第15輪
「どわわっ!?」
「地震!?」
「おおぅ…フライパンが我が頭に…」
一体なんだよ、今の揺れは…これもイベントの何かなのか?
「えっと、今の、モミジさんは大丈夫かな…」
「オーマイヘッド…」
「大丈夫だろ、なんだかんだで色々あるし」
「そうね、色々あったわよ」
「そうか、それは大変だったな…て、いつ帰ってきた」
いつの間にか後ろに居たモミジに突っ込みを入れる。小さくなったせいで胸どころか影すらも薄くなってるんじゃないか?あと平気そうにしてるけど結構顔とか赤いから走ってきたのかもしれないな。
「今戻ったところよ。目的の魔物が狩れたから走ってきたの」
「そうか、さっきの揺れは平気だったか?」
「問題ないわ」
「なら良いか、じゃあ夕食の続きだな」
「オーマイヘェェェッド!!」
「煩い」
「あいたっ!」
―――十数分後 side Yuzu―――
「で、あの地震みたいなのは何だったんだろうね」
手持ちのパンを齧りながら他の4人に聞いてみる。どうせ私一人で考えたところで分からないんだし、誰かを頼った方がいいよね。
「そんなに気にすることや思わんけどな~」
「過ぎたことは余り気にしない方がいいんじゃないですか?ユズさん」
「それもそうなんだけど…」
気になるものは気になるんだよね、そして気になったら納得するまで調べるのが私としては良いんだけど皆を巻き込んでまでやることじゃないよね。周りのことを考えなずに行動するのが私の悪い所ってよく言われるし。
「じゃあその話は終わりにして、夜が明けた時の行動をどうするか考えましょう」
「その前にテント張らなあかんのちゃう?」
「夜は寒い」
「なら私が直接暖めて…「要らない」ハイ」
「えっと、テントの張り方はちゃんと説明書あるよ」
「じゃあ、早く張ってしまいましょう」
カリナとユミが漫才をしているのはいつものことだから放っておいて、テントを張って中に入る。テントを立てるのに5人も必要ないし、バラバラにやるよりは何人かで1つずつ張った方が効率がいいような気もする。
5つのテントが並んだあと、皆が私のテントに入ってくる。人数分確保はしてあるけれど、話し合うなら1つのテントに入った方がいいし、寝るのは無理にしても、5人が座れるだけのスペースはある。このテント持ち帰れたら良いんだけどな。
「さて、明日の予定ですが、私としては今日行っていない場所を探索するのがいいと思います」
「んー?なんで?」
「時間が経てば情報は手に入りますが、自分の目で見たものの方がより正確に情報収集ができるじゃないですか」
「確かに」
「じゃあ次は私ね。私は一回この森を周ってみるのが良いかな、って思ってるんだけど…」
「その心は?」
「さっきの揺れの正体が知りたい。それに、イベント何だから特別な魔物もたくさんいるし、この森の中だけでもまだ全種類倒した訳じゃないと思うし…」
「でも、揺れのきた方向から考えて森の外の可能性もある」
「せやなぁ…」
確かに揺れがあったってだけで森の中で何になにかがあるって決めつけるのは良くないかぁ…。まあここはセリカのが言った通りもっと色々なところを周るのがいいかな。
「じゃあ私はセリカちゃんの意見に賛成かな」
「良いんですか?そんな簡単に自分の意見を取り下げてしまって…」
「ほら、情報が不十分すぎるし中途半端な情報で調べるよりかは最初から探索する方が良いかな、って」
「それも一理ある」
「まあ、ユズっちもそう言ってるんだから、良いんじゃない?」
「なら、明日はまず森を抜けるのがいいですかね」
「せやな。私はもう眠いから先に寝るで」
「じゃあこれで解散にしましょう」
セリカのそのひと言で皆がテントから出ていく。5人いたから余り良くわからなかったけれど、このテントは結構広いみたいだ。布団もちゃんと用意してあるようで、なんだかんだで快適である。布団くらいならモミジお姉ちゃんが作ってくれるかな…。
テントの隅に畳んであった布団を敷き、寝転がる。新品だからこそ味わえるようなフカフカさに瞼が一気に重くなってくる。最近WWOをやってたから寝るのは遅く、起きるのが早かったから疲れてるのかな。よく考えれば日没と一緒になるなんて初めてだなぁ…、修学旅行のときだって寝るのは10時ごろだった気がするし…。でも睡眠時間でいえば12時間は寝てるときだってあるし、結構寝てると思うんだけどな…。
お姉ちゃんはちゃんと寝れてるのかな…、モミジお姉ちゃんはこれから狩りに行ったりしそうだけど、サクラお姉ちゃんはどうなんだろう…。まあ、2人とも大丈夫だよね…。
…?ここはどこだろう?さっきまで布団の中に居たと思うんだけどな…。
周りは薄暗く、体には不思議な浮遊感がある。上にはゆらゆらと光が浮かんでいて、その光は乱反射をして暗いこの場所をチラチラと照らしている。下からは時々泡が浮かんできて、上まで行くと見えなくなってしまう。水のなかに居るのかな。
時間が経つにつれて、体はゆっくりと降りて行き、降りた分体が少し重くなる。そのまま下に引っ張られるかのように身を任せていると、薄らぼんやりと何かが見えてくる。四本の柱と石像…女神像…かな?
