表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/85

第10輪

「…やっぱり退屈ね」


 ポーション作りを一旦止め、再度ポーションを売るために街に戻ってきているものの、大半は道具屋のポーションを買ってしまうため暇な時間が続いている。そろそろ夕方になり始めることだし、売るなら夜までに売っておきたいのよね。そもそも朝から夕方はほぼ全てのプレイヤーが街に居ないっていうのが一番の問題なのだけれど。やはり宣伝とかをするべきなのかしら。サクラ姉ぇが来るまであと20分くらいだから時間は少しあるのよね。待つだけって言うのも時間がもったいないし、売れないなら大量にあるポーションで色々実験してみようかしら。


「さて、まあ最初はシンプルにポーションを濃くしてみようかしら。普通にポーションを作るときにやると失敗になるけれど、元からポーションだけで火にかければ大丈夫よね、きっと」


 と言ってポーションを5本、鍋に入れて火にかけ濃縮する。これでハイポーションになってくれたらどれだけ良いことか。もちろんハイポーションになるわけもなく、濃い緑色の濃縮ポーションと言うものが出来上がった。分類が消費アイテムではないので飲んでも回復したりはしないようだ。私の時間を返せ。もう客寄せに《魅了》でも使おうかしら。でもそれをすると何か負けた感じがするのよね…。そういえば山に行く前にサクラ姉ぇ達が欲しいっていていたからサクラ姉ぇ達に売ればいいかしら。二人はリアルでの友達ともパーティー組んでたりしているから、ついでに宣伝してもらえばいいわね。あまり広がりすぎると面倒だけれど。


「暇だわ…」


 何をしようにももうやる気が出ない。体を少し左右に揺らしながら街ゆく(NPC)を観察する。噴水のそばで立ち話をする人、街の中を走り回る子供、店で何を買おうか迷っている人、こう見ると背景が違うだけでリアルの街と変わらないものだな、などと思ってみる。しばらくそんな街を観察しているとサクラ姉ぇからボイスチャットが入る。


「モミジ、今どこ?」

「街の広場、噴水の近くでポーションの露店開いてる」

「ん、今行くわ」


 ボイスチャットが切れ、すぐにサクラ姉ぇがやってくる。


「お待たせ」

「対して待ってないわ、チャット切ってから3分も経ってないじゃない」

「細かいことはいいのよ。それにしてもポーションの露店ねぇ…」

「サクラ姉ぇにももちろん売るけど?」

「そうね、せっかくだから買っておこうかな、この前貰ったのも若干だけど効果高くて便利だったし」

「前も言ってたわね、一つ110Gよ」

「じゃあ50個」

「5500Gね、あと、サクラ姉ぇのパーティーの仲間に宣伝しておいてくれる?生産職は金欠になりやすくて困ってるのよ」

「はいはい、じゃあ服取りに行きましょうか」

「そうね」


 敷物を片付け、サクラ姉ぇから5500G受け取った後ポーションを渡す。ポーションの値段の相場など知らないが、何か問題があるとすれば他のプレイヤーからメッセージが来るだろう。そうなるならば生産職たちでのネットワークを組み、他のプレイヤーに影響が出なくなる範囲の値段を設定すればいいと思う。それにしてももう少し効率よく稼げないものだろうか。と言っても評価1につき値段を5Gしか上げない私にも原因はあるのかもしれないかもしれないけれど。そんなことより今は服ね。すでに服屋の目の前まで来ている。あの服を着るのは正直抵抗があるけれど、同時に楽しみにしている自分がいる。


「お、フフ、狙ったかのようなタイミングですね。今終わったところですよ」


 店に入ると、ちょうどカウンターに先ほどの男性が立っており、こちらを見つけるなり少し微笑んだ後、服が出来上がったことを知らせてくる。


「そうなんですか、ほらモミジ行ってきなさい」

「わかったわ、それで、出来上がった服はどこかしら?」

「これですよ、我ながらなかなか良い出来だと思うのですが、どうでしょう。もちろん翼を出すための切れ目も入れてあります」

「…気づいていたのね、恐れ入ったわ」

「人を見る目には自身がありますから」


 男性が取りだしたのは先ほどの黒いゴスロリ衣装だが、白い幾何学模様は蜂の羽を使った証拠だろうか、光を反射して光っているように見え,蜂の羽の色だった琥珀色に変っている。模様に目を取られて気づくのに少し遅れたが服を全体的に見たときにもキラキラと光を反射していることから、持ちこんだ素材を無駄なく、服全体にちりばめられているのがわかる。


