表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/85

第22輪

「…さて、少し良いか?」


 朝食を済ませたところでユージが話を切りだしてくる。その顔は典型的なファンタジーの主人公の笑顔ように無邪気な物である。ユージがこういう顔をするときは大抵こっちを驚かせようとするか、良いことがあった時である。何を考えているんだか。


「さっき報告は終わらせたはずだけど、他に何かあるのかしら?」

「まあまあ、そんな怪しまなくても良いだろ。実はな、俺達が探索した場所でこんなもん見つけたんだよ」


 そう言ってユージが取り出したのは抱えて持つのが丁度いいくらいの大きさの箱だった。ゲームで見る良くある宝箱と同じような形で開きそうだ。何故さっきの報告の時に出さなかったのかとも思ったが、まあ気にしすぎても仕方が無いし、スルーしておく。


「なんだ、さっき出さないからモミジさん達にも内緒にするのかと思ったぞ」

「そんなことはしないさ。こうやって協力関係を築いてこのイベントをやっているんだから、そんなことをしたら何のために協力をしてるのか分からなくなるだろ」

「なるほどね。で、その箱は何なのかしら?」


 セイヤが口を挟んできたが、ユージが話を切ったようなので気になっていたことを質問する。見た目で判断するなら特に変わったものである可能性は低いけれど

湖の奥にあったなら不思議な物であってもおかしくは無い。


「これが俺達が探索した場所で見つけたものだ。まだ開けてないから中身も知らん」

「ふーん。早速開けてみようよ!」

「ユズさん、そんなに焦らなくても良いと思いますよ」


 開けていないのね。ユミはともかく、セイヤが見つけた時に開けてしまったものかと思ったわ。まあ今にもユズが開けそうだけれど。まあ、ユズが落ち着きないのと、食事に関しては無遠慮なのは昔からだしある時からは良いと言われるまで手を出すことはほとんど無くなっているから大丈夫だと思うけれど。


「じゃあ、まあ…開けるか」

「せやな」

「何が入っているのかしら、楽しみねぇ」


 中身の分からない箱に皆が興味を持っているようだ。恐らく、今この場に居る人間でこの箱に視線の行っていない者は居ないと言っても良いだろう。そして、ユージが箱に手をかけ、その手を上に持ち上げると、周りの緊張感とは裏腹にその箱はあっさりと開いた。そして、当然のように箱の中に目が行く。


「…本?」

「…本ですね」


 箱から出てきたのは1冊の本。表紙は臙脂色でタイトルはなにも書かれていない。サイズも良く店で見るようなハードカバーの本と変わらないくらいで重さもそれ程でもない。至って普通の本と言えるだろう。


「柳沢の言ってた財宝ってこれなのか?」

「…ユズ、本の内容は?」

「………」


 呼んでもなかなか反応を返さないユズに少し不安感を持ちつつ、顔が見える位置に移動して顔色をうかがう。ユズのほうが身長が高いので見上げる形になっているのが少し悔しい。


「ユズ?」

「一大事だよ…」

「え?」

「一大事だよ!お姉ちゃん!」


 暫く反応の無かったユズが突然大声をだす。それをみて私も含めユズ以外の全員が唖然としてしまう。興奮しているせいか、本の内容らしきものを説明してはいるものの良くわからないことを言うだけで要領を得ないのでユズから本をとり、その中身に目を通す。


「…なるほどね」


 何分経過しただろうか。最初の部分と重要と思われる所のみを読んだにも関わらず予想以上の時間を取られた気がする。そしてこの本、探索者の日記はこのイベントのフィールドとなっているこの場所の探索記録であり、ユズが騒いだのも分からなくはない。


 この日記の内容は、この土地に居た魔物とそれに関する逸話、それと実際に調べた結果を照らし合わせた時に出てくる仮説などが纏められており、その話と言うのが超強力な魔物がこの土地に住んでいて、余りにも危険だったから最初に魔物を封印してから、次にこの土地を封鎖して近寄れないようにした。と言うものである。これだけだとまだ良いのだが問題はこの先で、流石に強固な封印と言えど長い年月が経てば効果が無くなってしまうと言うもの。それに伴ってその協力な魔物が復活してしまうし、更にこの魔物が持つ能力で自分以外の魔物を強化すると言う何とも迷惑極まりないことをしてくれると言うのである。


 しかもこの能力で強化された魔物はHPが少なくなっても決して弱らず、攻撃力、耐久力その他諸々のステータスも増強するというこれまた面倒なことをしでかしてくれる。で、その封印が解けるのがこの日記に乗っている仮説が正しければ明日の夜だと言うこと。要するに5日目は皆で協力してこのイベントのオオトリを倒せと言うことなのだろう。ここまでの事を簡潔にまとめて皆に話すと…


「うん、まあ、知ってた」

「まあ、こういうのは居るんやろうなー思うてたけど、まさかこんな形でネタバレされるとは思うてへんかったわ」

「うふふ、いざとなったら私が守ってあげるわねー」


 随分と淡白な反応に拍子抜けしてしまったけれど、パニックになるよりはましかと思い、このことについては触れないでおく。それよりも、私としては心配な点は他にある。


「こういうのってアイテムとか湯水のように消費するのよね?」

「まあ、そうだろうな」


 生産する側として問題となるであろうことをユージに聞いてみるが、その答えは予想通りのものだった。こういうときは当たらなくても良いのに。


「情報公開してポーション系の消費アイテムの生産を促した方が良いと思うのだけど」

「いや、モミジさん。逆に1人でポーション配れば名前を売ることもできるけど?」

「私は目立つのが嫌いなのよ」


 確かに1人で大量のポーションを作って他のプレイヤーに配ったりすれば印象が良くなり、この先…イベントが終わった後も安定して資金が調達できるとは思うけれど、そういう場合は嫌でも名前と顔が売れることになってしまう。そうなった場合の人間の良い話をほとんど聞いたことが無いので断っておく。