不思議とそれに惹きつけられるような感じがして、目線をその石像から外すことができない。そして、暫くみていると、その石像の口がゆっくりと動き…
……フウイン……マモノ…キョウキ………
…ニゲナサイ…
「え?」
「ユズさん、朝ですよ?」
「ん…あ、おはよー…」
「どうかしたんですか?」
「んー…、何かの夢を見てたと思うんだけど、良く覚えてないんだよね」
「そうなんですか、まあ朝食の準備は一応出来ているので、早めに来てください」
「わかった」
軽く身支度を整えてからテントを出る。テントは円を描くように並んでいるのだが、その中心に簡易的なテーブルと椅子が並べてあり、朝食をカリナとユミが運んでいる。ちなみに朝食を作っているのはユカだ。そこそこ料理スキルのレベルは高いので、私が作るような粗末な物にはならない。朝食は手早く済ませるためか、食パンとベーコン、それから目玉焼きだ。全部運び終わったところで、カリナが皆を席に着かせて頂きますのあいさつをする。
「で、今日はどの辺行くん?」
頂きますをした直後、ユカが早速話題を出す。静かに何もしゃべらないで食べるのは何処かさみしいから私も何か話そうかとしていたところだったので、助かった。
「具体的な場所は有りませんが、昨日と同じ方向に進んでいけば森を抜けて他の場所に出ると考えています」
「結構アバウトねぇ…」
「どっちを見ても木しかないから仕方ない」
「どっちに進んでたかわかるの?」
「ユズさん、少しくらいマップを活用しましょうよ…」
結構痛いところを突かれたなぁ…、ついこの間行ったことあるから大丈夫とか言って、皆の先頭に立って歩いた結果迷子になったのがあるからあんまりマップは見たくないんだけどな…。でも進んできた方向を確認するくらいなら大丈夫かな。
「えっと、あっちかな」
「そうね」
「でもこの先どのくらいあるかわからないけど、本当に今日中に森の外に出られるの?」
「確証はないんですが、同じ森でもそれだけの広さがあれば違う魔物が出てきたりもするかもしれないじゃないですか」
「そうやな、そしたらなんぞ面白いもん落としてくれるかもしれんしなぁ」
「そういうことです」
なるほど、と納得しつつ、お皿の上の目玉焼きに手を伸ばし、醤油をかけようとしたところで、
「ちょい待ち」
「え?ユカちゃんどうかした?」
「どうしたも、こうしたもあらへん、まさか目玉焼きに醤油なんぞかけよう思うとるん違うやろな?」
「私は醤油かけるよ?」
「何言うとるん!?目玉焼きにはソースやろ!?」
「どっちでもいいから早く食べなさい」
「「はい」」
目玉焼きにかけるもので口論が起ころうとしたところで、怒気を含んだカリナの声でおとなしく黙るユカ。顔はにっこりとしているのだが、声のトーンがいつもと違い若干低く、いつもの言葉の最後がゆるくなっている感じが無かったので、尚更恐怖を感じる。さらには、口元がにっこりとしている癖に目が全く笑っていなかったのもその要因だろう。
「カリナはこういうときは真面目」
「そんなことないわよ~?」
「ごちそうさまです」
「お皿は向こうに置いておいてね~」
口論を止めた後も若干こちらを見ているので、私もさっさと食べてしまうことにした。カリナは怒らせない方がいい。絶対に。怒らせたらカリナのことだからあっち方面で色々と危ないだろう。
「じゃあ、出発しましょう」
「はーい!」
片付けまで済ませ、テントを畳んで鞄に仕舞ってから出発する。今日はどんな魔物が出てくるか楽しみだな。スキルのレベルも少しずつ上がってきてるし、上手くいけば中級スキルまで手が出るかもしれない。
「魔物が来たで」
「えっと、あれは…〈オーク〉、かな?」
「そうなりますかね」
〈ゴブリン〉よりもはるかに大きく、私たちの体ですら小さく見えるその巨体。その手に持っている槍は先が尖っているからこそ槍として認識できるが、先端が見えなければ丸太に見えてもおかしくはないだろう。そして、それを軽々と持ち上げているあたりその怪力がうかがえる。…モミジお姉ちゃんなら振り回せそうだと思ってしまったのはここだけの話である。
