第34輪
―――side Yu-ji―――
日が落ちて数時間。メニューに表示された、残り時間が24時間を切ったという情報と同時に何とも言えない緊張感を抱く。この残り時間はたった今表示され始めたので恐らく最終日を知らせるための物なのだろう。
久々にゲーム内での夜に緊張している気がする。そこまで長くやっているわけでもないが、ゲーム開始初日で夜が訪れた時のような新鮮な気持ちがよみがえっている。どこからともなく聞こえてくる獣のような良くわからない、それでも轟いてくる声がそれを助長させているのだろうか。
モミジはさっき、後はもう少し待つだけ、と言ってそのまま眠ってしまった。放っておいても大丈夫な工程に入ったことで緊張の糸が切れたのかその場に横になるとすぐに寝てしまったのでテントの中に運んでおいた。作りかけの万能薬と思われるものは火からおろされていたので、こぼさないよう慎重にモミジを運んだテントの隅っこに置いておいた。
今はモミジを除く全員で声の聞こえてくる方に向かって隠れるようにして向かっている最中だ。
「お姉ちゃん置いてきて大丈夫かな…」
「ああ見えて寂しがり屋なところがあるけど、残された理由もわかるだろうし大丈夫だと思うよ」
「モミっちにそんな一面があるとは、メモメモ…」
「没収」
カリナはいつも通りモミジについて色々とやっているが、ユミにメモを没収されうなだれている。いつも通りのやり取りだが、今はこれが結構ありがたい。適度に緊張がほぐれるのだ。
「それで、一応声のする方に向かっていますが、この先は何かありましたっけ?」
「山が近いよな」
「あとは、広場とユージが見つけた湖底に石像みたいなものがあるっている湖だったかしら?」
「そうだな、自分で見つけておきながらすっかり忘れてたが」
イベント初日に見つけたものなので頭から抜け落ちていたが、確かにそんなのも有ったな。結局今まで何も無かったからようやく出番が来たのかもしれない。
「あとは、足元に流れてるこの黒い霧が相手がいると言う情報みたいなものか」
「触ってるだけなら大丈夫みたいやな」
足元を見て黒い霧を確認しながら呟くと触るのは一応平気だと言うことを知らせるようにユカがしゃがみこんで素手で触って見せる。
「触るのが安全なのがわかるのは良いけど、吸わないように気をつけなさいね~」
「わかってる」
「なんか聞こえるな、行こうか」
そのまま歩いていくと喧騒が聞こえてくる。どうやらもう戦闘は開始していたようだ。これだけ騒がしいなら隠れる必要もないと思い、駆けだす。
森を抜けると湖が見えたのだが、周りを囲うようにプレイヤーがいてそれぞれ武器を振るったり盾で防いだりなど、自分の役目をしっかりとやっているように見える。
そして、問題の敵だが、とりあえずでかい。20メートルは有るだろうか、夜なのも有るのだろうが、見上げても敵の頭は見えず、眼が紫色に光っているからこそ大体の頭と思われる位置が特定できる。ここから観察する限りだと形は不定型で触手のようなもので攻撃をしているように見える。また、あの触手と言うか、体全体から霧が出ているように見えるので、あの攻撃でダメージを受けたら例の状態異常にかかるかもしれない。
「さて、早速だが、先頭に参加しようか。皆手薄なところを探して手伝ってやってくれ」
「はーい!」
「了解」
「わかったわ~」
俺の言葉にそれぞれ返事を返すと散らばって行く。俺はとりあえずこの辺にいる戦士職の人の動きをまねれば良いか。
タンカー役の重装甲の装備をしたプレイヤーが何人かで鞭のように振るわれた触手を抑え、それに向かって剣を振るのを繰り返してるようだ。ちらっと質問したが、同じ方法で3本ほど触手を切断しているらしい。
「やけに柔らかくて、切れてるんだろうけど刃が通って無い感触がするな」
「まったくだ。それでもダメージが通ってるのは確かだから変化が出るまで続けるしかない!」
俺の呟きに同感なのか近くにいた主な鎧は胸当てに籠手という系戦士風の人が反応する。他の場所に目線を向けると他の場所でも同じようなことをしていて、時々結構な数の光が本体にあたっているのを見ると一定間隔でタイミングを合わせて光属性の魔法を使っているのだろう。
俺もアーツを使っているがやはり刃が通っていない、滑るような感触で返してくる。本当に切断したのだろうか、とここまで考えたところで切断されたらその辺に落ちているはずの触手が無いことに気がつく。
「そういえば、切断し終わった触手は、どうなったんですか?」
「ああ、それなら、斬り終わった途端に霧の塊に変わって飛んで行っちまった!」
「え?」
それはつまり触手が霧を出しているのではなく、霧が触手を作っているように聞こえなくもない。それでもってこんな固まりから出るはずの霧が固まりになって何処かに飛んで行ったとなると少し嫌な予感がする。
「良し、4本目だ!」
「こっちも斬ったぞ!」
「一応触手の数は減っているんですね?」
「ああ、初めは8本あったが、今切ったので残り3本になったのが見てわかるだろ」
なるほど、最初は8本有ったのか。タコみたいだな。触手と言い霧を墨に見立てればなおさらだ。でも本体が割と縦に長いからどっちかって言うとイカなのかな。なんて考えていると近くにいた鎧を着ていない軽装で動きやすそうな恰好をした人が声を上げる。
「皆、魔物が結構なスピードでこっちに来る!」
「あいつだけで結構手いっぱいななんだが、後ろから来られると厄介だな…」
「手分けして対処しよう!ここは比較的人が多いから少しくらい減っても何とかして見せる」
凄いな、普通ならフラグに聞こえなくもない台詞のはずなのに全然そうは聞こえない。ちなみに発言しているのは大半がタンカーさんだ。
とまあ、タンカーの方々が抑えてくれているのだから後ろから来る敵を手っ取り早く倒すために湖の淵から一旦離れる。どんなのが来るのやら。
「もうすぐ見えるぞ、3、2、1…来た!」
『グラアアアァァァ!!』
「こいつは…」
出てきたのはユズちゃん達と一緒に戦った熊だった。しかも今回は最初からモミジが追いつめられていた怒り状態とでも言うべきか、凶暴さが増しているように見える。体には黒い霧が纏わりつき、眼が妖しく光っているのを見るにこれが例の状態異常だろう。
「うおぉっ!」
「は、速い!」
「攻撃力も半端じゃねえ、盾に傷が付いた」
飛びかかって来たのを反射的に受け止めたこちら側に来ていたタンカーさんが抑える。体を覆う大きさの黒い盾2枚を正面に構え、攻撃を防いだようだ。武器は腰に差してある短剣のみで有るところをみるに、生粋のタンカーなのだろう。
反射で防いだのは良いものの、重装備の戦士は反応が出来ず、索敵をしてくれた人もこの熊を速いと評価する。タンカーさんが防げたのはたまたま攻撃の進路の近くにいたからってところか。それに攻撃力も相当高いらしく、俺が見たこと無い、恐らくギルド内で作成されたのかオリジナルに近い盾に4本の縦線、つまりは爪痕がしっかりと残っている。
この状態の魔物が来るのが1体だけとは思えない。大量に出現したら本当に勝てるのか?
立ちあがりは静かに、と言ったところでしょうか。段階的に盛り上げる話しと言うのは考えるのが難しいものです。




