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第13輪

「それにしても~」


 顔をニヤニヤと歪ませ、 如月(きさらぎ) 未央(みお)、プレイヤー名、ミオが話を切り出してくる。


「2人が手をつないでくるとは思わなかったな~、まるで兄妹みたいだったよ」

「ああ、そういえば握ったままだった」

「全く、少しは優しくしなさいよね」

「え?あれ?」


 ミオに言われて手を離すユージ。それを見てなぜか戸惑っている様子のミオ。何か変なところでもあったかしら。


「お前ら手繋いでたのに何も思わないの?」

「ん?ああ」


 よく意味のわからない質問投げかけてきたのは 一瀬(いちのせ) 星夜(せいや)だ。それにしても手をつないでいたからと言って何かあるのかしら。


「逆に何か思わないといけないのかしら?」

「…だめだね」

「天然だよ、こいつら」

「はぁ?」


 私とユージにあきれたような顔を見せ、やれやれと言った感じで首を左右に振る二人。この2人の考えはよくわからないわね…。


「まあ、そんなことはともかく、かみさ…モミジさんは何をメインにやっているの?」

「私は基本生産やってるわね。狩りをするのは夜くらいよ」

「なかなか変わったプレイスタイルだな」

「色々あるんだよ」

「色々あるのよ」

「そ、そう」


 何か納得行かないと言うような表情でとりあえずは頷いてくれたようだ。私も好きでこんなプレイスタイルをしているわけではないけれど、大分慣れてきたから問題は少ないわね。


「さて、じゃあこれからどう行動するかをまず決めておかないと、後々困るだろうな」

「そうね、私は拠点が必要だと思うのだけれど」

「その前に食料を確保しないとだめじゃない?」

「いや、まず最初にそれぞれの持物を確認するべきだろ」


 見事に意見が分かれたわね。私の挙げた拠点は無くてもどうにかなるからいいとして、


「そうね、じゃあ先に持物確認をするべきね。持物によっては早めに自力で見つけないといけない物もでてくるでしょうから」

「モミジが言うならそれが一番いいだろうな」

「なんで私がそういうとそうなるのよ」

「だって、お前の方が頭いいだろ?」

「はいはい、ゲーム中なんだから現実の話を持ち込まない」


 セイヤがそこまで言ったところでミオが話を切る。確かにゲームに現実の話を持ち込むのは色々と思うところがある。


「じゃあ、ミオから何持ってきたか言ってくれ。あまり具体的でなくてもいいぞ」

「えっと、私は、回復系アイテム、食料系アイテム、生産活動用のアイテムが中心ね。これといってどうこう言うものはないかな」

「じゃあ次、ユージ」

「俺はまあ、回復アイテム、食料くらいか?あとは、松明とかランタンとか」

「次、モミジ」

「生産活動用アイテム、食材、食料の3つが主ね」

「回復用のポーションとかは持ってないのか?」

「作ればいいから余り持ってきていないわね」

「そうか、じゃあ最後に俺だが…」

「どうしたのよ、言葉を濁して」

「何持ってきたらいいかわからなかったから、ポーションしかない」


 場の空気が鎮まる。他二人の様子を見ると、なにやってんだコイツ、みたいな目で見ている。確かに何持ってくればいいか迷うのは良いけれど、流石にそれだけなのはどうかと思うわね。本音を言わせてもらうと何やってんだこの馬鹿は、って感じなのだけれど。


「じゃあセイヤ、あなたに食料を探してきてもらうわね」

「え、俺一人?」

「私は何もできないからミオと待機、ユージは周りの散策に行ってもらって周囲の魔物を調べてきてもらうことにしているから」

「くっ…」

「あと、私たちの食料は分けないわよ」

「わかったよ、現地調達でかんばるよ…」


 何もかもを諦めたかのような声でセイヤが呟く。正直、自分で食料を持ってこなかったにも関わらず、他人の食料を分けてもらうなどと考えているような奴はお断りなのよね。戦力は低下するけれど、長期間

過ごすなら少しでも無駄は減らすべきよ。よって、食料を持ってくるなら良し、死んで元のサーバーに戻ったならそれはそれで良し、生き残ればよかろうなのだ。


「私たちも行きましょうか」

「そうだね」

「とは言ってもどの方向に行くんだ?」

「そうね…」


 現在私たちのいる場所は森に囲われているので、方角を見てもはっきりとした向きが分からない。そもそも、マップを開いたところで初めてくる場所であるこの場所のマップは空白なのだが。


