第三話 同じクラスになった彼女は
短めですがキリの良いところまで。あらすじ変更しました。
女神様の名前や容姿はまだ秘密。
入学式初日から堂々たる重役出勤をしてきた子犬ちゃん。それもこれで解散かなって直前のタイミングでの入室。彼の顔色を見た。苦笑いしているものの、至って健康そうね。初日からいきなり病欠だというものだから、素体に魂が上手く定着していなかったらどうしようとか無駄に心配したようだ。
そして彼が教壇に立たされると、一時騒然としていた教室が自然と沈黙の空気へと切り替わった。Tシャツブレザーに剃りこみ入り坊主頭、と新入生の目から見てもザ・不良な佐々木虎次郎と同伴してきたものだから明らかにクラス中がビビっている様子だ。特に女子からの好感度は絶対にプラスにならないゲーム仕様になっているため、より目線が冷やかな子も見受けられる。
そりゃあ、明らかにブカブカなブレザーとズボンじゃもう色々とアウトよね。無理して突っ張ってる子犬ちゃんが可愛いだなんて思う女子は私だけだろう。来客用スリッパで裾を踏んでいるのが萌えのツボをしっかり押さえている。
いいよ。完全に想定外のルートだけれどコレはいいわよ。もうチビッ子ヤンキー路線で男の子たちのハートを掴み取りしてくれたらいいじゃない。
きちんと制服は事前に用意してあげたのにも関わらず、何故彼がタイガ―のものであろうと推測される制服を身に纏っているのかが非常に気になる。タイガ―も制服を着てたし、やっぱりタイガ―の家に行ったのだろうか。
えぇ、非常に妄想が捗る。大層捗る。スケブがもし手元にあったならば、今の私は間違いなくノリノリで筆が進めていることだろう。やるじゃない子犬ちゃん。
今にも零れおちて来そうな涎をハンカチで受け止めつつ、気色悪く歪みそうな口元を覆い隠す。でも、タイガ―ルートどのPCで通っても危ない路線が多いからあまり好きじゃないんだよね。それにハーレムルートへ分岐させるのが一番難しいのが問題だ。
新たなカップリング妄想を進める私を差し置いて、壇上の子犬ちゃんは教室を一望するとその口を開いた。
「初日から色々あって遅れました。小柴賢治です。出身は九州だから同中は居ないかな。ってことでみなさん初めまして!」
よく通る声で歯切れよく発言する子犬ちゃん。流石に元々社会人なだけあって緊張する素振りも感じられず場慣れているようだ。申し訳なさそうな苦笑いや、あえて後ろに置かれた「初めまして」の言葉が如何にもって感じがする。廊下側から窓側への生徒へと視線を投げかけた後、彼は言葉を続けた。
「ちなみに好きな事は料理、マイブームは筋トレです! 遅刻のせいでみんなの自己紹介とか聞けてなくてゴメンなさい。連絡事とかわかってないから迷惑かけると思うけどよろしくお願いします!」
ちんまりとした身体で礼をする。きっちりとした角度で決めたその姿は他のどんなイケメンキャラよりも清々しく、可愛らしい声や体格の裏側に落ち着いた大人の姿を感じる。ゲームの中の子犬ちゃんとはイメージが違うけれど、このギャップ萌えは私はありだ。異論は認める。内面が大人だから高校生たちをリードする場面が原作より増えてもいいんじゃないかな。
天界ではきっと現在、日本文化に染まりきった女神たちによる盛大な論争中だろう。私の見てない所で進んでいたタイガ―とのイベントでも盛り上がっているんだろうなと考えると、この世界に来ている私だけがこの興奮を語り合える相手が居ないのでちょっと物哀しい。
「んじゃ、小柴に質問のあるものは? これでホームルームは終わりにするから1つだけだぞ」
「はいはーい! 身長いくつ?」
教師歴2年目、今年で初担任になった武田先生こと武田センの声に反応したのは、赤毛交じりな堀の深い顔立ちの少年、星崎吉良。髪色が普通でないのは彼がタイガ―みたいな不良というわけではなく、赤薔薇学園唯一のハーフキャラだからである。彼には重要な背景設定があるのだが、それは一度置いておこう。
表面上は曇り一つない笑みを浮かべながらも全力で子犬ちゃんを煽りに来ている。対する子犬ちゃんはどうするのかなとハンカチの下でニヤニヤ笑いながら様子を見守る私。
「……多分154。来年抜かすかんな」
「あと32センチ頑張れ~」
え、喧嘩買っちゃったよ! ビシィッという効果音をさせるかのような動きで人差し指を吉良に向ける子犬ちゃん。大人だなぁと思った矢先、実に子供ぽい言動だ。身長の話題はやっぱり地雷なんだね。そして吉良、そこ清々しい笑顔をしない。根塚が頬を紅色にして恍惚と見てるぞ。
「後、最近引っ越して来て一人暮らしはじめたばかりだから、買い物できるとこ教えてくれる人募集中なんで~」
「あ、俺近いから付きあ……」