「それにしても、少し力が入りすぎてしまいましてね。ここで売っている鎧、一番安い金属鎧と比べて勝るとも劣らない程度の防御力は有しています。素材になった蜂の針はまず通らないでしょう」

「それはまたすごいわね、感謝するわ。それとこれが代金よ。服が傷んできたらここに持ちこめば良いかしら」

「それで問題ありませんが、これ以上強化するとなると私の腕ではどうにもなりません。他の方を当たってもらうことになります」

「十分ね、ありがたく頂戴するわ」

「はい、それではこれからも御贔屓に」

「ええ」

「良かったわね、モミジ。早速着てみてくれるかしら」

「構わないわ、それにしてもNPCの腕が結構優れているのも今のところ事実ね。あのNPCは《裁縫》レベルいくつなのかしら」

「あれで10って聞いたけれど?」

「となると、本格的に生産職が出回ったらものすごい装備が出回りそうね」

「そうね、それはいいから早く着てみてよ」

「はいはい」


 サクラ姉ぇに急かされてメニューで装備を変更する。切り替わるのは一瞬なので時間がかからなくて良いと思う。着てみて結構動きやすいことに驚いたが、布の量に対する服の軽さがあの男性の《裁縫》レベルの高さを物語っていると思う。デザイン的にいえばバリエーションは少ないものの、そのあたりはプレイヤーが頑張るべきだろう。私的にはお嬢様みたいな服よりもリアルで着ているような半袖にジーンズとかのほうがいいのだけれど。おっと、忘れるところだったわ、肝心の急かしてきたサクラ姉ぇは…


「わぁ…、お人形さんみたい。抱き締めさせて!」

「きゃっ!ちょっと、いきなり持ちあげないでよ、びっくりするじゃない!」


 自分の恰好を確認した後、サクラ姉ぇの方を振り向いたらそう言うなり、いきなり持ちあげてきたので本当に驚いた。小さな子供なら喜ぶかもしれないが、高さの恐怖を知っている今となってはいきなりやられるとたまったものじゃない。…ちなみにアバターが小さいせいでサクラ姉ぇに持ちあげられる高さは地面まで大体40センチくらいはあるかもしれない。


「もういいかしら」

「あ、ごめん」


 5分ほど抱き締められたり、頭なでられたりしたあとようやく解放された。ゲーム廃人でも流石に女子か、かわいいものに目が無いようだ。ユズもいいと思うのだけれどね、私じゃないとだめなのかしら。


「あ、そういえば伝えてないからわからなかったと思うけど、一応装備によって増えるステータスって見れるのよ」

「そうなの?」

「ええ、プレイヤー自体のステータスは特定のスキルを持っていないと見れないけれど、装備の上昇値は誰でも見れるわ。他のプレイヤーの持っているものはそのプレイヤーが許可した時だけ見れるわ」

「へぇ、私も早速確認してみようかしら」

「お好きにどうぞ」


 そういう機能があるのなら一番最初に言ってほしかったものだけれど、まあいいわ。


 武器 鋼の大剣

 重量・22 ATK+27


 武器 日傘

 重量1 ATK+1

 日の光が防げる


 体 ゴシック調のワンピースドレス

 DEF+21 AGI+3


 足 ドレスシューズ

 DEF+8 AGI+9


「どうだった?」

「他の人のステータスが分からないからどうなのかわからないけれど、はい」


 サクラ姉ぇが上昇値がどうだったのか聞いてきたので、メニュー画面をそのまま見せる。


「あー…そもそも装備自体少ないわね」

「買うだけのお金を私は持っていないのだけれどね、そのうち増やしていくからいいわ」

「モミジがそう言っているならいいかな、じゃあ私はこれで退散しようかな。」

「サクラ姉ぇ」

「ん?どうかした?」

「えっ…と、その…ありがとう。助かったわ」

「どういたしまして、じゃあね」


 何か家族にお礼言うのって恥ずかしいのよね。これだから素直じゃないって言われるのはこれが原因かしら。そんなことよりログアウトしないとユズが怒るわね。今日は両親とも仕事でいないから私が夕食作らないといけないし。


