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第27輪

 さっきの狼と戦ってからどのくらい経ったんだろう。結構長い間歩いている気がするけど、皆が疲れた様子を見せないから、多分そんなに歩いてないだろうし、時間も経ってないかな。景色に変化が無いと時間の流れが遅く感じるのはよくあることだと思う。


「ところで、サクラお姉ちゃん進んでる方向わかってるの?」

「一応、ね。掲示板を見る限りなら、暫く進むと小部屋があるはずよ。そこにプレイヤーが集まってるの」

「脱出とかはしないんですか?」


 サクラお姉ちゃんが言ったことを不思議に思ったのだろう、セリカが横から質問をする。私も同じ質問をしようとしたところなので、丁度いいような気もする。他の皆はそれぞれ様々な話題で楽しそうに話している。


「私は見てないからわからないけど、先にここに着いた人が、少人数じゃ敵わないと思ったらしいのよ。それで人数が集まるまで待って、ボスを攻略しようとしているらしいわ」

「そうなんですか。五日目のレイドボスと戦う前の前哨戦見たいな物ですかね」

「そう考えて良さそうね。実際大人数で戦うのは訓練が必要だと思うのだけど、1度もやったこと無いのと、1度でもやったことあるのでも大分違うと思うし、少なくとも良い経験はできるかもしれないわね。欲を言えばギルドメンバーもここで募集したいところだけど」

「流石サクラお姉ちゃん、自分の利益の事までしっかり考えてる。いやらしい」

「ははは…」


 サクラお姉ちゃんは必ずと言っていいほど、最後は自分の利益になるものに繋げることが多い。こういう性格の人がゲームの商人とかだったら大成功するんだろうなー。がめついと言うか何と言うか、汚い性格とでも言った方が良いのかな。


「ユズ、なんか失礼なこと考えてない?」

「そんなことないよー」

「2人とも顔が少し怖いです…」


 そんなやり取りをしていると前を進んでいたお姉ちゃんが立ち止まる。その目線の先には今までとは少し違う模様の入った石扉がある。恐らく、この先にプレイヤーが集まっているのだろう。


「じゃあ、開けるわね」

「はーい」


 サクラお姉ちゃんが扉を開けると、そこには大体30人くらいだろうか、結構な数の人が集まっている。おかげで狭い。そして、その視線は扉を開けて入って来た私たちの方へ向いている。


「結構早かったですね、サクラさん」

「そうかしら。これだけの人数が居れば流石にここの遺跡のボス位は倒せると思いたいけれど、招集駆けて貰えるかしら。予定の時間まで役割分担とかしないといけないし」

「了解です」


 少し間をおいてからサクラお姉ちゃんに紫の髪色をした短髪の女の人が話しかけてきた。サクラお姉ちゃんと少し話すと、手を2回叩いて注目を集める。何となく昔の貴族みたいだなって思った。そして、こちらに意識が向いたところでサクラお姉ちゃんが話し始める。と言うか、この部屋に来たことあるのかな。


「じゃあ、少し話をさせてもらうわね。私がボスの居る部屋の大きさを聞いた限りだと、全員が互いに邪魔をすること無く行動できる限界は大体、今この部屋にいる人数くらいだと思ったわ。それで、これから役割を説明するから、説明が終わったら10分で準備して頂戴。


 まず、近接戦闘に向いている人たち、話すまでも無いと思うけれど、メイン火力は貴方達に任せるわ。ただし、危なくなったら後方へ回って回復すること、掲示板の情報を見るに、このボスを倒しても5日目にレイドボスが出るらしいから、戦力の減少は少しでも押さえておきたいわ。


 次ね、人数が少ないから不安があるけれど、タンカー…盾役のプレイヤーは近接戦闘のプレイヤーの邪魔にならない位置取りと、的確なタイミングで攻撃をさばくこと。回復は優先的に受けなさい。


 次、魔法職のプレイヤー、基本的に後方からの攻撃がメインになるわ。ただし、回復魔術が使える人がいるなら攻撃はほどほどに、傷ついた前衛に回復をしてあげて頂戴。盾役のプレイヤーは最優先よ。


 最後、敏捷性や隠密性、その他特殊な攻撃手段を持っているプレイヤーには遊撃手を担当してもらうわ。前に出過ぎずヒットアンドアウェイ。基本は敵の注意を引くことと、敵の行動の阻害ね。


