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第24輪

―――side Yuzu―――


「いや~、結構まずいんちゃうか?」


 モミジお姉ちゃんたちが入ってから少し後に遺跡に入り、とある部屋に辿り着いたときに前を歩いていたユカが話しかけてくる。言葉とは裏腹にその軽い口調のせいで緊張感がイマイチでてこない。


「確かに魔物は多いかもしれないけど、大丈夫だよ」

「いや、モミジさん達を分断されてしまったのは少し厳しいものがあると思います」

「気にしすぎても仕方ない」

「うう…モミっち…」


 皆の反応もそれぞれかぁ…、セリカもいつもと比べて少し焦ってるような気がするし。遺跡に入ってからユミの《警戒》スキルでお姉ちゃん達を探してもらったけど、反応が無いってことは多分近くには居ないんだろうなぁ。カリナなんか涙目になってるし。


「今は先に進んでしまいましょう。先に進んでいればいつか合流できると思いますし」

「ぐす…、そうね、絶対会えるわよね」

「カリナさんは本当にユズのお姉さんの事が好きなんやなぁ」

「当たり前よ、あの可愛さの破壊力は計り知れないわ。寝ているところなんても国宝級よ。それに…」

「そろそろ黙って」

「むぅ…」


 カリナってお姉ちゃんの事になるとすごく饒舌になるんだよね。いつもの間延びした感じもしないし、クールな図書館の司書みたいな感じ。そういうところは良いと思うんだけどお姉ちゃんと一緒に居る時との緩んだ表情とのギャップがまた面白い。どうしたらあそこまで性格が変わるんだろう。


「ユカ、その扉の奥から魔物」

「はいな、いくつ?」

「3匹。さっきと同じ」

「遺跡の魔物って隠れるから厄介よね~」


 喋りながら歩いていると《警戒》スキルに反応があったのか、ユカが教えてくれる。目の前の石の扉の先に居るらしい。さっきと同じなら、耐久力が高いだけの〈ブラックスネーク〉かな。体が比較的小さい上に黒いから影に居ると見分けがつきづらいのと、遺跡だけあって壁とか瓦礫とかがあってそういうところに隠れられて厄介なんだよね。


「じゃあ、開けるで」

「開けたらすぐに下がってね」

「分かってる、せーの、ほいっ」


 扉を開けた先の部屋は正面に崩れた天井があるだけでそれ以外には特に目が行くようなものは無い。あの影に隠れてるんだろう。ユカが魔術の詠唱に入ってるから、範囲攻撃でおびき出して私とセリカが近接戦で倒す。大体の魔物はこれで倒せるから今のところ多用している戦法だ。


「よし、行くで。《フレア》!」


 ユカが魔術を使うと前方数メートルに炎が放たれる。範囲がそれなりに広いからダメージ自体はそこまでないけど、火傷になったり炎の上に居る間継続的にダメージを受けるし、近づいてこれなくなるから敵にまわった時に相手にしたくないと思う。


「そっち言ったで!」

「うん!《シールドバッシュ》!《ライトニングブレイド》!」


 火の熱さに耐えきれずに飛び出してきたところを盾のアーツで弾いてから発生の早い剣のアーツで斬る。地面に落ちたところでセリカが少し手こずりながらも短剣で頭を刺していく。今回はこれであ押せたようだ。倒せなかったらカリナに攻撃してもらってたし、ユミにも攻撃に参加してもらってた。


「見事な手際です、ユズさん」

「セリカの方がすごいと思うんだけどなー」


 セリカが私の事を褒めてくれるが、良く敵の事を見ていればそんなに難しいことじゃないと思うんだよね。どちらかと言うと、敵の頭を正確に突くセリカの方が良い動きしてると思うな。…もしかしたら暗殺者とか出来ちゃうかも。


「最近出番がないわ…」

「ボス戦、頑張ろう」


 なんだか落ち込んでいるカリナの頭をユミがよしよししている。仲が良いのは良いことだってお姉ちゃんが言ってた。






「次の分かれ道、右に敵」

「じゃあ左に行こっか」

「了解やで」


 分かれ道が見えたところでユミが敵の居る方を教えてくれたので敵が居ない方を選んで進んでいく。どこまで続いているのか、終わりもどこなのか分からないのに余り戦闘をし過ぎるのは良いとは思わない。ローグライクでも避けるところは避けるのは重要だからね。


「あら、扉しかないわね~」

「ユミさん、この奥に敵は?」

「反応は無い」

「じゃあ開けるよ」


 少し進んだところでさっきと同じものに見える石の扉に突きあたった。分かれ道も無いのでこの奥に進むしかないだろう。さっきの分かれ道のところまで戻ってこっちとは反対のところに進んでも敵が多いし、それで行き止まりだったら危ないし。


「…何もないね」

「3方向に分かれている、と言う点以外ではそうですね」


 扉を開けると何かが居るわけでもなく、正面と左右に良い魔開けたのと同じような形の石でできているように見える扉がある以外は特におかしな所は無い。


「どっちに行こうかしらね~」

「せやなぁ…」


 いきなりの分かれ道と言う状況に皆が考え込んでしまう。ここで皆で分かれて進むなんてことはできない。こういうときは行く方向は大体決まってるんだけどね。


「じゃあ、右に行こっか」

「右、ですか?」

「自分は左に行こうと思うとったところなんやけど…」

「私もよ~」

「大体の人は迷った時に左に行こうとする人が多いから右の方が安全だってク○ピカが言ってた」


 分かれ道で困った時のク○ピカ理論。これは確かに言えてることかもしれない。私もゲームとかだと良く左に進んで罠にかかったりしてたから今はこの理論に大賛成だったりする。このことを私に教えてくれたのはモミジお姉ちゃんなんだけどね。