「適当に決めればいいんじゃないかしら?」

「お前にしては随分とアバウトだな」

「現実ならともかく、ゲームなら多少どうにかなるわよ」

「モミジさんって結構大胆なところもあるのね」

「そう?」


 自分ではそんな大胆な選択をしているとは思っていないけれど、2人から見ればそうみえるのかしら。それよりも今は目先のことを考えるべきかもしれないわね。他のプレイヤーたちはどんどん散って行っているし、早くしないと情報が出回って完全に聞いたことも見たことも無い場所を探索する楽しみが無くなってしまう。


「じゃあそろそろ行く?」

「そうだな」

「ちょっと、2人とも私の事考えなさいよ!」

「あ、そうだった」

「モミジさん小さいから歩くの遅いんだよね」


 スタスタと私の歩幅の事を忘れて歩き始める2人に文句を言うと、苦笑いをしながらそんなことを言ってくる。まったく、少しくらい配慮してもいいじゃない。


「ほら、手握ってやるから」

「ん」

「…」


 ユージの手を握る私を何かよくわからないような表情で見つめてくるミオ。何をそんなに考えることがあるのかしら。聞いてもはぐらかされるし、一体何なのかしら。


「ボーっとしてないで行くぞ」

「あ、うん」

「はいはい」


 とりあえず、たまたま正面に向いていた方へ歩を進める。ベースキャンプのようなものが設定されているのか、少し離れると青いマーカーがマップに残っているのが確認できた。これなら多少迷っても元の場所に戻ることができそうだ。


 しばらく進むと、魔物を見つけた。見た目は〈ゴブリン〉と言った感じだけれど、なにやら背中に薪のようなものを背負っているのが確認できる。


「ねぇ、ドロップ何だと思う?」

「聞く必要があるのかしら…それ」

「ないだろうな、決まってるようなもんだろ」

「ですよねー」


 多少気の抜けた会話をしながら剣を抜くユージ。その構えには会話の時とは違って真剣さが見て取れる。会話は会話、戦闘は戦闘でちゃんと分けられているようだ。ミオは少し離れて、弓を構えている。なるほど、ミオは後衛に入るのね。


「よし、先手必勝かな。《スラッシュ》!」

「私はもう少し待機」

「何もできないから見てるわ」


 〈ゴブリン〉との空いた距離を詰め、様子見なのだろうか、初期アーツを放つユージ。それに対して〈ゴブリン〉は完全に虚をつかれたらしく、直撃を貰って転がっていく。そのまま木にぶつかり動かなくなった。


「…弱いな」

「弱いね」

「このゴブリンが弱いだけで他の魔物は強いかもしれないか油断はしないことね」


 とは言った物の、実際本当に弱いから他の魔物も同じよう感じだと思ってしまっても仕方ないかもしれない。ちなみにドロップアイテムは予想通り薪だった。キャンプファイアーでもやれと言うのだろうか。


 その先もまっすぐ進んでいくが、森では〈ゴブリン〉しか出てこなかった。しかし、暫く歩いていると森の中心に出たのか、湖に突き当たった。湖は割と綺麗な水で魚が泳いでいるのが確認できる。また、湖とは言った物の、とても大きい。


「ユージ、魚捕ってきて」

「いきなりだな、おい」

「私もお魚食べたい」


 単純な用件だけ伝えると、ユージはやれやれといった様子で湖まで近づくと、そっと中に入っていく。すると、ゆっくりと流れるように魚のいるところに泳いでいく。ユージってあんなに水泳上手かったかしら…。軽装とはいえ鎧を着ているのによくあんなスムーズに泳げるものだ。


