第49輪
あのあとログアウトして、日を跨いで午前9時。こんな時間からゲームをすることなど普段は有り得ない事だがたまには良いだろうと、ログイン。
昨日ログアウトしたのは1番最初にサクラ姉ぇとユズと攻略したあの洞窟の最深部。未だに放置されているクコラの実を入手した場所だ。ここは何故か魔物が入って来ない上に発生もしないので街に居辛い現在のような状況では簡易拠点として丁度いい。
明りは無いが《暗視》スキルでどうにでもなるしゲーム内が夜ならば常時減って行くMPより回復量の方が大きいので問題にもならない。欠点があるなら買い物ができないことだ。
といっても、今から徒歩で山を越えて第二の街マスドレイクに行くところなので留まる気もないのだが。
「暴徒鎮圧とか言うくらいなら掲示板での騒ぎの方も治めてくれても良いのに」
愚痴をこぼしながらその辺を歩いていた〈ゴブリン〉を蹴散らしつつ洞窟の外に出る。まだ空の端の方が薄ら明るいが、〈ゴブリン〉を簡単に蹴散らせたのでちゃんと夜らしい。
掲示板上でどんなことになっているかは知らないが、余り目立つと面倒になりそうなので、山へはユズのパーティと行った時のように走って行ったりはしない。進むのを邪魔する魔物が出てきたら叩き斬る位だ。
暫く山のシルエットの方へと進んで行っていると、いつの間にか麓まで着いていたようで少し前に見たのと同じ道が視界に入る。ここでの出来事は余り思い出したくないことがあるが、逆に言えばそれを乗り越える機会でもある。ユズ達と来た時は居なかったが、今回は〈クイーンビー〉も居るだろう。
私はあの時より強くなっているから1人でも十分戦えると考えているが、問題になるなら数の暴力で攻めてくる蜂、たしか〈ジャイアントビー〉だったかしら。とにかくその蜂の大群は相手をしていて辛い。数が多いのはもちろん何よりも羽音が煩いのが頭に来る。人が気持ちよく寝ようとしているのに耳元を飛ぶ蚊と同じくらい頭に来る。
「あら、いきなりお出迎えかしら」
とりあえず蜂のことは置いておいて、先に進もうかと思い相変わらずのすぐ横が崖の道に足をかけると〈アルマジロック〉がゴロゴロと壁を転がり落ちてくる。
「お呼びじゃないのよ。《ハイスラッシュ》!」
転がったままの勢いで私を押しつぶそうと真っ直ぐ突っ込んできたので、タイミングを見計らって《ハイスラッシュ》で両断する。真ん中から割れた〈アルマジロック〉はそのまま数メートル転がったところで光の粒子と化して消えた。最後まで死んだことに気がつかなかったのかもしれない。
気がついていようといなかろうと私には関係のないことなので視線を正面に戻すと再び歩き始める。途中何度も魔物に邪魔されたが、時間を取られたわけでもなく変化も無かったので普通に進むことが出来た。
そして、中腹に差し掛かったあたりで羽音が聞こえてくる。そういえば前に来た時はこの辺りにあったセーフティポイントで夜になるのを待っていたのよね。まだ1週間程度しか経っていないはずなのに妙な懐かしさを感じる。
「さてと、周辺にプレイヤーも居ないし走り抜けるかしらね」
《警戒》スキルで周りにプレイヤーが居ないのを確認してから、一気に駆け出し加速する。山に来る時も同じことをすれば良かったかもしれないが、歩くのも良いと思ったから歩いただけだ。
後ろから破砕音のようなものが聞こえるのは、恐らく蜂が私を狙って針で刺そうと急降下して地面にぶつかっている音だろう。追いつかれたら面倒なので適当なタイミングで後方に魔術を打ちながら走る。バラエティ番組とかにある爆発に追われながら走るのってこんな感じかしら。
10分も走ると〈クイーンビー〉の発生する洞窟の前まで着いたのでここで〈ジャイアントビー〉の相手をする。と言っても魔術をばら撒くだけで大半は落ちて行き、私の近くまで接近してきた奴に関しては〈横薙ぎ〉や魔糸で対応していく。〈ジャイアントビー〉を片付け終わった後で思ったのだが、ここ最近は戦闘ばかりやっている気がするのは気のせいではないだろう。
たまには生産をがっつりとやって安定して資金を調達したいところではあるが、それが出来ない状況を作り出しているのもまた自分なので……つまり、もっと先のことを考えて行動しろということだ。イベントの時の自分にもっと自重するように言い聞かせておけば…。
