第23輪
「…ここだな。多分」
「まあ、見た目からしてそうなるだろうな」
石が積まれてできた古い建物。見たところ、余り広い建物には見えないけれど、地下に向かって伸びているのだろう。入口からはやけに冷たい風が吹いてきている。
「で、どうする?入る?」
「ユズ、遺跡に来たのに中に入らなかったら何のために来たのよ」
「言ってみただけ」
ユズが最後の確認とも取れることを言ってきたが、本人はそこまで深く考えていないだろう。特に何かを気にしている顔をしているわけでもないし。
「じゃあ、一応2グループに分かれるか?」
「大勢でいきなり乗り込んで何かあったら困りますし、それもいいですね」
ユージの意見にセリカが同意する。遺跡の内部がどのくらいの広さになっているのか、通路はどの程度の広さなのか分からないけれど、全員がまとまるより、複数のグループで分かれるのは悪いことではないとは思う。
「皆が良いなら、私はそれでいいわよ~」
「私も」
続いて、カリナとユミが首を縦に振る。大体ここまで来ると皆流れで肯定するので早く決まるから良いと言えば良いのだが、個人の意見が聞けないのが少し残念に思ったりする。
「じゃあ、最初に組んでたパーティーで分かれよっか」
「せやな、丁度同級生で分かれることになるし抵抗もなさそうやしな」
「了解」
パーティーの別れ方はユズの案で行きましょう。無いようであった歳の差の壁が気になってはいたし、ここはこれで妥協するべきだろう。そのうち会話の間のそわそわした雰囲気が無くなるといいのだけど。
「じゃあ、私たちが先に行きましょうか」
「わかった。モミジ、お前真ん中な」
「…うん」
いざ行こうと言う時に出鼻をくじかれた気がする。出来れば気のせいであってほしい。
…ということで私たちのパーティーは前からセイヤ、ミオ、私、そしてユージだ。夜まではまだまだ時間があるせいで力が発揮できないのと、レイドボス戦での貴重な戦力を失う訳にはいかないと言う理由によって私は真ん中である。…別の意味がある気がしなくもないけれど。
「中は結構暗いな…敵が出てきたら厄介そうだ」
「じゃあ《ライト》発動しておくね」
ユージの呟きに反応したミオが《ライト》を使う。攻撃力は無い代わりに探索の時に重宝すると言う点で探索にはほぼ必須スキルとなっている。《暗視》は自分の居場所が目が光るせいで相手にわかってしまうと言う点で人気が無いらしい。《ライト》よりはMPの消費が少なくて戦士とかでも使えて便利なのに。
『お姉ちゃん、ちょっといい?』
「何よ?」
ユズが突然チャットを入れてくる。恐らく言い忘れたことでもあったのだろう。
『これから遺跡の中ではチャットで連絡取ることにしたから、伝えておこうと思って。他の皆にも同じようにチャットで連絡入れてる』
「分かったわ。じゃあ、必ず1時間に1回くらいは連絡を入れるようにしましょうか。その他、何か重要なことがあったりしたらお願い。あと、繋がらなくなったら何かあったと思って頂戴」
『うん』
チャットが切れる。ユズにしては考えている方なのかしら。そういえばサクラ姉ぇとは一度も連絡取ってなかったわね…。まあ、心配しなくてもあの人は大丈夫ね。私よりも頭の回転早いし。
「モミジ、そっちにもチャット来たか?」
「来たわ。遺跡内ではこれで連絡するって言ってたけれど」
「私もきたよ」
「俺もだ」
ちゃんと全員に来ているようね。問題は無しと。稀に連絡先が分からないから連絡しなかったという話を聞くことがあるし、この辺は確認が重要なのよね。
「じゃあ、改めて行くぞ」
「先頭は任せたわよ」
「わかってるわかってる」
一番丈夫そうだからという理由で一番前にさせたセイヤが何とも緊張感の無い返事を返してくる。一応このイベント内では最高難易度かもしれない場所なのにこんなに気楽でいられるのはセイヤが阿呆だからか、それとも自分の強さに自信を持っているのか…、恐らく前者なのだろうけれど。
「なんか失礼なこと考えてるよね、モミジさん」
「ミオは勘が鋭そうね」
「そこそこ、ね」
考えていることをなんとなくではあるが、ミオに感じ取られてしまったらしい。貴女のような勘のいい人は苦手よ。母親は私の考えたことを完全に言い当てるけれど。
「魔物が居ないな、先に遺跡の中に入ったプレイヤー達のおかげかな」
「恐らくそうなんだろうね、戦わなくて済むのは確かにいいことなんだけど私たちのレベルが上がらないって意味だと少し複雑な感じもするんだけどね」
遺跡に入って十数分経過したと思うけれど、魔物が居るような気配は無い。《警戒》にも反応はない。しかし、プレイヤーの反応も無いのは少し不気味な物がある。今は大体昼ごろかしら。朝食が少し遅かったせいか、満腹度も酷くは無い。
「モミジ、周りには何も居ないな?」
「ええ、プレイヤーも含めて反応は無いわ。居るとしたらジャミングでもされているのでしょうね」
「…道が長すぎて同じところを周ってる気分だよ、俺は」
「1度も曲がってないからそれは無いと思うけど?」
更に進んでいると、それぞれ暇になって来たのか歩きながら駄弁り始める。緊張感も薄れてきてしまっているのは少し危ないわね。いい加減に何かしらあると、嬉しくは無いけれど安心はできるのよね。
「ユズ達はどうなってるかしら?」
「連絡は来ないし、まだ1時間も経ってないだろ?チャット入れるには早くないか?」
ユージの指摘に言い返すことが無い。あのチャットを切ってからまだ30分も経ってないし、一本道なのだから私たちの後ろに付いてきていることになる。これと言った変化も無く、定時連絡以外でチャットを繋げるに値するような情報も、それが手に入る兆しも無い。…軽い詰みかしら?