 で、種族がそれぞれ違う人がいるかもしれないけれど、その場合は今説明したことをなぞりながら自分の特徴を生かせるように臨機応変に対応して。多分これが一番難しいことなのかもしれないけれど、人それぞれのプレイスタイルもあることを考えると明確な指示は出せないわ。助け合うこと、互いに信頼すること、それから自分のできることは何かを周囲を見て確認すること、この3つを念頭に置いて動いて頂戴。


 長くなったわね、じゃあ、今から10分後にボス部屋に突入するわ。準備は万端にしておくこと、アイテムは余裕があったら他のプレイヤーにも渡しておきなさい」


 最後にそう締めくくり、部屋にいるプレイヤーが慌ただしく動き始める。すると、見覚えのある人たちがこっちに来る。


「ユズちゃんはサクラさんに付いてきたのか」

「ユージさんも来れたんですね」

「いやー、まさか一本道かと思ったら同じ道が繰り返してるとはなー」

「セイヤは黙ってなさい」

「ちぇっ」

「ところでモミジお姉ちゃんは?」

「ああ、それがな…」


 と、言ってユージさんが頭を掻きながら少し説明してくれる。


「途中の道にあった部屋で探索をしていたら途中で居なくなってな、てっきり先に来てるかとも思ったんだが、そんなことはなさそうだな。本格的に行方不明ってやつだ」

「うーん、まあそのうち会えるかな。あった時が面倒そうだけど」

「そうだな」

「面倒そうって、どうなるの?」

「実際見たほうが早いな」


 2人で笑い合っているとミオさんが興味津々そうに聞いてくるけど、あれは説明するのが面倒なのでユージさんの言うとおり見たほうが早いだろう。モミジお姉ちゃん無事に見つかるといいなぁ…。











 扉の前に隊列を組んで待機。これから突入する、つまり10分が経過したのだ。10分前は余裕があるな、って考えていたけど実際10分なんて短いものである。事前情報によるとボスは攻撃力が高く、ものすごくタフであるらしい。防御力は高くなさそうだと言うことで物理攻撃も一定以上の威力を持っていれば決定打になりそうだ。魔術に関しては怯ませることが目的だそうで、攻撃として使うにしてもメイン火力にはなりえない。私は剣ばっか育てて魔術はほったらかしなので、少し位はこの場で使ってみても良いかな。


「時間ね、じゃあ扉を開けるわね」


 サクラお姉ちゃんのこの言葉と共に私も含めこの場に居るプレイヤーが声を上げる。ノリが良いと言うか、単純にボス戦と言うことで奮い立っているだけなのか。私は少なくとも後者に入る。


 声を上げている人たちも扉が開き始めると皆押し黙る。そして扉が開き斬ると同時に行動を開始する。ボスは部屋の中央にたたずんでいるのでそれを円を書くようにして前衛が囲む。部屋の4辺の所には3人1組で魔法職のプレイヤーが並ぶ。どちらにも含まれない人は少数だが、これが遊撃をする人たちだ。


 そして、問題のボス…見た目は恐竜―――ティラノサウルスを想像してくれると早いかもいしれない。実際はもう少し見た目が違うけど大体そんな感じだ。全長は15メートルほどとやや小さいけど皮膚は堅そうだし牙や爪なんかは鉄製の鎧でも易々と引き裂いてしまいそうだ。


「戦闘態勢、前衛、攻撃準備!タンカーは前に出なさい!」

「「「了解!」」」

「後衛はいつでも魔術を使えるように準備しなさい!」

「「「はい!」」」


 指揮を執るのはサクラお姉ちゃんだ。指示に対して素早く対応する。攻撃するのは常に敵の背後をとっているプレイヤーで、敵の前方に位置するプレイヤーは陣形を大きく崩さないように回避と防御をする。ある程度はタンカーの人が捌いてくれるとは言え、余波は来るだろうし、受け流した先に自分がいるかもしれない。そういうところに気をつけながら敵の隙を窺う。私は今敵の前方に居るのでこれが当てはまる。


「《ライトニングブレイド》!」

「《パワースマッシュ》!」

「《一閃》!」


 攻撃をしているプレイヤーの方からそれぞれのアーツの名前が聞こえてくる。中には聞いたことの無いものもあるので気になるけど、今はそれどころじゃないんだよね。後で詳しく聞いてみよう。左に跳ぶ私の元いた場所を巨大な鉤爪が通り過ぎる。あれにあたったらダメージすごいんだろうなぁ…。


