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第2輪

 夕食を終え、再ログイン。

 あたりを見回すとすでに闇に包まれている。夜の到来だ。


 そして今私はフィールドに居る。夜の草原は空気がひんやりとしていて涼しい。そして何をやっているかと言うと、大剣を片手で持って素振りをしているのだ。縦、横、斜め、縦、横、斜め。繰り返し素振りをする。


 いくら大剣が持てるからと言って、そう無暗に魔物に挑んだりはしない。筋力任せにもっているだけであって、実力とか技術があるという訳ではないのだ。何事も基礎が大事だ。どんなに強力な武器を持っていても、それを使えなければ何の意味もない。


「…ふぅ。結構疲れるわね。」


 素振りを10分くらいやってそろそろ良いかと剣をおろす。スタミナをそれなりに消費している。一休みしたら魔物を探しに行くとしよう。


 夜になるとプレイヤーはほとんどいなくなっている。なぜなら、夜になると魔物が狂暴化し、大量発生。さらに状態異常持ちもいる。中には夜でも狩りをしてレベルを上げようとするプレイヤーもいるようだが、毒の状態異常を解除する解毒薬を準備していないがためにフィールドから退場。さきほど誰か解毒薬を持っていないか、などとパーティーメンバーに聞いているプレイヤーが居た。


 大半の状態異常は一定時間が経過すると治るのだが、当然アイテムを使った方が治るのは早い。


 それと、夜はもちろん暗いので、周りが見えない。だが私はスキル《暗視》を発動しているため、夜でも周りは良く見えている。メインスキル枠を消費しないでこの効果が得られるのはうれしい。選んで良かった吸血鬼。


「さて、最初の獲物はどこかしらね。」


 それとなく、フィールドを歩きまわる。余談だが、《暗視》を発動している間は目が光り、魔物を集めやすいとの事。現在私の紅色の目は赤く光っていることになる。


「ん、《警戒》に反応あり。あれは狼かしら。」


 スキル《警戒》によって視界の右上に出ているミニマップに赤い光が点灯。この赤色は周辺にいる生物の中でもこちらに敵対心を持っていることを示している。そして、赤い点のほうを見るといたのは大きめの狼。立ちあがったら人と同じくらいの大きさはあるだろう。魔物名はそのまま〈ウルフ〉だ。


『グルルル…』


 こちらを見つけるや否や威嚇行動をとる〈ウルフ〉。いきなり突っ込んでこないあたり、AIが優秀かもしれない。リアルで野生の狼に出会ったことがないから実際はどうなのか知らないけれど。


 こちらも剣を構えて、相手の出方を窺う。5秒ほどにらみ合ったところで〈ウルフ〉が先に動いた。なんていうことのない突進からの跳びかかり。私のAGI、敏捷からすれば遅い。軌道を読み、右に半身をずらし、回避。隙だらけの横側に剣を振りおろす。人族と比べると、夜の吸血鬼のステータスは高い。〈ウルフ〉の胴体を一刀両断し、撃破。〈ウルフ〉は光の破片になって消えてゆく。


 初めてのまともな戦闘は結構あっさりと終わってしまった。やはり草原だと狂暴化しているとはいえ、強い魔物は出ないようだ。それに今回の討伐目標は別にある。森の中にいる、〈グレイベア〉と言う魔物だ。この魔物は現在では強い部類に入り、〈グレイベア〉を倒せばそのパーティーは一人前、と言われているらしい。


 とりあえず、スキルのレベルアップも兼ねて、森へ向かう。道中にももちろん魔物は出てくるが、大剣で倒しながら先へ進む。


「ここまで来るのにも結構かかるわね。」


 そして、森の入口についたのだが、ミニマップにはすでに敵対反応がある。森の中を見ると、1匹の蛇、〈スネーク〉がこちらを睨みつけていた。《暗視》が発動しているが、眼が若干光っている。ダンボールはかぶっていない。


