第25輪
セリカに言われて思い出した宝箱にもう1度視線を向ける。開けたまま中身をまだ見ていない宝箱。何が入っているのか、期待に胸を膨らませつつ中をのぞいてみる。
「ん、何だろう、これ」
「何が入っていたんですか?」
中をのぞき、何かが見えたので手を伸ばしてそれを手に取る。触った感じは紙みたいだけど…。
「巻物…かなぁ?」
「ようわからんもんが出てきおったなぁ」
出て来たものは丸められた…羊皮紙って言うのかな?私がよく知るような紙とは全然触った感じが違う、どことなく某映画で見たようなものだった。
「ちょっと借りるわよ~」
「あ、ちょっと勝手に取らないでよ、カリナちゃん」
「うふふ~気になったんだから仕方が無いわ~」
私が丸まった状態のままの紙を眺めていると私の上から手を伸ばしてカリナがそれを取ってしまった。嬉々としたような様子でその紙を開いていく。何が書いてあるのか、中身を見た途端カリナの表情が訝しげなものに変わる。
「…魔法陣見たいなものが2つと、それを繋げるように真ん中に線が1本引かれているわね」
「何それ?」
「ちょいと、借りるで」
「ええ」
ユカの言葉にカリナが手に持っている紙を特に何も言わずにユカに手渡す。ユカもそれを手にとって、眺め、少し考えるような素ぶりを見せてから、
「やっぱ、わからんわ。姉さんならもしかしたら何かピンと来るものがあるかもしれんなぁ…」
「ユミちゃんは何かわかる?」
「覗いてみたけど、何も」
結局この宝箱から出てきた物はこの場に居る誰も一体何なのかさっぱりだった。後でお姉ちゃんに見せてみよう。この魔法陣の2つ描かれた紙は私が回収しておく。イベントとは関係ない便利アイテムかもしれないしね。
「じゃあ、進もっか」
そう言ってから皆でその部屋を後にするのだった。
「暫くは一本道が続きそうやなぁ」
「そうだね、魔物の数も増えてきてるし、この一本道で魔物が大群で来たら少し厄介だね」
さっきの部屋をでて進むこと十数分。奥に行くにつれて魔物の数も増え始めている。そろそろ遺跡に入って30分くらいかな、モミジお姉ちゃんたちは何してるんだろう。分断されたことには気付いていると良いけど。
「…2匹、前から魔物」
「了解よ~」
この一本道を進み始めて何度目かの魔物が出てきた。良く出てくるのは周りの壁と似たような模様をした、カメレオンのような魔物と石のように硬い皮膚を持つアルマジロ見たいな魔物の2種類だ。どちらも火属性に耐性があるようで、カリナの《狐火》の効きが良くなかったのを覚えている。
「今回は何?」
「カメレオン」
「じゃあ、ユミの《警戒》が役に立つね」
「任せて」
結構物静かだけど、揺らぐこと無くきっちりと自分の仕事をやるところには好感が持てる。種族がエルフなので基本的に無口なのはロールプレイかもしれないけど、そうだとしてもここまでやりきれるのはすごいと思う。そのうち皆とオフ会でもしたいなぁ、そんなに遠くに住んでいるわけでもないみたいだし。
「右側の壁から、来るよ」
「分かった。どこにいるかわからないけど、《クレセントセイバー》!」
壁に這わせるように《クレセントセイバー》の刃を放つ。見分けは付きづらいけど、どうやら当たったようで、《クレセントセイバー》のエフェクトが途中で消えたのと、勝利ログが視界の端っこに出たので無事に1匹は倒せたのだろう。
「2匹目、正面」
「《投突・爆短剣》!」
何となく居場所を察したらしいセリカがアーツで短剣を投げる。それが空中で静止したように見えた途端、爆発する。見事に当てて見せたようだ。私だったら外してそうだなぁ。
「倒せましたか?」
「うん」
《警戒》スキルで見えるらしいミニマップに敵影が無くなったようで、ユミが短く返事をして頷く。便利そうだし私も取ってみようかな、でもスキルポイントは溜めておきたいしなぁ…。
「この先はまた曲がり角のようですね」
スキルをどうしようか考えていると、セリカが道の奥を覗いてそう呟く。結構暗いけど、アーツの爆発の時にチラっと見えたらしい。なかなか視野が広いと言うのか、観察力があると言うべきなのか。
「何と言うか、爆発で明かりが出来るところまでは考えられなかったな、私」
「利用できるものはしておきたいですから。ユズさんも、もしかしたら意外な物が意外なところで役に立つかもしれませんよ?今は使い道のわからない物でも、後々に利益を上げるかもしれません」
「随分前にモミジお姉ちゃんにも同じようなことを言われたような気がする…」
モミジお姉ちゃんも、面倒くさがりな割には、今よりも楽をするために大変なことや面倒なことをすぐにやっている気がする。今年の夏休みの宿題なんかが良い例かもしれない。夏休みをずっとダラダラするために学校で宿題を全部やってしまうなんてやる気があるのか、面倒くさがりなのか全く分からない。
「モミジさんなら言っていてもおかしくは無いですね。あの人はあの人で別の意味で言ったのかもしれませんが」
「姉さんは何考えてるか分からんところが時々あるんよなぁ、1日目の時、単体であの熊を相手取る言うた時は正気を疑ったほどやで」
「モミジお姉ちゃんはテンション上がったり、流れに乗っているときとかは良くわからないこと言ったり奇妙な行動をしたりするからね。仕方が無いと思うよ」
「モミっちの奇妙な行動?」
「うん。具体的には言わないけどね」
