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第33輪

「どうだ、出来たか?」

「まだね。どうしても時間のかかる作業があって…」


 あれから8時間ほど経過した。レシピも出来たし、これで完成すると言う確信もある。しかし、ここでどうしても時間のかかる作業で出てきてしまったのだ。レシピが思いついたのは昼食に呼ばれた時だったが、最初に作った時は万能薬本体が薄すぎて使いものにならなかった。


 よって、現在は濃縮作業をしているのだが、現在でポーション瓶26本目の未完成万能薬を鍋に入れたところ。これだけやって完成するのは恐らく4~5本だろう。レベルが上がったりすればもっと早く出来るかもしれないし、別のレシピが存在することもあるだろう。


 ちなみに、濃縮する前の液体は鍋に水とポーション1本、マナポーションが2本に各種毒草を入れて煮るだけの作業で完成するものだった。一応掲示板の方でも万能薬の作成を要請してみたが、結果は芳しくないようだ。《薬師》レベル15になるとパッシブスキル《作業短縮化》を習得する、という情報も上がってきている。私は現在レベル14なのでもう少しだ。これが完成するころにはレベルも上がるだろう。それでは困るのだけれど。


 鍋の中の液体が鍋の半分くらいまで減ったところで27本目の瓶を空ける。それと同時に火を強くしていく。いつまでも火が強いままだと焦げてしまうし、弱いと固まってしまう。このことに気が付いたのはこの作業を初めて5回目のことだ。現在の作業は6回目、今のところ上手く行っている。順調にいけば夜には完成してくれるだろう。


「大変だな、お前も」

「私はこれが終わったら少し休ませてもらうけれど、貴方達はレイド戦があるのでしょう?」

「まあ、そうだがどういうスキルを取った人が、どんなことをしてくれればいいか、なんてのは掲示板に書かれてるからな。戦士職の俺は基本的に近接戦でヒットアンドアウェイだ」

「そう、頑張りなさい」


 レイドボスの対策と言うか、戦う時の作戦は掲示板とやらで立てているのね。普段はあまり使わないけれど、なんだかんだで便利なことが多いのよね、ネットって。


「ああ、ユージ。悪いけれど、ここから先は集中しないといけなさそうだから他の皆にも話しかけるのは控えてくれるように言ってくれると助かるわ」

「分かった」


 あとどれだけ作業を繰り返せばいいのかは分からないけれど、時間はかかる。それだけは確実に言えることだった。






―――side Yu-ji―――


「てな訳で、モミジが暫く話しかけるな、って言ってた。ちなみに、イラつくことはあっても、あいつは滅多に怒らないが、さすがに今話しかけたり邪魔になるようなことをすると怒るだろうから、やめろよ?カリナ」

「うっ、な、なんで私は名指しなのかしら~?」

「そりゃあ、お前が1番やりかねないからだよ。普段の行動からも考えたら妥当な結果だと思うぞ?」

「ぬぬぬ…」


 この様子だと、数分のうちに邪魔しに行く予定だったな。モミジが怒るのは見たことがあるが、なんて言うんだろうな、爆発するような怒りじゃなくて、じわじわと炙るような感じなんだよな。


「ん、ユージ」

「ああ、終わったか。ありがとう、ユミ」

「それほどでもない」


 手入れが終わった剣をユミが差し出してくるので受け取る。もうしばらくは使えそうだな、予備の剣は用意してあるが、そっちはどちらかというと最低限自分の身を守り生還する為のものだから攻撃には向かない。


 モミジも大剣を預けているみたいだが、皆の武器と比べて幾らか状態が良いのを見るに戦闘はそこまでこなしていないか、大剣の強度が高いかしているのだろう。まあ、こんなこと考えたから何なんだ、って話だけどな。


「それにしても、自分らは特にやること無いなぁ…」

「そうだね、動いてないと私は落ちつかないからもどかしいな」

「休むのも仕事の1つですよ」

「むうー…」


 こっちはこっちで楽しそうだな。今は大体16時ごろか。あと8時間で5日目に突入するし、レイドボスが出てくるのだろう。弱点はとりあえず光属性と言うのは有力だ。物理と魔法のどちらが有効かは出ていないが、その辺は戦いながら確かめるしかない。


「ユージ、そんなに難しい顔してどうした?」

「ああ、セイヤ。少しレイドボスについて色々と考えたんだ」


 相変わらずの軽い雰囲気を漂わせながらセイヤが話しかけてくる。俺もこいつくらい能天気で居られらば、難しい顔なんて言われることもないんだろうな。


「ははは、そんなこと考えてたのか。もっと肩の力を抜けよ。何が来たって倒すだけだろ?」

「お前はもう少し緊張感というものを持てよ。戦闘が始まった時くらいは気を引き締めろよ?」

「分かってる。これでも一応真面目だからな」


 笑いながら緊張感のない言葉を発する顔とは別に、頭では少しは考えているようだ。基本的にこんな性格をしているが、セイヤのことを知っていれば、根が真面目な奴だから否定することはできない。


「ユージも物を考えるのは良いがほどほどにな。戦闘前に考えすぎて凝り固まった考えを持ったら他の情報が入って来たときに対応できない。スポーツマンには頭の柔らかさも求められるんだ」

「お前が言うと説得力は無いが、間違ったことを言ってないのが腹立つな」

「なに、只の体験談だ。気にするな」


 ドヤ顔で、俺今ものすごく大事なことを言ってやったぜ、見たいなオーラを出すセイヤに苦笑いで返す。おかしいな、セイヤって根が真面目な馬鹿でイメージが出来てたんだが。


「なにが、只の経験談だ気にするな、よ」

「あだぁっ!?いきなり頭に拳を落とすことは無いだろうミオ」

「似合わないシリアスなんか求めてないわ」

「俺だって少し位マジになることもあるさ」

「2人そろうとコント始まるのはいつものことだな」


 セイヤの真面目な雰囲気をぶち壊したのはミオだった。色々と珍しいものが見れたからもう少し出てくるのが遅くても良かったんだけどな。


「コントって言うな!というかセイヤと一括りにするな!」

「コントやってるつもりはないからそこは同感だな」

「自分たちでそうは思わなくても、他の人にコントって言われればそれはコントになるのだ」

「む、一理あるな」

「ないわよ」


 周りから見てもあの2人は仲が良いだろう。さてと、俺は少し寝るかな。現実だとこんな時間に寝ようものなら夜に眠れなくなるが、戦闘が夜からだと言うのなら誰も文句は言わないだろう。


「じゃあ、俺はテントで休んでるから」

「おう、分かった」


 適当に話を切ってテントに向かう。今から寝ておけば10時ごろには目が覚めるだろうか、仮に冷めなかったとしても誰かが起こしてくれるだろう。少し楽観的すぎるかもしれないが、セイヤに気を張り過ぎるのも良くないと、そんな感じのことを言われたのでまあ良いだろう。


 俺としてはレイドボスを倒した時の報酬が気になって仕方が無いのが本音だが、取らぬ狸の皮算用なんて言葉もあるので、終わった後のことは終わった時に考えれば良いだろう。そういえば、すっかり忘れていたが、イベントが始まった時にイベント中の行動でポイントがつくとか言ってたな。こういう休息行為でマイナスとかされたら嫌だな。


 まあ、今はとりあえず休んでおこう。

今回は短めでしたが、いかがでしたか?

次回から2、3話ほどレイドボスとの戦闘になると思います。今更ながら戦闘描写が苦手なので遅くなるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

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