20/22
春先には不審者という名の変態が沸いてくる
「……………」
沈黙が腹に痛い。
あなた誰ですかとか、父様降ろしてあげて下さいとか言いたい事は沢山あるが、如何せん目付きが鋭すぎて声を発することができない。
ヘビに睨まれたカエルどころか、ライオンに補食されかけのウサギの気分だ。
「……まえ」
「はっ?」
何かを言った様だったが、声を聞き取れずに聞き返すと睨まれた。
ヤダ恐い。普通の子供だったら確実にちびってる。
「…名前はなんちゅう」
なんて、こった。初対面の人には挨拶をするのが俺の持つ数少ないポリシーなのに、インパクトが強すぎてすっかり忘れていた。
「ディレットです」
内心うちひしがれながらも、これ以上の失礼が無いようにしっかりと返事をする。
この時の俺の頭は、目の前の人物がいきなり現れた不審者であるということを忘却の彼方へと捨て去っていた。
「…ほうけ」
そう言うと、目の前の人物は粗大ごみを破棄するかのように、掴んでいた父様を床へ落とし俺を俵かつぎした。
………ん?