 魚は近づいてくるユージに気が付かず、そのまま捕獲されていく。そして3匹目の魚を捕ったあたりでこっちに戻ってきた。


「3匹じゃ足りないわよ?」

「わかってるよ、それより、湖の底に何か見つけたから少し見てくる」

「ついでにお魚たくさん捕ってきてね」

「はいはい」


 そういうと再び湖へ入っていくユージ。その間、私は暇になるので、周りで何か使えるものはないかと素材アイテムを探すことにした。





 大体1時間くらいすると、ユージが戻ってきた。こんなに長く潜ってられたら色々話題になりそうね。私は続けていた作業を一旦止め、2人のところに戻る。


「で、何があったのかしら?」

「そうだな、石像とでもいえばいいのか?4本の柱の中心に何かを模した石像みたいなのがあった」

「へー、それよりお魚は?」

「23匹だ」

「じゃあ今日は焼き魚だね!」


 石像ね…昔の建物か何かの残骸かしら。


「他に何かなかったの?例えば文字とか」

「無かったな。石像がポツンと置いてあるだけだった。綺麗だったから一応スクショ撮ってきたから回すぞ」


 ユージがそういうとスクリーンショットが1枚送られてきた。それには確かに4本の柱の中心に石像が鎮座していた。上から照らす太陽の光がちょうど石像にあたり、その存在を主張するかのように目立つようになっている。何か重要な気がするけれどあえてスルーかしらね。一応最初に居た場所との位置関係も覚えておくけれど。


「で、セイヤはどうするんだ?」

「ほっとけばいいでしょ」

「そうね」


 ポーションは材料がある限り、いくらでも作れるから特攻役にでもなってもらうわ。死にそうになったら引き戻してくればいいし。


「とは言った物の、向こうも何か見つけている可能性があるから一旦戻るのも有りね」

「んー、まあいいかな、じゃあフレンドチャットで戻るよう言っとくね」

「サンキュ」


 やっぱりこういうイベントには謎がつきものなのね。ここは掲示板とかを見るのもありなのだけれど、せめて1日目くらいは控えておきたいわね。


「ああ、そういえば」

「どうした?モミジ」

「さっき草むしりしてたらマナポーションの材料見つけたわ」

「お、なかなかいいもの見つけたんだね」

「まだ数が安定していないから常に作れるか、と言われると無理だけれど数本なら用意できるわ」

「少なくてもあるだけで良い。少し余裕が持てるな」


 ユージに引っ張られながら報告をする。私はユージのやや後ろを歩いているので顔は見えないが、おそらく新しいものが手に入ったことでにやけているに違いない。






「さて、戻っては来たが、他のプレイヤーはほとんど戻ってこないみたいだな」

「そうね、セイヤも遅いわね」

「んー…チャットはつながるから死んでたりはしてないみたいだけど…」

「悪い!遅くなった!」


 その言葉と共にセイヤがセーフティエリアに飛び込んでくる。


「何してたの?」

「いや、な。実はこんなものを見つけてな。夢中になってたらチャットに気付かなかった」


 そう言ってセイヤが鞄から取り出したのは、人参、じゃが芋、たまねぎ等の野菜だった。…野菜だけあってもそんな大したものは作れないのだけれど…。


「野菜だけ?」

「いや、途中で豚の魔物が出てきたから倒してきた。ドロップで豚肉手に入ったから肉野菜炒めくらいなら出来るんじゃないか?」

「他に何かなかったか?」

「特にはないな、些細なことでいいなら、俺の行った場所の更に先に何かがあるらしいが、そこに行って戻ってきたプレイヤーが全員ボロボロになってたことくらいだな」

「なるほど、奥に行くほど他のプレイヤーがそんな状態になるような強力な魔物が出るのね」

「逆に、そっちは何かないのか?」


 話を切り返してきたセイヤに先ほど見つけたものの事を話す。話を聞いても特に何か反応を示すわけでもなく、黙って聞いていた。普段よく喋る人が黙って話を聞いているとなると少し違和感があるわね…。静かなのはいいことだけれど。


「で、どう思う?」

「どう、って言われてもな…、ただ単に昔の建物が湖の底に沈みました、とかそんなんじゃないか?」

「まあそんなところよねー」

「結局今の段階では分からないことが多いわけね…」


 期待はしていなかったけれど、それでもわからないことの多さにため息を吐く。謎と決まったわけではないけれど、意味深な物があると深く考えてしまうのは悪い癖だ。今は頭の片隅に置いておいて他の場所にも行くことを検討するべきだろう。