「ふぅ、ずっと寝てるのって体が痛くなってくるわね…」


 背中と肩に感じる痛みにそんなことを呟きながらリビングへ行く。柚子はソファーに座ってテレビを見て寛いでいたが、私の方を見ると、


「お姉ちゃん、ご飯早めにお願い」


 と短く告げると、またテレビのほうに視線を戻す。どうでもいいことだけれど、今やっている番組はドッキリ番組のようだ。こういうのは毎回仕掛けたり、それに嵌るのを見るのは良いと思うけれど、やられる側になった時の気持ちを考えると何とも言えない気持ちになってしまう。それは置いといて、柚子のことだからすぐに続きをやりたいって言うだろうし、すぐに作れてすぐに食べられるもの…炒飯でいいかしら。






「今日は炒飯なんだね」


 約10分後、出来上がった炒飯をテーブルに運び、食器を並べていると柚子が椅子に座りながら意外そうな目で言ってくる。


「手間もかからないから楽なのよ。どうせ時間かかったら催促するでしょう?」

「まあ、多分」

「さて、冷めないうちに、いただきます」

「いただきます」


 両親は基本夕食を外で済ませてくるので、夕食のメニューは基本自由に決めることができる。なので私の腕的に限界もあるがそれなりに良いものを作ることもできるし、毎日炒飯と言う栄養バランスを無視したメニューでも問題はない。本当に面倒な時はインスタントラーメンか何かで済ませることもできる。


「そうだ、お姉ちゃん。今日私のパーティーと狩りに行かない?」


 この後WWOで何をしようか考えていると柚子がいきなり話を持ちかけてきた。


「別に良いけれど、他の人のスキル構成は?」

「私ともう一人が前衛、他の3人は魔法職でそのうちの1人がで補助と回復やってる」

「私は多分前衛になりそうなのだけど、バランス悪くならないかしら」

「大丈夫だよ、何とかする」

「なら良いけれどね、それと合流した時に作ったポーション売りたいのだけど、構わないかしら」

「あのポーション売ってくれるの?」

「そのつもりだけど、なにか問題でもあるのかしら?」

「無い無い!むしろ売って!」

「じゃあその話はまたあとで、もう片付けちゃうから」

「はーい、先に行ってるね!」


 自分の部屋にかけて行く柚子をみて少しくらい手伝ってくれてもいいような気がしながら、片付けを始める。それにしてもついこの前廊下を走らない、と言ったばかりなのにもう忘れてしまったのだろうか。


 食器の片付けは皿二枚と、スプーン2本だったのですぐに終わった、本当ならもっとゆっくりしたいところだけれど、ユズ達を待たせるのも悪いのでログインすることにする。ログインをしたらどこに行けばいいか確認するためにユズにボイスチャットを繋げる。


「ユズ」

「あ、モミジお姉ちゃん、今ログイン?」

「そうよ、集まるって言ってたけど、どこに行けばいいのかしら?」

「最初の街の広場に居てくれればいいよ」

「わかったわ」

「じゃあ後でね~」


 ボイスチャットを切って待機。服を買って装備した後ログアウトしたので街の広場からログインだったのだ。それにしてもこの格好で敏捷が上がるって言うのも変な話ね。特に靴。リアルだったら絶対に走れない。その辺の事はファンタジーだから、で片付けるのが一番よさそうね。とそこでキュルルルルル…という音がどこからか、いや勘違いではないだろう、自分のお腹からなった音だ。そういえば、と満腹度の事をすっかり忘れていた。幸いユズ達はまだ来ていないので西まで行って食材を買ってきてしまおう。