やはり、と言うべきかカリナがお姉ちゃんの事に食いついてきた。カリナが興味深そうにこちらに何とも言えない眼差しを送ってくるけれど、流石にこれを話したらお姉ちゃんに何されるのか分からないから黙っておく。…そんなにキラキラした瞳をしても駄目です。
「じゃあ、とりあえず先に進みましょうか。ユミさん、先ほどから《ライト》でMPを使っていると思いますが、大丈夫ですか?」
「問題ない、戦闘の間は休ませてもらってるから」
「分かりました」
それだけ確認すると、ユミの《ライト》を頼りに正面に進み始める。そのまま曲がり角を曲がるけれど、特にこれと言って変わったものは無かった。奥に行けば行くほど暗闇が広がっているようで、終わりが見えないので少し疲労感が出てきた。満腹度もスタミナも問題は無いので、精神的なものだろう。モミジお姉ちゃんだったら《暗視》スキルでこの先も見渡せるんだろうなぁ、限度はあると思うけど。
「連絡するはずの時間まであと20分くらいですか。進める所まで進んで1つでも多くの情報を手に入れておきたいですね」
「それには同感や、かといって注意を疎かにしたらアカンで。人間焦ってる時が一番危ないでな」
「あー、ローグライクゲームでモンスターハウスを乗り切ったと思ったら、フロア内を対象にした攻撃でやられちゃうとか、そういう感じかな」
「あれは何度やられても慣れないわよね~」
他愛も無い会話に一部重要そうな話を混ぜつつ、できるだけ急いで先に進んでいく。暫く進んでいると、先頭に立っているユカがふと立ち止まる。後ろ姿なので表情は分からないが、何か異常を発見したのかもしれない。
「どうしたんですか?急に立ち止まって」
「いや、ちょいと何か聞こえた気がしてなぁ、気のせいやったんかな」
「私は何も感じなかったよ?」
「私もよ~」
ユカが何があったのかを話してくれたけれど、思い当たるものが無い。他のみんなも同様で、ユミも口にはしない物の頷いている。
「案外この地面の下にあったりするかもしれませんね。ここは正攻法で階段を見つけるのが先決でしょうか」
「せやなぁ…、降りるんやったら移動手段を探した方がよさそうやな」
セリカが冗談のように言うが、ユカは割と真剣に考えているようだ。確かにダンジョンともなれば地下とか別の空間のようなものがあってもおかしくないかもしれない。ロマンを求めるなら古代文明の遺産とかその辺だろうか。壁画とか、封印されたレイドボスとか、これを文明と言ってもいいのなら古代文明の遺産になっちゃうんだけどね。
そのまま進むこと数分。目の前に迫った扉の前で再び足を止める。
「久々に来たね、この扉。向こう側には何もいそうに無いけど、開けるよね?」
「もちろんです」
「じゃあ、どーん!」
セリカが頷いてくれたので私が先頭に立って、扉を蹴り開ける。壊れることは無かったけれど、両開きの扉は開き斬った後に壁で跳ねて、その衝撃で少し戻って来た。
「相変わらず、変な開け方するわね~、折角可愛いのに、勿体ないわよ?」
「サクラお姉ちゃんの方が良いよ。私よりも頭いいし」
「そういえばそのサクラさんって人に会ったこと無いですね…」
「今は別行動してるからね、そのうち紹介するよ」
どうでもいい話しをしながら開かれた扉をくぐると、扉が勢いよく閉じる。慌てた様子でユミとカリナが扉を押すが開く様子は無い。閉じ込められてしまったようだ。と、呑気にそんなことを考え始めると、ユミが声を上げる。
「強敵、上から来る!」
「上ですか!?」
ユミの言葉に上を向くと狼のような形をした、金色の毛並みの獣が垂直であるはずの壁を物ともせず駆け下りてくる。私たちを同じ高さまで来ると、正面に立ち1つ遠吠えを上げる。まるで空気が揺れているような錯覚を受ける。
「せ、戦闘態勢に入ってください!」
「了解!」
セリカの声に私も竦んでいる状態から立ち直り、いつものポジションと武器を構える。私とセリカが前衛、中衛がユカとカリナ。後衛がユミである。
私たちが武器を構えるのを待っていたかのように、狼が動き出す。壁を利用して立体的な動きで中衛を狙ってくる。そこを私が受け止める。
「《シールドバッシュ》!!」
「平気ですか?ユズさん」
「うん、ダメージが少し通ってるけど、このくらいなら問題ない。それよりも、後衛のユミを前衛の私たちの後ろに!これだけ速いと厳しいかもしれないから」
「了解や、ユミこっちや!」
突然出現した強敵に多少の戸惑いを覚えるが、皆すぐにいつもの対応の速さを見せてくれる。これだから心強いのだ。
もう1度正面に構えなおすと、今度は私めがけて突進をしてくる。衝撃に備えるべく、腰と一緒に重心を落として盾を構える。…しかし、これが間違いだったようだ。
「えっ!?わわっ」
急に狼が跳ねたかと思うと、物理法則を無視したような動きで私の地面に突っ込みそのまま床を砕く。もちろん、立っている場所を崩されてしまえば重心が低かったのもあって耐性が崩れる。そのまま狼が私めがけて突っ込んでくるのが見える。このままではリタイアになってしまいそうだ。
「そこで質問です。この完全に崩れた姿勢でどうやってこの攻撃をかわすか?1つ、先ほど可愛いと言われた私は突如反撃のアイデアがひらめく。2つ、近くに居る仲間が助けてくれる。3つ、かわせない。現実は非情である」
「ユズさん、その状況で貴女は急に何を言っているんですか!?」
答えを予想してくださっても良いんですよ?(チラッ




