第28章:大作戦
修学旅行当日となった。なるかは色々な計画を秘め高揚感と共に東京駅に着いた。旅先でどんなことが起こっていくのか!
こんなにも、指折り数えてその日を待ち焦がれた学校行事が、これまでの人生にあっただろうか。
幼い頃から、どれほど高熱を出して寝込んだ日でも、不思議と夜のうちには平熱まで下がり、翌朝には「今日も元気に登校しました」というハンコを押されに行くような、親が泣いて喜びそうな大変偉い女子だった私は、当然、学校行事も陸上競技の大会で公欠した日以外は、皆勤賞のようにすべて参加してきた。
けれど、私の記憶の引き出しをあけてみたところで、そこに刻まれているものなんてほとんどない。修学旅行の記念写真に写っている私はいつも、周囲の浮かれた空気から一歩だけ引き離された場所で、乾いた作り笑いを貼り付けているだけだった。あの頃の私にとって、集団行動という名の退屈な儀式は、ただ時間を潰すための苦行でしかなかった。
――なのに、今の私はどうだ。
四角いハードケースに、これから計画するすべての企みと、誰にも言えない秘密をぎゅうぎゅうに押し込み、私は指定された集合場所である東京駅の八重洲北口に立っていた。
これから何か大きな、取り返しのつかない犯罪でもしでかす直前のテロリストの若者のように、私の心臓は不規則に、けれど激しく、よそ行きの服の内側で重く脈打っていた。
暫くすると改札に向かって歩いてくる宮下先生と、担任の橋本先生の姿が見えた。
私は小さく笑顔で手を振った。
「おはよ」
私は二人に近づき、あえて少し猫をかぶったような、控えめな声で挨拶をした。
「おっ、吉田! 一番乗りじゃん、早いな!」
担任の橋本先生は、朝からアクセル全開といったふうな底抜けに明るいテンションで私に声を飛ばしてきた。こっちはこれから心臓が飛び出しそうな計画を実行に移すというのに、この男の脳内はいつだって平和の塊だ。
「橋本先生、おはよ。私、今回の班行動は先生たちと一緒にまわるって決めたから、よろしくね」
「おお! 宮下先生から聞いてるぞ! いいのか、俺たちのおっさん二人と行動したって、学生的に楽しくないだろ?」
「全然、そんなことない。むしろ大歓迎!」
私は誰が見ても疑いようのない、素直で従順な生徒の顔を貼り付けて、にっこりと笑ってみせた。
「さて、集合時間までまだだいぶあるし……橋本先生、ちょっとタバコでも吸いに行くか」
宮下先生が腕時計をちらりと一瞥してから、面倒くさそうに呟いた。
「そうっすね、行きますか!」
「あ、私も一緒にいくー!」
私はすかさず二人の背中にピタリとくっついた。東京駅の片隅、観光バス会社の古い詰め所の横に申し訳程度にしつらえられた喫煙所へ、私たちは三匹の連れ添い犬みたいに歩き出した。
それからほどなくして、私たちは集合場所だった雑踏へと戻った。
途端に、宮下先生の纏う空気がわずかに切り替わる。さっきまで喫煙所で煙草の煙に目を細めていた男の顔から、ほんのりと、しかし確実に「学校の教職員」としての乾いた仮面が被せられた。
「よし、全員揃ったな。じゃあ、これから団体通用口を通って新幹線ホームまで移動するぞ。旅行会社さんの案内に続いて、バラバラにならないように歩いてくれ」
その低い号令を合図に、退屈と期待を中途半端に詰め込んだ生徒たちの群れが、ぞろぞろと蟻の大群のように隊列をなして動き出した。




