第3話 惚気だけはやめて頂きたく思います
週末。足立さんと雲雀のデート当日の夜。
時刻は22時。良い子はそろそろ寝る時間だ。
夕食と入浴を済ませ、自室で勉強していると、ふとスマホが震える。
俺は勉強していた手を止め、スマホを覗く。
画面を見ると足立さんからの通話だ。スマホを手に取り、すぐ通話に出る。
「……もしもし?」
『もしもし、ちょっと時間ある?』
「あぁ……あるよ。どうしたの?」
『ちょっとばかり話したくなったからさっ』
上機嫌そうに語尾が跳ねた。それはつまり、そういうことだろう。
俺は勉強道具を片付け、側に置いてあるイヤホンを手に取る。耳につけるとそこから足立さんの声が聞こえる。
『ねぇねぇ、なんで一色くんにかけたと思う?』
「……え?」
一瞬戸惑う。だがすぐ我に帰る。
これがラブコメなら結構良いシーンだと思うが、俺は足立さんの主人公役ではない。
「雲雀とのデート?」
『そうなの! 今日のデート、結構上手くいったかもしれない!』
「本当? どこ行った?」
『最初は緊張してたからゲーセンで軽く遊んで……。昼になったからフードコートで一緒に食べて……その後はショッピングしたよ』
「おぉ……ちゃんとデートだ……」
『そりゃそうでしょ! カレカノなんだし、ちゃんとしたデートだよ』
「楽しかった?」
『めっちゃ楽しかった! ゲーセンでクレーンゲームしたし、ショッピングも良くて……。何より気まずい時間がそんなになかった!』
どうやらトークは上手くいったらしい。足立さんが一番心配していた事態にはならなかったようだ。
まあ、デートって何話したら良いか分からなかったりするからな。経験ないけど。
「雲雀、上手くやれたんだな……」
雲雀に彼女ができた時は半信半疑だったが、ちゃんとデートを楽しめているようだ。親友の成長を感じて、しみじみしてしまうぜ……。
『ん、なんか言った?』
「なにも。……それで?」
『今日上手くいくか不安だったけど、紫咲くんも楽しんでくれたと思う』
「そうか、それは良かった」
『あと、お揃いのシャーペンも買ったんだ。良いでしょ〜』
「へぇー……どんなの?」
『普通のやつだよ。ちょっと良いやつっぽいのかな?』
一緒に写真も送られてくる。シンプルなボールペンと足立さんの綺麗な手先が映っている。
男女でお揃いのものはカップルの特権だろう。それを初デートで難なく突破したようだ。
『私がお揃いを買いたいって言ったら、紫咲くんがオーケーしてくれて』
「うん」
『オレも丁度欲しかったって言ったんだよ。スマートでかっこいい……』
「あぁ……」
雲雀は本当にボールペンが欲しかったんだろうな。あいつはこういう時変に嘘吐いたり、カッコつけたりしない奴だし。
『そういえば一色くんって彼女いるの?』
「え、あぁ俺? 別にいないけど……」
『あぁ……』
「……何?」
『別に、なんでもないよ? じゃあ自慢するのやめといた方がいいかな』
「それは……足立さんの好きにしてくれたら」
『本当? 本当に大丈夫?』
「まあ……うん」
『お揃いってめちゃくちゃ良いよ! 彼女ゲットしたら一色くんもしなよ!』
余計なお世話すぎる。あと何気にリア充マウントを取られた。
今日のデートが上手くいって上機嫌なせいかもしれないが、調子に乗った足立さんは少し面倒かもしれない。
むしろ、こんな風に壁を感じさせない親しみやすさが魅力の一つだと思う。高嶺の花なのに、そうだと思わない。むしろ対等だとさえ思わされる。
俺は彼氏である雲雀の親友として、足立さんが気楽に関われる存在でいることが良さそうだ。
『あ、一色くんは彼女いないんだっけ?』
同じことを二回言わなくて良い。
さっきの俺の考え、撤回したくなった。
「それで……足立さん、彼氏としての雲雀ってどんな感じ?」
『知りたい?』
「知りたいから聞いてるんだけど……」
『あぁ、一色くんってそういう感じ? 私は否定しないけど、でも今は私だからね』
「違います」
誤解を解き、軽く咳払いする。同時にスマホからボフンと音が聞こえる。
『彼氏の紫咲くんはかっこいいよ。身長が高くて背中おっきいし』
「うん」
『たまにボソッと言った言葉がちょっと面白いし……』
「うん」
『……その、ふと笑った時とか……。意外と可愛いなって思ったり……。……ねぇ、人の惚気聞いてて楽しい?』
「正直に言うと楽しくない。劣等感とか諸々で、自分のこめかみに銃口を向けたくなるね」
人の幸せを聞いて穏やかでいられる俺ではない。むしろ勇気が出ない自分を自覚してしまいそうになる。
『じゃああんまり言わない方がいい?』
「是非、足立さんには、惚気だけはやめて頂きたく思います、ええ」
『あはは、変な声──あ』
「どうしたの?」
『この後紫咲くんと通話する約束してて、時間が来ちゃった。そろそろ切るね』
「あぁ、うん。雲雀と楽しんで」
『一色くん、ありがとう。また通話でも作戦会議しよ!』
程なくして通話が終了する。なんだか普通にお喋りをしただけだった気がするが、彼氏の友人ポジションとして上手くやれてそうだ。
同じクラスメイトとして、単純に仲良くなることも大事なんだろうな。
「はぁ、俺もデートしてぇ……」
さっきまで美少女を楽しく通話していたのに、急に虚無感が襲ってきてしまった。
本当にこめかみに銃撃ったろかな……。