 他のプレイヤーが後ろで攻撃をしていたからか、私たちの方ではなく後ろを向こうとする。尻尾はそこまで長いわけではないので回避行動をとるほどでもないけど、近くに居たら当たってしまうであろうくらいには長さがある。


「《クレセントセイバー》!《シールドバッシュ》!」


 いつもの、近くで《クレセントセイバー》を打ってから《シールドバッシュ》で相手にダメージをあたえつつ、距離をとる攻撃をする。


「《ブレイブソード》!」


 まだ浮いている途中で私の下をビームか何かと間違えるような剣による一撃が通り過ぎる。その攻撃は前方にいるボスに吸い込まれていく。攻撃が当たった直後は光に包まれたがそれが晴れると体に大きく一筋の傷をつけたボスが憎たらしげにこちらを見ている。今の攻撃で完全にこちら側に注意が向いたようだ。


「すいません、大丈夫ですか?」

「いや、私には当たってないけど、ボスがこっち向いてるんで話してる場合じゃないと思います」

「そうですね、ではまたあとで」


 今の技を打ったのであろう金髪で碧眼の王道な感じの男の人が謝ってくる。特に気にすることでもないと思ったので適当に対応しておく。それにしてもダメージを与えたのは良いけどちゃんとこの後の対応が出来るのだろうか、一応反撃はせずに回避に専念するけど暫くは私は攻撃できないだろうな。


「《ヒール》!」

「すまない、助かる」


 近くにダメージがじわじわと蓄積しているタンカーの人が居たので私じゃ気休め程度にしかならないだろうけど回復魔術を使っておく。MPもそこまで多くないので《ヒール》1回で5パーセント位持っていかれるのが厳しいな。


「おおっと!」


 危ない、魔術を使うためにボスから目を離していたらいつの間にか近くに居たようだ。遠目からでも大きいのに近くで見ると尚更だ。良い感じの威圧感をしている。まるで起こった時のサクラお姉ちゃんのようだ。


「っとと!」


 鉤爪による重い攻撃を何とか盾で受け流す。受け流した手に痺れが残る。タンカー見たいな大盾ならやりやすいけど、動きに重点を置く私は持っていない。ちらほら戦線離脱している人がいるのを見ると攻撃が当たってなくても余波とかでダメージを受ける人がいるようだ。例えば後ろで尻尾に吹き飛ばされているセイヤさんとか。


「《ライトヒール》!」


 盾で防いでもダメージが若干通るようなので細かく回復していく。後ろでは爆炎がボスにあたっているのを見るに誰かが回復から攻撃に移ったようだ。そう言えば、サクラお姉ちゃんは何をしているんだろう。《魔術:回復》のスキルはとってないから攻撃しかできなかったと思ったけど。そう思ってサクラお姉ちゃんを探してみる。


「見っけ」

「あら、どうしたの?」

「何してるのかな、って。いつもなら攻撃するのに、魔術の攻撃がボスにほとんど使われてないから」

「そうねー、じゃあ少し待ってね」


 そう言って説明するより見せたほうが早いと思ったのかサクラお姉ちゃんが詠唱を始める。詠唱が終わると私に向かって手をかざす。


「《アクアエンチャント》!」


 呪文を唱えると私の武器に青っぽい光が灯る。今エンチャントって言ってたから何か効果を付けたのかな。


「で、この通りレベルが25になったから仲間の武器にエンチャントが出来るようになったのよ。今つけたのは水属性ね」

「へー、でもあのボスには何の属性が良く効くのか分からないよ?」

「私は知ってるのよ。実験がてら来た道を戻って魔物を狩ってたくらいだもの」

「だから、私たちとあそこで合流したの?」

「結果論だけど、そうなるわね。その狩りの時に各魔術スキルのレベルが25になったわ」


 なるほど、暇な時間さえあればなんか色々やるからなぁ、サクラお姉ちゃん。今回に限ってはそれに助けられたから不満は無いけどね。


「じゃあエンチャントの効果が切れる前に早く行ってきなさい。今なら注意が他の場所に向いてるわ」

「了解!」


 サクラお姉ちゃんとの会話を終えてボスに突撃する。最初のころより動きが鈍くなっているのでダメージが蓄積しているのだろう。もうすぐ倒せるかな。


「《ライトニングブレイド》、《クレセントセイバー》!」


 ボスの背後、上からアーツを使い剣を振り下ろす。そのまま着地し、剣を振り上げる形で別のアーツを使う。そのあとはバックステップで距離をとる。ボスの注意はまだ他のプレイヤーに向いたままだ。と言うよりはさっきの強力なアーツを使った人でもう固定されているのかもしれない。