「過ぎたことは、仕方が無いけれどね」
〈クイーンビー〉と戦うのに気持ちを切り替える為に呟き、洞窟内に足を踏み入れる。以前戦った時は酷い目にあった上に、何故味方してくれたのかは分からなかったが、蝙蝠達に助けられたので今度は正真正銘私だけの力でどうにかする。
『カチカチカチカチ……』
以前も聞いた、蜂の顎を噛み合わせて鳴らす威嚇音。本来は偵察に出てきた蜂がやるそうだが、ゲームだし、もしかしたらボス戦直前にボスが話しかけてくるのと同じようなものなのかもしれないのでスルーしておこう。
「《月衝波》!」
威嚇を無視して距離があっても攻撃が出来るアーツを使う。突然のことだったからか、洞窟内が動きづらかったからなのか、アーツは〈クイーンビー〉の羽の端を切断する。こんなに脆かったかしら。
先制攻撃によってバランスを崩した〈クイーンビー〉は不安定な体勢ながらも毒霧を噴射する。どうにかする手段もないし、回避して消えるのを待つしかないだろう。いつ消えるのかは分からないけれど。
「《飛行》、《シャドウシールド・サークル》」
《飛行》を使用して蜂に接近しようと思った時、そういえばソニックブームなんてものが有ったのを思い出したのでシールドを展開しておく。結界魔術と併用して使ったシールドは大きいから私の体全体を覆える上に、単体で使うよりも耐久性が上がるので今後も使う機会は多いだろう。
シールドのせいで前は見えないが、何かがぶつかっているような音がしているので何かしらの攻撃を防いでいることは確かだ。
姿は見えなくても《警戒》スキルのミニマップを見れば敵の位置は分かるので近接攻撃をまともに受けることはほとんどない。攻撃のぶつかる音が消えるとシールドを解除して〈クイーンビー〉に接近して切りかかる。
相変わらず動きが速いので直撃させることはできないが確実にダメージを入れられるだけの当たり方はしている。残り9割くらいね。
「朝まであと2時間くらいしかないから、早く倒れてくれるかしら」
『カチカチカチ……』
〈クイーンビー〉は私の言葉に怒りを表すように音を立てる。それと同時に常に起きている風が強くなり、《飛行》を続けていると姿勢を保つのが困難になってきたので地面に降りる。面倒なことをしてくれたものだ。
地面に降りたら姿勢を低くして接近。飛んでいる下をくぐり抜けるようにしながら《ハイスラッシュ》で大剣を振る。前回も同じようなことをした気がする。その時よりは攻撃力も上がっているようで刃もしっかり通っているようだ。
それでも体力は思ったより削れていない。1割5分くらいかしら。普通の魔物なら〈アルマジロック〉よろしく真っ二つになっているはずだ。やはりボスを言うだけ有るらしい。
「……MPは足りているわね。余り使いたくないけれど《エリア・ダークネス》!」
MPが十分に残っているのを確認してからユズと戦った時にも使ったMP消費が大きいが、威力のある魔術を使う。範囲を〈クイーンビー〉の周辺に指定したからかあの時よりかは消費も少なかったがそれでも気軽に使えるものではない。
ドーム状の魔法陣が爆発してから、若干の時間をおいて霧が晴れると羽がボロボロになり、体中に傷を負いながら地面を這いまわる〈クイーンビー〉の姿があった。ユズと戦った時よりも威力が高い気がするのは多分気のせいじゃないはず。対人戦だと何か補正でもかかるのかしら。
「こうなるとボスを言えど型無しね」
『カチカチカチカチ……』
「さようなら。《グラビドン・クラッシュ》!」
怒りを表すように音を鳴らしながら這い寄ってくる〈クイーンビー〉に大剣を叩きつけてHPを0にする。昼でもこれくらい戦えれば良いのだけれどね。ここではもうやることもないし早く第二の街に行くことにしましょう。
気がつけば今年ももう終わりに差し掛かっていますね。
連載を始めて年を2回も跨ぐと言うのはなかなか感慨深いものが有りますね。これも読者の皆様の応援や感想のおかげだと思います。
似たような後書きを何度も書いている気がしますが、これからもこの話を楽しんで読んで頂ければ幸いです。




