第56輪
「今日はちゃんと居るのか」
「昨晩はほとんど魔物が出なかったから」
そろそろ時間帯が朝になり街の外だとダメージを受けそうだから日傘をさしたあたりで行商人が起きて話しかけてくる。狼は昨日と同じようにいつの間にか姿を消している。
私が荷台で寝ていることは置いておいて、寝袋を使っているとはいえ良く地面にゴロ寝で熟睡できるものだ。私だったら体が痛くなって嫌でも目が覚めそうだ。ユズだったら大丈夫かもしれない。
「ああ、それと今日は夜は何もしなくても大丈夫だ。夕方には街が見えるだろうからそのまま街まで行くからな」
「意外と早いのね」
「いつも通りだけどな」
私の中では夜を乗り切ってから街に着くと思っていたのだけれど、どうやらそれよりも早く着いてくれるようなので街周辺の魔物を狩る時間が有りそうだ。
魔物素材をまだほとんど扱えないのが残念だけれど、生産スキルのレベルが上がればユージに渡したあれを作った時よりも上手く扱えるようになるかもしれない。
「じゃあ、私は夜になるまでまた荷台を借りるわね」
「わかった」
行商人が朝食を済ませ、馬車を走らせ始めたあたりで一言声をかけてから荷台でログアウトする。向こうが朝の間はずっと移動の時間だし、リアルの方は昼時なので少ししたら柚子がゲーム内でメッセージを入れてくるだろうし。
昼食の準備のためにVRギアを外し、自分の部屋を出て台所に向かう。
「さて、今日のお昼は……」
「グラタン!」
「……びっくりした。いつからそこに居たのよ」
「今来たところ。そろそろ昼ごはんの時間かなって」
呟きながら台所に立ったところで柚子が後ろから大声で注文をつけてくる。もう少し気を抜いていたら反射的に跳び上がっていたかもしれない。
「これから作るところだけど、グラタンだと少し時間がかかるわよ?」
「いいよー、別に。ちょっと暇になったところだから」
「ふーん」
ゲーム内で移動中の私はともかく、柚子が暇になるとは珍しいこともあるものだ。いつもご飯済ませたらすぐさまログインするくらいだと言うのに。
「特にこれと言うものが無かったらマカロニグラタンにするけど?」
「うん」
戸棚を開けてみるとマカロニが目に入ったのでマカロニグラタンにする。柚子も特に不満が無いようなので早速準備に入る。
数十分後、出来あがったグラタンをテーブルに運ぶと柚子が早速とばかりにグラタンを焼いている間に用意していた皿に取り分ける。
「いただきまーす!」
「いただきます」
マカロニを茹でる時間が少し短かったかもしれない。私はもう少し柔らかい方が好みだ。まあ柚子が美味しそうに食べているので良しとしよう。
「そういえば紅葉お姉ちゃんは今ゲームで何してるの?PVPまであんまり時間無いけど」
「レベル上げたり、新しい素材を手に入れる為にちょっと遠くまで行ってみたり、色々ね」
柚子が思いついたように聞いてくる。身内としては気になっても仕方が無いだろうし、嘘にならない範囲で適当に答えておく。
「へー、こっちだと良く部屋に篭ってたけど向こうだとアクティブだね」
「人を引き籠りみたいに言うのを止めなさい」
「自分で書庫にある本って言ってたじゃん」
「……まあ、それは置いておいて」
「露骨に話をずらしたね」
大分前に自分で言ったことが仇になってしまった。とりあえず私は引き籠りではないので話題を変えてしまおう。
「暇になったって言っていたけれど、柚子こそ何をやっているの?」
「ちょっとミスしちゃって。デスペナルティが抜けるまではまともに戦闘が出来ないから休憩も兼ねて時間つぶしかな」
「そんな物が有るのね」
「あれ?知らなかったの?教えなかったっけ。街の外で敵に負けてHPが0になると街に強制送還されて暫くステータスが減少するんだけど」
……つまり柚子が敵に負けてそのデスペナルティとやらを受けているから暫くは十全に行動が出来ないと言う訳ね。
私はそれよりも柚子を倒した敵と言うのが気になる。柚子のパーティが負けるほどの敵となると私が勝てるかどうかわからない。
「まあデスペナルティは良いとして、どんな相手に負けたの?」
「んー……、とにかく強かったかな。勝てない相手ではないと思うけど、ちゃんと作戦考えないと駄目かな~」
「それは逆に今までまともな作戦を考えないで戦闘をしてきたってこと?」
「そうなるかな。基本的に私とセリカちゃんが近接戦で惹きつけてユカちゃんとカリナちゃんが後方から攻撃、ユミちゃんが支援だから」
役割分担はしているけれど作戦は立てていないってことね。この手の物の作戦の良し悪しは私にはよくわからないので口出しはしないし、出来ないけれど、互いの役割を把握しているだけではどうにもならない敵が出てくると言うことだろう。
「ちなみに桜お姉ちゃんはもう倒した後みたいだよ」
「いつもギルドで何かしてるのかと思ったけれど攻略もしているのね」
相変わらず桜姉ぇはゲームの攻略が早いようだ。やはり私が新しい街に行くのはそうなるように誘導されたのだろうか。
「PVPは3日後だっけ?楽しみにしてるよ」
「そう?」
「うん。私と戦った時に使った道具で何か色々考えてるだろうし」
「一応ね、出来ることはするつもりよ」
「じゃあ、私はそろそろ戻るね」
「ええ」
いつの間に食べ終わっていたのか、自分の皿を片づけて部屋に戻っていく柚子。1人でほとんど食べていったわね……。多めに作っておいてよかったわ。食べ終わったらパソコンで少し調べ物かしらね。