「《ブレイブソード》!」


 さっきと同じ攻撃が、今度は縦に振われる。何度見ても豪快な攻撃だなぁ。《剣》スキルを育ててればそのうち習得できるんだろうけど、消費MPとか多いんだろうな。あの人もMPの消費が多くて連発していないのかもしれない。光が晴れると、横に倒れてもがいているボスの姿があった。その近くには尻尾が転がっている。どうやら、今のはあたった場所が尻尾の付け根だったのだろう。これが某ハンティングアクションなら素材を回収するところだけど、魔物からはぎとれるようなスキルは無い。


 一応、このゲームは魔物を倒すと戦利品が手に入るけど、一部のスキルでその報酬を増やすことが出来る。そのうちの1つがはぎ取りを可能にするスキルだけど私は持っていない。


「良し、チャンスだ!」

「よっしゃー!突っ込むぜー!」


 誰かがそう叫ぶと一部警戒する人を残してほとんどのプレイヤーが攻撃に転ずる。遠くから見ると爆発とか、光ったりとかしてるからギャグ漫画の世界にいるみたいである。そんなチャンスも長くは続かず、ボスが振り子のように起き上がると何人かがこっちに吹き飛ばされてくる。突撃するときもギャグ漫画なら吹き飛び方もギャグ漫画である。


『GYAOOOOOOOOO!』


 起き上がったと思ったら突然咆哮を上げる。突然の大きな音にこの場にいるプレイヤー全員が耳を塞ぐ。そして次に取った行動は、突進。巨大な質量を持つ体の進む先は尻尾を切り落とした一撃を放ったプレイヤーへと向かっていく。彼はさっき吹き飛ばされたのか壁のすぐ近くにいる。近くに居たプレイヤーは避難を完了しているが、彼はまだ立ちあがっていない。周りのプレイヤーが妨害しているが、そんな物は気にも留めない様子で突進を続け、プレイヤーを巻き込み壁に突っ込んで砂埃が撒きあがる。


 …1分くらい経っただろうか、砂埃が晴れると戦利品ウィンドウが出る。どうやら壁にぶつかったときにHPが尽きたらしい。何人かが突進に巻き込まれたと思われるプレイヤーを探そうとまだその場にあるボスの死体へと向かうと顎と胴体の隙間から変わりのない金髪碧眼のプレイヤーが這い出てくる。すっと立ち上がると腕で額を拭い、


「ふー、危なかった」


 と、一言。何とも肝が据わっていると言うか、どんな状況も楽しめるような性格でもしているのだろうか。少しでも心配した自分が馬鹿らしくなってくる。中にはイラッとしたのか効果音を叫びながらパンチをする人もいた。


「ふふ、楽しそうで良いわね」

「そうだね」


 いつの間に近くに来たのかサクラお姉ちゃんが話しかけてくる。その目線は騒いでいるプレイヤー達に向いているようである。


「それよりも、あのボスが崩した壁の先に空間があるみたいね」

「ん?本当だ!」


 他のプレイヤーもちらほらそれに気がついたのか視線がボスの壊した壁の先に向いている。サクラお姉ちゃんはボスの死体を踏みつけながら壁の奥へと入って行く。











 壁の奥、明かりは無く暗いと言えば暗いけど、明かり灯す魔術を使ってくれる人がいるのでその奥にあるものも見えている。


「宝箱…かな?なんか大きいけど」

「そうでしょうね」

「サクラさん、開けますか?」

「ユズに任せるわ」


 いきなり私に重要に思える役目を押し付けるサクラお姉ちゃん。まあ私ならやることは決まってるけどね。


「よいしょ!」

「躊躇い無く開けるんやな、ユズは」

「お、中身たくさん」


 宝箱を開けると中にはたくさんのアクセサリーやら金貨やらが入っていた。それをバケツリレー方式で壁の奥の部屋の外に運び出していく。それを暫く続けていると何かが手に触れる。温かさがあるのでいきものだろうか、その周囲の物をどかしていく。すると…


「モミジお姉ちゃん?」

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