第1話 親友に彼女ができた
「オレ、足立と付き合うことになったわ」
昼休み。中庭のベンチ。
俺、一色渡は、親友の紫咲雲雀から突然そんなことを告げられる。
惣菜パン片手に腰掛けた俺は、あまりの衝撃に思わず目を見開いた。
「お、おお……まじか!」
「まじ。んで、渡には言っておこうって思ってな」
中学からの親友、雲雀は平坦な調子でたまごサンドを齧る。
雲雀はクラスで間違いなくかっこいいグループに入る男子だ。顔はもれなく、性格はクールでストイックなのも相まって、モテオーラは十二分にある。
これまで野球一筋だったせいで女っ気は微塵もなかった。それが高校生になった今、こうして一瞬で彼女を作るなんて……。
「まじか……雲雀に彼女か……。全然そんな気配なかったのに突然だな」
「誰にも言ってなかったからな。もし言ったとして、それで変に噂になってもな」
「はは、ストイックなのは変わらねーな」
「まあ、面倒だしな」
彼女ができても野球一筋なのは変わらないらしい。
雲雀は中学から引き続き、高校でも野球部だ。うちは強豪校ではないが、それでもひたむきに頑張る雲雀はかっこいい。
そのくせ俺は周りの空気を読むだけ読んで、それに合わせるだけのヤツ。
自分の意見なんて言う勇気はない。ずっと周りに合わせて、空気読みレベルは100にカンストしそうな勢いだ。
「同じクラスだから知ってると思うけど、一応紹介するわ。足立な」
「紫咲くんと付き合うことになったんだ。一色くん、突然の報告になってごめんね」
足立葵は雲雀をはさんで反対側に座る俺に、綺麗に整った顔を覗かせる。
足立さんは同じクラスの女子。端的にいって美少女だ。
クラスで一番じゃないが四番目や五番目、人によっては二番目三番目に可愛いと言っても不思議じゃないくらい。
普通に高嶺の花なのに、どこか壁を感じさせない人懐っこさや可愛らしさがあって、男女共に人気がある。
クラスの男子には足立さんの隠れファンがかなりいる。それはつまり、足立さんがクール系イケメンの雲雀と付き合うのは当然であるということだ。
「いやいや、全然全然! むしろ雲雀に彼女ができて嬉しいよ。雲雀はずっと野球ばっかりで、彼女作る気ないと思ってたから」
俺は雲雀の肩をバシッと叩く。俺は親友として、いつでも雲雀を応援している。
「そうなんだ、それは良かった」
「うん。因みに付き合う経緯とか、聞いてもいいやつ?」
恋愛経験のない俺は、こういう恋愛のアレコレが気になる。どういうシチュエーションで告白したのか、告白の言葉は何だったのか、根掘り葉掘り聞きたくなる。
それが親友の雲雀なら尚更だ。
「告白は……私からで、普通に『好きです。付き合ってください』って言って……」
隣の雲雀を一瞥し、微笑み混じりに話す。
「紫咲くんがうんって頷いてくれたから……」
「おお……」
赤裸々に語られる二人の馴れ初めを頷きながら聞く。想像以上の質感に、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
人の話を聞くのは好きだし得意だ。なんせ空気を読んで生きてきたお陰で、相手をヨイショする手数はごまんとある。今回は足立さんが割としっかり話してくれたので、その限りではなかったが。
昼は雲雀と足立さんの恋事情であっという間に時間が過ぎた。三人で教室に戻るつもりだったが、足立さんが俺に話があるらしく、雲雀だけ先に戻ることに。
足立さんは辺りに雲雀がいないことを確認し、整った顔をこちらに向ける。
「お願いがあるんだけど……一色くん、聞いてくれる?」
「あぁ、うん。いいけど……」
「あぁ良かった、断られたらどうしようって思ってたから。それでね、お願いなんだけど……」
そう前置きして、目を瞑って深呼吸をした。俺より10cmほど小さい背丈で、小動物のような可愛さがある。
ゆっくり目を開けた足立さんは突然バチンと勢いよく合掌した。音がでかい。
そして何を言うのかと思えば──
「紫咲くんとの関係が上手くいくように手伝ってくれないかな!!」
合わせた手のひらから首を傾けて顔を覗かせる。可愛い。じゃなくて。
「な、なんで?」
「紫咲くんと別れたくないから……。仲の良い一色くんに頼めば、上手くいくんじゃないのかなって思って……」
「ああ……。付き合ったばっかで仲悪くなったのかと一瞬思ったよ」
「そんなこと……まだ付き合って三日だよ? そんなすぐに別れるわけないよ」
なぜかフラグにしか聞こえない。だがまあ、足立さんはそれを心配して俺にこうして頼っているわけで。
「付き合ってすぐなら、別れる心配はしなくても良いんじゃない?」
「でも嫌われたくないじゃん!!」
……らしい。
「紫咲くんって結構静かで何考えてるか分からないし、何が好みとか全然知らないから、一色くんに教えて欲しいの。今度デートする予定だし、お願い」
もう一度手を合わせて俺に請う足立さん。
俺としても雲雀のことを応援しているし、二人が上手くいくことを願っている。それに雲雀の親友として、手伝えることがあるなら手伝いたいと思う。
まあ、先を越された悔しさは少しばかりあるけれど。
「分かった。二人のこと手伝うよ」
「本当? やったあ!」
足立さんが嬉しい様子を隠さず喜ぶ。雲雀の前だと割としおらしい感じだったが、俺の前ではそうじゃないらしい。
それもそのはず。足立さんには彼氏がいて、雲雀以外の男子とは恋愛イベントは起こらないんだ。
そのままの流れで、俺は足立さんと連絡先を交換した。
「それじゃ、よろしく。一色くん」
雲雀がいないところでコソコソするのは少し忍びないが、これも二人のため。
生憎空気を読むのは得意だ。俺は陰ながら二人の恋路の応援役に徹することにしよう。