『シュルルルル…』


 ゆっくりと近づいてくるので、大剣を構えつつ、向こうが出てくるのを待つ。距離は5メートルくらいあったが、射程圏内らしく、跳びかかってきた。もちろん動きは見えているので、焦ることはない。今度は大剣では斬らず、《蹴り》で応戦。跳びかかってきた正面に蹴りを放ち、放物線を描き後ろに吹っ飛んでいく。と言ってもそんな大げさに飛んで行ったわけではないので少し追いかける。どうやら木にぶつかったようで、木の根元でのたうちまわっていた。そこに問答無用で頭に剣を突き刺す。どうやらこれで倒せたようで、さっきのウルフと同じく光に消えて行った。


「物足りないわね、やっぱり探すべきかしら。」


 などと呟いていると、〈スネーク〉がこちらに5匹こちらに近づいていることを確認。前に3匹、後ろに2匹。せっかくの機会なので色々スキルを試させて貰うことにする。


 先に近づいてきた3匹に《威圧》を発動。すると足元から黒いオーラ(と言っても薄いが)が出てくる。オーラは私を包むように立ち上り、蝋燭の煙のようにユラユラと揺れている。そして、それを見た〈スネーク〉は一目散に逃げて行った。


 正直なところ、レベルを上げたい今は使わない方が良いと思った。


 そして遅れて残りの2匹が飛び出してくる。片方は避け、もう片方には《魔術》を使うことにした。


「《ダークニードル》!」


 闇属性の初級魔法。MPを1割ほど消費して掌から15センチほどの針が狙いをつけたほうに飛んでいく。直撃を食らった〈スネーク〉はその場に落下し、かすれた鳴き声でこちらを見やる。HPは2割ほど減っている。これも吸血鬼の特徴の高いステータスのおかげだろう。


『シャッ』


 短く鳴き飛びかかってくるのを避け、蹴りを叩き込む。狙ったわけではないが、蹴りによって飛ばされた〈スネーク〉がもう片方の〈スネーク〉を巻き込み飛んでいく。今度は2匹分の重さと言うこともあってか、50センチほど飛ばされただけだった。双方HPがそれなりに減っている。体制を立てなおされる前にナイフを投擲。5本ほど投げたが1本ずつしか当たらなかった。これは練習が必要だろう。


 ナイフで地面に縫いつけられた〈スネーク〉に大剣でとどめを刺し、先に進む。森の中だけあって、魔物の数は結構多いけれど、全体的に私にとっては弱いので、楽に前に進むことができる。


 それなりの時間を歩くと、少し開けた場所にでた。


「へぇ、森の中にこんな泉があるのね。」


 そこに広がっていたのは水が綺麗な泉。暗い森の中だが、泉が発光しているかのように少し明るい。魚はいないようで、水面が波打ったりはしない。水が澄んでいるので底をしっかりと見ることができる。最近はここまで綺麗な川や湖は見た覚えが無いので新鮮な感じがする。この時間に普通の人が来たなら、強化された魔物にやられてしまって、夜なのに存在感を放つ状態の泉は見ることはできなかっただろう。


 少しここで休憩をいれることにする。なんだかんだ言って約40分ほど森の中を歩きまわって、さらに魔物を相手にしているので少し疲れた。休みがてら現在のスキルを確認することにする。


 現時点でスキルは《大剣》が6、これによって新たなアーツ、《クロススラッシュ》を獲得。それと今まで使ってないが、初期アーツ《横薙ぎ》確認。

《魔術・闇》は3、《蹴り》と《投擲》は伸びが悪く、1のままだ。他に《身体能力強化》も6まで上がっていたが、恐らく微々たるもので上がっている実感がわかない。


 そろそろ休憩を終わらせて、とりあえずポーション作成に使えそうな泉の水を採取しようとしたところで、


『ガアアアアアアアア!!』


 森の中、自分の後方あたりから方向が轟く。急いで振り返ると《暗視》の範囲ぎりぎりのため良くは見えないが、10メートルほど先のところに体長6メートルほどの、灰色の毛をした熊が立ちふさがっていた。これが〈グレイベア〉だろう。急いでメニューから剣を取り出す。


