防いだうえで上に飛んで回避とはなかなか器用なことをする。最初に倒さないと厄介そうだ。


「《月衝波》ァ!」

「《シャドウシールド》」

「大剣使えるのはアンタだけやないで!」


 大剣のプレイヤーにもいつの間にか接近されていた。《月衝波》を防いだ盾の陰に隠れて近付いてきたのかしら。それに武器に振りまわされているようには見えない。重量の大きい大剣を扱いなれているようだ。


 ドヤ顔と共に振り下ろしてきた大剣を受け止める際に剣を傾けて攻撃を受け流し、相手の横っ腹に蹴りを叩きこむ。重い音と共に真横に吹っ飛んで言ったがこの程度では恐らく倒れていないはずだ。


「隙あり!」

「……どこに行ったかと思えば、後ろだったのね」


 その声とともに背中に攻撃を受ける。振り向くと軽戦士のプレイヤーが剣を振り下ろした体勢でその場にいた。大剣のプレイヤーに便乗して接近してきたのだろうけれど、後ろに回られたと言うのに視界に全く映っていなかったのはなぜだろうか。


「……確かに斬ったはずなんだけどな」

「一撃が軽いもの。あなた手数で攻めるタイプでしょう?」

「大体あってるかな」


 こちらにダメージは全くと言っていいほど通っていなかったが、真後ろを取られたままなのは不味いので相手を遠ざける為に大剣を一振り。一撃が軽くダメージがほとんど発生しなくても問題ないのならユズの時のように毒か何か仕込んでそうだ。極力防ぐか回避するべきだろう。


「《火突》!」

「《ハイスラッシュ》」

「くっ……」


 死角から飛んでくる短剣の攻撃を相殺し、相手を吹き飛ばす。《警戒》を使えば相手がどう動くのかは良くわかるのだけれど、今回はMPが惜しいので使わないでいる。しかし、タンカーと魔術師2人は未だに動きを見せないのだ気がかりだ。


 接近して攻撃をするのも考えたが、タンカーに抑えられた状態で魔術を連発されたら流石に痛いので今のところ触れないでいる。ただ、何もしないのも不味いだろう。


「《ダークネス・サークル》!」

「よそ見なんざして大丈夫か?《フルパワースラッシュ》!」

「《ハイスラッシュ》!」

「なぬぅ!?」


 後衛に向かって魔術を撃つと大剣のプレイヤーが頭上から攻撃を仕掛けてくる。姿勢を低くして攻撃のラインを読みアーツで反撃する。私の知らないアーツを使って来たということは相手は私よりも《大剣》スキルが高かったようだ。


 もう少し《大剣》スキルの情報が欲しかったところだが、防御力が低いのか、HPが低いのか壁に叩きつけられたところでPVPフィールドから退場して行ってしまった。落下ダメージとかもあるゲームだし、壁に叩きつけられてダメージを受けても不思議ではない。さっき蹴り飛ばした時も壁に当たったりしたのだろうか。


「レッカ、いい奴だったよ……」

「まあ、いつも通りだな」

「攻撃を仕掛けながら言われても反応に困るだけなのだけれど……」


 お約束的なことを言いながら攻撃を仕掛けてくる2人を何とかいなしつつ距離を取る。体が大きかったら間違いなく防ぎきれていなかったと思うくらいに攻撃をしてくる場所が上手い。プレイヤースキルの差だろうか。


「……」

「動きが速いのって厄介ね」


 距離を取ったと思ったら軽装のプレイヤーに後ろから攻撃されていた。服の表面、正しくは魔糸を仕込んである場所で刃は止まっているがこれがユズだったらまた貫かれていただろう。


 軽装のプレイヤーは攻撃が通らなかったと知るとすぐにその場を離れる。


「《ブレイブソード》!」

「《シャドウシールド・サークル》」

「これだけじゃ終わらないよっと」


 強力そうなアーツを防いだは良い物の、その後の凄まじい連撃でシールドに少しずつ罅が入って行く。……壊れたと同時に仕掛けるのが良いかしら。


 しかし口調は軽いくせに尋常じゃない速さの連撃だ。まともに受けたら防ぎようがなさそうだわ。


「《ダークネス・エンチャント》」

「よし、砕け―――」

「《パワースイング》!!」

「ちょっ、《ピンポイントガード》!おふっ」

「……防がれたわね」


 盾が壊れると同時に属性付きのアーツで攻撃を仕掛けるが盾である程度ダメージを防がれてしまった。ガードクラッシュ性能のある《パワースイング》にしたのは正解だったようだ。空中で耐性も崩れている。追撃のチャンスだ。


「《月衝波》!」

「あ、これはダメですわ」


 《月衝波》がぶつかると同時に周囲にその威力を物語る風と砂埃が起こる。その数秒後現れたのは健在な状態のプレイヤーと4色に輝く壁。


「まあ、予想はしていたけれどね。サクラ姉ぇ」

「……やっぱりバレてたかぁ」


 風でフードが外れ腰のあたりまである水色のポニーテールが露わになる。ここからが本番になりそうだ。

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