「それにしても、さっき食べたばかりなのに空腹になるって不思議な感覚ね…」


 適当に買った野菜やらで簡単に作ったサンドイッチで空腹を解消させる。リアルと比べると口も小さいので食べるのに時間がかかる。実際に子供だったころはここまで食べるのが遅かったんだろうか、などと思いながら2つ目のサンドイッチに手を伸ばす。ちなみに製作評価は6。作るのが簡単な分、評価も上がりやすいのだろう。手が込んでいないので満腹度の回復もたかが知れているが。


「あ、お姉ちゃん見っけ!」

「ん、…んく。結構遅かったわね」


 口の中に物を入れたまま話すとはしたないので飲みこんでから返事をする。ユズの装備は金属鎧ではあるものの軽装備に変わっていた。肩と胸当て、それから籠手にひざ当て。そういえば装備箇所っていくつあるのかしら。


「みんなー、こっちこっち!」


 そういって、少し離れたところに居た4人の団体によびかける。その声に気付いて近づいてくるのが確認できる。


「えっと、この人がユズさんのお姉さん?」

「どう見ても妹さんにしか見えんよ?」

「…き、危険生物だわ。大量殺戮兵器並みの可愛さだわ。直視できない」

「落ち着きなさい」

「じゃあ紹介するね」


 敬称をつけて名前を呼び、皮装備で短剣を腰に差した肩のあたりまである青髪と金色の目をしているのがセリカ。


 ロールプレイだろうか、無理に訛りのような関西弁のような喋り方をしているのが典型的なローブと三角帽子をかぶったいかにも魔法職な感じのするピンク色のショートヘアで水色の目のユカ。


 言動が色々と危なそうなのが和服を着たウェーブのかかったロングの金髪、金色の目をした狐の獣人のカリナ。二陣プレイヤー。


 そしてカリナに突っ込みを入れていたのが肩より少し長いくらいの金髪で明るい緑色の目をしたエルフのユミ。カリナと同じく二陣プレイヤー。


 それにしてもこの中で一番年上なのに私が皆を見上げているのは複雑な気分になってくる。アバター変更できないかしら、首が疲れてくるのよね。


「もう聞いているのかもしれないけれど、ユズの姉のモミジよ。よろしくお願いするわ」

「お嬢様スタイルの幼女…そして言葉づかいが高飛車な感じが、うっ」

「後ろ向いてて」


 真っ先に特殊な反応を示すカリナ、そしてカリナを私に背を向けるように回転させるユミ。それにしても何かあるのだろうか、大体の予想はできるのだけれど、それが気のせいであることを祈る。


「…どうかしたの?」

「あ、気にしないでください。可愛い女性を見るとこんな感じなので。特に身長の低い人とか子供は」

「将来的に結構心配ね…」


 大体そんな感じはしていたけれど、やっぱりそうなのね…。しかも特に子供って下手したら本当に危ないわね。


「ところで、本当にお姉さんなんですか?」

「アバターがこれならそう思うのも仕方が無いとは思うけれど、本当にユズの姉よ」


 話題を変えようとしたのか、唐突に質問をしてきたセリカ。地味に気にしていることを言われて少し傷つく。私だってちゃんとユズから色々聞いていればこんなことにはなっていないわよ…。


