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第2話 作戦会議

 足立さんと雲雀の初デートは今週末の予定らしい。場所は市内にあるショッピングモールのようだ。

 あそこならショッピング、フードコート、それにゲームもある。モール内を見て回るだけでも楽しめるし、緊張する初デートにはもってこいの場所だろう。

 俺はスマホでリサーチをしながら、そんなことを考える。

 羨ましい。くそっ、俺も放課後デートとかしてぇよ……。


 スマホと睨めっこしていると、ポンと軽く肩を叩かれる。意識を戻して振り向くと、圧倒的美少女がいた。

 肩あたりに切り揃えられたボブヘアを揺らして、端麗な顔で俺に微笑みかける。


「一色くん、次移動教室。早くしないと遅刻しちゃうよ」


「あぁ……音羽(おとわ)さん」


 彼女は音羽三雨(みう)さん。このクラスの圧倒的ナンバーワン美少女だ。

 艶のあるミディアムボブ。目深にかかる前髪から覗く、吸い込まれそうな大きい瞳。少しばかりあどけない表情。それだけでも圧倒的だが、さらに優しい、勉強できる、可愛いの三拍子だ。

 優等生ポジションにいながら、他のパラメータも限界突破。まさに圧倒的と呼ぶに相応しい。


「何か調べ物?」


「うんと、まあ……そんな感じ」


 俺はそんな音羽さんと普通に友達だ。何回か話したことがあって、声を掛けるハードルはそんなに高くない。


「廊下で紫咲君が退屈そうに待ってるよ」


「おぉまじか……。教えてくれてありがとう」


「ううん。真剣な顔してたから、声かけたほうがいいかなって思っただけ」


 音羽さんはもう一度俺に微笑みかけて、空き教室へ向かった。これだけでも恋を一つや二つ落としかねない破壊力だ。

 俺も廊下に出、欠伸をしている雲雀に合流する。



 

 夕暮れに向かう放課後。グラウンドで野球部の威勢ある声が響く。

 俺は足立さんと校舎裏の非常階段にやってきていた。週末のデートに向けての作戦会議だ。

 足立さんは階段を登り、そこからグランドに視線を落とす。その先はユニフォームに着替えた雲雀の姿が。


「はぁ〜……。私、本当に紫咲くんの彼女になっちゃったんだ……へへ……」


 にたにたと笑みを浮かべる足立さん。

 足立さんは雲雀が好きで、告白して付き合うことができた。今の状況はまさに夢見心地だろう。

 最上階に続く階段に腰掛ける俺はそんな足立さんをまじまじと見つめる。これは確かに恋する乙女の顔だな。


「ん、何? そんなまじまじと……なんかついてる?」


「え? あぁ……なんにもついてないよ。大丈夫」


「んん、そう?」


 足立さんは不思議そうに首を傾げたが、やがて頷く。存外気に留めていない様子だ。

 すぐに腕を伸ばしてぐっと伸びをする。雲雀の前じゃないから気が楽なんだろう。


「足立さんって、雲雀のこと好きなの?」


「え、ええ……? どこをどう見てその考えに?」


 若干引き気味に俺を見る。愚問らしい。


「あ! もしかして、『デートに行くには親友の俺を倒してからにしな!』みたいなやつ?」


 なんだそれ。親友ってそういう敵ポジションなのか。

 

「いやそうじゃなくて、雲雀のどういうところが好きだとか聞いてないなって思って」


「あぁー……」


 足立さんは視線を横に逸らしながら頷いた。ほぼジト目だ。

 

「雲雀くんの好きなところ、は……いろいろあるけど、やっぱり、かっこいい……ところ、かな……」

 

「うん。男の俺でも雲雀はかっこいいと思う」


「だよね! ……んぅと、他は……何考えてるか分からないところが、ちょっとミステリアスで良かったり……。あとは……」


 後半になるにつれ声が小さくなっていく。小柄で華奢な体も忙しなく動く。

 やがて恥ずかしさが込み上げてきたようで、その場でしゃがみ込み、両手で顔を覆った。

 足立さん、めちゃくちゃ初心だ。


「ねぇちょっと、恥ずかしいんだけど……これ、どこまで言えばいいの?」


 指の間から大きな瞳を覗かせる。少し赤くなった頬が見える。


「最初のかっこいいだけで充分だったかも」


「それならそう言ってってば〜。ちょっと損したじゃん」


「でも、これでどれくらい好きか伝わったから」


「ふぅん……。まあいいや」


 程なくして作戦会議が始まる。

 デートプランを練るというより、足立さんの募る不安を解消する時間になっている。

 雲雀のことを目の前にすると、なぜか勢いが失速してしまうらしい。


「上手くできるかな……」


「頑張って」


「ちゃんと上手く話せるかな……」


「頑張って」


 今回の場所はショッピングモールということで、プランはそこで完結している。後は上手く話ができるか、楽しい時間を過ごせるか、行列で待たされた時に沈黙が訪れて険悪なムードにならないか……。

 俺は雲雀相手に緊張しないが、足立さんはそうじゃないらしい。


「一色くんは紫咲くんと普段何話してるの?」


「何って言われてもな……。TCGの新弾とかゲームとか、野球部のこととかかな……」


 雲雀も俺もゲームが好きで、同じスマホゲームで遊んだりしている。共通の趣味じゃなくても雲雀は面白そうに聞いてくれるから、ついいろいろ話しがちだ。


「楽しそうだな……一色くんが羨ましい……」


「いやいや、今週末デートするんでしょ。そっちの方が絶対楽しいって」


 この調子だと失敗しそうなので、俺は精一杯ヨイショする。

 実際ショッピングモールでデートの方が楽しいに決まってる。女子と遊べるなんて最高だろ!


「ショッピングモールは遊び放題だし、いろいろ見て回るのも楽しそうだよ。お腹が減ったらフードコートで何かしら食べたらいいし……あ、確かあそこシネマあるんだっけ? 見たい映画あったらそこで映画デートもいいなあ」


「……」


「……あとはゲーセンもあったはず! 雲雀ゲーム好きだし、そこ寄るのもいいんじゃないか? ほら、クレーンゲームとか二人で交互にやってみるとか……」


 チラッと足立さんの方を見る。

 個人的に良い案だと思うが……どうだ?


「ちょっと、良いかも……。紫咲くんと映画……クレーンゲーム……」


「他には……ショッピングだったら……服とか? あそこならなんでもあるし、行きたいところ見て回るのも面白そうだよな!?」


「……うん。面白そう……」


 足立さんの瞳に覇気が戻る。

 よし、なんとか励ますことに成功したようだ。あのままデート当日になったら、どうなっていたことやら。

 

「一色くん……デート楽しみになってきたかも」


「それは良かった」


「うん。今週末、頑張ってくるよ」


「頑張って」


 俺は頷く。

 来週に朗報を期待しよう。

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