 余談だが、持物を取り出す方法は肩にかかっている鞄から取り出すか、メニューを開いて取り出すかの二択である。


『ガアアア!』


 こちらが剣を構えると、〈グレイベア〉は突進を仕掛けてきた。とりあえず、当たれば大ダメージを受けかねないので横に跳び、回避。続けてやってくる突進には姿勢を低くして懐を抜け、背後に回り込む。そこで、がら空きの背中に、


「《クロススラッシュ》!」


 アーツ名を宣言しながら右上から左下にかけて斬る。それとほぼ同時に左上から右下にかけて残像のようなものが出てきて、〈グレイベア〉の背中を切り裂く。HPは1割ほど減少したところで止まった。流石に熊、タフである。

もっと早く倒れてくれると私はうれしいのだけど。


『ガアア!!グアア!!』


 突進ではカウンターを貰うと思ったのか、今度は近づきながら無茶苦茶に爪をふりおろしてくる。もちろんそんな攻撃に当たる訳もなく、よけながらナイフを投げ、魔術を使いじわじわとHPを削ってゆく。


『グググググ…』


 不意にうなり声をあげ、後ろに跳び距離をとる、〈グレイベア〉。そして取った体制は、突進。突進の避け方はもう分かっているので、突っ込んできたところで、横に半身をずらし身を屈め後ろに回り込もうとしたが、


「きゃあ!」


 突然〈グレイベア〉が手を横に振った。完全に攻撃を読んだつもりになっていたため〈グレイベア〉の不意の行動に反応できず、脇腹に攻撃を貰い、吹っ飛ばされる。そして、着地しようと下を向くが、その下は…


「しまった、泉!?」


 水柱を立たせ、泉に落ちる。


「ちょっと、溺れ、体が、浮かな…」


 現実ではそんなことはないのに、泳ぐことができない。と言うか、どんどんHPが減っていく。そういえば弱点に水が、そんな場合じゃない。早くしないとHPがなくなる!何とか向こう岸まで泳ごうとするが、顔が少し出る程度までしか体が浮かない。何かいい方法は…そうだ!


「わっぷ、ひ、《飛行》ッ!」


 スキル名を叫び、水から脱出。小さな翼を一生懸命に羽ばたかせているため長い間は飛べそうにないけれど、向こう岸に逃げる間は持ちそうだ。


 反対側についてHPを確認。2割くらいしか残っていないじゃない。私は仕方がなく、ポーションを飲まずに体に振りかけることで回復する。効果は落ちてしまうが、こちらの方が早いので仕方がないだろう。現在進行形で、グレイベアが近づいてきている。


『ガアアアアアアアアアアア!!!』


 今ので倒れなかったことに怒っているのか、それとも予想以上に追い込まれているからか、大声で吠える〈グレイベア〉。怒りたいのはこっちである。せっかくユズが選んでくれた服が裂けてしまったのだ。


「はあああああああ!!」


 今度はこちらから攻める。いつまでもカウンターばかりを狙っていたら戦闘が長引くだけだ。ダッシュの勢いに任せて上に跳び〈グレイベア〉の頭の上から剣を振りおろす。流石に初期の武器では切れ味が足りないらしく、斬り裂くことはできなかったが、縦一線に大きな傷ができる。残りのHPは4割ほどだ。〈グレイベア〉が両腕を振りおろしてくるが、剣を上に薙ぎ払うことで弾き、その勢いのまま足を狙って横薙ぎに剣を振う。アーツは使用していない。