「で、お姉ちゃん、ポーション売ってくれるって言ってたけど」

「そういえばそうだったわね在庫は結構あるけれど」

「じゃあ80本くらい頂戴」

「8800Gになるけれど大丈夫かしら」


 80本だと在庫が底を突きかけるけれど、どうせ私はほとんど使わないし余らせるくらいならある分だけ売ってしまった方がいいだろう。


「安い安い、はい、8800G」

「ん、じゃあこれがポーションね、一応数確認しておきなさい」

「大丈夫、ちゃんと80本あるから」

「ならいいわ」


 私がユズにポーションを渡すと視線が集まる。そして最初に口を開いたのがセリカだ。恐らく彼女がリーダーもしくは交渉役、パーティーの顔なのだろう。


「あのポーションってモミジさんが作ってたんですか?」

「あの、ってどういうことかしら」

「ユズが使っとったんポーション効果が大体4割増しくらいだったんで気になっていたんよ」

「まさか出所がこんなに近くだとは思ってなかった」

「そこまで効果が高いなら値段を直さないと面倒なことになりそうね」

「200Gくらいで売っても普通に売れると思うわね、そこに天使のような姿を見れる料金を含めて、ウフフ…」

「後半はともかく、200Gでも少し安いかもしれない」


 私としては200Gだと大分相手を馬鹿にしているような値段のような気がするのだけれど。


「なら次からそうしたほうがいいのかしら」

「逆にそうしないと色々な人に絡まれるかもしれません」

「まぁまぁ、そんな話は置いておいて、狩りの話しようよ」

「狩りと言うよりは山攻略とちゃうん?」

「いや、私とモミジお姉ちゃんはもう第二の街行ってるから狩りなんだよね」

「えっと、今山越えたプレイヤーってまだ少ないよね」

「そもそも、第二陣の私たちが山に行くのは自殺行為」

「一陣でも越えられない人が多いのに、ねぇ」


 越えられない人が多い、と言うことは少数であれど攻略できている人は大分出てきているのだろうか。まあそんな事はどうでもいいわね。


「ユズは言いだしたらきかないから諦めたほうがいいわよ」

「モミジさんがそういうなら仕方が無いです、行きましょうか、山」


 ユズが山に行くと言った時点でユズ以外の4人が何か諦めているような感じがしていたのが、私の言葉によって完全に折れたような気がする。もしかしたら普段から迷惑をかけているのかもしれない。姉として頭が痛いわね…。


 時間もちょうど夜で、半分くらいユズの我が侭で山に行くことになったのは良いけれど、個人的にはあまり行きたくないのよね。このパーティがコントを始めなければ問題は無いけれど、あんな目に会うのはもうこりごりだわ。


「じゃあ、先に山で待ってるわ」

「え?ちょっと」


 ユズの止める声がするがスルー。こっちはあまり時間がないので、パーティーで進むなんて言っていたら時間が経ちすぎるかもしれない。よって、強引ではあるがこの方法を取らせてもらった。そもそも私がこういうところで一緒に戦ってしまうと他の人のスキルが伸びない。山まで走っている途中に《魅了》全開にして周囲の敵を引き寄せながら進む。傍から見たら MPKモンスタープレイヤーキラーを狙うトレインに見えなくもないけれど、自分のレベルを上げるためにやっているので問題にならない…はず。


 そのままふもとまで走り、山に入る道を背にして魔物の集団を迎え撃つ。数は大体50くらいかしら。少し骨が折れそうね。


 《威圧》時々発動させて敵が怯んだところに一撃を入れる。基本この辺の魔物なら一撃で倒せるので時間自体はかからないものの、これだけ数が居ると流石に厄介と言うものだ。押し寄せる攻撃は《見切り》を使って避けつつ、避けられそうもないものは大剣で受け流す。体力が減ってくれば《飛行》を使い上空に避難してからポーションを飲む。地面に降りる時もそのまま降りるだけでは攻撃を受けるので着地点に《ダークネス》を放ってから降りる。数が少なくなってくればスキルを少しでも伸ばすために《蹴り》や《投擲》も使う。暫く戦闘が続き、最後の一匹を倒したところでその場に座り込み休憩を入れる。


「さて、あとはユズ達を待ちましょうか」


 それにしても本当に吸血鬼のステータスは反則じみているわね。運営が禁止にしたのもわかるわ。まだユズ達がくる気配はない。それまで暇になるし、休憩ばかりでは時間がもったいない。なので《魅了》を使って周囲の敵を引き寄せ、《大剣》と《魔術・闇》のレベルを上げる。ついでに《魅了》レベルも上がるし、時間の無駄にもならない。空腹度もちゃんと回復してあるので安心して狩りができるわね。


 戦闘を続けて30分くらいたつと、声が聞こえてきたので、《魅了》を使うのをやめ今周囲に居る魔物で切り上げることにする。残りの魔物は魔物〈ウルフ〉が8匹、〈スネーク〉が5匹、カブトムシ型の〈ライトビートル〉が4匹。〈ライトビートル〉はこちらに光を向けて目を眩ませてくるが、そこまで強い光じゃないので状態異常にかかる確率は低い。それに光を見なければ何の問題もない。