「ユズさんと私が気を引きます。皆さんは魔法を準備してください」
「了解」
「はいな!」
「わかったわ~」
先頭の役割を素早く決め、自分の役割を果たすためにまずは接近。私めがけて降りおろしてくる槍をサイドステップで避けながら、オークの足を斬る。毛が硬いのか、余り刃が通らないが、無いよりはましだろう。セリカも背後に回り込んで短剣を突き刺そうとしているが、丈夫な皮膚のせいでそれは叶わないようだ。私たちには相性がわるいかな。
「第一波いくで!《フレアバーン》!」
「いくわよ、《怨風》!」
「《ライトニングシャワー》」
ユカの声を合図に、激しい爆炎が発生、次に唱えたカリナの魔法がそれを巻き込み炎の渦が立ち上り、上から大量の光の矢が降り注ぐ。それをまともに受けた〈オーク〉は鳴き声をあげ、怒りを露わにする。ついさっきまで剣の刃を通さない丈夫な体毛は黒く焦げ、光の矢を受けた体表からは血が流れ出ている。しかし、ダメージ自体は大したことがなさそうに動きが鈍っているようには見えない。むしろ怒りによって動きは機敏になっている可能性が高い。
「他の3人に攻撃をさせないでください!」
「分かってる!」
動きが早くなって、振り下ろす速さが上がった槍をすれすれで避け、さっきとは反対の足を斬る。体毛が焦げたからか刃が通るようになり、明確に切り傷が付いていくのがわかる。〈オーク〉は近づいて攻撃をする私を煩わしそうに見下した後、振り下ろしたままの槍を横に薙ぐ。
「っとと!」
「大丈夫ですか!?」
「まだ避けられるから大丈夫」
「危なくなったら下がるのも1つの手ですよ」
「うん」
魔法のクールタイムも含んでいるからか、さっきより魔法が来るのが遅い。もう一発当てられれば動けなくなって止めがさせると思うんだけどなぁ…。そううまくは行かないか。今は自分ができることをしよう。頑張ることが上手く行くことにつながるはずだし、足手まといになるわけにもいかないしね。
「《ライトニングブレイド》!《シールドバッシュ》!」
《ライトニングブレイド》で素早く斬りつけ、《シールドバッシュ》を発動して相手にぶつかり、その反動で後ろに下がる。セリカと比べて素早さが無いので攻撃を避け続けるのは難しいし、武器で受け流せばイベント中に武器が壊れかねない。ここは後ろに下がって攻撃のタイミングをはかるべきだと判断し、相手の動きを観察して、どの攻撃にどんな隙があるか観察することでも戦闘を有利に進めようとしているのだ。余り効率的ではないかもしれないけど、一回死んだら普通のサーバーに戻されそうだし、確実さを求めることにした。
「《毒突き》、《麻痺突き》!」
状態異常にしようとしているのか、セリカは何かしらのバッドステータスを一定の確率で発生させるアーツを使い始めている。このアーツの特徴として、毒や麻痺は蓄積する。その蓄積した分状態異常にかかる確率が上がるのだ。
「第二波、行くよ。《ライトニングレーザー》」
「《フレアバーン》!」
「《怨風》!」
3人の放った魔法が再度〈オーク〉を包み込む。少し違うのは先ほどは光の矢が降り注いだのに対し、今度は光線が〈オーク〉体を貫いていることだろう。貫通性に優れた魔法はもっと硬い魔物のほうが有効なんだけどなぁ…。
「ま、いっか」
「《麻痺突き》!」
セリカが再度放った《麻痺突き》で〈オーク〉が膝を地面につき、その動きを止める。状態異常にかかったようだ。今が攻め時だろう。
「行くよ!《クレセントセイバー》!」
放ったアーツは三日月形の剣撃を複数飛ばし、相手を切り刻む。そして、その傷口が描くのは三日月の形。このアーツは少し特殊でそのまま使っても強いけれど、夜に使うと威力があがる。夜の戦闘で役にたつだろう。
「倒したかな?」
「そうですね、もう動く気配はなさそうです」
「ほな、戦利品の確認といきますか」
「あら、豚肉があるわね」
「今日の夕食」