「そっか、なら情報公開するか?」


 セイヤが言った言葉に皆黙り込んで考え始める。情報を共有することは大事だが、無暗に全てを公開してしまうと確かに問題になりかねない。私たち以外にも何かしら掴んでいるプレイヤーが居てもおかしくは無いし、議論が行われているのなら爆弾を投下することになりかねない。


「…そうですね。ならプレイヤー全体で協力する前提の敵…レイドボスが居ると言うことだけを教えると言うのはどうでしょう?幸い専用の掲示板が建てられていることですし、それだけならリスクも少なくて済むと思います」


 最初に口を開いたのはセリカだった。情報共有はゲームでなく現実でも大切なことだとは思うけれど、中途半端に詳しい情報だと、途中で話しがねじ曲がってしまう可能性も否定できないと思う。しかしそれは、逆に推測から答えに近い結論を出す可能性もあるので敢えて意見を口にせずその場の成り行きを見守ることにする。


「そうね~、何も情報なしに全滅するのは勘弁してほしいものねぇ」

「…それくらいならまあ、何か起きてもこちらへの問題は少なくて済みそうだな。何も反論が無ければこの方針で行くが、どうする?」

「私はそういう所は詳しくないから任せるわ」


 良く学校でインターネット等は顔が見えないのを良いことに何でも好き勝手に言いたいことを言うと聞くけれど実際の事は知らないし、そういう場のマナーとかも分からないからインターネットが絡むものは丸投げしておく。


「…じゃあ、レイドボスが居るってことを書き込むってことで大丈夫だな?」

「問題ないで~」

「じゃあ、少し待っててくれ」


 その一言を言いきった後、私たちに背を向けウィンドウを弄り始める。数分後、書き込みを終えたのかこちらに向き直る。その顔は少し苦い顔をしていた。


「何かあったの?」

「ああいや、スレが流れるのが早くてちゃんと見てもらえるか心配だっただけだ」


 ミオの問いにユージが答える。まあその程度なら大丈夫だと思うのだけど、閲覧している人なんてたくさん居るんだし。当然この話を広める人だって居るでしょうし、そうなったら話題もこっちに流れるでしょう。


「こういうのは自然に拡散するものだから心配要らないよ、ユージさん」

「ユズちゃんがそういうなら大丈夫…なのかな?」

「ええ。慣れているユズがそういうなら問題ないわ」


 なおも不安げな顔が晴れないユージにユズが声をかける。サクラ姉ぇと一緒にそういうのは良く見ていたとユズ本人がいつだったか話していたので信用しても大丈夫だろう。私からの太鼓判を受けたせいか、得意げになったユズの猫耳が張るように立っているが放っておく。と言うかここまで全員の容姿なんてほとんど気にしてなかったわね。


「さて、そろそろ行動方針を決めましょうか。今日でもう3日目、イベントも中盤ね」

「そうだな、日も昇り切りそうだ。俺としてはセイヤが初めのほうに見たって言う遺跡に行ってみたいところだが…何か情報は載ってないか?」

「んー…難易度が高いってことと、どこまで続いてるのか分からないって言うのだけかな。誰も最深部には行けてないみたい」


 ユージに聞かれたユズが手際よく攻略掲示板を開き、画面を高速でスクロールしながら答える。ユズの言った内容だけだと情報不足ではあるけれど、たまには冒険らしい冒険をしないと余り面白くないし、わざわざ遺跡なんて物があるんだから冒険せずして何が冒険者かって感じかしらね。


「多少情報が無くても私は良いんじゃないかと思うわ」

「お姉ちゃん?」

「せっかくだし、少し位情報が無くてもそういうところに行ってみたいと思ったのよ」

「モミっちが急に冒険家になり始めたわ…そんなところも可愛いから抱きしめ―――「ちょっと屋上」―――ごめんなさい」

「ま、まあ、モミジさんがこういうのも珍しいし、この発言をするってことは時間経過ではもう情報が出て来ないって可能性もあるって意味じゃないか?」


 ユミが少し黒いオーラを放っているけれど、気にしないでおこう。他の皆はともかく、セイヤは既に乗り気になっている。それに引かれたのか、セリカが口を開く。


「…確かに、モミジさんの言うとおり折角ですから冒険と言う一見無謀と思える物も楽しまないのは損かもしれませんね。それに、皆さん深々と考えているように見えますが、やることが決まっているような目をしています」

「あちゃ~…バレてもうたか。まあ遺跡があるんやったら冒険したくなるのが人間の性って物かな~思うんよ」

「私は、皆に着いていく」


 …皆言葉に出さずとももう行きたいところは決まっていたのね。なら持ち物確認したら行きましょうか。ここに集まってからもう1時間半くらいは経ちそうだし。


「遺跡の探索時間は1日、食料は食材も合わせて皆持ってるかしら?」

「問題ないよ」

「よし、遺跡に行こうか。セイヤ、案内頼んだ」

「合点承知!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