第41輪
「そんなに強力な攻撃が出来るなら最初からしておいてほしかったわ」
「いやー、これ試すの初めてだったから何度か失敗しちゃって」
止めを持って行かれたことに少し落ち込みながらも、サクラ姉ぇに苦言を放つと若干目をそらし頬のあたりを掻いて苦笑する。
「サクラお姉ちゃん、さっきの何!?」
「あら、ユズ。少し見てたけど、貴女魔術も取ってるんだから、ちゃんとそっちも使わないとレベル上がらないわよ?で、さっきのボスに止めを刺した爆発の事でいいのかな?」
「うん」
「あれはイベント内で新しく取ったスキルを使って、ちょっとね。後は自分で調べなさい」
「ちぇ~」
近くに居たユズが私も気になっていたことをサクラ姉ぇに聞くが、ゲーマー魂とでも言うのだろうか、明確な情報は教えてくれない。まあ、近くに居た私は色々と聞いていたからそれなりに調べやすいが。しかし、さっきのはどう見ても私が止めをさせないのを事前に分かっていたような手際のよさだった。
「ん?モミジ、ひょっとして怒ってる?」
「…そんなことない」
「まあ怒っては無くても色々と思うところは有るんだろう?」
「ユージ君がそういうならそうなんだろうね。モミジの事は私よりユズとユージ君の方が分かるでしょうし」
「…」
確かにユージの言うとおり色々と思うところはあるが、まあ結果として助けてもらった以上それに対して後から文句を言い続けるのもどうかと思うので、良い返す言葉が無い。ただごめんの一言も言えないのは不器用だな、と思ったりする。接し方が冷たいわけではないが、若干間があいてしまうのが悩みだろうか。
「…」
「どうしたの、カリナ。そんなに私とサクラ姉ぇの事を見比べて」
「…一体なぜこんなに差があるのかしら」
「………」
「カリナちゃん、それは色々と気にする人も居るから思っても口に出すんはどうかと…」
「屋上」
カリナが私とサクラ姉ぇの事を何度か見比べて呟く。その呟きを聞いた瞬間に自分の視線が下に向き何か空しいような悲しいような気持ちになったところでユカがフォローに回り、ユミが黒い顔をして上を指差している。俯いているせいかユミの目は影になって見えない。同志よ。
「ま、まあそれよりもログを見てみろ、ドロップアイテムとイベント終了の告知が来てるぞ」
「どれどれ…、まあ素材はどうでもいいから良いんだけどね」
「サクラ姉ぇは素材使わないものね」
なんていいながら素材の部分をスクロールして流し、一番下に表記されている物に目がとまる。5日間評価ポイント、恐らくこれがイベント開始時に言っていた奴だろう。確かこのポイントで順位か何かを決めるとか言っていた気がするわね。
「あー、あー、テステス。よし。プレイヤー諸君、レイドボス撃破おめでとう。現在ポイントから順位を割り出している途中だ。少し待っていてくれたまえ。その間に適当にコメントでも集めておこう。恐らくそちらに記入欄を設けたウィンドウが表示されただろう。それにコメントを入力して送信してくれればこちらに届く。全てのコメントに返答はできないが、後で全て読ませてもらう。ちなみに、私がそちらに顔を出してから時間経過は現実と同じになっている」
私は特に言いたいことも質問したいことも思い浮かばないのでコメントはしないが、ユズとサクラ姉ぇがさっきからものすごい速度でキーを操作している。そんなに書きたいことがあったのか…。
「…多数のコメント感謝する。では適当に答えて行こう。まず、このイベントフィールドで出現した魔物だが、通常のフィールドでも実装予定だ。しかし、ドロップ率は低くなると思ってくれ。…ん?あるプレイヤーが普通では出来ないだろうと言う動きをしていた?…ふむ。このゲームの使用上種族が違えば出来る動きも変わってくるだろう。君なりのスタイルを見つけてくれたまえ。そのための自由だ。では次…」
などと、柳沢のネット生放送のようなものが十数分続くと、秘書のような人が柳沢に耳打ちをする。柳沢もそうだが、若い人だ。この会社は若い社員が多いのだろうか。
「…順位が出たらしい。大々的に発表はしないので、個人で確認してくれ。順位に見合った景品は運営からの通知メールで送っておこう。ではまた次の機会に会おう」
なんか一方的に切ったわね…。いつも慌ただしい気がするのは気のせいかしら。まあ実際忙しかったりもするのだろう。若いのに代表取締役という位置に居るのだから忙しくなかったらそれはそれで気になるが。
「通知が来たわね…」
「何位だろう、楽しみだなぁ」
「参加人数は18737人で脱落者がほとんどだったのか。道理でボス戦でプレイヤーが少ないと思ったら。さて、俺の順位は…1287位か。まあまあかな」
「私は983位だったよ」
ユージが1287位、ユズが983位か。純戦闘職は戦闘以外でポイントを稼げないから順位が低めなのかもしれないわね。ここに居るのは戦闘職ばかりだけだけれど、純生産職は戦闘に参加してなかったのかもしれない。
「私は15位ね。サクラ姉ぇは?」
「んー?私?私は3位だったわ」
「お姉ちゃん凄い!」
「ほえー、2人して高順位か」
サクラ姉ぇが3位となると残りのトップ2が気になるわね。まあそのうち会うこともあるでしょう。
「あの魔法陣に乗ると通常フィールドに戻れるそうです。私は先に行きますね」
「私も行くわ~」
順位について適当に話しをしているとセリカとカリナが通常フィールドに戻る為の魔法陣を指差して教えてくれる。そのあと、2人は魔法陣の中に消えて行った。
「私も先に戻るわ。ログアウトしたら寝るから起こさないでね、ユズ」
「えー」
「サクラ姉ぇもまた会いましょう」
「ええ。今度会ったらギルド案内するわね」
「建物でも出来ているの?」
「うん。じゃあねー」
手を振るサクラ姉ぇに振り返してから私も魔法陣の中に入ると、こっちのフィールドに来た時と同じ浮遊感と共に視界が切り替わる。随分と久しぶりな気がするが、ここは街の広場だったわね。さっき柳沢が言っていた運営からの通知メールが来ているが、疲れているのでそのままログアウトする。
VRギアを外して外を見るとまだ明るい。そういえば1時間しか経っていないんだったっけ。疲れているはずなのに、体に疲労は全くなかったり、さっきまで感じていた眠気もなかったりと色々と不思議な感覚だが、とりあえずベッドで横になっておこう。何かあったらどうせユズの事だ。私の事を起こしてでもそれを伝えようとするだろう。
「ふぅ…、おやすみなさい」
1つ息を吐いてから誰に聞かせるわけでもなく呟いてから目を閉じた。
終わりはあっさりと。
1話掲示板回を挟んだら区切りはしませんが、第2章という感じですかね。
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