皆戦利品の画面を見ながらそれぞれの感想を漏らす。流石にもう夕食の話をするのはどうかと思うけれど、まあ夕飯が少し豪華になるなら良いかな。ユカの腕前にもよるけれど。
「…」
「どうしたの?セリカちゃん」
「何か聞こえます」
「そう?」
何かを探すように目線だけを動かし、真剣な顔をしているセリカに話しかけ、私も耳を澄ませる。聞こえたのは何かの足音とその足音の主であろう物の息遣い。そして、唐突に感じた気配に振り返ると―――
『グルルルルルル…』
大きな熊の魔物が後ろに立ち、こちらを見下ろしていた。
―――side Momiji―――
「モミジ」
「何?」
2日目の朝食の席、私とユージは少し寝過したので遅めの朝食となって、他の二人はテントを畳んでいる。いきなりユージが話しかけてくる。まあいつものことなのだけれど。他人がこの反応で返された場合はいつもむっとした顔になってしまうが、いきなり話しかけられるとこういう反応を私がすると知っているユージはそんなことは気にしない。
「昨日は何してたんだ?」
「どういう意味よ」
「狩りに行って、帰ってきたときにやけに清々しい顔をしていたからな」
「そ、そう?」
「ああ」
いつの間にかそんな顔してたのね、しかし、ユージの観察力にも感心するわね。私の事をそんなに観察して何が楽しいのかしら。本人がいいなら別にかまわないけれど。
「別に普通に狩りに行っただけなのだけれどね」
「なんだ、ハイになりすぎてまた『WRYYYYYYYY!!』とか叫びながら暴れてたのかと思ったが」
「その話はヤメテ!!」
なんでこいつは事あるごとにこういう話を掘り返してくるのか、こっちは思い出すだけで恥ずかしいのに…、過去に戻れるなら全力でそれをやっていた自分を止めるわね。
「まあそれは置いておいて、昨日の地震の犯人がお前だったりしないよな、とか考えただけだ」
「プレイヤーであんな揺れ起こせたら敵を倒したとしてもそのあとが大惨事よ」
「そうだな」
危ない、もう少しで吹き出すところだった…。まあ仮にばれても、お前のことだから別にやっても仕方が無いだろうな。とか言って流された後、少し経ったあとにその話をぶり返してきそうだけれど。またユージの中でネタが増えるのは何としても阻止しなければいけない。
「ごちそうさま」
「喋ってた割に食べるの早いわね…」
「お前が遅いんだよ、まあ子供だし仕方ないな」
「これでも17よ!」
「はいはい」
いつまでも発育が悪いのをユージが茶化してくるのもまた日常茶飯事ではある。だけど、今言われるとなんかものすごく腹が立って仕方がない。いつもより大きく見えるユージのテントの片付けに向かう背中を見ながら黙々と自分の分の朝食を食べ続ける。
「ごちそうさま」
「お、ちょうど食べ終わったか。もう出発するぞ」
私が食べ終わると同時にユージが戻ってくる。テントの片づけ全部やらせちゃったわね…、何か私要らない気がしてきたわ…。
「おーい、ユージもう行くぞー」
「ああ、今行く」
「だからそんなに引っ張らないでって」
私の腕を強く引っ張るユージに何度目かわからない文句を言う。学習能力が足りないんじゃないかしら。不器用な奴ね。
「なあ、まだか?」
「もう少し」
地面をしっかりと観察しながら周りを少しずつ移動する。そして
「あった」
私が呟きながら手に取ったのは木にたまたま実っていた木の実。なぜこんなことをしていたかと言うと、この辺の木だけ種類が違うことに気がついたからだ。鑑定している時間はないのでとりあえず鞄に入れて3人を追いかける。
「ユージ、ミオ、それからモミジ」
「どうかしたか?」
「いつになく真剣な顔してるわ」
「昨日はあんなに頭押えて転げまわっていたのにね」
「なんか聞こえるぞ」
「え?」
セイヤの言った言葉に反応して、耳を澄ませると確かに何かが聞こえる。爆発音や、硬いものと鉄がぶつかるような音と…悲鳴?
「とりあえず急ぐぞ!」
「あ、ちょっと、待ちなさい!置いていかないでー…」