「まあ、そこまで言うんやったらそうしよか」

「ん、賛成」


 皆も賛成してくれたので右の扉を開けて先に進む。思った通り、この先も通路になっていて、先のほうは真っ暗になっていて行き止まりは見えない。


「ん~、こらひたすら進むしかなさそうやなぁ…」


 通路の方を見ながら言葉では言い表現するのが難しい表情でユカが呟く。終わりも見えないからユカの言っていることはもっともだと思うけど、出来れば早めに攻略して脱出したい。


「まだ先は長そうですね、急ぎましょう」

「うん」


 いつも通りの真面目な表情をしているセリカが考えたことを口に出しながら進んでいく。こういうときも変わらずに進める人は頼れる人だと思う。お父さんとお母さんもそんな感じだと思うけど、あれはまた別物な気がする。と言うより、何かをやり始めたらやり遂げるまで人形みたいにやり続けるから少し怖い。普段はあんなに笑ってたりするんだけどなぁ…。


「どこまで続いてるのかしらねぇ…」

「知らない」


 扉の先の通路を進んでいると後ろからカリナとユミの呟きが聞こえてくる。この場に居る全員が思ってるんだろうけど、口に出されると結構来るものがある。そう思ってくると早くこの遺跡から出たいなぁ。






「道曲がったところに扉見っけたで」

「本当?」


 あれから少し経って、魔物を倒しながら進んでいるとユカが扉を見つけたらしい。角を曲がったすぐ近くにその扉はあった。この扉も他の扉と何か違いがあるわけでもなくやはり石の扉だ。同じようなところにたくさんあったらどれを開けたのか分からなくなりそう。


 そんなことを考えているうちにもう扉を開けてしまっていたようだ。皆が開けた扉を通った向こう側に居る。置いていかれないうちに私も急いで付いていく。


「ユズさん、宝箱のようなものを見つけたんですが、どうします?」


 扉の先の空間に入って少しすると、セリカが私に話しかけてくる。


「宝箱かぁ…持ち運びはできる?」

「無理みたいです」

「んー、とりあえず開けてみよっか」

「ちょい待ち、魔物だったらどうするんや」


 宝箱の前で話している私たちの会話を聞いたのかユカが話に入ってくる。確かに、宝箱を開けたら魔物が出てきた、とか宝箱そのものが魔物だったって言うのは有名な某RPGでもよくある話だけど、それも含めて冒険だと思う。このことをユカとセリカに伝えると、


「随分とまあ、勇気があると言うか、無鉄砲と言うか…」

「こういうのはいのちをだいじに、で行きたいんやけどなぁ…」


 と、少し呆れながらも賛成してくれた。カリナとユミは別の同じ部屋の別のところを探索しているようだ。こちらに視線は向いていない。


「じゃあ、開けるよ」

「少し待ってください、離れますので」

「自分も離れさせてもらうで」

「信用してないな~?」


 宝箱を開けようとするとセリカが慌てて離れる。ユカも同じように離れる。2人とも少し臆病な気がする。2人が離れたのを確認してから宝箱の上の部分を蹴りあげて開ける。蹴った時に取っての部分が壊れて、その周囲が砕けてしまった。すぐに構えて様子を見てみたけど、何も無さそうなので、近づいて中身を確認する。


「ユズさん、何も居ませんか?」

「魔物は居ないし、宝箱も魔物じゃないよ」

「何の音かしら~」

「魔物?」


 少し大きい音がしたからそれを聞いてきたのか、さっきまで探索を続けていたカリナとユミがこっちに来る。


「ちゃうで、ユズが宝箱蹴り開けた音や」

「ユズっちはいつも激しいわね~」

「そうかな?」

「ユズさんが油断してる時魔物飛びかかって来た時とか、反射的にものっそい形相で魔物の事を上に向かって蹴り飛ばしたりとかしてたやん。ああいうのは傍から見ると色々と怖いもんがあるで」


 …そういえばあったなぁ、そんなこと。その時の事を思い出したのか、ユミも深く頷いている。まあ反射だし、仕方ないと思いたいんだけど…。


「少しはおとなしければ、ユズっちも魅力的なのに~、そうしたら姉妹ど―――にゅ゛っ」


 カリナが最後の一言を言いきる前にエルフ、それも魔術を主に使っているような人とは思えないようなユミの鋭いパンチがカリナの顎を撃ちぬいた。そのままカリナは床に倒れ込んだけど、すぐに起き上がったので大丈夫そうだ。


「最後になんて言おうとしたの?」

「それはね…」

「おかわり、いる?」

「…丁重にお断りさせていただきます」


 カリナに最後なんて言おうとしたのか、聞こうとしたのに、ユミの一言で黙ってしまった。お姉ちゃんに聞けばわかるかな?今度聞いてみよう。


「皆さん、コントをやるのは良いですけど、宝箱の事そろそろ確認してください」

「あ、忘れてた」

2週間って短いようで長くて、やっぱり短いんですね。もう少しで間に合わなくなるところでした。


感想、その他、色々と受け付けてます。

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