第6話 相談役として、厄介ムーブをかます。
足立さんと雲雀の関係はそつなく上手く続いていた。丁度一週間前に交際一ヶ月を突破したようだ。
もしかしたら別れるかもしれない、嫌われるかもしれない。そんな足立さんの不安は杞憂に終わった。変に拗れたり喧嘩があったりといういざこざはなく、言葉通り良い感じらしい。
そんなこんなで最近は平和ボケした日常を過ごしている。
今は昼休み。中庭のベンチに雲雀・足立さんカップル、プラス俺という構図だ。
足立さんは弁当箱、俺と雲雀は惣菜パンを手に昼食をとる。俺は雲雀を挟んで向かい側にいる足立さんを見る。
「足立さん、こうやって話すのは久しぶりだね」
「うん、雲雀くんと付き合ってることを話したぶりかな」
「あぁ……じゃあ、一ヶ月ぶりか……」
「だね」
口だけで軽く笑みを作る足立さん。相変わらず雲雀の前では猫を被っているようだ。
お淑やかな彼女モードと言うべきか。俺には煽ったり冗談を吐くわりに、雲雀の前では随分しおらしい。
「雲雀とは順調?」
「ぼちぼちだよ。ぼちぼち」
「デートとかした?」
「うんと、まあね」
にやけを隠せていない。順調過ぎて、口角が自然に上がってしまうほどらしい。
「雲雀はどうだ? やっぱり彼女ができるといろいろ変わったりするか?」
「ぼちぼちだな」
「おいおいそんな隠すなって、俺と雲雀の仲だろ? 今更隠し事とかいらねーってばよっ」
肘で脇腹を軽くつつく厄介ムーブをかます。
雲雀は自分から話さない奴だから、こっちから聞く方が良い。仏頂面は変わらないが、ノリ良く話し始めるのだ。
「確かに。ま、どっか出掛けたりとかは増えたな」
「ほう……どこ行った?」
「ショッピングモール。あとは近くのスタバ」
「おぉ……ちゃんと彼氏してるんだな……!」
「そりゃな」
「やっぱりお前は俺の自慢の親友だよ」
無論俺は全部知っている。足立さんとの作戦会議で惚気られるせいで、嫌でも頭に残っている。スタバで雲雀がフラペチーノを頼んだのも知っているぞ俺は。
作戦会議について雲雀は知らない。そこだけ申し訳ないが、俺は二人の邪魔をする気概は全くない。
あくまで彼氏の友達。有力な相談役として努めるだけだ。
「最近付き合い悪くてすまねぇ。大会も近くなってきて意外と時間が取れなくてな」
雲雀は惣菜パンを飲み込んで、軽く咳払いする。
野球部は今、大会シーズンだ。うちの高校は前評判を裏切り、順調に勝ち進み、優勝に向けて駒を進めている。
「気にすんな、この時期はずっとそうだっただろ。俺のこと考えるのは大会が終わった後でも遅くねぇって。次は準々決勝だっけ?」
「そうだな。去年準優勝したところと当たる」
「格上か……。頑張れよ、応援してる」
「雲雀くん。私も応援してるよ」
「あぁ、サンキューな」
可愛らしく雲雀を見上げる足立さん。雲雀もクールな調子で答えている。
「それで、今週末に決勝まで一気に試合が行われるんだ。渡、来てくれねぇか?」
雲雀は空になった包みをクシャッと握り、俺に向き直る。
「もちろん。足立さんもどう?」
「私も行きたい。いいかな、雲雀くん」
雲雀はすぐに頷く。足立さんの顔色はほのかに明るくなる。
「場所は市内の球場だ。またラインで送っとく」
夕方。自宅で夕食の時間を待っていると、インターホンが鳴る。画面を点けるとユニフォーム姿の雲雀がいた。
俺はすぐに玄関に向かい、ドアを開ける。
「雲雀、どうした?」
「今時間あるか」
「あるぞ。夜飯までまだ時間かかるらしいからな」
「なら、キャッチボールしようぜ。久しぶりにな」
「おぉ! グラブ取ってくるからちょっと待っててくれ」
俺は部屋に戻り、以前雲雀に貰ったグラブを手にする。
中学時代に余ったからと、雲雀に譲ってもらったグラブ。全く使っていなかったが、たまにこうして使える時が来るととても嬉しい。
あの時から時間は経って高校生になったが、俺と雲雀の仲は変わらない。
玄関に戻ると、雲雀が硬式球をグラブに投げつけていた。野球部の癖だろうか。
「雲雀、バッグ置いていけよ。あとバットも」
「そうするわ」
「おう。それじゃあいこーぜ」




