恥ずかしがり屋な初恋の人の折り畳み傘
高校二年生の雨の日、僕は初恋の人に告白した。
悪天候でグラウンドが使えなくなり、球技のレクリエーションが中止になったことがきっかけだった。
教室で代わりにやることを話し合っていると、誰かが冗談交じりに提案した告白大会が何かの拍子に始まってしまった。
クラスメイトが見守る中、ある男子が先陣を切って意中の女子に告白。
すると両想いだったことが分かり、みんなで祝福を送った。
次の男子も告白した女子から見事にOKを貰って、クラスメイトたちの拍手を浴びていた。
その流れを見て僕も告白することを決意した。
ずっと好きだった初恋の人、箱田さんが同じクラスにいたから。
僕はありったけの勇気を振り絞って想いを伝えた。
「……箱田さん。好きです! 付き合って下さい!」
だけど結果は────。
「ごめんなさい!」
壮絶に玉砕。
ショックが強すぎてその後のことはあまり覚えていない。
気が付いたとき、僕は一人で教室の自分の席に座っていた。
いつの間にか帰りのHRも終わってしまったようだ。
「……フラれちゃったんだな」
僕はそう呟くと、スクールバックを肩に掛けて教室を後にした。
無人の廊下の窓を激しい雨が叩いている。
その雨音がまるで僕をあざ笑っているように聞こえてしまう。
昇降口にも人の姿は無い。
僕は靴に履き替えて玄関の軒下まで行くと足を止めた。
「傘、忘れちゃったな」
土砂降りの空を見上げながら呟いた。
フラれた日に、雨に濡れながら帰らないといけないのか。
だけどそんな気力はなかなか湧いて来ない。
「いつまでぼうっとしているの」
急に近くから声が聞こえた。
そちらを見ると、学校指定の白いレインコートで全身を覆った誰かが僕の近くに立っていた。
「これ貸してあげる。私、自転車だから」
「あ、ありがとう」
僕は戸惑いながらも、差し出された折り畳み傘を受け取った。
「でも君は誰──、あっ!」
僕は驚きの声を上げた。
「箱田さん!?」
「ちょっと! ……名前を呼ばないでよ。私だってバレちゃうでしょ」
箱田さんが口の前で人差し指を立てた。
あたりを見渡して他に誰もいないと分かると、胸を撫で下ろしたようだ。
「……私、そういうのは秘密にしたいから。誰にも言わないでね」
箱田さんはうつむくと小さな声で言った。
「えっと、傘を貸してくれたことを?」
「……そうじゃなくて。秘密にして欲しいのは、私たちが付き合うこと」
僕は何を言われたのか直ぐに理解できなかった。
「もう行くから」
箱田さんが走り出した。
土砂降りの中を走る彼女の後ろ姿を見つめているうちに、ふっと言われたことの意味が分かった。
その瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
我に返ったとき、僕は一人で軒下に佇んでいた。
箱田さんが会いに来てくれたことが幻だったように思えてくる。
だけど僕の手にはしっかりと残されていた。
恥ずかしがり屋な初恋の人の折り畳み傘が。




