魔法の呪文はバ・ル・ス
招待客達の目線は、俺と俺の掲げる予定の台座に鎮座した水晶に集まっている。俺の浴びている視線は、決して悪意のある物ではない。寧ろ見守るような暖かい感情がこもっているはずだ。なのに、自身の緊張のためか全身に冷たく突き刺さってくるような気がする。
ふっ、と息を軽く吐き、ひんやりとした少し小ぶりな水晶を両手で包み込むように持つ。
まるで親の仇を見るかのように、手のひらから少しはみ出した水晶をねめつけた。
じっりと汗が滲み出し、水晶が滑らないか気になって。
このまま持ち上げて落とさないか不安になった。
…そのまま手が持ち上がらなくなる。
…ははっ。
精神年齢は二十歳をとうに越しているはずなのに。
嫌に緊張している自分が滑稽だ。
これじゃまるで本当の五歳児じゃないか。
情けない。
ほら、無駄にイケメンな父様と美しすぎる母様が心配している。
観客だってざわつきはじめて。
さっきのタカビーな女の子も、馬鹿にしたような顔をしてる。
ふざけるな。ロリタカビーに見下される趣味はないんだ。俺の業界にそんなご褒美は存在しない!
かつての世界にいた、声も知らない有志達の事を思いだし妙な気合いが入る。
その、深夜のテンションさながらの気迫で俺は水晶をとうとう持ち上げた。
そして待つ。
水晶によって下る、天命とも言える合図を!
……アレ。
え、これ持ち上げて三秒は経ってますよね。
何も起こってないっぽいんだけど。
見てる人達むっちゃくちゃザワザワしてるんだけど!
え、なに、まさかの魔力無し!?
この星にいる生物全てに魔力があるってセバミが言ってたのに!?
アンデッドなのか俺!?
混乱し、思わず手に力を籠めた瞬間。
ごうっという音が上から聞こえ。
水晶がバッゴンと砕け散った。
……皆様。ところでですね、私、今おもいっきり握りしめていたのですよ。水晶を。
つまりですよ、砕け散った破片が私の柔らかぷるぷるのお肌に突き刺さっているのです。
まあようするに、なにが言いたいのかというと。
「手えええッがあああああああああ!?」
痛い。