 円陣を組んで一斉に飛びかかってくる〈ウルフ〉を上に跳んで避け、その勢いで縦軸回転で《ハイスラッシュ》を放ち〈ウルフ〉を一網打尽にしたあと、落ちるまでの時間で《ダークネス・サークル》を展開、着地と同時に発動して、近寄ってくる〈スネーク〉を排除。最後に〈ライトビートル〉だが、光を放ってくるので場所が特定しやすく、そこに向かってナイフを5本から6本投擲すればそれで片付け終わってしまう。敵がいなくなったのを確認して、大剣を仕舞ってから声のする方を振り向く。


「お姉ちゃん、いつから人間辞めちゃったの?」

「失礼ね、誰だってステータス高ければできるわよ」

「それにしてもあれだけの数相手にするんはありえんで」

「魔物相手に無双する幼女―――「黙って」―ぬぬぬ…」

「そ、それにしてもすごいですね…頑張れば私もあんな感じに動けるんでしょうか」

「できると思うわよ」

「がんばります!」

「それにしても結構遅かったわね」

「魔物は出なかったんだけど、満腹度の管理をしてなくって」

「まぁ実装されたばかりだから忘れるのは仕方が無いと思うけれど、それでどうしたの?」

「二陣の二人に分けてもらった」

「ハァ、全く…悪いわね、ユズが迷惑かけて」

「そんなことないから、謝らなくていい」

「そう。後でお礼はさせてもらうけれどね。それにしても結構スキルのレベル上がったから戦いやすくなるわね」


 《大剣》が16、《魔術・闇》が11、《魔術・結界》が9、そして《魅了》が15まで上がった。これに伴って大剣の新アーツ《月衝波》と闇魔術の《ダークボール》を習得。山で試すことにする。他の戦闘用スキルも軒並み上がっているが、重要なのは今の4つくらいだろう。それよりもカリナとユミにお詫びの品をどうするかね。


「じゃあ、気を取り直して、山登ろうか」

「そうですね」

「お姉さんは…」

「私は中腹に着くまでは手を出さないわ」

「モミっちが戦うと私たちのレベルが上がらないしね。それにしてもさっきの無双している姿は良かったわ…」

「…いざって時はよろしく」


 一陣のプレイヤーはともかく、第二陣のカリナやユミは少し不安そうな表情をしている。山に来させるんだったらちゃんとしたレベル上げができていない二人には難易度が高すぎると思うのだけどね。そもそも始めたの今日なわけだから上がっててもせいぜいレベル8程度だろう。ユズは自分勝手すぎるから良く周りが付いていけないのが難点ね。それでも限度を知っているからぎりぎりまで無茶するからさらに達が悪い。


「あー、やっぱり山道暇だね」

「そうね、山に来るって言ったユズがそういうこと言うのもどうかと思うけれど」

「うー…」

「ユズ、敵の反応。数は2」

「了解、皆気をつけて」

「言われなくってもずっと警戒してますよ…」

「二陣の私とユミは尚更ね」

「うん」

「魔物は正面から〈ロックアント〉が1、上から〈アルマジロック〉が1、レベル上げたいだろうから厄介な〈アルマジロック〉は受け持つわ」

「わかった、上はお姉ちゃんに任せるから、皆は正面の魔物に注意して!」

「…さて、他の5人は大丈夫そうね」


 5人もいれば大丈夫だろうと、正面から視線を外し、転がってきている〈アルマジロック〉をに狙いをつける。一人で受け持ったのはもちろん新アーツを試すためだ。


「名前からして少し離れててもも行けそうよね、…そろそろ良いかしら。《月衝波》!」


 大体10メートルくらいまで引きつけてアーツを放つ。剣は放つ数秒前に取り出している。システム補助によって剣は上からまっすぐ振り下ろされ、三日月形の刃が飛んでいく。《アルマジロック》は転がる勢いを緩めることなく、刃に接触し、パキィンと言う音とともに真っ二つに切断された。刃に接触した時に何かが割れるような効果音がしたので、恐らくクリティカルが出たのだろう。それにしてもあっけないわね。さて、あっちはどうなってるかしら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