『ガアアッ!!』


 ゲームにおいても足を狙うと言うのは効果的だったらしく、膝をついて硬直する〈グレイベア〉。このチャンスを見す見す逃すはずもない。上に跳び、頭を飛び越え、重力に引っ張られ落ちる時に剣を振りおろしつつ着地。そしてそのまま背中を晒す〈グレイベア〉に素振りと同じ動作の攻撃を叩き込む。縦、横、斜め、剣を振うたび、傷が増えて行く、そして、〈グレイベア〉が立ちあがる体勢を取ったところで後ろに大きく跳び距離をとる。


『グルルルル…』


 振り返った〈グレイベア〉の表情は怒りを示している。頭は冷静だが、服を裂かれた私の怒りのほうが上だ。そしてグレイベアが取った体勢は、突進。しかし、その威圧感はこれまでで一番大きく、恐らく、こちらのHPを一撃で消すつもりだろう。私はそれにこたえるかのように、両手で、剣を左腰のあたりに構える。


『グアアアアアアアアア!!!!』


 これまでで一番大きい咆哮で突進を仕掛けてくる〈グレイベア〉、それに対して、


「ハアアアアアアアアア!―――《横薙ぎ》ッッッ!」


 〈グレイベア〉に向かってダッシュし、すれ違う時に、アーツを宣言。《横薙ぎ》とグレイベアの爪が交差する。火花が飛び散り、夜の闇を照らす。しかしそれは一瞬で、直後に夜の闇と静けさが戻ってくる。


『ガ、ガアア…』

「はぁ、はぁ、はぁ…」


 〈グレイベア〉が光に砕け、消えてゆく。私の勝利だ。ウィンドウと共に戦利品を確認。ドロップアイテムは〈グレイベア〉の爪と毛皮だ。そして、さっき取り損ねた泉の水をポーションの空き瓶に詰めて回収。


「ああ、疲れたわ、もう帰って休もうかしら」


 と言ってもフィールドでログアウトは少し危険だ。ここは町に戻ろう。



「スキルは《大剣》8、《投擲》が2、《魔術・闇》が4…あんまり伸びないわね…。」


 現在、町の中央広場の噴水、その近くに設置してあるベンチでスキルレベルを確認している最中。そこに、


「あ、モミジお姉ちゃんはっけーん!」

「あら、こんなところにいたのね」


 昼と全くテンションの変わらないユズとそれについてくるサクラ姉ぇの姿。


「ああもう、うるさいわね、こっちは疲れてるのよ」

「疲れるって何してきたの?ねぇ」


 妹がうるさいのでさっきまでやっていたことを正直に話してやる。すると、


「え!?あの〈グレイベア〉を一人で倒してきたの!?」

「あら、結構大胆なことするわね」

「うるさいわね、こっちだって少し腹が立ったのよ」

「それにしても、私の選んだ服が破かれた事で腹を立てるなんてねー。」

「な、何よ…」


 ユズはにやにやとしながら悪戯っぽく言葉を放ち、いきなり両手を私の両の横腹に差し込み、両手で抱えるように私の体を引き寄せる。


「ちょ、ちょっとコラ、いきなり抱き抱えるんじゃないわよ!頭をなでるものダメ!」

「え~?でも羽はパタパタしてるよ?」

「う…」

「ユズ、私にも貸して」

「はい、サクラお姉ちゃん」


 アバターの大きさに合わせて体重まで軽くなった私はユズに簡単に持ち上げられサクラ姉ぇの手に渡る。さっきまでうずうずしていた様子サクラ姉ぇまでもが私をおもちゃにする。


「サクラ姉ぇまで、離してよ!」

「かわいいわね、まるで小さいころみたい」

「こどもじゃないんだから、やめて~…」


 抵抗空しく、好き放題やられてだんだん気力が無くなってきた。


「あ、幼児化始まった」

「かみがぐしゃぐしゃになっちゃう…やー!」

「ああ、癒されるわ…」

「うん、そうだね」

「メー!」


 この後2人に変わり番子に抱かれながら、町の中を見て周り、疲れ果てたところでログアウトしたのだった。


 たまにはこういうのもいいかな~。なんて思ったのは2人には秘密だ。

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