「じゃあ、次はどっちに行くか、誰か意見ある?」

「俺はさっきよりも深いところに行きたいな」

「セイヤ、それはリスクが高いぞ。俺はもう少し色々と周ってみるのも悪くないと思ってる」

「私はユージ君に賛成かな」

「じゃあ次は反対方向にでも行きましょうか」

「ちょ、俺の意見は!?」

「ユージが言っていたでしょう?リスクが高いから却下」


 危険度の高いところを冒険するのもいいのかもしれないが、セイヤが言っている何かがある場所に行ってやられている人もいるだろう。しかし、それにしてはベースキャンプに戻ってきている人数が少ないことを見ると恐らくこのイベント中に死亡すれば元のサーバーに戻されてしまう可能性が高い。1日目で何の情報も無しに危険な所に入り込んで返り討ちにあうよりかは、それなりに情報を手に入れてから攻略に踏み出したいのだ。


「ちぇ」

「ちぇ、じゃないよ。食料忘れてきたの誰だっけ?」

「ぬぬぬ…」

「早く行くわよ、時間が足りないわ」

「そうだな」


 イベントに参加していられるのはわずか5日間。長く感じるかもしれないが、いざ過ごして見ると本当に短く感じるものだ。それにこの特別フィールドはそれなりに広いようなので、時間を無駄にすればそれだけ探索する時間が減ってしまう。財宝さがしとやらにも多少の興味はあるので、そちらもやっていきたいし、イベント限定の魔物やドロップも当然あるだろう。それをコンプリートするのも一つの楽しみだ。


「随分張り切ってるな」

「そうでもないわよ」

「翼がパタパタいってるぞ?」

「え?あ、ちょ、どこ注目してるのよ!」


 と言うより、いつ翼が服から出たのか分からない。ユージにアイアンクローをかましながら翼を服の中にしまう。それをみたミオとセイヤが目を丸くしている。ああもう、面倒なことになりそうね…。


「えっと、モミジさんの種族ってもしかして…」

「吸血鬼よ」

「なるほど、だから狩りは夜にやるって言ってたのか」

「日光の下だとダメージを受けるからな」


 説明にユージも入ってくれる。こういうところは評価が高いわね。それにしても2人の目がキラキラしているのはなぜだろう…。嫌な予感がする。


「翼、触ってもいい?」

「だめよ」

「少しくらい良いじゃないか」

「GMコールで訴えても良いのよ?」

「それは拙いな…」

「本当にダメ~?」

「何度も言わせないでよ」

「ほら、ミオ、セイヤ。時間がないんだ、先に行くぞ」

「ユージ、あなたが原因なの忘れてないわよね?」

「痛だだだだ!分かってる!分かってるから!手がつぶれる!」


 さらっと話を流そうとするユージを睨みつけながら、先に進もうとするユージの手を強く握る。骨がメシメシと音を立てているが、ゲームだからHPが減るだけで済むだろう。ポーション飲ませれば治るし。


「全く…」

「ごめんて、そんな怒らんといて」

「エセ関西弁乙」






 あの後、森に入って暫く経つが、こちら側ではまだ森から抜けるには時間がかかりそうだ。さっきから同じような風景のところを20分は歩いているが、ベースキャンプのマーカーとの位置を見比べるとちゃんと距離が離れているので前に進んでいることは確かだ。


「それにしても、この森って薪持った〈ゴブリン〉しか出てこないよね」

「そうだよな。しかも弱いし、レベルが上がらん」


 今日何度目かの〈ゴブリン〉を倒しながら、退屈そうにつぶやく2人。学校ではそうでもなさそうだが、仲がよさそうだ。


「あー…時間的にはもう夕方か」

「モミジさんはずっと草むしってるけど、楽しい?」

「MPポーションが要らないと言っているのかしら?」

「いやいや、そういうことを聞いてるんじゃなくてだな…」

「じゃあ生産職を全否定してるのかしら。生産は根気が必要なのよ」

「俺だったら五分で飽きるな」


 全員モチベーションが下がり始めて、ネガティブな発言が増えてきている。確かにそろそろ変化が欲しいわね。いくら私でもイベントに来てまでずっと草むしってるのはどうかと思う。


「こう、何かいきなり後ろからすごい音量の鳴き声とか聞こえたら面白いのにね」

「そういうこと言うと、綺麗に地雷を踏み抜くからやめろ」

「セイヤ、もう遅い…。後ろに居るぞ、でっかいの」

「え?」


『ゴアアアアアアアアアアアアアア!!』


 くだらない会話で建ててしまったフラグを綺麗に回収することになるとは思いもしなかったわね。3人は表情を引き締め、武器を構えるのを、私は少し離れたところで草をむしりながらその様子を眺めていたのだった。

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