「小柴はこの後すぐ職員室だ。最期ちょっと連絡回して終わるから席に座れ。ホラ、空いてるソコ」
チッ。武田セン、邪魔しよって。職員室か。初日からこれは初担任も頭痛いわよね。明らかに好感度低いし、むしろ厄介者扱いだから個人授業プレイはまだ期待できないかぁ。ま、色白メタボな武田センは好みじゃないからいいんだけど。
イマイチな妄想を打ち切りつつ、今日のお昼ご飯どうしようかなと考え始めていたときだった。急に投げかけられた言葉が私を現実へ一気に引き戻す。
「君、さっきから大丈夫?」
「ふぇ?」
目の前には首を傾げながら覗き込んでくる子犬ちゃんが居た。「ふぇ?」って何アニメみたいな声上げてるのよ私。でもいきなり何だもん。隣の子じゃなくて右後ろという微妙な位置の私に声かけてくるんだもん。びっくりするわよ、そりゃ。
「いや、さっきからずっと俯いてハンカチで口抑えてるしさ。初めてで緊張したの?」
「癖みたいなものよ。お構いなく。そういうあなたの方こそ大丈夫だったの? あの怖そうな先輩に何かされたりとか」
「怖そうだけど良い人だったよ。道教えてくれたし、制服とか色々貸してくれたし」
何これ。もしかしなくても子犬ちゃん私にフラグを建てて来てるの? 私そんなチョロインじゃないわよ。あなたは男の子と素敵な恋愛をしなくちゃいけないの。
でも、やっぱり可愛いわね。やっぱり合法ショタは最高だわ! 女神になる前の私だったら簡単に今ので“きゅん”ってなっちゃっただろうな。
解散後、武田センに連れられていく子犬ちゃんを見送った私はというと、親御さん不在のモブ子ちゃんたちに無理やり拉致され、久々の綺麗な女子会に参加させられていくことになった。
若さって辛い。そして無垢って怖いわと再認識した一日だった。でもこのまま分かち合える友達がいないのも寂しいから、その内に色々布教してあげなくちゃ、ね。
帰宅後の私は明日の学力テストで恥をかかない程度にテキストを流し読みしつつ、Paxivの週刊イラストランキングをチラチラと掘り漁っていた。このパソコンは天界から持ち込んだ唯一の物であり、天界と連絡を繋ぐ大切なものである。
――――――0:00を記録。レポートが自動更新されました――――――
あ、来たか。とうとうお待ちかねの時間だ。パソコンの画面上に新たなポップアップが表示された。子犬ちゃんのレポートである。彼の好感度をなどを把握し、必要があればイベントを誘導しなければならないため、毎日0:00にレポートを天界から貰えるようになっている。生で子犬ちゃんの恋愛模様を見れる特権の代わりに、彼の行動を逐一把握する能力を今の私は失っているためだ。
う~ん。え~っとね…………え。え? ちょ、ちょ!
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【プレイヤー名】
小柴賢治
【状態】
軽疲労(35/59・26/52)
睡眠
非童貞
処女
【パラメータ】
最大体力:59(↑9)
最大気力:52(↑2)
筋力:67(↑17)
知力:53(↑3)
器用:51(↑1)
芸術:46(↓4)
【スキル】
直感:5(→)
逃走:3(→)
窃盗:1“New”
ひとりで:3(→)
ふたりで:1(→)
金的:1“New”
【対外評価】
知名度:20(↑20)
モラル:6(↓4)
評判:-3(↓3)
【称号】
ゴールデンクラッシャー“New”
噂の新入生“New”
【好感度】
櫻田善樹:-10(↓10)
佐々木虎次郎:4(↑4)
武田博人:-3(↓3)
星崎吉良:1(↑1)
大門太助:1(↑1)
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「ちょ、何やってんの子犬ちゃん!?」
深夜にも関わらず大声で独り言を叫んだ私は悪くない。悪いのは全部子犬ちゃんだ。酷い。コレは予想以上に酷い内容である。明らかに妙な新スキルと、約一名の好感度の下がり幅。本当何をやらかしたのだ彼は。
そして筋力系がもう笑うしかないレベルの異常なステータス上昇幅。それに他に関しても、普通どれか一つのステータスが1~2上がればいいほうなのに、複数個のステータスが上昇している。環境調整がうまく機能していないのだろうか?
そう不安を抱いた私は天界へメールを送ったが、女神仲間たちからは「自分の眼で確認してきたら?」と草が大量に生えたメールを付き返された。一応バグとかの類ではないらしい。余計に気になるじゃない。
この感じだと明日は実力テストだけで終わらない気がする。そんな嫌な確信めいた何かを抱いたまま私も就寝することになった。
子犬ちゃんはチートしてません。あくまで真面目に仕様を使いこなし攻略へ準備してます。次々話辺りから本領発揮予定。