「よし」
頭の中で色々と考えていると、ユージが急に声を上げる。
「何よ、急に」
「一旦戻ろう」
「な、何言ってんだ?ユージ」
ユージの出した提案に真っ先にセイヤが反応する。
確かに、いきなり戻ると言われればそういう反応をするのもわかるけれど、私としてはここまで何もないなら一旦戻ってみるのも1つの手だと思っている。
「落ちつけ。一応理由を説明するから。で、戻ろうと思った理由だが、ここまで進んでみて何も無いって言うのがまず1つ。次に、もしかしたらこの遺跡の構造は入るたびに違うんじゃないかと言うのが1つ」
「何でそう思ったの?」
「少し掲示板を見たんだがな、内部の地形の情報がバラバラな上にどの情報提供者も自分の行ったときにそんな場所は無かったって言っているんだよ」
「なるほどね。それで一旦出て、もう1回入ったら今度は一本道じゃなくてもっと別の形になっているかもしれないってわけね」
「まあ、そういうことだ。で、一応もう1つ理由はあるんだが、戻ってから話す」
「ここで言うんじゃ駄目なのか?」
「まあな」
ユージが話を切ったところで進行方向を逆にし、ユージが先頭になって来た道を戻る。
「…外だね」
「ああ、外だな」
「やっぱりか…」
戻り始めて5分と経たないうちに外に出た。もしかしたら3分すら経ってないのかもしれない。
「さて、説明頼んだわよ?ユージ」
「ああ。簡単な話だよ。RPGのゲームをやったことあるならわかるかもしれないが、俗に言う無限回廊って奴だな」
「無限回廊って?」
「ある特定の条件を満たすか、決められた順序通りに進まないと入口に戻されるか、いつまでも同じところを進み続けるって感じの、迷路みたいな物かな。今回は後者で、真っ直ぐ進んでいるつもりでもある程度進んだところで戻されてたんだろうな」
ユズとサクラ姉ぇもいつだったか無限回廊が云々言ってたわね。何のゲームだったかしら…ファ○コンで発売されていた、あるシリーズ物の1作目だったような…。まあ、今はどうでもいいわね。
「結構時間を無駄にしたな…でそろそろ連絡のある1時間まで残り30分とちょっとか。もう1回入ろうぜ」
「そうしよっか」
「俺もそれでいいけど、モミジはどうなんだ?」
「私も構わないわ」
どうでもいいことを考えているうちに話が進んでいたらしい。まだ時間があるどころか、今日は遺跡の探索に当てるのだからもう1度潜るにきまっているでしょう。
「そういえば、ユズちゃん達のパーティーと分かれちゃったんだよな」
ここまで忘れていたパーティの分断にセイヤの一言で気が付く。私たちだけでもパーティーとして成立しているから問題は無いのだけれど、いざと言うときに協力して大人数で戦えないのは少し悩ましいものがある。
「まあ、仕方ないと思うよ。こんな仕掛け出てくるとは思ってなかったし。でもまた合流できるよ」
「そうだな、今は探索を進めるべきだろう。じゃあ行こうか」
ユージの言葉で1回目と同じようにセイヤを先頭に、再び遺跡に入って行く。今度こそちゃんとした構造をしているといいのだけれど。
遅くなりました。このイベントの話だけで30話越しちゃうんじゃないかな…




